第56頁 その旅人、異界の者につき
十四度目の日が昇ったときにようやく、水平線にうっすらと霧に交じり、大地のふくらみが確認できた。それを双眼鏡で見たシードは、眠気のあった眼を擦り、ボーっとした頭を切り替えた。操縦席に乗り込み、搭載したエンジンの出力を強め、波立つ海をかき分ける。 朝食の質素なパンを噛み千切り、上空を飛び立つ鶯色の飛竜にさえ目を向けることなく真っ直ぐとその陸地を見続けていた。
その日の昼過ぎにバイロ連邦の脱出船を改造した船は陸地に到着した。その頃にはリオラも上げた赤い髪をガシガシと掻きながら起きていた。
晩秋の空は高く晴れ渡り、鱗雲が少しだけ見えている。空気は冷え切っており、冬が顔をのぞかせていた。
目の前は何もない大海原ではなく、茶色の砂浜と茶褐色の土。車でも支障なく運転できそうな芝生の育った黄緑の平原、そして奥には広葉樹の森がさっと広がり、緑や赤、黄色やらが森の半分以上を染め上げていた。森の地面もまた、敷き詰められた紅葉で賑やかだった。
集落がありそうな様子もなく、れっきとした自然地帯、つまりは未開地だった。開閉した入り口のそばで双眼鏡を手に少し警戒しているシードを一瞥し、リオラは口を開く。
「ここらで大丈夫だろ。そのサントゥってのは内陸にあんのか?」
「いんや、海に接してるぜ。貿易のためにな。ただサントゥは認めた国以外の干渉を拒む鎖国として有名だ。やっと陸地に着いたばかりなのに変な面倒事に巻き込まれたくないよ俺は」
戦死者として扱われた兵士に籍を属してない無法者ふたり。発展した国でない限り問題はないだろうが、人間一人一人を管理するといわれる技術大国に許可なく入国しようものなら罪に問われる。それはシードやリオラも解っていた。
「おい、いい加減起きろイノ。おい!」
「スケブッ!」
二度揺すっても反応がなかったため、リオラは鎚を叩くように拳をイノの腹に強くうずめた。胃袋どころか肺胞の空気ごと潰された衝動に駆けられ、流石のイノも目を覚ました。
「はうぅ……命の保証がない起こし方ですね……」と咳き込みながら、ぐったりした表情でリオラを見る。
「こんぐらいしねぇとびくともしねぇからな」
「次は暴力以外で起こしてほしいです」と具合悪そうにしつつ起き上がった上体を再び横にした。
「って二度寝しようとすんじゃねぇ!」
*
船から降りた三人は乳白色の砂浜に足跡を残す。
「フォルディールの砂は鉄粉みたいな色だったしな」と鉱人族のシードは砂をさらさらと触る。イノは波に流されつつあるカニの親子をしゃがんでは観察しており、リオラは奥地にある紅葉の森を見つめていた。
「ここってどこですか?」と振り返る。
「東マガラ大陸のラストル地方だ。サントゥからはちょっと離れた、未開地ってとこかここは」
「あれ、海渡ってきましたよね」
「東マガラはC型の大陸だ。海と繋がっている巨大な湖と考えればいいだろ」
「ふーん」
あまり理解していない、というよりは関心がなさそうな反応を見たエンジニアは、これ以上説明することはなかった。鳶の鳴き声が遠くから聞こえてくる。笛の音に似た声にイノは空を仰ぐ。白い羽毛を持つ全長6mほどの鳥竜の群れが日差しが弱い太陽を横切っていた。
漣の音、遠くで木々が揺れる音。その木の種類も、フォルディール島にあったものとは少しながら異なっていた。
平原に十五頭ほどの小竜の群れが大型の草食竜を追っている。やがて捕まってしまい、捕食されながら森の中へ運び込まれているのをただリオラは見ている。
「……」
平原をよく見ると、森との間に一本だけ道があった。草木をどけて、土を固めただけの一本道。しかし、幅は広く、見る限りしっかりした道のようだった。
ふと右の方角から自然の奏でる音色にしては不釣り合いな、荒っぽい音が聞こえてくる。
三人は森の木々の隙間を覗きこむように少し遠くから見つめる。
「エンジン音……一応人工の道が作られているんだな。申し分ない程度には」
そう呟いたシードは紅葉の森から抜け出したクラシックバイクを目撃した。そのあとにイノとリオラもその小さめのバイクを捉える。
しかし、レトロなスタイルのバイクに乗っているのは人ではなく、縄に括りつけられた荷物の塊のみだった。イノとシードは一番距離として近いリオラのもとに集まる。
「ねえねえ、あれなんですか?」
「バイクだけで走ってるぞあれ。最近の偵察機かなんかか?」
にしては珍しいな、とシードはつぶやくが、リオラが一歩前に踏み出す。
「捕まえるに越したことはねぇだろ」
そう言い放った瞬間、リオラのいた場所は土埃が舞っていた。
「おいちょっ……あいつマジか」
「動いたものにぜんぶ反応する昆虫みたいですね」
のんびりとした口調で話したときには、既にリオラは100m先の走行中だったバイクを片腕でとり押さえていた。横に押し倒し、括りつけられた荷物がゴトゴトと転がる。
「おお、見事捕まえましたね」
「てか……大丈夫かよあんな得体の知れねぇ無人機捕まえて」
何かの位置情報センサーが反応してどこかしらの機関に送受信されないか心配するエンジニアの一報、興味津々のイノはリオラの元へ走っていく。シードがどうしようもないばかりに頭を掻いていたときだった。
「ギャーッ! お願いします食べないでー!」
「……あ?」
リオラが捕まえていたクラシックバイクは外装が展開され始め、内部が細かく分解された。その速度は速く、瞬く間に人の姿へ変形した。その喋ったバイクは変形したことでうまく逃げようと計らっていたようだ。しかしその隙は無く、リオラに胸骨部を草むらに抑え込まれたまま、肌色に変色しきった裸の人間の姿になる。
「お、おい……人間になったぞ……」
そうシードは驚くも、どこか既視感を覚える。
その裸体の姿は十代後半の若い女性であり、その若々しく、整った顔立ちにしてはスタイルが大人の女性寄りだった。変形する際にまとわりついたバスタオルサイズの古っぽい布が裸体を隠したものの、涙目で必死に抵抗するため、年齢にしては豊満な乳房くらいしか隠しきれていない。自転車を全力でこぐように暴れる脚がリオラの身体に当たるも、その砲弾をも弾く堅硬な肉体にはものともしなかった。
「……なんだぁ?」
突然の変異に目を少しだけ丸くしたリオラだが、蹴られ続けている為、とりあえず片腕で押さえ続けることを選択した。
抑えているリオラの筋肉質な太い腕はびくともしない。どう動こうとしても女性は悲鳴ぐらいしか上げることができなかった。
「別に私おいしくないし荷物も大層なもの入ってないんで本当に見逃してください頼みますなんでもしますから食べることだけはやめてくださギャー!」
パニックに陥っているが、そのリアクションがどこかおもしろい。
「今なんでもしますって言いましたねあの人」
「おまえそれどういう意味かわかってる?」
意味は知らないであろうが、真顔で言うイノにシードは呆れた目になる。その視線はイノではなく、布一枚の裸体の女性にしっかりと向けられていた。
「キーキーうるせぇなクソガキ。少し黙っとけ」
「ひぃぃっ!」
抑え込んだ腕の力を緩める。しかし完全に脅えてしまい腰が抜けたのか、後ずさりして離れることすらできず、その場で仰向けに倒れたまま、涙を浮かべ、息を乱し続けていた。それに対して何の感情すら示すことなく、リオラは息を一つ吐き、静かに口を開いた。
「まず、おまえ機械だから普通喰われねぇだろ」
「あ……ホントだ」
「リオラはなんでも食べますけどねー」と傍まで来たイノがほのぼのと言う。茶髪の女性は目をさらに潤し、顔が真っ青になった。
「っ! いやー! やっぱり私食べられちゃ――」
「うるせぇ黙ってろ!」
*
「なーんだ。そういうことならそうだと言えばよかったのに」
「……」
事情を話し、落ち着きを取り戻した女性はのんびりと笑う。荷物から衣服を取り出し、襟が大きめのウール混モッサコートを着、膝丈まである冬用の黒いブーツを履いていた。海岸沿いの平原に生える一本樹の側で、一同は冷える海風を浴びる。
彼女の表情に対しリオラは睨みを利かせるが、シードはおそるおそるなだめた。
「ま、まぁまぁ落ち着けよリオラ。無理に捕まえたおまえも……すいませんなんでもないです」
しかし鋭い眼球の威圧に負けてしまうシードであった。リオラのギロリとした目に女性もびくりとし、泣きそうな顔になる。さりげなくイノは散らばった女性の旅荷物をひとつにまとめていた。
「ま、まぁ驚かせてしまってごめんな。でも君、やっぱり機人族だったか」
慰めるようにやさしく接するシード。その機人族と言い当てられた女性は意外そうな表情でシードに訊いた。
「え、驚かないの?」
「そりゃあ……なぁ」
シードはフォルディール島にて戦闘を交わしたバイロ連邦軍中尉ユンカースを思い出す。その男も機人族であり、所属していた隊の仲間であった相棒を殺害した男。屈辱と悔しさが込み上がるが、沸き上がる怒りを静め、顔に出さないようにする。
「それならよかった」と女性は笑みを向けた。
「私の身体は機人族だけどね、私そのものは違うの」
「どういうことですか?」
話に参加していたイノは女性の隣にいた。腰を降ろしては、まとめた荷物に背もたれている。
「私は電脳族なんだ。インストールされてこの身体を動かしてるの」
それを聞き、シードは目を丸くした。
「電脳族って、電脳界にいる住民のことだろ」
「そうそう! なんだ、知ってるじゃん」
「どういうことですか?」
「おまえの質問がどういうことだよ」
未だ分かっていない様子にシードは息を吐く。
「エレなんとかって初めて聞くんですよ。なんですかそれ」
イノは首を傾げては訊く。広葉樹に背を預けているリオラも黙ったままだったが、表情から電脳界については何も知らないようだ。
「エレイルオームというのは、"自然的に生まれた"電脳世界の名前だ。で、エレインというのは、電脳族とも言って、その電脳界――エレイルオームに生まれ育った人族のことを言うぜ。俺たちからみたらヴァーチャルな存在というか、AIみたいなもんだな」
「人工知能じゃないよ全然。それ電脳族にとっては蔑称だから」
少し眉を寄せた女性にすぐ謝るシード。黙っていたリオラは赤黒い瞳を向け、質問をする。
「電脳界ってのはつまり、こことは違う世界ってことか」
「そうだね」とカティス。「でも人間が作ったネット回線とはちょっと違うんだよー。質も違うし、規模が全然違うしね。次元的に独立した宇宙のひとつだとかなんとからしいけど、私も正直よくわかんないや」
148カ国ある世界の約34%の普及率で、コンピューターネット・プロトコル技術が導入されている。先進国や大国の首都ぐらいにしかコンピューターネットワークが利用・管理されていない為、ネットワークの存在自体を知らない国も少なくはない。
だが、電脳界は明らかにそれとは異なる。次元の異なる、もうひとつの世界そのものだ。
「そういや電脳族は99%非物質って聞いたことがあったな」とシードは少女と話を進めていた。
「あれ、じゃあなんでここにいられるんですか?」
イノはそう少女に尋ねる。少し考えた彼女は口元をさする。
「うーん、まずね、非物質じゃなくて、それに近い特異物質で電脳族はできてるの。あと、電脳族は電脳界から出るとき誰かの肉体を借りなきゃいけないんだ」
「へぇー」とイノは関心する。風だけが吹く中、竜の遠吠えが遠くから響いてくる。
「憑依、じゃなくてリンクっていうのかな。まぁ電気関係だったら機械でもロボットいいんだけど、いちばんリスク少ないのがこの機人族の身体なの。機械みたいに繋がりやすくて、人体みたいに馴染みやすいからだって教わった」
「てことはそれ、死体ってことですよね」
さっぱりとした表情で言い放ったイノ。
「うーん……半分そうかも。実際よくわかんないけど」
「幽霊みたいな存在ですね」と言っては笑う。
「でもさ、それに模した人工製もあるんだろ?」とシードは言う。所謂、機人族のDNAと電脳族の情報記号を掛け合わせた複製型の人造生命体。人種でありながら、品種改良も兼ねており、本人に似せるように整形手術も為されている。
「あ、それ、私それのこと言いたかった」
そう思い出したような顔でシードに指をさす。「なるほどな」とリオラは呟いた。
「あ、そうだった」と何か思いついたかのようにイノは尋ねた。降ろしていた腰を上げる。
「今からどこに行こうとしてたんですか?」
「サントゥっていう、科学技術がとってもすごい国。電脳界に帰るために行くんだ」
笑顔で答えた女性に対し、ぴんと反応したシードは明るい顔になる。
「お、丁度いい。悪いけど案内してくれねぇか? 入国とかよくわかんねぇんだ」
「いいよー!」
シードと同じように明るい顔で了承してくれたことにほっとする。
「サントゥから電脳界に行けるんですか?」
「そうだよ! 他の国でも装置があれば行けるけど、サントゥは一番進んでいるかな」
「ブームってやつですか」
「うん、大体そんな感じ。それに電脳界もいろいろ更新されているから、昔以上にいろんな世界から人が集まるようになったの。まぁそれができたのも、電脳族や"渡り人"が技術を伝えたおかげ――」
「……ん!? ちょっと待て」とシードは慌てだす。「いろんな世界ってどういうことだ? 世界中の国々とかじゃなくて?」
「……? あ、そっか。ここはまだ知られてないのか」と独り言のように話す。
「人が住める世界がここ以外にもあるってことか?」とリオラ。
「そう! 惑星間の規模だけじゃなくて、時空を超えた先にも世界はたーっくさんあるんだよ。自分が生まれ育った惑星以外にも世界があると証明するのが困難だったときがあったけど、もうそれは過去の話。時空を渡る存在や電脳界が、無数に近い"世界"を結び付ける"特異点"となったんだ」
自分のことのように誇らしげに語る彼女に、シードの口はぽっかり空いたままだ。
「待て待て待て。理解が追いつかねぇ。そんなことってあり得んのかよ。異世界やマルチバースの存在がもうすでに実証されてるってあんのかよそんなこと」
「リオラ、あの仙人もなんか言ってましたよね。ある世界の人と出会ってすごい力を手にしたって」
「あぁ? ……あぁそういやそんな奴いたか。シルダっつったか」
「意外とこの世界も繋がってたんですね」
「……?」
何が言いたいのかわからないイノに、リオラは返さなかった。
「いや、この際理論とかは後回しだ。とにかく俺の知ってる電脳界ってのは何もメタバースの概念じゃなかったってことだ。つーことは」
「おまえの探してるものも見つかりそうだな。伝承や資料も、その渡り人から伝わってきたものかもしれねぇしな」
そう言ったリオラの方へと目を向け、小さくうなずいた。
「それに俺の目的も、その先にありそうだしな。道理でここの空気が前と違うわけだ」
それらを聞いたイノはぱぁっと目を輝かせてる。好奇心が最高潮に入り浸っている顔だった。
「それなら行きましょう! 電脳界! いきましょう! レッツゴー!」
「落ち着け白髪」
小躍りしているイノに口だけを動かして言ったリオラは木に寄りかかるのを止める。「おい」と女性に声をかけた。
「電脳界っつーのは、肉体を置いて"魂"だけで入るモンなのか?」
「んー説明は難しいけど、サントゥだったらちゃんと体も一緒についてくるよ。別の世界に行く説いても、別にあの世に行くわけじゃないからね」
「……そうか」
「うおお!」とイノは発狂まで5秒前とカウントダウンがされてもおかしくないほど、輝いた顔を見せていた。
「まっすます楽しみですね! 案内お願いします!」
「うん! よろしくね! ええと……そういえば名前聞いてなかったよ」
頭を掻いた女性は軽く笑う。最初に一歩前に出てきたのはシードだった。
「俺はシードってんだ。よろしくな。んでこいつは……」
親指でイノを指すが、シードの紹介よりも先に自己紹介をする。
「イノです。旅人やってます」
「リオラだ」とズボンに手を入れたまま答える。
「よろしくー! 私のことはカティスって呼んでいいよー」
その機人族の身体にリンクしている電脳族のカティスは、にぱっと笑う。「はーい」とイノは返事する。
「わかりましたー、カッちゃん」
「うん、早速はしょられてびっくりした」
「じゃあカティさんって呼びますね」
「まぁそれでもいいよ。……あ、どうしよ」
「どうしました?」
少し困った様子になり、カティスは頭を悩ませる。
「バイクにしか変形できないから、みんな乗せれないや」
言われてみれば、とシードも気づく。リオラはそれがどうしたと言わんばかりの目を向ける。
「あーそうですねー」とそこまで考えていなさそうな顔をしながら、イノは頬を掻き、
「歩いていきましょう」
あっさりと言った。そのときだけ冷たい風が止んだ気がした。
「マジか」とシードは青ざめる。「ここからどんだけあるかもわからねぇのに?」
「旅人は歩いてなんぼですよ」と笑う。
「そこ笑うとこじゃねぇ。バイクや車で旅してる奴見たことなかったか? あれ普通だからな!」
「ここからサントゥまでは……」とカティスは荷物から薄い下敷きのような、曲がるタブレットを取り出す。起動させると、そのタブレット前面に電子画面が表示される。当然、イノは興味津々でそれを覗き込む。
「なにそれすごいです!」
「これサントゥで買った電子地図。いろいろ便利なんだけどね――あ、ここから120キロもあるのか」
タッチ操作をしてマップ検索をしたのだろう。「あれか」とリオラは海沿いの平原の遠くを見つめている。千里眼級の視力を備えるリオラはすぐに目的地の国を見ることができた。
「軽く走っても3時間くらいには着きそうですね」
あながち適当な数値を言ったイノだが、体力に自信のないシードは本日二度目の血の気が引く思いをする。
「おい、お前の軽くは車運転するレベルだぞ」
そう訴えたが、イノの耳には届かず、カティスと仲良さげに話していた。
「まぁ、大丈夫ですね」
「うん、大丈夫だね」
気の合ったふたりは「にひひ」と和やかで変な笑みを交わす。
「そこで変な基準を立てるんじゃねぇよ! リオラもなんとか――」
「平気だろそんぐらい」
「……」
シードは口をあんぐりと開けたまま硬直する。
(そうだった、こいつらある意味人間じゃなかったんだ……)
まるで自分だけが常識外れかのような思いに浸ったシードは、肩を落とす。仕方なくイノたちの行動についていく他なかった。視界が白っぽく、意識が遠のく感覚を抱いた。
やっぱり一人だけで旅した方がよかったな、という思いが湧き出たが、イノの期待に溢れた笑顔を見て、その気持ちはすぐに捨てた。
「早く行くぞ」とリオラの一言で、その場を辞す。カティスの荷物を担いだイノは「おっ先ー」と先に歩き始めたリオラを追い越した。




