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神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第四章 世界を繋ぐ唄声 電脳界編
60/63

第58頁 ワールド・ロード ―電脳界への入界―

二カ月ぶりの更新です。申し訳ありません。

「めっちゃヘコんでんじゃねぇか。子どもか」

 シードは落ち込んでいる、というよりはふてくされているようにもみえるイノに言う。

 センター内部。円筒を斜めに切った天井面まで20階分を吹抜いた巨大な洞窟状の空間。しかも彩り鮮やかなアトリウムに度肝を抜かせる。周囲は格子状街区であり、見事なまでに融和してる。

 内部も外と変わらず人が多い。さまざまな文化層の人種どころか、亜人といった人外までが観光目的でこの世界に着ている。


「まぁまぁ、たまたまセンサーが反応しない時もあるし、気にしなくていいよ全然」

 抗菌作用の平らな広間を歩く中、カティスは苦笑交じりに励ました。本来、センサーの不具合など、この先端技術国にあってはならない事態だが。


「カティさんがやさしいです」

「へへ、ありがとー」

 笑顔で答えるカティス。そこでリオラが顎で先を指す。


「あの先か」

 特に人集りが激しい場所。混んではいるが、列になっており、その長さにシードは「まさかあれ並ぶのか」とげんなりする。


「うん、あそこの受付を済ませて電脳界に行くよ」

「駅みたいですね」とイノ。

「なぁ、やっぱりなんかパスポートっぽいの要るのか?」

 参ったなといわんばかりに、シードは金髪の頭を掻き、腰に手を置く。

 数日前の話であれど、シードは世間的に死亡したことになっている。また、リオラは「厄神の祠」の大鋼岩から解放されたため、当然の如く籍はない。そしてイノもこれといった個人情報を持ち合わせていない。

 彼らは世間的に言う、放浪者である。


「まぁ、あった方がすんなり行けるんだけどね、中には無籍の人とか『外』から来るし、目的次第では別にパスポートとか持ってなくても大丈夫だよ」

「なんともまぁ、ご親切なことで。こっちとしては大助かりだけど」

「都合がいいですね」と言ったイノには誰も反応せず。

「でもなんかめんどくさそうですね」

「まぁ私が全部何とかするし、イノさんたちは一緒ににいるだけでいいですよ」

 そう言い、カティスは受付の前に立っては申請をしている。何をしているかわからないイノは、ただその様子を面白げに見つめるだけだった。


     *


 軽く2時間を過ぎ、やっとのことで受付にくる。10分ほどで簡単に済まし、自動改札を抜けては(イノだけ反応せず、止められたが5分ほどの説得で許可をもらった)奥へと案内された4人。

 未来的な透明感のある廊下に並ぶ個室の一室へ入ると、壁際に五つのカプセルが並んでいた。カプセルから根のように生えている無数のコードが壁の穴へと繋がっている。


「こちらになります」と案内人スタッフ。見るからに普通の女人だ。通路で見かけた耳の鋭い亜人ではない。

「このカプセルっぽいものに入るんです?」

 イノはキラキラした目でカプセルを指さす。それに対してにっこり頷くカティスと、呆れたように笑うシード。


「けどおまえ機械に無視されるみたいだし、入れんのか?」

 そう茶かすが、イノはゾッとしつつ、真顔で言う。

「そうだとしたら泣きますよ、割と本気で」

 その会話を聞いていた案内人は、すんなりと話に入り、

「ああ、ご心配なさらず。実体を持たないとされる霊人族ファンユンも媒体として電脳化エレイズしていくことができます」

「へぇ、幽霊でも大丈夫なら誰でも安心ですね」

「というかそんな異人種もいたのか」

 関心するシードは「いつか見てみてぇな」と呟く。




「――途中、カプセルの中に下から無色透明の液体が流れ込んできます。

 超臨界流体に近い電脳物質の一種ですが、呼吸器にそれほど影響を来すことはなく、窒息等で溺れることはありませんので、そのまま呼吸し続けてください。

 最初だけ違和感がありますが、身体の中にその満たさないと転移することはできませんので、しっかりと深呼吸し続けてください。

 そのうち、脳機能が一時的に停止し、仮死状態に入りますが、眠っているのとそう変わりませんので、ご安心ください。眼を醒ませば、別の案内がいますので、それの指示通りに動いてください。

 それでは、電脳の旅を満喫してくださいね」


 常時笑顔の案内人の指示をもとに、ベッドに寝るように仰向けになる4人。カシュン、とガラス製の蓋が閉じ、カプセルの中に入った状態になる。機械音と共に、2m近くあるカプセルは縦に起き上がり、自動で開いた壁の中へと吸い込まれるように収納されていく。衣服を脱ぐことも、管や電線のような接続装置を人体に繋げることも、特に必要性はないようだった。

 まるで胎盤の中の羊水に浸かっているかのよう。全員が静かに眠りにつき、壁の中へと完全にシャットアウトされる。

 一人を除いては。


「……? おかしいですねぇ」

 室内に静かに響くアナウンスと、ピー……と警告する小さなエラー音。案内は困った表情で立体投影のキーボードや画面に何かを入力する。

「え、これダメな感じですか」

 ぽかんとしているイノは起き上がる。一機だけ動かない、のではなく、そこに人がいないために正常作動しないという問題が起きていた。

 イノは先程まであったはずの他のカプセルを見る。それらは既に自動開閉式の壁の中。転送中と立体ホログラムで、番号の書かれたそれぞれの壁の前に浮かんでいた。


「ちょちょちょ、みなさん先に行ったって感じですか」

「申し訳ありません、エラーではないのですが、その、どうしてでしょうか、反応しません」

「根本的に存在否定されてますねこれ。おばけ以上に影薄いって、さすがにショックだこれ」

「申し訳ありません」と謝り続けては、前例無き事態に半ば焦る30代女性案内人。イノは困ったなといわんばかりにぽりぽりと頭を掻いては、案内人に尋ねる。


「電脳界ってどんなところですか?」

 突然の話題提供に半ば困る案内人。しかし、そこはマニュアルどおりなのか、少し長くなりつつも、丁寧に説明してくれた。一言一言、イノはふんふんと聴く。


「なーるほどー。わっかりました。そんじゃ、もう一度操作やってほしいです」

「え……?」

 再調整しても未だ解決していない問題。同じことをもう一度繰り返せと旅人は言った。


「この機械カプセルはなんともないですよ。僕が問題だったんで、今はなんとか大丈夫だと思います。目的先のイメージはつかめたんで、僕もちょっと気が抜けてたというか、楽しみ過ぎて気が張っちゃってたっていうか、まぁ『眠っちゃって』ました」

 何を言っているんだろうかという目で案内人は「は、はぁ」と返す。とりあえず、お客様であるイノの要件をのみ、もう一度同じ操作を立体ホログラム操作で行った。


 すると、今度は正常に作動し、寝ていたイノをカプセルの中へと閉じ込めた。「おお!」というイノの声が、カプセルに閉じられた瞬間に途絶える。防音なのだろう。

「よかった、作動した……」

 安堵し、本音を漏らす案内人の声は、カプセルの中に入ったイノには届くはずもなく。


 ユーグレス歴1216年、セプテヌス季、第15陽。

 イノをはじめとする4人の旅人は、この世界を辞す。


     *


 真っ暗な空間の中、液体と気体の間の流体が満たされる。それでも、一切眠たくなる様子がない。

「もっと現実的に……リアリティに……」

 イノは唱えるように、目を閉じては集中する。

 イノにとって、このように集中するのは久しぶりだった。


「やっぱりちゃんと『起きて』いないと機械には気づいてもらえないんですね」

 旅人の言う「起きる」は、この世界で現実として存在する、という表現に近い。「眠っている」ときは、幻想として不安定になり、言葉の通り世界に存在認識させてもらえなくなる。

 どうしてこのような体質になったのかは本人にはわからない。それもそのはず、自覚があまりなく、コントロールできないからだった。それ以前に、そういうものなのだと済ませている。


 溜息をつき、身体の力を抜く。ふわりと体が軽くなる。ゆらゆらと漂っている。莫大でなにもない、真っ白な砂漠を彷徨っているかのようだった。昔の旅に似ているなぁと、イノは懐かしむ。


『――ようこそ、電脳界エレイルオームへ』

 どこからかスピーカー声の混じった男性のアナウンスの声が暗闇の中で響く。前を見ると、長方形のタブレット画面にデジタルドットの簡易なキャラクター顔が映された物体がふわりと現れていた。声の主は彼だった。


「うわ、顔がしゃべってる」

『普通です』

 冷静につっこむ。よく考えれば確かにとイノは納得する。

『引き続き、わたくし「ビーツ」が手続きの案内人ガイドとして、あなたに幾つかの確認を取らせていただきます』

「なんでそんな板チョコみたいなキャラなんですか?」

『ご不満でしたら、姿かたちを変えられますよ? それか、アナウンスだけ、という選択も可能です』

 そう言っては、瞬時にモーフィングし、紳士姿のウサギになる。二足歩行だが、その体形は野性の兎とそう変わらないので小ぢんまりとした、可愛らしい容姿になった。2頭身ともいえる。


「あ、じゃあそれで。かわいいですね」

『ありがとうございます。さて、これよりエレイルオーム入界――ワールド・ローディングにおいての規則と注意事項、申請最終確認、そしてあなたのアバター設定を行います』

 はるか前方に、光る点が生まれ、それは輝くパネルとなり、回転しながら接近する。


「めんどくさそうですね」

『まぁそういわずに。今来たパネルの先を御覧ください』

 真っ暗な空間はパネルに飲み込まれ、瞬く間に真っ白な世界へ生まれ変わる。数多くの幾何学模様が奥の空間に浮かび上がり、ゆったりと流れていく。

 ブゥン、と目の前に幾つか現れる電子パネル。文字の羅列で、イノは読む気がないような顔をする。


『まずは、電脳界においての規則について説明します。この世界では、共界連盟聖府法案第8条を適用し――』

「簡潔に完結させてください」

『そうおっしゃると思いました』

「お、わかりました?」

『お顔を窺えば一目でわかります。それでは大方を省き、サルでもわかるように簡潔に述べます』

「さらっとひどいこと言いましたよ」

 そう言ったイノの言葉に答えず、ビーツは説明を始める。


『ひとつ――


・原則、そのエリアで定められた法律ルール礼儀マナーを守ること。エリアによって、大きくルールが異なります。


・電脳瑕疵――この世界でいう"ゴースト"を発見した場合、ただちにその場から離れて、セキュリティラインに連絡すること。巻き込まれたらほとんどの確率で消失しますので、十分にご注意ください。


・エリアによりますが、原則アバターになり替わる以上、寿命や老い、病気、生理現象等はないものだと思ってください。ただし、死亡がない代わりに消滅することがあります。そうなってしまった場合、輪廻転生は不可となりますのでご注意ください。尚、アバターは一心同体ですので、一人ひとつまでです。


 ――以上のルールをしっかり守った上で、電脳界を観光してください』

「はーい」

 説明の後、申請や条約などよくわからなかったイノは、指示のままに頷いては同意していった。


『では最後に、あなたのアバター設定を行います』

「設定? なんかゲームみたいですね」

 半ばうきうきした様子。ビーツは表情変えることなく、説明を続けた。

『エレイルオームを利用するにあたって、必要不可欠なあなたの分身です。ですが、インターネットやトゥルーネット、ラインネット等のようなものではなく、あなた自身がネットの世界に入るようなものなので、分身といえどもあなた自身です。顔や体型、名前、ヘアスタイル、服、基礎能力など、あなたの思うままに「着せ替え」できます』

「基礎能力?」

 イノは首を傾げる。


『必要でしたら、様々なスキルの調整が行えます。現時点の設定値より高度なスキルやアップグレードを行いたい場合、課金といった条件が必要となってきます』

 へぇ、とイノは関心しては、

「それじゃあ、今よりも頭良くなったり運動神経高くなったり、調合とか歌とか絵とかも調整できるんですか」

『そうなります。さて、まずはあなたの前にいた世界、現時点での個人情報ステータスを表示します』

 ビーツの手からポン、とステッキが出てくる。それを振ると、イノの心臓部から光が差し、目の前に電子板ステータスウィンドウが表示される。

「自分が数値化されるって、新鮮ですね」

『希望があれば、さらに細分化できます。とりあえず、わかりやすいようにゲーム形式で表示してあります』

 そのウィンドウに表示された数値をイノはまじまじと見つめる。



《Name(名前):INO

 Group(種族):ー

 Attribute(主属性):NO

 Age(年齢):ー(外的特徴より推定年齢19)

 Sex(性別):ー

 Life(生命力、寿命等):-

 Levelレベル:1/100

 Physical(基礎体力・筋力):1

 Mental(精神力):1

 Power(力・攻撃):0

 Defence(総合防御):0

 HPヒットポイント:1

 MP(魔力・潜在気脈力):NO

 Speed(速度):1

 Luck(運):0

 Intelligence(総合知能指数):1

 Health(健康):1

 Skill(能力):NO

 Other(その他の基礎能力(潜在能力)等):-》



 その場の空気が凍った。長い沈黙。瞳を動かすことなくウィンドウを見続けるイノ。ビーツも唖然とした顔でウィンドウを何度も読み返す。

「嘘、僕のステータス低すぎ……?」と両手を口に押える。

『そのジョークでさえも通じないほど大変な事態であることを自覚してください』

「普通ってこんなもんですか?」

「これが普通でしたらとっくに人類は滅んでいます』

 楽観的、というよりはあまり事態をよくわかっていない。半ばショックを受けつつも、そんなもんかと受け入れたイノは、ウィンドウから目を離し、ビーツに尋ねる。


「まさかのバグですかね」

『私もそう信じたいですが、いえ、そうあってはならないんですけどね』

 棒読み調になってしまっているビーツ。咳払いをし、もう一度杖を振っては再度読み込みを行う。結果は何一つ変わらず。

 またも沈黙が続いた後、『冷静にお聴きください』と言う。「普通に落ち着いてますよ」とイノは返す。


『あなたの身体をスキャンした結果が表示されるのですが、普通ならば基礎体力や精神力などは一般平均でも80~120辺りで、健康状態もマックスで100、通常は70辺りです。運は人それぞれですが、生命活動を行う以上、奇跡として得た命のその値は100を基準としています』

「でも、僕のステータスは……」

『見た通りです、としか言えません。種族や生命力等の測定不能は未だ原因がわかりませんが、基礎能力に関してはすべて最低値です。極めてバランスがとれていません。存在していないに近い状態です』

「ひどい言い草です」

『しかし、アクセス・ログインが不安定でしたらウィンドウが表示されないので、ちゃんと正常にこちらの世界には入界できているのは確かですが……』

「でもすごいですねー、能力無くてもちゃんと生きていられるんですよ。人間すごいです」と感心する。

『そういう問題ではないのですが……とにかく、これには必ず何かの原因があります。今はわかりませんが、判明次第、イノさんに連絡しておきます』


「オッケーです。そういえばリオラとかはどのくらいだったんだろ」

 ふと思いついたようにイノは言う。

『少し先にログインしてきた人たちのことなら、正常に表示しましたよ。一人を除いてはですが……あなたがおっしゃった通り、リオラ・G・ペルテヌスという人物です。あなたとは正反対のステータス値を叩きだしました』

 それを聞いたイノは嬉しい顔になる。何故か誇らしげな顔だった。

「じゃあ、そのステータス教えてくれますか? ついでにシードも」

『ええ、構いませんが』とビーツは杖を振り、どこからともなく二枚の青いウィンドウを表示させる。

「うわーこれはすごい」



《・Name(名前):Riola-G-Pertenus(リオラ・G・ペルテヌス)

 Group(種族):竜人族ティエンレイ・(遺伝的)変異種

 Attribute(主属性):龍、炎、空

 Age(年齢):5012

 Sex(性別):Men

 Life(生命力、寿命等):21109+x

 Levelレベル:505/100

 Physical(基礎体力・筋力):958950+x

 Mental(精神力):1012127+x

 Power(力・攻撃):909566+x

 Defence(総合防御):896500+x

 HPヒットポイント:960320+x

 MP(魔力):70325

 Speed(速度):840020+x(最大速度約10万km/s)

 Luck(運):520±

 Intelligence(総合知能指数):368

 Health(健康):150

 Skill(能力):10項目まで表示

 ・限界突破の肉体

 ・不撓不屈の意志

 ・全属性

 ・獄龍の血

 ・千里眼、地獄耳等の五感・六感

 ・亜不死

 ・生体構造透視

 ・竜化、細胞極的変性

 ・起死回生

 ・再生異常 etc……

 Other(その他の基礎能力(潜在能力)等):Error

 supplementation(補足):装飾物による制御機能が発動している為、全数値を正確に測れません。したがって、上記の数値は制御機能を付加した上での数値となります。》



・Name(名前):Sead Stakeシード・ステイク

 Group(種族):鉱人族ルドワーク

 Attribute(主属性):人、土、金

 Age(年齢):29

 Sex(性別):Men

 Life(生命力、寿命等):230

 Levelレベル:38/100

 Physical(基礎体力・筋力):147

 Mental(精神力):168

 Power(力・攻撃):139

 Defence(総合防御):320

 HPヒットポイント:300

 MP(魔力):64

 Speed(速度):108(最大速度約25.3km/h)

 Luck(運):60

 Intelligence(総合知能指数):170

 Health(健康):98

 Skill(能力):

 ・電磁力発動

 ・金属変形、自由電子操作

 ・発熱操作

 ・技術開発速度高

 ・金属識別鑑定の眼

 ・肉質硬度上昇

 ・天性の才能

 ・武具使用

 ・分析能力

 ・鉱毒、一定劇物耐性

 Other(その他の基礎潜在能力等):589》



「わっはー、流石リオラです」とイノはリアクションしつつにっこり顔。「シードがすっごく低く見えますね」と呟く。

『ええ、まさかあの"ペルテヌス"の眷属が入界するとは……』

「けんぞく?」

『いえ、何も。シード・ステイクという方も、中々の逸材ですよ。これほどの天才はそうはいません』

「プラスエックスってなんですか? リオラのとこに結構ありますけど」

『未知数という意味です。彼の手首と足首の枷には説明できない何かの力が常時彼の力を封じているのです。そのため、枷を外した場合の数値が不明故のxという記号が付けられています。表された数値は枷で封じ込めた力を除き、今現在発揮できる能力を示しています』


 ウィンドウに夢中になっていてあまり聞いていなかったイノは訊き返すも、ビーツは誤魔化した。


「そうなんですかー。でもスキルってこんな感じに表示されるんですね。いいなー、かっこいいなー」

 スキル無しと判定されたイノは、まじまじと3枚のウィンドウを見比べる。


『現実世界ではそのようなステータスだとしても、ここで設定することで今よりも優れた自分となります』

「なるほど、確かに変更しないとまずい気がしますね。でも僕はいいです」

『え?』という声を思わず出してしまう。何食わぬ顔でイノは「どうかしました」といわんばかりの顔でビーツを見る。


「僕は僕のままでいきます。設定替えてよくわからないことになってもアレですし」

『そう言う問題ではないほどのステータスです。――あなたの場合、このままだと生きることさえ不可に近い程困難です。設定の変更を強くお勧めします。いえ、これは警告と言ってもいいです。後から変更が可能ですが、一刻も早く設定した方が魂の死――消失率が大幅に減ります。しかし、これでよく現実世界で生きてこれましたね』

「いやぁそれほどでも」

『褒めてはいません』

 にやけるイノに対し、真剣にビーツは対応する。


『エラー値だから実際は大丈夫という考えは捨てた方が良いです。この世界での分析は正確ですので』

「それでも、このままでいいですよ。こんなんでも、ちゃんと生きてこれましたし。あんまし変わりたくないですし」


 そう笑顔で言う。その純粋無垢な顔を見る限り、とても気が狂っているようには見えない。

 息を呑んだビーツは、ハットを被り直し、


『もう一度警告しますが、本当にあなたの設定を編成しなくてよろしいですか?』

「おねがいします」

 軽く頷くイノ。逆に意を決したビーツは一礼し、


『かしこまりました。現実世界でのステータスをそのままバックアップします。ですが、表示されなかった項目は必ずこの場で設定してください。外見等のアバター設定はどうされますか?』

「めんどくさいのでそれも引き継いでいいですよ」

『了承しました。それにしても、変わりたくないだなんて、あなたは変わってますね』

「そですか?」

『人はより良く変われることを望む傾向が多くあります。見た目もそうですが、このままバックアップする方は、ステータス値が異常に高い者に多くみられます。縛りで敢えてステータスを低くする変り者もいますが……あなたほど低い方は見たことがありません』

「まぁ記録は常にニューレコードされるもんですよ」

『最低記録更新で嬉しそうな顔しないでほしいですが』


     *


「……こんな感じでいいかな」

 最低事項を決定し、最終申請確認を行ったイノ。ウィンドウは閉じられる。

 目の前に鍵穴の付いた両開きの扉が出現する。電子機械的な鉄扉だった。

『これにて最終確認は終了しました。それでは、電脳界を満喫してください。……ご武運を』


 マニュアル通りの挨拶の最後に、そう付け加えた紳士兎のビーツは、旅人の姿を見送っては深くお辞儀をする。イノはくるりと振り返り、「ありがとうございます、いってきます」と満面の笑みで挨拶を返した。


 ガチャリ、と扉が大きく開く。その先は電脳界。新たな世界を前に、胸を躍らせるイノは大きな一歩を前に踏み出した。

ステータス考えるの結構大変ですね。かなり時間かかりました。

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