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神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第四章 世界を繋ぐ唄声 電脳界編
59/63

第57頁 先端技術封鎖国サントゥ

「へー、カティさんって戦場カメラマンだったんですか」

「うん、『戦場』は付かない方のカメラマンね」

 シードの懇願により、イノたちは歩いて科学国サントゥに向かっている。どこまで歩いても然程景色が変わることはなかった。退屈なほどまでに感じる程、何も起きることもない。草食竜が道を横断する程度だった。

 目指すべき場所は、既に見えており、人工製の何かが進む先を阻むかのようにこの広大な土地を陣取っていた。あと徒歩数分ほどで到着すると誰もが思っていることだろう。

「てことは取材してたんだ」とシードは感心する。

「まー、新聞作りには協力してたって感じかな」

「どういうの撮ってたんですか?」

「いろんなものだよー。一番スリルあったのは竜を撮りに入ったときかな。一回襲われたことあるんだけどそんときは死んだと思った、うん」そう苦笑する。

「へー、リオラに掴まったときと比べたらどっちが怖かったですか?」

「そりゃあ今まで見てきた竜の中でも格別にさっきのは怖かっ……」

 ふとカティスはリオラの方へ目を向けた。身長差で見下される形となっているが、カティスにとって、その目は殺気が籠っていると言っても過言ではないそれだった。

「……?」

 リオラ自身は気にしてはいない様子だったが、口を開くことはなかったので、カティスは少し涙目になっては、

「……すいません余計なこと言いすぎました」

 と小さな声で謝った。

「……」

 少しだけ眉を寄せる。その動作だけでびくりと身体を震わしたカティスを見てから、イノは軽く笑った。

「あっははは、リオラ怖がられてますね。ドンマイドンマイです」

「黙ってろ白髪」

「うわー僕にだけは冷たい。差別ですよ差別ー」

 ぶーぶーと文句を垂らすイノをリオラは無視し続ける。

 シードは歩き続けた疲れを吐き出すように深い溜息をつき、

「大分進んできたな。にしてもさ、サントゥって定めた国以外とは外交を行わない鎖国だろ? 不法侵入も厳戒体勢らしいし、俺たちみたいなパスポートなしの無職旅人でも入国できるのか?」

「誰が無職ですか」とイノの声を右から流し、シードはカティスに訊いた。

「それ自体には警戒しているけど国は観光客に対しては歓迎してるらしいから、たぶんみんなも普通に入れると思うよ。旅人も観光客に入るし。ただ監視はされると思う」

 だろうな、とシードは苦笑する。

 気がつけば、もう国境の目の前にまでたどり着いていた。ほぉー、とイノは見上げ、

「鎖国っていうから鎖で巻きつかれた感じに封鎖されているかと思ってたんですけど……壁ですねこれ」

「おまえの直感的想像力は大抵変な方向にいくよな」

「で、あの受付っぽい監視局みてぇなとこで入国審査を行うのか」とリオラはカティスに訊く。

「そだよー」


 そう言ってはドアの前に立つ。すると、10センチメートルほどある分厚い鉄扉が勝手に開いた。その扉には国旗らしきシンボルがプリントされてあった。

「自動ドアじゃないですか!」とイノは目を輝かせる。

「イノはこういうのあんまり見てないのか」と意外そうにシードは言う。

 4人は入口を通る。居間ひとつぶんの広さの空間を見渡すイノ。カティスは右側にある装置に直行する。

「お、ロボットだ!」

 その装置の横には受付カウンターがあり、ヒューマノイドが居座っていた。その見た目は人間と区別がつかなかったが、イノは一目見てはそう興奮染みた声で言い当てた。

『ようこそサントゥ国へ。ご入国の目的を口答またはこちらの画面にご記入してください』

「みんな観光目的でいい?」

 イノとシードは頷く。

 カティスは慣れた口調と操作でヒューマノイドに対応する。リオラは天井端の監視カメラを一瞥した。

『新規登録は二名様でよろしいですか?』

「3名でおねがいします」

『申し訳ありません、登録の際、この場にいない方の代筆は承っておりません』

「?」

 ヒューマノイドに感知センサーでもついているのだろうか。そのロボットは眉を寄せる動きをして、困った表情へと変化する。

「まあ、とりあえずサインと指紋登録しようぜ」

 そう言ったシードは専用ペンでタッチ画面に必要な個人情報を書いては顔写真を撮られ、パパッと登録を終える。リオラも見よう見まねで登録し、顔写真を撮られる。


「……あれ、なんにも反応しない」

 イノが指紋認証のパネルに手を当てても、一向に反応する様子が見られない。「これ故障してます?」

「いや、手続きは普通にしてくれるし、欠陥はないと思うんだけど」

「そういやさっき新規3名って言ったときもなんか拒否されてたよな」とシードは言う。「機械に嫌われてんじゃねぇの?」とからかう。

「そんなぁ、僕も登録したいんですけど。ねぇロボットさん、なんとか言ってくださいよー」

「機械に訴えても仕方ねぇだろ」とリオラは腕を組む。

『それでは以上の二名様で新規登録します』と悪意があるように勝手に話を進める受付ヒューマノイド。

「まぁ、問題はなさそうだな」

「一人無視してる時点で大問題です」

「そうだね、これはどうしようか」とカティスは少し困った顔をする。

 出口の鉄扉がガゴン、と開く。一本の清潔な廊下が20メートルほど続いており、その先にガラスの自動ドアが確認できた。

「てかもういいだろ。認識されてないならこのまま進んでも不法入国とかバレねぇはずだし、普通に仕方ないことじゃん」

 面倒くさそうにシードは言う。

「……」イノはヒューマノイドをじっと睨む。ムッとした表情が伝わるはずもなく、

『入国審査を完了しました。それでは観光をお楽しみください』


     *


 その国は外の大自然とは正反対と言っても過言ではなかった。

 ほとんど緑はなく、所々ある通気口らしき棒から清潔な空気と酸素が噴出している。汚れた空気など一切存在せず、地面も抗菌性の金属床一色。ペイントデザインやコンクリ、土色の地面があるものの、その素材がすべて同じだと普通の人間は気づいているのだろうか。

 電磁浮遊で移動する浮遊車両ホバー・ヴィークル、鉄とガラスのカーテンウォール。トウモロコシを連想した、螺旋式駐車場の上に半月型バルコニーを重ねた円筒マンション。耐火鉄骨の百貨店は鋳鉄製植物紋様と大判ガラスのショーウィンドウを強調している。複数ある正方形の建造物は地面だけにとどまらず、空間に浮遊している。

 人間だけでなく、様々な異人種も跋扈ばっこしている。異なる人種が抱く自分自身の文化。それが反映されないために、このような無機質な街になったのだろうと鉱人族ルドワークのシードは考えていた。

 当然、人間の2、3倍は大きい人種もいれば半分以下の身長の人種もいた。

「なんかいろんな人たちがいますね」

 意外そうに言うイノにシードが反応する。

電脳界エレイルオームから来たやつらだろ」

「そんだけブームなんですね」

「にしてもお前、機械に認識されてないわタッチ操作も反応しねぇわ、ホントに人間か?」

「人間ですよ。マジマジな一般ピーポーですよ」

「なんだよマジマジって……ああわかったって。ふてくされんなって、イノは人間だ。100%純度のヒューマンだおまえは」

「えっへへー、やっぱりそうですか?」

(単純さが書籍フィクション並だ。マジでいるんだこういうタイプのバカって)

 シードは内心でそう思っていた。

 ころっと機嫌がよくなったイノは周りの街並みに感嘆する。99%人工の国は無機質でありつつも、日光の反射を利用して明るさを体現している。

 国民の服装は様々であり、現代的なファッションであった。

「結構人が多いな」

「大きな国だし、世界一の科学技術国だからね」とカティスは嬉しそうに話す。

「海沿いにあるんだけど、陸続きで海上まで続いてるんだよね。あの、あれだよ、えっと……」

「埋立地?」とシードは言う。「そうそれ」とカティスは笑った。

「あの浮いてるやつなんですか?」

「一般住宅のひとつだよ。最近流行ってるんだって」

「へー」とイノはこれ以上訊くこともなく納得する。

「あれ電磁浮遊で浮いてんのか?」とシード。

「なんか無重力装置が付けられてるんだって。そこまでしか知らないや」

「お、あそこのお店面白そうなの売ってますよ! 買ってきましょ」

 イノはおもちゃを見た子供のようにはしゃぎ、指さした百貨店の一階のショウウィンドーへと向かおうとした。しかしリオラに首根っこをつかまれる。

「勝手にどっかいくな」

「えーちょっとぐらいいいじゃないですか」

「ダメといったらダメだ」

「リオラなんだかお父さんみたいです」

 にへへ、と幸せそうに笑う。リオラはドスンとイノを地面に振るい落した。

「馬鹿なこと言うんじゃねぇ。そもそもこの国の通貨持ってねぇだろ」

「あっ、そうでしたね」

「にしても気になるもんばっかりなのは確かだな。ちょっと見ていきたい」

 シードはあたりの店を見回し、興味を抱いているようにも見える。

「あの人の周りで浮いてるやつ欲しいな。あれウエアラベルだろ」

「あ、"コンシェルジュ"のこと?」

「なんですかそれ」

「個人の生活を管理してくれるお手伝いドローンのことだよ。一機だけでいろんな機能がついていて、あと会話もできるし、なんていうか執事みたいなかんじ」

 シードは周囲の人たちをみる。ボール型やキューブ型、動物アニマル型や人間ヒューマン型などのロボットのような存在が一人に一機、そばについていた。

相棒パートナーみたいですね」とイノの表情は楽しげだった。「僕もほしーなー」

「でも他のものより結構高いよ」

「あー、それじゃあ、やめときますか」

「案外あきらめ早いのな」とシード。

「こうみえて倹約家なんですよ僕」

「自分で言うか」

「言ったもん勝ちですよ」

 と自慢げに言う。どうして鼻高々なのか。しかし誰もツッコむことはなかった。

 通りを抜けると、そこにはビルがぎっしりと建ち並び、高架橋を炭素素材の電車が走り回っている。浮遊車両は立体道路を滑空するように走る。

 道行く人の数も多く、人口密度の高い区域へと入る。奥にはビルよりも一段と高い機械塔がそびえ立っていた。

「あー、やっぱ見たことあるのもあるな」とシードは浮いてる広告塔や国民の身につけているものを見つめながらいった。

「なにがですか?」

「商品だよ。サントゥ製の物品は世界各地で流用されているしな。俺も開発器具とか日用品とかサントゥ製のもの使ってたし」

「へー、じゃいろんな国で流通されてるんですね」

「あ、通貨ならバンクで替えられるよ」

 カティスは思いついたようにみんなに言う。しかしイノは首を傾げた。

「でもだれかお金持ってます?」

「無い」と即答するリオラ。

瑛梁えいりゃん国の金なら30万(かん)持ってるぞ。確かこの国だと5万ゼンぐらいだっただろ」

「私は―、3万ぐらいかな」

「お、じゃあ十分ですね」

「買い物は別にいいけどよ、その電脳界に行くときに金とか必要になってくるんじゃねぇのか」

 つまらなさそうに言うリオラは特に周りには興味を示していない。強いて言うとしても、電脳界のことぐらいだろう。

「2万あれば十分だから大丈夫だよ」

「それは4人で2万か?」

 リオラの一言がカティスにとって核心を突く言葉となった。「あ」という間の抜けた一文字が全員の耳にしっかりと捉えられていた。申し訳なさそうになり、

「……すいません、ひとり2万ゼン分です」

「じゃあぴったしだな。シードが通貨替えて5万あればの話だけどな」

「ありゃりゃー、全員無一文になる訳ですか。カティさんお金下ろしてくれま――」

「ばかやろ、他人ひとの金を使うな」

「大丈夫大丈夫。とりあえず、まずはバンクにいかなきゃだね。それから店とか寄ってもいいし、そのあと電脳界へ行ける|バイオサイバーステーション《BCS》に行こっか」

「さんせーです!」

 イノは意気揚々と手を上げて賛同した。


     *


「いやー、この国も結構おいしいものあるんですね」

 イノは満足気におなかをさする。カティスも嬉しそうで、このふたりが並ぶと本当に幸せそうな顔をしていると通り往く人の誰もが思ったことだろう。

「おまえ食い過ぎだアホ! 想定の倍食いやがって」

 シードは不機嫌な顔で訴える。「強くは言わねぇけど、一応おまえもだからな、リオラ」

「うるせぇな、オレの勝手だろ。あれでもまだ抑えた方だ」

 未だにリオラに対して少し恐怖心のあったシードはこれ以上責めることなく、「……まぁいいけど」と話を終わらせた。

「特にあれすごかったよね、生け花みたいなやつ。もう食べるアートってかんじで」

「そうそう! あとですね、雲みたいなケーキもよかったですよね」

「それもそれも! やっぱりお肉とデザートがいちばんだね!」

 ふたりは楽しげに笑い合う。「女子か」とシードはつぶやくようにひとりツッコむ。

「ですね! 未来っぽい国なので、てっきり食べるものがサプリメントだけかと思ってました」

「まったまた~、そんな大げさな」

「でもそういう国あったんですよ。人口多すぎて食料足りなくて錠剤栄養食サプリメントが食事になったっていうの。僕もそこに行ってたことありましたんで」

「ひゃーそれは過酷だなぁ。あーあれあれ!」

 カティスが指差した先には、ドーム状の建造物に2柱の摩天楼。その人工川辺にある36階の立面は一様ではなく、脚部と胴部と頂部からなる3層式を踏襲して構成されている。超高層の円弧曲面の平滑被膜スリック・スキンは空と水と町を映し出している。

 人だかりが特に激しく、暑苦しいほどに賑わっていた。秋のように涼しくとも、そこだけ温度が高く感じられた。

「でっかいですねー」とイノは手をかざしては見眺める。

「あれが電脳界へ行けるセンターか」とリオラ。

「そだよー、結構すごいでしょ。空港や駅以上に力入れてるからね」

「まぁ異世界から観光客が来るわけだしな……」と騒然とした様子でシードはその人数の多さに圧倒されていた。

「よし、いきましょう!」

「このむさ苦しい人数を前にか? ちょっと俺はそういうの嫌だぜ?」とシードは顔を引きつる。

「あー、じゃあリオラ、先頭歩いてくれますか?」

「あ? なんでオレが――」

「いいからいいから」と機嫌よさげにリオラの背を押す。「あ、なるほどね」とシードとカティスは察した。


 彼らの予想通り、リオラの2mある長身と服を着ていても十分に分かるほどの筋骨隆々とした頑強な肉体、そして本能的危機をもたらす威圧感。異界から来たといえども観光客はリオラの前を避ける。竜人族ティエンレイのリオラより十分に怖そうな顔つきの異界人でさえも、びくりと反応するほどだった。

「おおーすごいすごい! シュルシュル進んでますよ」

「……」

 何か言いたげだったが、リオラは何も口にすることはなかった。簡単に通れた道の先、10は並んでいるガラスの自動ドアの前まですぐにたどり着いた。

「にしてもどうやってその異世界に入るんですか?」

「んー、まぁそのときわかるよ」

「そうですか」と納得したイノは自動ドアへと走った。はしゃぐこどものような行動に思わず「走ったらあぶねーぞ」といいそうになったシードは一瞬だけの恥じらいを覚える。

「よっし、いちばん乗り! おじゃましまぶふっ!」

 しかし、自動ドアは1センチも開くことなく、イノの突進に近い走りっぷりを見事なまでに受け止め(ディフェンスし)た。他の9ある自動ドアは当たり前のように開閉している。

「……」

「……」

「……だ、だいじょうぶですか?」

 ポカンと唖然としたシードと鼻で溜息をついたリオラ。カティスだけが心配の声をかけてくれた。

 もろに衝突したイノは顔面からいったようで、少し涙目になっていた。

「いったぁ~、なんで開かないんですかこれ?」

 リオラが無言で前に出る。すると、何事もなかったようにその自動ドアは滑らかに開く。

「そもそもぶつかるほうがおかしいだろ」とリオラはイノを見下す。

「ちゃんと開くと思ったんですよ」と上目づかいでリオラに言い返しながら鼻をさする。

「おまえ自動ドアにまで存在されてない扱いされてるぞ。……人間か?」

「ひどいです。れっきとした人間です僕」

 シードの一言にイノはふてくされたような顔をする。それが可愛らしくも見え、「あーごめんって」と気怠さを交えつつも、反射的に謝った。

「さっさといくぞ」とリオラの一言で3人は自動ドア――バイオサイバーステーションの中へ入る。ついてこなかったイノは自動ドアの目の前に立つも、それを無視するようにドアは閉まっていく。

「……」

 イノは自動ドアの前で手を振ったり、手でこじ開けようとしたり、天井のセンサーの下でそのセンサーを見つめながら上体を振り子のようにゆらしたりと、いろいろ試すも、一向に開く様子はなかった。「何やってんだバカ」と中からリオラが出てきてはイノの首根っこを掴み、ステーションの中へと連れていった。

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