6話。
「秀也、家にいるのか?」
「うん。さっき連絡したら、いるって。あ、マンションのほうね」
秀也は家を出て、一人暮らしをしている。
…といっても実家のすぐ近くのマンションで、だが。
秀也の家も、梳晴と依真、両方の家と近い。
そして今、秀也が一人暮らしをしているマンションもほんの少し遠いだけで、すぐに行ける。
「あ、ねぇ梳晴」
「ん?」
「バッグ家に置いてから行く?」
「そのまま行く。家入るのめんどくさいし」
「それもそうだね」
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学校から歩くこと十数分―――
「あぁ…だんだん冷えてきた…」
「お前、マフラーとかしないの? 首寒いだろ」
「マフラーなくしたんだもん」
「はぁ? 部屋にコートとか手袋とかマフラーとか掛けておくやつがあったよな」
「それ今ちょっと部屋になくて…手袋と一緒に棚に置いてたらマフラーだけ消えたの」
依真は梳晴に向かってズイッと手袋をはめた両手をつきだして言った。
「…また部屋ぐちゃぐちゃなのか」
「うっ…」
図星のようだ。
「ほんとよく物なくすよな…」
「だって今…!…っ」
「どうした?」
「…なんでもない」
急に言葉をつまらせて少しうつむき立ち止まった依真をじっと見る。
何かおかしい。
「依真…?」
不思議そうに梳晴が声をかけると、依真がバッと顔を上げた。
そして戸惑ったままの梳晴を置いて、そのまままた歩き始めた。
「…早く行こっ。早く秀也の部屋であったまろっ」
梳晴より少し前に進んだ依真がそう言いながら振り返ると、その茶色がかった髪がふわりと広がった。
「…? お…おぉ…」
足早になった依真に追いつき、歩調をあわせる。
「秀也の家あったかいかなー。あったかいといいね」
「そうだな」
(普通の依真に戻った…何だったんださっきの…)
梳晴は怪訝そうな顔をしてちらっと依真を見る。
「あー…ほんとに寒いね…」
話す依真の息は真っ白。
もちろん、梳晴の息も白い。
「…マフラー、俺持ってたら貸せたんだけどな」
ぽろっと、そんな言葉が口から出た。
「えっ」
「今日手袋しかない。ごめん」
「…えーなんか梳晴が優しい…」
「なんだよその言い様は」
じとーっと梳晴を見る依真。梳晴も依真を見る。
「あははっ。なんか梳晴が優しいと変な感じ!」
「…もう絶対優しくしない」
「うそうそっ 冗談ですっ」
「・・・」
「もー!ごめんってばー!」
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