第60頁 歌姫に会うために
投稿したの約3年11か月ぶりです。大変長らくお待たせしました。
電脳界に物理的な境界はなく、それこそ宇宙のように無限に続いているという。宇宙空間と異なるのは、電脳界に棲む有象無象が生存できない領域はないということだ。
「つまり、どこまでも電脳族が作り上げた建物や生活が続いているの。人口もすっごい数字だったよ。一兆×一兆人でも10%に満たないくらい!」
「すっごーい! めっちゃくちゃいますね!」
「電脳の世界だからこそできることだよな。いくら生きてても飽きなさそうだぜ」
カティスの話にイノたちは感嘆するばかり。一本の光軌道に従って進む球型の透過ゴンドラに4人は座っていた。量子転移で中央のテーブルに提供された軽食を口にしつつ、談笑を楽しむ。会話に参加しないリオラは、球体の外の景色と透過壁に表示される広告やニュース等の映像を見ていた。
「いろいろ見るとこがありそうだよなぁ……ファッション店も気になるし」
「カティさん、電脳界ならではのオススメってありますか?」
「んーとね、おすすめは疑似世界の体験――"再現世界"!」
大袈裟に両腕を広げたかと思いきや、その手から展開されたいくつものウィンドウ。そこには時代も世界も様々な自然世界、人工世界のモニタリングが広がっていた。
「サバイバルみたいな響きですね」
「ここは何一つ不便はないけど、みんな他のいろんな世界や時代にも興味がないわけじゃないから、あえて現実や制限をかけられる生活を送っている人もいたり、イノさんたちみたいに旅や冒険をする人もいるよ」
「電脳ならではの再現性の高さで他の世界をほぼ忠実に構築している世界もあるってことか……!」とシード。
「いいですねぇ! おもしろそうですねぇ!」
「てことは、ゲームの世界も生身で体験できるのか!?」
シードが食いつく。その様子を見て、嬉しそうに「もちろん!」と返した。「ジャンルはきりがないくらいあるよ!」
「なんだよそれ、最高じゃんか! 俺もうここに住もうかなー」
「しばらくはいいかもしれませんね。楽しめるところがたくさんありすぎて困っちゃいます」
「……いや、待て。恋愛ゲー……いや、少なくとも俺は世界を移動するためにこの世界に入ってきたんだ。ギャルゲ……いや、デジタルの世界で何か手に入ったって意味ねぇんじゃないか?」
「欲望がちらついてますけど」とイノは言う。
気付き、本来の目的を思い出したシードに対し、それに関しては大丈夫と言わんばかりにカティスは話す。
「あ、ここで手に入ったものも、経験も記憶もちゃんとバックアップされるから大丈夫だよ。電脳界でしか手に入らないものもあるし、各世界の入手困難な稀少物質も、ここでならあまり苦労することなく入手することだってできるし」
「よし、プランは変えずに電脳界満喫すっぞ」とガッツポーズ。
「そうでなきゃですね。リオラは――」
「オレはなんだっていい。この世界がどんなところか見て回るのも悪くねぇだろ」
腕を組んだまま、つまらなさそうに返した。視線は壁面のディスプレイに喰いついたままだった。
「リオラが珍しく関心もってる。空からお肉でも降ってきそうですね」
「おまえそれネタで言ってんならクッソつまんねぇぞ」
「まずはみんなの住むところの確保だね。私の友達――ウノちゃんもちょうど今電脳界にいるし、彼女の方がいろいろ詳しいよ。同業者としてもすっごい人だしね!」
「その人も戦場カメラマンなんですね」
「うん、戦場が付かない方のカメラマンね。あ、でも趣味の方だったなカメラは。本業はいろんな写真や記事を入手する記者だよ」
「おい、着いたみてェだぞ」
リオラが声をかけた時には、球体の乗降口がシュンと消失していた。降りた先はエメラルドグリーンとクリスタルホワイトをバックにした空に、無数のタワービルが底と天に聳え立っていた。まるで鍾乳洞のような空間をつなぎとめるように無数の糸――エレベーターのような役割をしたLANファイバーがあちこちにある。それらの狭間に浮かぶ透過通路に降り立ったイノたちは、目の前にうっすらと幾何学的なガラスオブジェが浮かび出てきたのを目にする。
「おっきいですねー」
「シークレットハウスだね。ウノちゃんも凄腕としていろいろ有名だから」
「確かに透明だけど逆にこんな場所だとばれそうな気もするけどな」
「雲みたいに移動するし、定期的に座標も変わるから問題ないよ。私はパスワード知ってたからこうやって直接たどり着ける、入れもするけど」
半透明の電子スクリーンが開き、自宅に帰ってきたかのようにずかずかと中に入るカティス。そのあとにイノたちも続く。
「ウノちゃーん! いるー?」
大きな声で呼びかける。いるかどうかは視界に移る立体投影で確認できるが、久しぶりの電脳界なので、その感覚をカティスは忘れているのかもしれない。
「カティスちゃんおかえりー! 待ってたよー!」
途端、風を感じるほどの速さで奥から駆け、カティスと同年齢あたりの少女がカティスに抱き着いてきた。何事と思ったシードだが、ウノという少女の顔を一瞬だけ見て、美少女の類に入ると確信した。
「ちょ、ちょっと久しぶりだからって、苦しいよウノちゃん」
ぎゅうう、と力強く抱きしめられているが、まんざらでもなさそうなカティスだった。ばっとセミロングの黒髪を揺らしたウノは、カティスの何倍も嬉しそうな顔を全開に出している。
「だって3か月も会ってなかったんだもん! あたしはずっとここで仕事だったし、もう寂しくて仕方なかったよぉ!」
「そうだね、私もあっちの世界だと数年は経ってたから寂しかったけど」
「あーもう早くカティスちゃんの手料理食べたいー。カティスちゃんで充電したいー」
ぐりぐりと顔をカティスの胸に押しつけ、腕もしっかりと後ろに回して固定している。
「……あのー、お取込み中大変失礼いたしますけども……」
ふたりの花園の間に、シードは恐る恐る尋ねる。そこでやっと気づいたのか、ウノはびっくりし、苦笑していたカティスに「誰この男共!」と問いかけた。その気迫にシードが「ひぃ」とのけぞる一方、「こんちは~」とイノはのん気に挨拶する。リオラに至ってはぴくりとも動じていない。
「途中で知り合った旅人さんたち。電脳界を通じて別の世界に行きたいんだって。決して悪い人たちじゃないから」
「……どういった目的で?」
疑いは晴れていない。カティスを抱いたまま、上目遣いで睨み付ける。
「特にないですね。おもしろそうなところあったらいいなってぶらぶらしてますー。だけどここの世界もおもしろそうなのでしばらく住めないかなって家を探しているんです。あ、僕はイノって言います」
「お、俺はシード・ステイクと申します」
「……リオラだ」
「名乗らなくても"プレート"見ればわかるよ」
じっと3人を凝視するウノに、シードはびくびくする。対してイノは首をかしげるだけだ。何かを見透かしたような目。名のしれたジャーナリストという話は本当だと思わせる。
「……つまり、うちのカティスちゃんとは本当に関わりが浅いのね」
「うん、だからそこまで警戒する必要はないよ」とカティスは補足。
「まぁ、カティスちゃんがそう言うなら、そう信じる。さ、上がって。今回は特別だからね。普段は信用できる人以外入れないからそこ勘違いしないようにね、男共と無性別の人」
カティスから離れ、案内するように廊下の奥へと進んだ。「ごめんね」とカティスは両手を合わせる。
*
奥のリビングは広く、全方位が開放感のあるガラスの壁となっていた。その先はタワービルのジャングルが上下にある景色ではなく、いくつもの桜閣形式の層塔が燃える紅葉の中に顔を出している景色だった。リビングもそれにあわせてか、木式だ。
イノたち3人はウノの席と対面するようにダイニングテーブルに腰を掛ける。
「ま、初対面とはいえ自己紹介ぐらいはしないとね。あたしは神楽兎乃。世界を駆ける記者として、スクープを拾ってるよ」
洒落た半袖の白いシャツの上から紅葉色のジャケットを羽織り直し、紅のネクタイをキュッと絞める。黒井ミニスカートに太ももまである黒いタイツについつい目が行ってしまうシードをキッとにらんではすぐに椅子に座った。客人が来て落ち着かないのか、キャスケット帽を室内で被り、先ほどまでのデレデレに甘えた顔は片鱗すら残っていなかった。
ウノの代わりにカティスがお茶とお菓子を出す。相変わらずイノはそれに飛びついた。
「前は電脳界でルポライターもやってたんだよね。人気出すぎて辞めざるを得なかったけど」
「あ、それで男性が苦手なんですね」と余計なイノの一言。しかし睨む様子もなく「そうだね、もううんざりだから」とだけ答えた。
「けどウノちゃん実際すっごくかわいいから、男女問わず人気だったんだよね」
「う、うん」と、少しだけ照れては緑茶に口をつける。
「……それで、そんな男が嫌いなあたしがどうして家の中にいれたと思う?」
「えっ」と先ほどまでしょげていたシードが少しだけ嬉しそうな顔をする。だが、その心情を見破られていたのか、
「好意的な理由はなにひとつないから」
「そっか……」
「けど、関心はある。話題性の質が高いと勘が言ってるんだよ」
頭をトントンと指でたたいて、笑みを含める。
「あたしの頭の中には相手の電脳情報媒体をハッキング・クラッキングするソフトと検索エンジンがインストールされている。ふたりの"履歴"、見させてもらったよ。とても穏便にこの電脳界を過ごせるとは思えないね」
「は!? おいマジかよ、そんなこともできんのかよ……!?」
「人の頭ん中勝手に覗くのは構わねェが、あまりいい気分じゃないな。なにがしたい」
ぎろり、と眼球を向けるリオラに、直接見ていないカティスでも身震いする。しかしウノは一切動じない。
(おいおい、あの娘リオラ見てもビビらねぇのかよ……! どんだけ肝っ玉据わってんだ)
「何も取りはしないよ。あんたらの生活をちょっと監視するだけ。経験上、あんたらみたいな人間は大体大きなスクープに関わる運命にあるからね。こちとら話題や情報をお金にして生活してるんだから」
「……そうかよ」
「あと、あまりカティスちゃんを怖がらせないで。厄神といえども、容赦はしないよ」
「勝手に怖がっているだけだろうが」
「あの、僕からはなにも感じなかったのですか?」
イノが問いかけた時に、あぁいたのかという表情を向け、
「んー、何もないわね」とばっさり言った。
「そんなぁ」と肩を落とす。
「なにもなさ過ぎて、逆に何かあるんじゃないかとは疑っているけど」
「どういうことですか?」
「これまでいろんな人間を見てきたけど、あなたみたいな"空っぽ"の人間、初めて見たよ。必ずあるはずの履歴もないし、個人情報も表向きはテンプレを飾っているけど実体は皆無。どういう方法でここまで情報を隠せるのか知りたいくらいだよ」
「なんにもしてませんよ僕。ここに来るとき最初認識されなくて苦労しましたけど」
「なるほどね。とにかく、トピック性はないけどおもしろい人間だとはみてるってわけだから。もしかしたら、新たな異人種の可能性も捨てきれないしね」
ふぅん、と否定しなかったイノは、さほど関心がない様子。「そういえば、歌ってる女の子の、えっとー、あれ、なんとかさんと友達なんですか?」
「メルトちゃんのこと?」といったのはカティスの方だ。余計なこと言わないの、と目で訴えたウノだが、一息ついては、
「そんなことない……って言っても君とそこの竜人族の目には筒抜けだろうし、鉱人族も訓練で人の脳波を解読できるから、誤魔化しても無駄だろうね。そうよ、あたしとカティスちゃんはあの歌姫メルトと友達だった」
「だった?」
「手の届かない雲の上に行っちゃったのよ、彼女は。もう一人の友達でも人間でもない、偶像としてこの電脳界を支えている。電脳界を通じた他の世界もね」
だから、直接会うことを期待しない方がいいよ、と付け足した。
「会わないんですか? 友達なのに」
「さっきも言ったでしょ。会いたくても会えない場所に行ったの」
「それでも会いに行けばいいじゃないですか」
話の分からない人間だとうんざりする。しかしその様子や空気をイノは読まない。
「きっとその人もさびしいって思っているはずですけど」
「あたしだってさびしいって思うよ!」
強めの声。空気がしん、とすることにまたも苛立ちを覚えたウノだが、落ち着けるようにため息を一つついた。
「けどどうしようもないじゃん。空間共有ホールのチケットだって1世紀に一回採れたら奇跡といわれるほど人気なんだし、同じ業界の人間でさえも中々出会えないんだし、その顔を見れるのはいつも投影越し。でもその目にあたしたちは映っていない。もう会えないのはわかってるんだ」
「ウノちゃん……」
隣に座っていたカティスはウノの背中におそるおそる手を当てる。猶更、ウノの膝の上で握る拳が強くなった。
「――バーチャル体越しだけど、ライブ後に一対一で会話できる"握手会"っていうイベントもあるみたいだな。応募締め切りもまだ間に合うぞ。抽選だし」
立体投影画面で調べていたシードは独り言のように話す。返ってきた反応は、諦めを含んだ、乾いた笑い声だった。
「そんなの、ライブ以上に当たらないよ。天文学的な倍率の高さなんだから」
「だけど、0じゃねぇ。まだ当たるか外れるかなんて誰にもわからねぇし。ジャーナリストだってわずかな可能性のために命かけてんだろ?」
「なによ、部外者の癖に偉そうなことを」
さっきよりもきつい言い草だ。しかし、さっきまでのびびった反応を見せることなく、シードは鼻で笑い返した。
「なんとでもいいやがれ。まだそいつは元気に前向いて今を生きてるんだろ? ダチに"過去"も気遣いもねぇし、ダチなら会いてぇ気持ちをわざわざ投げ捨てるこたぁねーよ。可能性と未来は自分で掴めってんだ。ジャーナリスト以前に人間としてだ」
いつになく真剣な表情に、言い返しそうになった言葉は失われた。思わず立ち上がって熱くなっていたシードは、無意識に金色のチェーンネックレスを右手に掴んでいた。
「おお、なんかシードがすごい主人公っぽいです!」
「おまえはコメディの世界でも生きてきたのか。せっかくのなんかいい感じの空気壊れたじゃねーか」
「右に同感だ」
「えっ、リオラまで雰囲気重視だったの意外すぎますって。ぜったいバトルアクション系の世界で生きてきてますからこういうの鈍感だと思ってましたけど」
「なにわけのわかんねーこと言ってんだテメェは」
ぷっと誰かが吹き出した声に、3人は振り返る。
「あーもう、なんか思い詰めてたあたしがバカみたいじゃん。ちょっと仕事のし過ぎとストレスでどうにかなってたみたいね。そうだよね、会いたきゃ会いに行けばいいだけの話よね」
だけど、と色を正したウノ。
「歌姫――メルトに会うには、同業者だろうと同じスタジオで関わるだけでも厳重なチェックが入るほど。身内でも同じ。友達は論外ね。本人の許可が下りても、この世界が赦さないだろうね」
「うへぇ、プレジデントでもまだ自由権もってるぜ?」
「やっぱりそういう感覚だよね。なんだかメルトちゃん、本当に自由なのかなっていつも思うの」
心配そうにカティスは言う。それを伝える手段が、この最大情報世界である電脳界でも不可能だというのが不思議でならないとシードは感じる。
「だからね、直接会うとすれば法を犯さないと――まぁ強行突破ね。だけどそこまでして会おうと思うほど、あたしらも馬鹿じゃないわ」
「だとしたら"握手会"しか会う方法はない、けどその切符を手にするのは至難の業――って思ってるだろ」
意味ありげなシードの発現に、どういうこと?とウノとカティスは尋ねる。
「その確率を上げる方法はあるぜ」
「運ってあげられるんですか?」とイノ。
「あたぼーよ。この天才シード様がいるんだぜ? 抽選の確率向上なんてちょちょいのちょいだ」
何を言い出すかと思えば。呆れた空気が周りを包んだ。
「……まぁ確かに、あんたはそういう分野にも詳しいことは履歴でわかったけど。それ普通に法を犯しているから」
「確かに俺やおまえがクラッキングしたところでいずれバレて終わりだ。ただのネットワークならともかく、ネットワークそのものが時空になったようなこんな場所じゃな。だけど」
みんなの前にウィンドウを広げる。リビングに映し出された画面は何かの依頼申し込みサイトやリスト、位置情報など様々だ。
それを見たウノは青ざめる。リオラを見てもものともしなかった彼女がだ。
「"ジャックポット"っていう"運命屋"が電脳界にいるらしいな」
「ッ、バカじゃないの!? そいつには絶対関わっちゃダメ!」
「誰ですかその人」とイノはリオラに聞く。「あのな……オレじゃなくてそいつに訊け」とカティの方へ顎を使って指した。
「一般的にはしられていないけど、裏では割と有名な侵食者だよ。他の世界ともかかわっているみたいだし」
「どんなことしてるんですか?」
「その人はどんな願いでも……といっても、電脳界の定められた制限を無視する力を使って、依頼者の願いを叶えるの。ただ、代償は計り知れなくて、その人に関わった人は皆消失したって話らしいし」
それにね、と付け足す。
「ここ最近いろんな場所で起きている"とある事故"も、その人が関わっているんじゃないかって。全部ウノちゃんから聴いた情報だけど」
「おもしろそうな人ですね」と感想をひとつ。「でもせっかく遊べると思ったのに、なんだか物騒な話になってきましたなぁ」
そうだね、とカティスは言う。3人はシードとウノの会話に戻った。
「協力!? あのジャックポットと!? できるわけがないじゃない! 何を考えているのあんたは!」
「考えはあるさ」
確信ともいえる冷静さはむしろ不気味さえ覚えてくる。この世界に来たばかりだというのにどこにそんな自信が。
「俺はそいつを知っている。ある意味、因縁みたいなものだけどな」
「……!? あの運命屋を知っているって……?」
正体などだれも知りもしない。検索でも噂としてしか知られていないのに、どうやって暴いたのか。それとも、はったりか。
「確証には至ってないけどな。ま、会いに行きたいのが正直なとこだ。策もあるし、うまくいけば手を汚さずに"運よく"歌姫に会えるかもしんねぇ」
二カッと笑うシードに、正直疑念は残っている。しかし、記者としての血も騒いでいないわけじゃなかった。
何かが起こるという直感。電脳界の裏に潜む悪魔"運命屋"の正体。
そして、親友との再会。求めていたことのすべてが、このひとつのチャンスに集まっている。
「……これで失敗なんてしたら承知しないわよ」
「伸るか反るかはそっちで決めていいぞ。本当に運だけで抽選が通れば抱けの話だしな」
「生意気ね、あんた」
「そっちこそ」
目を見合わせ、フッと笑う。決裂したようだ。
「オーケー。あんたたちの話に乗るわ。応募締め切りまで5Dsもないからね、急がなきゃ」
「すごい……あのウノちゃんが折れた」とカティスは驚いた様子。
さて、と席を立ったウノは、
「まずは家の登録からね。カティスちゃんだけだとあんたらが何をしでかすかわからないから、あたしも同行するわ」
「そんな、全然私は大丈夫だよ。ウノちゃんお仕事で忙しいんだし」
「カティスちゃんが帰ってくるまでには終わらせたし、単純な作業は"コンシェルジュ"にやらせてるから平気だよ。さっさと厄介ごと済まして、少しの間だけでも二人っきりになりたいし」
「なんだよ、結局俺たち邪魔者扱いだな」
「まぁ実際お邪魔しているんですし」
テーブルに肘をついたシードに一言なだめるイノ。その一方で、リオラは何かを思い出そうとせんばかりにウノの姿を見つめていた。
「リオラ、どうかしたんですか?」
「……なんでもねぇよ」
ふい、と目を逸らす。イノは首をかしげるが、そこまできにすることなく、シード等の面白い話に乗っかった。
「なんだか久しぶりの面白い仕事ができそうだけど、かなり危険だから正直カティスちゃんは――」
「行くよ。こういう危ないことは電脳界の外でもたくさん味わってきたんだから。成長した姿、ウノちゃんに見せたい!」
意気揚々と奮う彼女に、もう、と呆れ、しかし半ば嬉しそうな目を向けた。
「全く、あなたたちを家にいれてよかったわ。あたしの目に狂いはなかったってことね」
と皮肉を言ったが、まんざらでもない様子。
「つーか、なんで友達に会うためにこんなめんどくせぇことになったんだ? オレら関係ねェだろ」
「まぁまぁいいじゃないですか。きっと僕らこういう星の元で生まれたんですよ。それにリオラ自身、こういうこと嫌いじゃないですよね」
「意味なかったらすぐに降りるからな」
やるせないリオラは外の紅葉世界に目を向け――否、そのディスプレイウィンドウの向こう側にあるタワービルのジャングルへと睨むように見つめた。誰かがこの場を監視しているような、そんな気がして。




