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神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第三章 孤独の影光 廃島フォルディール編
48/63

第47頁 技術士の魂

「お前もたまにはかみさまに祈ってみたらどうだ。伝統もそう悪いもんじゃないぜ?」

 シードは余裕の笑みを見せてくる。機竜化しているユンカースは頭をかく仕草もできないが、それをしたような「ふーん」という声を出す。

「ま、とりあえず撃ちますわ」

 と集中砲火。その判断は早かった、というよりは早く面倒事を片付けたいの方が適していた。

 しかし、全弾はシード等を沿って軌道を曲げた。直撃することはなく、爆破したのは背後の景色だけだった。

「あぁ、そーいや鉱人族ルドワークって電磁波使えるんだったな。……そんなに出力高かったっけ」

(……くそ、目が疲れてボーっとしてくる)

 特性の使いすぎか、シードの疲労は汗として伝わる。しかし、余裕の笑みを浮かべた。

「ヘッ、俺様は天才だからな。このぐらい屁でもねーぜ」

「強がんじゃねーよ体力無い癖に」とリトーは呆れ口を叩く。

「うるっせぇ、平均以上はあるわ。馬鹿みてぇな体力自慢の軍人と比べんな」

「ハイ注目」

「あ?」と同時に砲火。しかし、今度はリトーの放ったフレアが相殺させ、爆風を引き起こす。

「……そうだな、ヘタなコントみてぇなのやってる場合じゃねぇな」

 シードはひやひやとしながらも、真剣な目でユンカースを見る。直接襲えばいいものを、身体を動かしたくないのか、攻撃は砲撃のみだった。

「隊長! みんな、ちょっと覚悟してくれ」

「……?」

「どういうことだい」とダリヤ。

「嫌な予感しかしねぇ」とドレックはつぶやく。

 シードがそう宣言し、ユンカースに向けて、拳を向け、ニッと笑う。「……?」

「それじゃ、異人種ふかしぎ機械技師エンジニアの魅せる魔法かがくを御覧あれ――」

 シードが地面に手を付ける。

 パチン! と軽い放電現象。どこからか小さな爆発音が聞こえてくる。

「――っ、目が!」

 ユンカースはその眼球レンズアイの視覚機能をシャットダウンさせられ、目をつぶってしまう。

「リトー! あいつの動きを封じるぐらい撃ちまくれ!」

 リトーの両腕が展開し、数多くの小型ミサイルが多量射出される。


 同時、背後の鉄板床がバゴンと外れる。シードの仕掛けた電磁波により、あらかじめ下の岩盤から蒸気が勢いよく噴き出し始め、その作用で岩盤が崩れた。シード、リトー以外の選抜隊は鉄板床の上に立ったまま、ずり落ちるように落下する。

「えっ?」

「ちょっ、おまっ」

「マジかよ」

 驚いた声だけでなく、誰かに睨まれたような気がしながらも、シードは「頼みました」と呟いた。

 その下には足場がある。そのすぐ傍に洞穴があり、その奥にコンテナがある。上部にワイヤーが張っているそのコンテナの中には、シードが地下深くの廃棄場にて製作した特攻用武器兵器がある程度揃ってある。

 ワイヤーはここから見える、第二の山。イノとシードが列車で脱出した場所と直結していた。予め製作していたシードはこの島の吹き出す蒸気を電力に、置き去りになっていたコンテナをワイヤーとギアなどで移動させ、電磁波を予備動力として、この場で選抜隊とブリーフィングを行う間にも、早く引き付けていた。

 賢者は二手三手先のことを考える。改めてその言葉を思い浮かべた自称天才シードは鼻をすする。

「ヘッ、せめて驚いて、俺に感謝してもしきれないあいつらの顔を見たかったが」

「おいバカ! 早く援護しろやボケナス!」

 ヴォアアアア! と吼えるとともに、ユンカースは弾丸を払い、リトーを金属翼で薙ぎ飛ばす。鉄壁に激突し、深く凹んだが、リトーの合金ボディはこの程度ではそこまでダメージを受けなかった。

「うぉお、俺じゃなくてよかったー」

 しかし、ユンカースの損傷している姿を見て疑問に思った。

「……? こいつシールドがねぇぞ」

「あー痛ってぇなぁ。どっかの旅人さんのせいでシールド機能ぶっ壊されたんだよ。あんたらその旅人のことで心当たりねぇかぁ?」

 身をよじらせ、翼を羽ばたかせる。黒いオイルがぼたぼたと血のように機体から洩れていた。

(旅人……? イノのことか?)

「ま、知ってようが知らまいがどーでもいいけどなぁ。しぃかし、俺としたことがこんな凡ミスしちまうとは」

「テメェが気ィ抜いてたからだろうが。こちらとしてはよかったことだけど」

 よろりとリトーが歩んでくる。機体的にはまだ大丈夫だった。流石俺の最高傑作、と自分の心の中でシードは褒めていた。

「つーか、いつのまにぃ設置してたのか。てか便利だなぁその電磁波使えるの。遠隔操作しほうだいじゃん」

 そういいつつ、「イタた」とつぶやく。

「はー、この姿もデカくて動きづらい」


 そう言ったとき、全身が展開され、パネル状、繊維状にその竜の身体は細々(こまごま)と分解され、新たな形へと構築していく。結合、融合、合体し、その姿は全高4ⅿの搭乗式多目的パワードスーツへと変形した。

 ガラス越しの内部には軍服を着たユンカース本人が乗っており、シードの位置からは見えないが、その下半身はやはりパワードスーツと連結していた。

「おお……間近で見ると感動を覚えるな」

 シードはついその芸術的な変形過程に目を奪われていた。ただの機械ではこんなことはできない。機人族だからこそ、生物的にできることなのだと、改めて思い知る。

「ドラゴンの姿の方が、絵になってたと思うけどなぁ。口から火とか吐ければそれこそファンタジーだと楽しみにしてたぜ」とリトーは警戒しながらも茶化す。時間稼ぎとして、体内システムの再起動と修復を行っているのだろう。

 ユンカースは頭をぼさぼさに掻き、

「アホォ、ドラゴンだったらなんでもポンポン口から吐けると思うなよ。それに俺ァ竜に模しただけだ」

(……こいつ結構ノリいいな)

 そう思ったシードだが、すぐにブルパップ式アサルトライフルを向ける。動き出したからだ。

 背面の二基あるターボエンジン。その排気口から熱風を発射している。その唸る音は臨戦態勢を意味していた。

 一歩踏み出し、巨体にしては俊敏な動きを見せた。リトーは右手を展開させ、切削器ドリルへと変形させる。

「最初は馬鹿にはしてだが、案外使えるんだよなコレ」

 素材はタングステンカーバイド。超硬合金の代名詞とも言われている。

 シードは手持ちの武器でユンカースを撃っては誘導させた。そしてリトーのドリルの一撃で火花を放つとともに、脚部を損壊させる。一旦離れたユンカースは「痛ってぇ」と顔を歪める。

「っ、再生してる……!?」

 金属体であるはずなのに、肉眼で確認できる程度でドリルで空いた穴が塞がっていく。その神秘さは敵ながら感心した。

 しかし、その再生速度にも回数と限度があるはずだ。体内の栄養が不足していれば、当然、すぐには再生できない。シードはそう考えた。

 ユンカースの拳がシード目がけて放たれる。マシンにしては俊敏なフットワーク、機械音と共に振られた拳に磁性がないことを知り、咄嗟に避ける。転がり、受け身を取ったシードはライフル弾を撃ち、軽く舌打ちをする。

「やばっ、あの機体ボディ磁性がねぇ!」

 ユンカースは30mm機関砲を構え、火を噴かせる。弾丸は磁性有りなのでよけきれなかったとしても、ある程度は保険が効く。

 シードは仕方なく、所持している銃型ガドリング二丁を撃ち放つ。シールドがないため、損傷は与えられるが、弾が尽きる方が早そうだと察する。

 リトーは全身のあらゆるところから弾丸やミサイルを発射させる。ここまで弾を節約してきたのかと思うほどだった。重機関銃と拳のみしか繰り出してこないユンカースも、流石によろめき始める。しかし、その表情は焦った様子はなく、相変わらずやる気のなさそうな死んだ目をしている。

「ふー参ったぜぇ。そろそろ再生できなくなったかぁ」

「なんだ? 思ったより呆気ねぇじゃねぇか、機術師」

「いや、まぁちょっとな」とはぐらかしたユンカースは目の前に何か電磁波の壁のようなものを360度展開させる。リトーが撃ったバズーカと、シードが使った一発限りのランチャーが弾き返される。


「――ッ、滞空シールドか!」

「いんや、これは一時的なもんだ。電力切れりゃ自動的に解除される。ちょっとあんたらに言いてぇことがあんのよ」

 突然の戦線中断。「は?」と顔をしかめる二人だったが、攻撃しても無効である以上、話を聞く他はなかった。

「あんたらがこの島をどうするつもりかは知らねぇが、仮に俺たちの国からこの島を奪ったところでぇ、バイロ連邦には敵わねぇぞ」

 何を話すかと思えば。シードは苛立ちをみせるが、口には出さず、話を聞き続ける。小さく舌打ちしたのは聞こえなかったようだ。

「あくまでこの島は補足的な戦力。まぁ上の奴等がそう教えているだけで、結構重要なやつかもしれねぇが、そう考えてしまってはいくらでも仮説が出てくる。ま、フォルディールはアリオン領土の為の戦争だけじゃなく、今後の技術発展の為にあるよぉなもんだと俺は考えている。そしてぇ、それにはフェルディナント大佐の技術が不可欠だ。それはいずれ、ゴスタニア大陸だけじゃなく、世界中に広まっていくとぉ俺は見ている」


 この男は何を言っているのか。敵である自分らに何を告げているのか。シードは話に裏がないか、いつ仕掛けてくるかを考え、その目は警戒以外なにもなかった。

「本当は俺はこの戦争に……あぁ、こいつぁ言っちゃあいけねぇ約束だったぜ。俺たちバイロ連邦は、何もただ領地が欲しいわけじゃねぇんだ。……時代を変えるために、アリオンを手にしなきゃなんねぇ。そして、この島の技術もな」

 ますます相手の意図が読み取れない。本心なのだろうが、本当だったとして、それがどういう意味を示しているのか、シードにもリトーにも分からなかった。言っていることは分かるが、何故、急にそんなことを話し始めるのか。

「わけわかんねぇことばっか言いやがって。結局支配することに変わりねぇんなら、瑛梁(おれたち)の敵であることに変わりねぇんだよ。同情を誘おうとしてたなら全部無駄だぜ」

「同じ穴の(むじな)だからこそ、おまえなら少しは解ると思ったんだがな。時も流れりゃ気も変わるか」

 それは、シードに向けられた言葉だった。その発言に違和感を抱くが、それを紛らわすために、別の疑問をぶつけた。


「つーか、おまえらは何を目指している」

 シードの静かな声に、シールド越しのユンカースは話し続ける。

「俺らは常に最良・最善・最高・最上・最新をぉ目指している。この俺の肉体の一部となっている大佐からのプレゼントもぉ、最高品質の最上級マシンだった。おかげでよぉ、障害持ちの機人族の能力がろくに使えなかった俺がこうしてグレードアップできている。機人族らしさを取り戻してくれたんだぜぇ大佐は」

「……」

 ふたりは黙りつづけていた。いつでも迎撃できるように、スタンバイしていた。


「科学力はサントゥまでには及ばねぇが、そんな最高の環境の下で最高級の素材を最良の道具や機器で製造し、最善の傑作を作り上げる。この先そーいう時代になっていく。サントゥがその代表例だ。使えねぇもんや古いもんは捨て、新しいことを取り込んでいく。これこそが、発展にぃつながり、進化へとつながる。技術者はこの星を進化させるために、そーいう考えでやっていかねぇと、世界中が豊かにならねぇ。バイロ連邦はそれらを管理し、豊かにさせるためにぃ、世界大戦に参加するんだ。その先頭を走っている偉人の一人がフェルディナント大佐だ。彼女は未来の技術者といってもいい。将来の世界を切り開いていく、偉大なる技術者だと、アンタらに伝えたかったんだよ。死ぬ前になぁ」

 ユンカースはウィン、と機体を動かす。そろそろ来るか、とリトーは構える。

「……じゃあそのクソ大佐にも伝えとけよ」

 そう言ったのはシードだった。挑発でもなんでもない、彼の純粋な怒りが表情として、声として込められていた。ユンカースは眉を潜めた。

「最上級の環境施設、最高級の材料。そんなものしかあてにできねぇような奴等が技術者語るんじゃねぇ! 金やろくな道具がなくても、どんなに使えねぇガラクタでも、もう一度その捨てられた命に魂を吹き込んでやるのが技術者ってもんだろうが!」

「……シード」

 彼の叫びは、彼の生き様そのものであることをリトーは知っていた。彼の苦痛、喜び、あらゆるものが混じった、彼の記憶含め、その意志ある言葉はユンカースの動きを一瞬だけ止めた。

「そうかい……なぁシード・ステイク技師、こうやって君と直接話を交わすのは初めてだが、実に君はいいことを言った。言葉に熱がこもってたよ」

 パン、パン、と大きく、ゆっくりと拍手する。まるで何かを懐かしむかのように技師を見つめていた。

「あんまり熱く響く言葉だからぁ、イラついたわ」


 瞬間、4mあるマシンが消失する。

(っ、消え――)

 背後に感じた殺気。つよく、はやく、そして……無機質つめたい

 金属のように冷たい殺気は、途端消える。何かにぶつかった感覚だけが残っていた。

 嗅覚に感じる、自分がいつも嗅いだことのある臭い、耳に感じる、作業場で聞いた事のある音、全身に伝わる強い電磁波。

「ッ、リトー……?」

 ぶつかり、身を倒していたシードが起きあがった先、リトーの大きな背中がすぐそこにあった。唖然、そしてリトーが自分を庇ったのだと理解した。

 ロボット型の鋼の大きな背。その大きな身をあるものが貫通していた。

 プラズマジェット。槍型と化しているそれは、ユンカースの腕から射出していた。プラズマ化した空気や酸素は母材リトーの右胸部から背面へと溶解、切断している。数万度の熱はリトーのステンレス鋼やアルミニウム合金などだけでなく、その超硬合金のボディでさえも焼き付けていた。

 リトーは左腕でユンカースを止め、掌からレーザー化したプラズマカッターを射出し、そして右の手のひらから圧力ジェットを発動させ、その見えない衝撃波で相手を吹き飛ばした。ユンカースは山側の巨大パイプに背中からめり込む。

「ハン、やっぱテメェは弱ぇなぁ」

 バチバチと電気が漏れ、シードの方へ振り返る。照明で輝く金のチェーンネックレスが目についた。

「おまえ……なんで」

「どうせならよ、未完成でもいいから俺にもシールド機能搭載させておけよ、バカエンジニア」

 ひょい、とシードを猫のように掴み、ぶんっ、と後ろへ投げた。

「えっ、おいちょっと」

 山の傾斜にぶつかり、その坂を転がっていく。その下は、シードがオービスら選抜隊の為に作った脱出口――下の岩の足場へと続いていた。無様に転がり、痛みを感じつつも、バッとすぐに起き上る。傍の洞穴に先にあったコンテナには何も入っていなかった。当然、選抜隊の姿もなかった。

「なにやってんだよダマスカス野郎! プラズマジェットで頭でも狂ったのか!」

「テメェにだけ狂ってるとは言われたかねぇ! おまえは隊長たちを追え!」

「は? ちょ、バカか! テメェ一人で何ができんだよ凡骨!」

「うるせぇんだよひょろりんもやしのクソガキが!」

「なっ、誰が――」

「おまえはおまえにしかできねぇことやれ! この島救えんのはテメェしかいねぇんだよ!」

「は!? テメッ、何言ってやがん――」

 ズドン、と足元に何かが撃たれる。地面に刺さったのは、何かの小型ミサイル――否、製作した自分だからこそ、このミサイルが何なのかはすぐにわかった。

「マジかあのキチガイ!」

 シードはすぐに洞穴の中へ飛び込んだ。

 瞬間、そのミサイルは爆発。崖に突出していた岩の足場ががらがらと崩れていく。もう後戻りはできなかった。

「俺のことはいいっつってんだ! こんな奴に二人も要らねぇ! 先へ行けェ! シード・ステイク!」

 その叫びを最後に、シードは「馬鹿野郎が」と歯を噛み締めた後、すぐに洞穴のコンテナの先、独立山峰内部へと走った。


「おいおいおいおい、いーのかぃ、一気に不利になっちゃったんじゃねぇの? 同情しちまうぜ。アンタ一人で大丈夫か?」

 ガシャン、ガシャン、と一歩ずつリトーの元に歩み寄ってくるユンカース。彼の歩いた後には赤黒いオイルのこぼれた後が染み付いていた。リトーは小馬鹿にしたように笑う。

「ああ、平気だ。どうせあいつは内心びくびくしてた臆病者だし、さっきから全然息合わねぇし、おまえの非磁性体からだとじゃ相性が悪い。なにより、俺はあいつが嫌いだからな」

 それを聞いたユンカースは「はっはっ」と作り笑いのように軽く笑った。

「『嫌い』ねぇ。俺には寧ろ大切に思っているように見えたけどなぁ」

「いろいろ複雑なんだよ」

「ま、その見た目で十分お察ししますわ」

 ユンカースは身体の一部を展開、分解、結合、変形させ、脚部を始め、きめ細かく縫われた人工繊維など、半ば動物のようなしなやかさを持つパワードスーツへと変わる。しかし同時に、重機関銃やランチャーなど、新たな武器をも製造・搭載させた。

「そういう隠し玉は……嫌いじゃねぇけどな」

 そう言ったリトーも放電しながら、両腕の下袖長から口径の大きいバズーカを展開させる。背中のジェット機関を起動させ、眼光レンズライトを鋭くする。その先には、息を切らしながらも、変わらず気怠そうな顔をしている機術師。

「第二ラウンド。同じ技術者同士、同じ機械同士……同じ人間の魂持つ者同士、勝負つけようじゃねぇか」


     *


 ここかどこだかもわからないまま、イノはふらふらと呑気に進んでいた。無機質なほど整った施設。壁も天井も真新しい。人が今、この施設を利用していることは明確だった。

「部隊D1は第3エリア、D2は外部のブロックA5へと迎え。急げ!」

 通りかかる複数の兵士は頭部を覆うヘルメットのようなものを被っている。

「うわ、危ない」とイノは道を通すように壁際に寄る。

 兵はイノの存在に気づくこともなく、素通りする。通り過ぎたのを見送ったあと、イノは再び歩き出した。

「どこの部屋から入ればいいかなぁ。入っても何とかの柱っぽいのはなかったですし」

 山の中に鉱石はあると言っていたシードの言葉。だが、掘ることをめんどくさがったイノは、バイロ連邦か誰かがすでにルミナスの柱を採収しており、どこかで保存管理されていないかという都合のいい考えをもとに、散歩をする感覚で探し回っていた。

「おなかすいたなー」

 そういえばここのところ何も口にしていない。イノは天井に設置されてある監視センサーらしきものを見つめながら通路を進む。

「今ならリオラみたいに石でも食べられそうです……この部屋にあるといいなぁ」

 一番奥にたどり着く。そのドアには『第二開発室』とバイロ連邦の言語で書かれていた。読めなかったイノはとりあえずドアノブを掴み、横へスライドさせる。


「おじゃましまーす」

 人工的な少々うす暗い照明、無数の電線、コード、機械機器が置かれ、天井にまで何かの産業ロボットが設置されている。何かを製造していることは明白だった。

 機材で狭く感じられるが、おそらく66平米――40畳はあるその空間。その中央で何かの溶接する音が聞こえてくる。機械音も音絶えることなく鳴り続けている。

 イノは周りの死屍累々ならぬ機器累々な景色を見渡しながら、音のする方へと歩を進める。足元のコードに躓かないように気を付けながら、向かったその先、ひとりの軍服を着た女性が、何かのマシンを産業ロボットアームが製作している様子を眺めていた。

 背は小さく、背に流れた金髪は絹のように艶やかで、天に流れる河のように麗しかった。

「うわー、ロボットがロボット作ってる」

 軍帽を被った155ほどの背の低い女性は、感心していたイノの声に反応し、髪を揺らしながら振り返った。その少女のようなつぶらな瞳から、鋭い眼光へと変わるも、その凛とした瞳の煌めきは変わらなかった。とてもこの場には似合わない、まるで人形のような、美しい女性だった。

 その時初めて、イノは女性の存在を察知する。それだけロボットに目がいき、夢中になったのだろう。

「あれ、女の人だ」

「……誰だ貴様は」

 その女性――大佐フェルディナントはイノの存在を、このとき認識する。

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