9話。
それからは大変だった。
秀也のマンションで特訓の毎日。
なにしろシチューを茶色くするのが得意な依真だから、料理のセンスは壊滅的。
だが、依真はお菓子をよく作る。
お菓子は得意なのにどうして普通の料理はここまで苦手なのか不思議だ。
料理だけではなく掃除、洗濯、さらには買い物まで。
秀也はやるときはとことんやる主義だから、あれもこれもとやることが多くなる。
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「えっ、あっ…秀也…!これいつ火止めるのかわかんない…!」
軽くパニックな依真の声に、秀也は使い終わって洗っている最中の鍋を手にしたまま、慌てて依真が担当しているフライパンを覗く。
「あ~~~!! 止めて止めて!!コゲてる!!」
秀也の声に反応して、あわあわしている依真の代わりに、そばにいた梳晴が急いで火を止める。
そしてぽつりと一言。
「コゲたな」
「あはは…」
「…ごめんなさい…」
フライパンの中にはこげ茶色になった野菜たちがいた。
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ゴウンゴウンゴウン…
洗濯機が回っている。
「洗濯くらいなら私もできるよ!」
胸の上あたりまである髪を束ねながら、依真が自慢げな笑顔で言った。
「…つい最近まで洗濯機の設定の仕方すら知らなかったやつが威張るなよ」
「なっ…梳晴だってちゃんとしらなかったじゃんっ」
「俺は別に一人暮らしするのはまだ先だからいいの。…てか、それでもお前よりはできてたし」
「でももう私は完璧にできるもんねー!
縮みやすいセーターでも、ビーズが付いた服でも、なんでもどーんとこいだよ!」
「依真が言うと失敗フラグにしか聞こえない」
「はーいストーップ! ケンカしないの」
2人の所にやってきた秀也が止めに入った。
「ケンカじゃねーし」
「梳晴がつっかかってきたんだもん」
「俺のせいにするなよ」
「…どっちでもいいから、洗濯が終わるまで違うことするよ」
「「どっちでもよくない!!」」
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「はい、依真。掃除機かけてくれる?」
「うん。任せて!」
「で、梳晴は窓拭き」
「おい何で俺まで」
「どうせそのうちお前も一人暮らしするんだから。できたって困ることないだろ?」
「…わかったよ」
最終的に、梳晴まで一人暮らしのための特訓(?)をすることになっていた。
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