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小さな変化。  作者: 雨宮ちとせ
【 1章。 】
2/9

2話。

朝のホームルームが終わって、1限目が始まるまでの間の休み時間になった。




「梳晴っ!」

「!!」


椅子に座っている梳晴の背中に、ドンっと衝撃がはしった。



梳晴が振り返ると、そこにはいつも梳晴とつるんでいる男子がいた。

奏汰だ。

中学からずっと一緒の、気心のしれたヤツだ。




「…どちらさまでしょうか」


梳晴はふざけて、でも真面目な顔で言った。


「…あ。お初にお目にかかります。井浦奏汰と申します」


…奏汰がネタに乗ってきた。


「・・・。」


「で? そちらは?」

桐宮キリミヤ梳晴です」

「なるほど。よろしくお願いしますね」


言いながら、奏汰は、梳晴の席の近くの空いている席に座る。



「・・・」

「・・・」

「・・・」



「…じゃねーよっ! 何!? 

冬休みはさんだら、その間にオレのこと忘れちゃった~ってくらい、

しゃべりたくないってこと!?」


奏汰が叫んだ。


「冗談だよ。奏汰は朝からテンションが高い…」

「1年中元気でテンションが高いのが売りなんで!」

「何なの売りって」

「おまえはー…1年中どーでもよさそーな無愛想なカンジなのが売りだろ?」

「…いや別に売ってないし、してないし」

「それが、してるんだよなぁ。無自覚ってやつ?」

「してねぇってば」

「…まぁ、してない時もあるけどさ。例えば…」


奏汰が何か言おうと人差し指をピンっと突き立てた。



そのとき、梳晴はツンツンっと誰かに腕を突っつかれた。


「?」


梳晴は、視線を奏汰からそっちへズラす。

そこには…依真エマがいた。



「おりょっ? あ、依真ちゃんじゃないの~!

ちょっと梳晴!かわいいかわいいあなたの幼なじみちゃんがいらっしゃいましたよ!!

どしたの?何かあった?

あ、梳晴に用事だよね?

いーよいーよ。どこでも好きに連れてっちゃって!」



奏汰がズバババーっとまくしたてた。

その〈かわいいかわいい幼なじみちゃん〉の依真は、何か言おうとしていた口を小さく開けたまま、固まっていた。



「奏汰、何でおまえがベラベラしゃべってんの」


梳晴が、じろっと奏汰を見て言った。



「え?だからぁ、オレは1年中…」

「あーいい。それもう聞いた。

 …で?何か用?」


梳晴は、再び奏汰から依真に視線をズラす。



「あ、うん!あのね。今日、秀也シュウヤのところ行かない?」

「秀也のところ?」

「ちょっと…この前秀也の家に行ったとき忘れ物しちゃって、一緒に行って欲しいの」



秀也というのは、もう一人の幼なじみの名前だ。

広瀬ヒロセ秀也、大学1年。梳晴と依真にとって2歳離れた兄的存在だ。


…もっとも、

今は梳晴にとっては 〈なにかと世話を焼いてくるウザいヤツ〉という存在だが。


去年まで、梳晴たちと同じ高校に通っていた。




「別にいいけど…ひとりで行けないの?」

「忘れ物しちゃったのもあるけど…あと、梳晴と秀也の2人に用があるの」

「ふぅん…あっそ。わかった。じゃあ放課後な」

「ありがと!」


依真はそれだけ言うと、自分の席に戻っていった。



「デートかにゃ?」


ニヤニヤしながら奏汰が梳晴を見て言った。



「違うだろ。話聞いてたか?秀也のところに行くだけ」

「…お前、イジりがいが全くないっ。からかってるのに、顔色一つ変えないなんて」

「あたりまえだろ。俺はイジるほう専門だからな」

「ちぇっ。…普通さ、

『ばっ…ばか言ってんじゃねぇよっ!別にデートじゃねぇしっ!!』

とか、顔真っ赤にして言うだろ」

「俺は言わない」

「くっそ…よし、決めた!」


ガタンっと勢いよく立ちあがった奏汰は、びしぃっと梳晴の顔を指差した。


「何…?」

「オレは絶対にお前の顔を赤くして見せる!!」

「何の宣言してんだよ…。

座れっ。みんなこっち見てるから」


教室の中にいたほぼ全員が、奏汰を見ていた。

だが、奏汰はそんな視線を気にすることなどない。

立ったまま話を続ける。


「でもさぁ…オレ本当に、梳晴が顔真っ赤になってたりするの、

見たことないんだけど」

「そう?」

「ありえなくない?

中学からの付き合いなのに、オレが知ってる梳晴の表情のバリエーション、

少なすぎなんだけど!」

「奏汰が多すぎるだけでしょ…」


「っていうか!いいよなぁ梳晴は!

お前の家から依真ちゃんの家まで、ものの数歩で着くもんなぁーっ!

アレか?近くにいすぎて異性として意識しなくなっちゃう典型的な幼なじみのヤツか?

だから〈デート〉っていう言葉にも反応しないのか!?」


奏汰はまたまくしたてて、イスにドカンと座った。


「…さすがに〈ものの数歩〉じゃないだろ」

「じゃあ 十数歩」




梳晴の家 -桐宮家- と依真の家 -杜山モリヤマ家- は、とても近くにある。

奏汰の言うとおり、本当に十数歩で着いてしまう。

そして、梳晴と依真は幼なじみだ。

お互いの家をよく行き来するし、家族ぐるみのつきあいも長い。


「梳晴ばっかりずるいっ」

「何が」

「オレもかわいい幼なじみが欲しい」

「何が〈ばっかり〉なんだよ」

「だって依真ちゃん、うちのクラスのかわいい子ランキング常に上位だぜ!?」

「どこからのランキングだよ…」

「ギブミーかわいい幼なじみーっ」

「…」

「お?何だその顔は。複雑そうな顔してるぞ」

「別に…」



キーンコーンカーンコーン・・・



「あ、席戻らないと。じゃーねっ」

「ん。」


奏汰が帰っていった。



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