王女6
…これはおかしい。
こんなのはおかしい。
私はシルヴィ・アンクチュール、この国の第三王女のはずだ。
私自身が、シルヴィ・アンクチュール。
なのに。
私の体は私の意思とは関係なく喋っている。
私が、私に。
王女たるもの、常に冷静にあるべし。
私が教育係に教えられた王女の第一条件。
今の私は、シルヴィ・アンクチュールだ。
それに、間違いはない。
そうだ、この世界は何が起こっても不思議じゃないのだ。落ち着け、落ち着けシルヴィ。
お前は王女だろう。大国、マリアンヌ王国の第三王女だ。
お前は、シルヴィ・アンクチュール、だ。
私が、自身が王女である、と認識している以上、その役割を果たさなければならない。
冷静に、なれ。
一息、深呼吸すると、随分と混乱していたようだ。
汗が一筋頬を伝う。
視線を上げると、そこには変わらず…いや、シルヴィには似つかわしくない、見下すような微笑をうかべた、偽物がいた。
そして、私は思う。
あの目は、
「おい、王女がお前にお言葉をかけていらっしゃるんだ。何が言わないか。」
近くの騎士が上から声をかける。
仮にも公爵令嬢のアントワーヌに『お前』とは…、随分な扱いだ。
だが、このままでは、あのゲームの台本にのってしまう。
それだけは避けなければ…!
『私』はすいっと立ち上がり、優雅に淑女の礼をとる。
そのなめらかな動きに周りが目を張る中、静寂に鎖の音と、アントワーヌの声が響いた。
「シルヴィ王女殿下。このような祝わしい日に、私のような者がお目をお汚ししたことを、どうかお許しください。
許されることではありませんが、一目、お麗しい殿下のお姿を拝見いたしたく、この場に参加させて頂いた所存でございます。」
すらすらと、流れるように綴る声に、やはり違和感を覚える。
そして、ちらりと伺い見ると、悔しそうに此方を睨む双眼と視線が重なる。
やっぱり…。
あの目は、
アントワーヌ、だ。