3話。
授業開始のチャイムが鳴り終えたころ、ドアを開けて担当の先生が入って来た。
「授業始めまーす」
起立、礼…と、お決まりの動作をした後、先生はさっそく黒板に文字を書き始める。
梳晴はぼーっとそれを眺めながら考え事を始めた。
(かわいい幼なじみ、か…)
依真とは小さいころからずっと一緒にいる。
だから、特に「かわいい」とか「美人」とか考えたことはなかった。
梳晴や秀也の前では普通に明るく元気な依真だが、人見知りが激しく緊張しやすいため学校ではおとなしく目立つことを苦手としていて、中学まではモテている様子なんて見られなかった。
高校では、それなりにおとなしいものの一緒にいる友達の影響もあって、少し人見知りも解消されてきて明るくなったためか友達もたくさん増えた。
クラスの男子たちが「かわいい」と噂しているのを耳にするようになった。
今日なんて「バレンタインのチョコ誰にあげるんだろう」とか噂している男子もいた。まだ1月なのに気が早い。
依真の顔を頭に思い浮かべる。
「・・・」
思い、浮かべる…。
(あー…ダメだ。怒った顔とか泣きそうになった顔とかしか浮かばない…)
誰にも気づかれないくらいの小さなため息をついた。
(さっき話しかけに来たときは笑ってたような…)
そのときの顔を思い出そうとするが、怒った顔の依真が邪魔をする。
最近、依真のことを無性にからかいたおしたくなる。
そっしてその結果、依真は怒る。
でも、またからかいたくなる。
(何か…何だろう…この感じ)
何ともいえない感情が梳晴をつつむ。
ちらっと教室の前の方の席の依真を見る。
依真の顔が少し見える角度。
(…かわいい、のか)
また小さくため息をつく。
ふと、小さい頃の依真の笑顔が思い浮かんだ。
(子供の頃のなら思い出せるのにな…
放課後、秀也の家に行くときに依真の笑顔を目に焼き付けよう…
笑顔が思い出せないのは結構やばい事態な気がする)
謎の決心をして、依真を見ていた目を黒板の方へ向ける。
先生が書いた文字で、いつのまにか黒板はいっぱいになっていた。
この先生は毎回文字を書くのが速い。
(…ノートとるか。そろそろ)