表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第三章 孤独の影光 廃島フォルディール編
41/63

第40頁 天性の努力者

 この章の登場人物紹介

イノ

 旅人と名乗る性別の判別ができない白髪赤眼の若者。リオラの合流を求め、途中で出会ったシードとリトーと行動を共にする。選抜隊と合流後、再び別れてしまい、シードと二人になる。


リオラ・G・ペルテヌス

 厄神の祠の大黒鋼に閉じ込められていた赤毛の竜人族。2mある筋骨隆々の年若の男であり、災害級の筋力や竜の臓器器官をもつ。流れ着いた無人島の脱出とイノの合流を求め、瑛梁えいりゃん国の国家直属憲兵団緊急選抜隊との行動を共にする。「鬼龍の血」の存在を察知し、それを求め独断行動でバイロ連邦の支部を襲撃するが、大尉リピッシュ・タンクの一撃で島のどこかに飛ばされ、現在単独行動中。


【瑛梁国国家直属憲兵団緊急選抜隊】

 稀少鉱石「ルミナスの柱」を始め、豊富な化石燃料、金属等の産業資源の回収と、無人島「フォルディール」の「再起動」を防ぎ、完全停止することを目的とした国家派遣の少数精鋭。全員が技師であり、採掘士でもある。


オービス・プロセル

 選抜隊隊長。メンバーの事を常に考え、強い意思を持つ40代半ばの生粋の軍人。妻子持ちで、娘は思春期の真っ只中。


ドレック・ポートマン

 副隊長。若い風貌だが、運動能力が優れており、近接戦は選抜隊で最も優れている。サルベージと航海士の資格を持つ。いい顔の割に女ができないことに悩みを持っている。


シード・ステイク

 三十路手前であるが、どうみても金髪の少年にしか見えない自称天才エンジニア。メンバーと合流するも、島の再起動の余震で再び別れてしまう。


リトー・チューナー

 大型機械を操縦でき、危険物も取り扱える軍卒。紛争で瀕死の所をシードに拾われ、殺戮兵器ロボットの身体にされる。脳と機械が共存した世界的異例の対象。


ホビー・フルード

 気が弱いが、知識が豊富な地質学博士号所持者。武器は取り扱えるが、近接戦は得意ではない。ドレックより年下だが、既婚済み。


ラックス・メイカー

 数多くの武器兵器を身に纏うガスマスクを着けた巨漢の軍卒。豪快な性格で、よく冗談を言う。趣味は裁縫で、細かい作業が得意。


ダリヤ・ディヴィー

 ロボット関係の機械技師である女性軍人。冗談の通じない毒舌の持ち主だが、仲間の事は大切に思っている。銃を使うのが大好きで、休日は狩猟をよくやる。


【バイロ連邦軍「EH-06」】

 フォルディールの資源と独特な技術と兵器設計の回収を図る超大国の特殊編成派遣部隊。崩落しかけているアリオン帝国の領土を求めた戦争に、完全勝利と戦争参加国をすべて植民地化するための圧倒的な軍力『古代兵器』の復活を求める。現在島の復興――再起動に成功し、島の技術の60%を手にした。


フォン・フェルディナント 

 連邦軍大佐兼特殊部隊最高指揮官を務める20代の女性。同時に開発者であり、世界が誇る天才的な技術力と発明的頭脳を持ち合わせる。冷血な反面、ショタコンである噂が軍の間でもちきりになっている。


リピッシュ・タンク

 連邦軍大尉であり、武装隊隊長を務める40代の大男。戦闘を好み、世界で1,2を争うほどの強さをもつ。リオラの襲撃で「鬼龍の血」が含まれた増強薬を飲み、鬼龍の力の一部を得た。家族に弱い。


ユンカース

 連邦軍中尉。40代ほどであり、機械修理と武器開発に務めている。コンプレックスである肌の色は合成被膜でカモフラージュしている。フェルディナントに一度プロポーズしたことがあるが、何もなかったことにされた。


メッサー・ハインケル

 連邦軍曹長兼調査隊隊長を務める30代の細身の男。機械の操縦を得意とし、搭乗すると荒っぽい性格に豹変する。ユンカースとは昔からの仲。


 それが睡眠であれ、気絶であれ、意識を失い、夢を見ることに変わりはない。

 ろくに勉学に励まずに遊んでばかりいたためか、いや、仮にある程度の努力でも行先は一緒だった。毎日の労働。早朝から深夜までの重労働。変わらない苦痛の毎日。飽きていた日々。

大した金も貰えず、酒も飲めず、ダチともつるめず、女とも遊べない。飯食ってクソして寝るだけの人形マシンだった。囚人よりも過酷で、自由のない自分の仕事は、日に日に精神と体力が削れていった。自慢できるとすれば重労働故の筋肉が発達したということぐらいだった。

 しかし、突如やってきた政府の役人から告げられた言葉と封筒一枚で、そんな日常は打ち砕かれた。目の眩みそうな蒸し暑い日だった。

 一般市民から軍隊として鍛えられた日々は辛いものがあったが、あの日常に戻るよりは数百倍マシだった。過労死するぐらいなら紛争とかで国の為に命を落とした方が断然いい。

 ただ、死ぬ前に恋人の一人は作りたかった。



 首筋の痛みと同時に意識が覚醒する。

「……?」

 夢。まるで走馬灯のような夢に気分を悪くしたが、周囲を確認したとき、そんな気分の悪さはどこかへと去っていった。

「……っ!」

 ドレックの目に映ったものはまず、黄銅色の鋼鉄製の壁に囲まれた独房のような場所。人一人が何とか収容できる狭いスペースで、正面の鉄格子以外、錆色の壁に覆われている。身体を動かそうにも痺れて動けない。手や足に鋼鉄製の枷がついており、手錠は天井の鎖と連結している。錆びた鉄の床に座っているものの、上半身が鎖によって吊るされている。手が少し痺れかけていた。

 ドレックは思い返す。首筋の痛みと手足の枷、そして今、こうして呼吸を繰り返していることを認識し、自分は捕まったのだと把握した。

「……っ、おい! 誰かいねぇのか! 他の奴らは! オービス隊長はいねぇのか!」

 両側が壁に覆われていては状況がわからない。ただ手枷の鎖をガチャガチャと鳴らし、声を出すことしか自由はなかった。

 しかし、それも束の間、咳き込んでしまう。よく見れば白いもやらしきものが漂っている。熱気があり、何かの不純物が混ざっている、息苦しい浮遊液体。ガス漏れかと思わせる。

「随分と五月蠅うるさい奴だ。他の奴らはまだ静かに起きたというのに」

 カツン、と近づいてくる靴の音。そして若い女性の声。同時に数人の兵の敬礼と「下がってろ」の命令。

 軍人で女性である者はどの国においても少ない。ましてや一般の兵が敬礼し、命令に従う程。ドレックはある人物を思い浮かべていた。

「……」

 軍服を羽織った軍事勤務服姿。制帽の下は背中まである金髪。キャニスターが目立つ顔下半分を隠すガスマスクをつけている。ドレックはその制服には見覚えがあった。そして、腕章を見て確信する。

 白く濃い蒸気を蹴り、大佐フェルディナントはドレックの前に立つ。


「あんたがフェルディナントか」

 世界一の技術士で、連邦軍を統率させるヘッドにしては随分と若いな。冗談交じりにそう言おうとしたドレックだったが、彼女のただの瞳がそれをさせない。

 眼光。とはいっても眼を鋭くさせているだけ。しかし、直接見なければ実感しないその威圧感は軍人そのもの、否、軍人をも恐れさせる。

「他の奴らはどこにいるのか教えてくれるとありがたいんだが」

 言葉を変え、檻の前に腕を組んで立つ大佐に尋ねる。

「貴様の両隣の独房に眠らせている。息はあるから安心しろ」

「……これからどうするつもりだ」

「それを教える義理はない」

 冷たく言い放たれる。「だろうな」と苦笑して呟いた。

 しばらくの沈黙。フェルディナントはただ、ドレックを見下し続ける。自分よりは年下であろう女性にここまで軽蔑の眼で見つめられるのは慣れていないというよりは新感覚だと感じながらも、ドレックはどこかの気まずさを感じていた。

(こいつ……俺を見て何考えてやがる……)

 いつでも殺される状況下、突然フェルディナントから話しかけた。よく見れば耳に無線イヤホンが付いている。インカム機能がついているのだろう。

「貴様ら掘削作業員せんばつたい五人と一機の半人脳半兵器サイボーグを捕えたが、見つからなかったあと一人の居場所を今捉えた」

「……っ」

(よかった……いやマジか、あいつよく生きてたな)

「あとはそいつを捕まえ、こちらの要望を聞いてもらう。やむを得ない場合は殺害するが」

 ドレックは鼻で笑う。小馬鹿にしたような笑い。世界一を前にしても恐れることのない態度は寧ろ無礼を極めている。

「……何かおかしいことでも言ったか?」

 眉を微かに寄せる表情も美しいものだった。しかし、微かに殺気を察知したドレックは寒気を感じた。それでも、話すことに躊躇うことはなかった。


「ああ失礼。あんた、シード・ステイクっていう名前の技師エンジニア知ってるか?」

「っ、ステイク……」

 フェルディナントの目の色が変わる。しかし、誰かに諭される前にすぐにもとの機嫌の悪そうな顔に戻した。天井辺りのパイプから白い蒸気が漏れると同時、どこからかモーター音が聞こえる。

「聞いたこともない。どこぞの瑛梁しゅうきょう国のエンジニアなんぞ、たかが知れている。それに私が知らない以上、そこらの一般技師バカとそう変わりないだろう」

 露骨な皮肉と豪語を吐き捨てた後、その場を去ろうとしたとき、金属が擦れる音がドレックの右隣で聞こえた。ふたりはその方へと無意識に見てしまう。

 ドレックにとって、その音は聞き慣れていたものだった。

 隣の独房には厳重な鎖に縛り付けられ、壁に固定されているリトーがいた。今まで黙っていたのだろう。


「まさか……リトーか!」

 互いの姿は見えない。だが、声は通じることができた。

「おう、そっちも無事でよかったぜ、ドレック副隊長」と笑う。「さてと、水を差すようで悪いが」とリトーはこちらを冷たく感じる程の鋭い目で見ている大佐に声をかけた。

「そのバカをナメてかかるなんて考えは捨てるんだな、世紀の革命者のフェルディナントさんよぉ」


     *

「あっ」と双眼鏡で辺りの景色を見眺めているシードは思わず声を出した。

「どうしました?」

「あんなとこになんで俺らの船があるんだよ」

 シードが指差した先をイノが見る。ここの山と第一山峰の間の変電所のような地帯の近くに鋼鉄船が座礁しているかのように横たわっていた。

「さっきの地震みたいなので陸地に入ったんじゃないですか? あそこから海近いですし」

「それでも酷いぜありゃ。帰りどうすんだよ」

「まぁ後でなんとかなりますよ。今のこと考えましょう」

 双眼鏡をしまい、シードは正面の独立峰を見上げる。先程から無線をかけているが、この島の電磁場が歪んでいることは分かり切っている。それでも、かけ続けた。

 仲間の行方。無事なのか、既に命を賭したか。

 島の調査。しかし、これでも戦争の一部であることに変わりはない。戦争の行方を分ける重大な任務だ。犠牲者が全員、つまり全滅したっておかしくはない。

「いや、ぼーっとしている場合じゃねぇ。手遅れは手遅れだ。こうなりゃ奪還するしかねぇ」

 シードは列車に連結していた貨物コンテナの扉を開ける。

「よかった、無事だった」

 そこに入っていたのはシードが列車の修理と同時に製作した一台の大型自動二輪車と幾つかの武器と弾薬。

 そのバイクはメッキされておらず、その上この島の古い端材で作られたため、錆や凸凹が目立つ。エンジンは大きく、防音装置マフラーであるはずの部品がジェットターボにも見える。タイヤは地下にあった廃戦車のキャタピラからとったものだった。見た目をあまり優先させなかった、即興バイクだった。

 ろくな素材もなく、また加工機械もない、とどめに短時間で一台のバイクを造るのは非常に困難である。それを成し遂げたシードの腕があってこそ、軍人でもなかったただの頭の狂ったエンジニアから政府の憲兵団選抜隊に選ばれた。

 シードはコンテナの中に入り、カチャカチャと物音をたてながら準備をする。そしてバイクをコンテナから出した。

「おい! これに乗っていくぞ。ちょうどいい通路もあることだし、早くこっちにこいよ!」

 少し遠くでまだ外の景色を見ているであろうイノを見たが、シードが見たのは予想外のモノだった。

 チュン! とシードの真横に何かが走る。後ろのコンテナの壁に弾痕ができていた。摩擦によって弾痕から生じた煙が鼻につく。

 そして思い出す。連邦軍あいつらは自分たちの位置を把握しているのだと。

「……おいマジかよ、行動早いな」

 余裕の笑みを向けたが、それは苦笑に等しい。足が竦んでいた。

 6m先、十人のアサルトアーマーの兵がアサルトライフルを向けていた。その内の一人がイノを捕えていた。既に両手両足を施錠され、手錠を掴まれている。

『そこから一歩も動くなよ。動いたら……わかるよな?』

 ひとりの軍兵が防弾機能の軍用ガスマスク越しで脅す。イノの横腹に銃が突きつけられる。兵士らの目にあたるガラス部位が液晶画面のように少しだけ明るくなった。マスク内のHUDヘッドアップディスプレイを起動したのだろう。

(流石にマズいな……てかなんであいつあんなに普通でいられるんだよ欠伸あくびしてんじゃねぇよ少しは空気読めよ)

 そう念じてもイノは眠たそうな顔をするだけだった。ここまで来ると、逆に敵側に対して失礼な行為だろうとシードは不覚にもそう考えてしまっていた。

 何か絶対的勝算を持っているのか。シードはイノが4機の無人殺戮兵器相手に一瞬で勝負をつけたときのことを思い出していた。

「……それで、俺にどうしてほしいんだ」

 シードは鋭い声で兵に話しかける。兵は事務的に答えた。

『同胞が兵器の実験台にされてほしくなかったら、我々と一緒に来るんだ。フェルディナント大佐が貴様に会いたがっている」

「……っ?」

(あのフェルディナントが俺にか? そりゃまぁ、俺もある程度いろんな意味で有名だしな)

 シード・ステイクは自分に都合がいいが、ひねくれている。当然、その言葉は疑った。

 仮に本当だとしても、結末は死亡デッドエンド。敵陣に行けば自殺行為だ。一般市民含む選抜隊も軍人として命を捨てている。他の人が自分の立場だったら任務完了を優先するはずだ。

 そう考えた後、兵を見つめ返す。

「悪ぃが、お断りさせてもらうぜ。夜にティータイムは好まないんでな」

『ふざけるのも大概にしたらどうだ。次余計なこと言ったらその喉めがけて撃つぞ。おチビちゃん』

 ジャコン、と装填する。肯定イエス以外、撃つ気だ。

「……」

「シード」

 突然呼んだのはイノだった。銃口を腹部に深く突きつけられるが、臆することなく一言言い放った。

「さっきボーっとしている場合じゃないって言ってましたけど、どうしますか? 僕がなんとかしますか?」

 とても人質の言葉ではなかった。連邦軍にとっては余裕、挑発として聞き取れたが、シードにとってその言葉は心を落ち着かせるものだった。まったく恐れていない振る舞いが、安心感をもたらしていた。

「……そうだな、助けてもらってばかりじゃ格好がつかねぇ」

 誰にも聞こえないような声で呟き、鼻で笑う。

「いや、おまえはそこで立ったままうたた寝でもしてろよ」

 今度は俺がこの状況を切り抜けよう。そう思い、シードは一歩前へ踏み出した。

 数発の乾いた音が明るい夜空に響き渡った。


     *


「……どういうことだ」

 カツン、とリトーの方へ身体を向ける。少女のような瞳が更に鋭くなる。

 リトーは気でも狂ったように笑った。顔はロボットだが、その態度から恐れた様子はドレックと同様一切見られない。ドレックは何も語ることなく、ただ歯を出して低い声で小さく笑っている。

「あいつはな、狂ってるし考えもガキだし、自分勝手でナルシストで我儘で傲慢で本当にどうしようもないクソッたれなバカなんだよ。当然、俺をこんな体にしたあいつのことは恨んでるぜ」


     *


 最新性のアサルトライフルで撃った兵4名は「は?」と同時に声を漏らした。

『おい何やってんだノーコン。しっかり狙え』

 6mmのロングライフル弾8発。体力も技術も鍛え上げられた軍隊が撃ったにもかかわらず、一発もシードに被弾していない。

 シードが一歩近づくごとに弾の数は増えてくる。武器を変え、散弾銃や携帯ガドリングで撃つ者もいたが、弾は外れるばかり。弾の軌道を素手で弾き逸らすスタイルをもつイノの眼から視ても、シードは確かに何もしていない。しかし、何かを視ているかのように「これはおもしろいですね」と捕まったまま笑顔を見せていた。

「どうした精鋭気取りのアーマーさんたち。お自慢のその鉄砲で一発俺を当ててみなよ」

肩を竦めたシードは挑発するように眉を寄せ上げる。


     *


「でもよ、大っ嫌いでもな、あいつの腕は認めざるを得ないんだよ。戦闘も同様だ。百歩譲って、テメェと腕は互角だろうな」

 減らず口を叩くリトーにフェルディナントはただ冷静に見つめる。奥で兵士の銃の装填音が聞こえてきたが、誰かに静止されたのか、音はそれきりだった。

「……何が言いたい」

 その表情は変わらぬまま。


     *


『照準器は正確だ! 確かにあいつを狙っている!』

『じゃあ何で外れる! 弾から外れにいってんのかよおい! それともどっかに三半規管でも落っことしたか!』

『黙っとけ節穴! 狙って当たらねぇなら適当に撃ちまくれ!』

 叫ぶ軍兵に対し、シードは一歩ずつ進み続ける。

 真っ直ぐと、ただ真っ直ぐと。


     *


「尊敬している奴に対しては大抵過大評価、軽蔑しているクソ野郎にはその真逆ってのは分かるだろ。俺たち人間はそういう生き物だ。でもよ、あいつのことをクソ野郎と心から思っているのに、認めてんだよ。尊敬してんだよ」

 長話に飽きが生じたのか、小さく息を吐いた。

「……それがなんだというのだ」

 この時初めて、リトーの鋼鉄の顔が上がる。ただの赤く光るふたつの発光ダイオードが檻越しでフェルディナントを見る。

「テメェは生まれつきの天才だというのは誰もが知っている。まぁそれでも血の滲むような努力はしたんだろうな。でもよ、俺はあの無能バカ以上の努力者はいねぇと断言するぜ」


     *


 一斉砲火から十数秒、被弾数はゼロ。シードの後の壁に無数の穴が空いている。電気エネルギーを利用した熱線レーザー銃を撃ったとき、軍兵は気づく。

『やっぱり軌道をずらしてやがる! まさかとは思うが、魔術以外考えられねぇ!』

『そんなはずあるか! 瑛梁えいりゃん国に魔術なんてものはなかったはずだ!』

 魔法技術。本来ならばこの世界に存在しない、非科学的にみえた古代にして最新鋭の近似科学技術。それを知っているシードはピクリとし、口を開く。

「ったく、何国どこも最近は魔法魔法ってほざきやがって。不思議なことあったらすぐ魔法のせいにしやがる。腹立つんだよ!」

 シードは歩きながら素手を前にかざす。すると、向かってきていた銃弾が手のひら寸前に集まり、静止した。それと同時、軍兵に異変が起きる。

『うおっ!? なんだ!』

『前が見えねぇ!』

 装着している軍用マスクは汚染蒸気を防ぐガスマスクだけでなく、マスク内のHUDヘッドアップディスプレイが搭載されており、視界は完全に電子機械カメラに任せている。それが支障したことでディスプレイの機能がバグを引き起こした。目の前は砂嵐のようになているだろう。

異人種おれたちの存在を忘れられるってのはどうも気に食わねぇな」

 集結した銃弾を床にまとめて落す。兵との距離は数歩先となっていた。

『まさか、異人種か……!』

 気づいた兵士の言葉と共に、ディスプレイ機能が回復し、視界を取り戻した。

 しかし、既に金髪の技師の姿は目の前にいた。ゴーグルをかけ、ニィッといたずらに笑って。

「おまえだよな、さっき俺のこと『チビ』って言った奴」

「……ッ」

「天才からのアドバイスだ。言葉に責任を持たねぇと身を亡ぼすってことを頭に叩き込んでおくんだな」


     *


「あいつは、努力が生み出した天才だ」

 

     *


「――凡骨ポンコツ共」

 パチン! と指を鳴らした。

 瞬間、空から身や床さえも振動させるほどの爆音と島の照明よりも遥かに眩しい閃光が発生する。思わず空を見上げてしまった兵もいればシードを見続けている兵もいたが、全員が一瞬の意識を音や光で奪われたことには変わりない。

 光学スコープと敏感に音を察知するガスマスクが逆手に取られた。

 数瞬の隙を突かれる。

設置完了インストレーション

 その声と何かの連続した音に勘付いた全兵はガチャリと中央のシードに銃を向け、一斉に撃ち放った。しかし、その銃弾はシードに当たる寸前、なにもない壁に弾かれたように反発し、兵の元へ返ってくる。鋼鉄の装甲故、自分が撃って反ってきた銃弾で損傷を受けることはなかった。

 問題は、金属がぶつかり合ったときに発生した微かな火花だった。


 爆発。そして炎上。

 それはシードの周り――軍兵の立ち位置にしか起きていない。足元の爆撃はほぼ垂直に重量のある軍兵を50㎝ほど宙に浮かせた。同時に、脚部を中心とした装甲が欠ける。足元には噴出孔がついている小さな装置が確認できた。

 この時初めてシードから動き出した。とはいえ、それは手をかざすという挙動のみ。

 すると、燃え上がった炎から引き寄せられるように一人の軍兵が飛び出てくる。吹き飛んでくるように、シードの手に吸い込まれるように、その首を技師に掴まれる。可燃性物質がなくなったのか、炎は数秒もせぬうちに消え去った。

『――熱ぃ! ぃアッ、アヅァァァァ!』

 ジジジ、と首を掴まれた部分が赤く染まり、熱を発していた。もがき始めたとき、シードは掴んだまま叩き付けるようにその場に押し倒した。

 その瞬間、バチィン! と倒された装甲兵から大量の放電が拡散された。肉眼で捉えられたほどの小さな稲妻は周囲の兵にも襲い掛かる。倒された兵は内部ショートで激しく痙攣を起こしていた。

 アーマーの主要素材は鋼鉄と高分子素材。金属メインの武装の伝導率は高く、そのアーマーには絶縁性がほとんどなかった。そして、先程の爆発クラッシュによる装甲欠損の為、外部感電、アーマーを動かすためのメインバッテリー部位、電気回路に侵入、ショート、それによって強力な電力が全身に流れ、そして足を通じ外部の床へ拡散される。残り4名。


『こンの異人種がァ!』

 背に担がれたロケットランチャーを構えるが、「近ぇよどアホ」と呆れたような声で呟き、その砲身を掴み、針金のようにぐにゃりと曲げた。

『――えぇっ!?』

 兵が頓狂な驚きをする間に、シードの掌のドーナツ型の電磁石コイルによる衝撃性反磁力波の餌食となる。ゼロ距離で顔面に喰らったアーマー兵はマスクごと顔面が潰れ、コンテナの傍の岩壁に激突する。

「俺に金属兵器そんなもので勝てるなんざ、百世紀早ーよ」 


 鉱人族ルドワーク。鉱物――無機物を見分け、電場・磁場を司る元地底一族。発した電磁波は電子に影響を与え、それを利用することで金属やある程度の熱を司ることもできる。

 平均身長158㎝と低く、平均寿命は182歳、男性の方が寿命は長く、身長も高い。金属加工技術や鍛冶、武器作りなどの製造業、工業を発展させてきたが、歴史としてその一族の国は崩落し、現在は別々の国で人間として溶け込んでいる。見た目は人間と変わらないが、黄色人種で金髪が多く、骨や体組織にミネラルや有機金属、独特の金属化合物などが多く含まれるため、頑丈さは堆積岩といい勝負をしているが、硬度は個人による。


 銃弾は金属製。当然、反磁性で弾はシードの身体に当たるはずもない。シードにとって、銃弾『程度』の速度は全角度90度の真正面ではない限り、軌道をずらせる。

 残り3名。シードはこのとき初めて拳銃を出し、一発放った。足元に落とした、何かがみっちりと詰まったボールのような白い袋に向けて。

 ボゥン、と白い袋から大量の白い粉末が煙のように周囲を包んだ。それはシードは勿論、3人のアーマー兵にも振り掛かった。ガスマスクをしている故に、特に効果はない。

「甘いサプライズプレゼントだ」

 その粉末は砂糖を多く含んだ非常食の粉末。空気中に撒き散らされた粉糖は、表面積の高い可燃性物質。

 そのマッドサイエンティストは小型の噴出性のある火炎放射器ガスバーナーを一人の兵に向けた。

 二度目の爆発と爆炎。辺りは肌を溶かすような熱気と光と、焼けた砂糖の心地よい香りでいっぱいになった。仮にこの場が密閉空間だったならば、圧力の逃げ場がなく、その爆炎よりも凄まじい轟音と爆発が起きていただろう。

 爆炎に吹っ飛ばされたシードも同様、燃えていた。しかし、それでも転がりながら起き上がり、岩壁に向かう。


 膨大な熱は熱放射、つまり膨大な電磁波を発生させる。弾痕が掘られた、金属を多く含む岩壁に燃える手を突っ込み、金属の延性・展性を鉱人族の手で駆使しては奥にある「とある金属」を素早く掴み取る。

 列車で外へと脱出した時。先程の脅されているときに感じた燻る匂い。間違いなく、「それ」はここにある。

 マグネシウム。正確にはそれを多く含んだ炭酸塩。未だ炎が消えていないシードの身体に反応してパチパチと燃焼反応を起こしながら燻っていた。

「聴いとけ凡骨ポンコツ。酸素の結びつきと金属の化学反応は大事なとこだ」

 発火したマグネシウム鉱石を掌のドーナツコイルの発する衝撃波によって粉砕させ、炎の中へ拡散させて飛ばした。

「反応したマグネシウムと二酸化炭素によって起きた金属火災は、発火した金属に水や泡を与えず、燃えるがままにしておく。資格試験テストに出るから覚えておけ」

 激しい光を前にシードは語った。

「ああ、もうひとつ……保護眼鏡は必ず装着しておくことだ」

 ドゥン! と一段と増した眩しい光と共に膨れ上がった爆発は、足場を半分以上崩す。ガラガラと山の傾斜を滑るように足場の構成部品もアーマー兵も崩れ落ちていった。

 それを見届けた後、「よっしゃ決まったぜ!」と誇らしげにガッツポーズを取る。しかし、チームとの協調性がなく、自己中心的な考えの彼に一つだけ致命的なミスがあった。


「――あ! やべぇ!」

 人質イノのことを忘れていたという最大のミスを犯していた。しかし、それはある意味奇跡的に逃れることができた。

「シード~っ! 僕のこと考えないでやってましたよねさっき!」

 爆発で崩れたリフトの縁に枷が付けられたままのイノが困った様子で逆さまにぶら下がっていた。床の鉄骨と足枷が偶然に引っかかっているおかげで落ちずに済んでいたようだ。爆風の余波で巻き添えを逃れたにしても、火傷や爆発の被害を受けたとは思えないほどの無傷っぷりはシードにとって理解できないことだったが、それよりも自分の軽い火傷を気にしていた。先程の爆風で体についた炎は咄嗟に消え、服も焦げついただけで済んだ。

「悪い悪い! でも無事でよかったじゃねぇか!」

 シードも大声で返す。イノの元へ駆け寄り、ぶら下がっていた身体を引きずり込み、救出する。

「ありがとうございます。いやぁー、やっぱりおもしろいですねその能力ちから

「気に入ったなら嬉しいぜ。ただ、めっっっちゃ疲れるけどな」

「ぶはー」とシードは尻餅をつくように腰を勢いよく降ろし、息を深く吐いた。

「そんなに疲れるもんなんですか」

「電磁波出すのって、拳法? でいう気力を使うみたいなもんだしな。つーか、なんでお前簡単に捕まってんだよ」

「ぞろぞろ来たんで『どうしました?』って話しかけてみたらガッチリ捕まったって感じでしたね」

「お前のアホさには尊敬するよ。……あ、そうだった。おまえの鉄枷それ外さねぇとな」

「じっとしてろよ」と言い、その鉄製の枷を掴む。数秒待つと、微かに歪み、それに耐えきれなかったかのようにパキン、と容易に割れた。

「おおお! すごいですね今の」

 イノは軽く足踏みして喜びを示す。しかしそれぞれの足首に別離した枷がついたままだった。

「待てって、それ全部外すからとりあえず子供ガキみたいにはしゃぐな」

「シードも子供みたいな背丈して――」

「ネオジムで潰すぞ」




「――これで全部か」

 触れただけで粘土のように千切れてしまった鉄製の枷を置き、シードはよっと立ち上がる。イノは完全に自由の身となった。

「ありがとうございます。にしてもさっきのシードかっこよかったですよ。まさに興奮冷めてまうですね」

「『興奮冷めやらぬ』な。冷めてんじゃねーかそれ」と呆れながらも、カッコいいと言われたことに嬉しさを隠せず、僅かに顔を緩ませて照れている。

「さてさて、この後どうするんでしたっけ」

 イノが楽しそうに訊くと、シードはある方へと指差した。

「あのでっかい山に向かう。双眼鏡であの頂上周りに結構なヘリが飛んでたのを見た。バイロ連邦だけじゃねぇ。あの島一番の山に何かがある。この島の電力システムを復旧させたのもあそこにあるはずだ」

「あいつらもな」と付け足し、シードは踵を返し、列車に積んであったコンテナの元へ歩む。そこから自製のバイクと幾つかの武器を持ってきた。

「ほらよ」とイノに携帯ガドリングを押し付けるように持たせる。

「手ぶらがいいです」

「アホ、ないよりはマシだ」とバイクのエンジンを起動させる。マフラーがエンジン駆動で小刻みに振動している。

「あそこの道路から行こう。どこに続いているかわからねぇけど、まぁなんとかなるだろ」

「そこはあんまり計画的じゃないんですね」

「疲れたんだよ。できることなら今ここでぐっすり眠りたいとこだ」

 振り返り、イノを見る。途端、シードの目と身体が一時停止のようにピタリと硬直した。

 その様子に気がついたイノは「?」と振り返ってみる。

 一言でまとめるならば、犬……しかしあまりにも機械的、抽象的、そして巨大。

 角ばった鉄の装甲に丸みを帯びたメタルヘッドでその獰猛に感じ取れる鉄鋼の牙と顎以外の頭部が隠れている。四肢の装甲の隙間から人工筋肉ともいえるチューブと繊維が見える。機械音とエンジン音に似た振動が獣の威嚇声のように鼓膜を震わす。

 3mほどの動物型兵器。古めかしい鉄鋼のボディに赤くペイントされた幾何学模様と肩部にマークされているバイロ連邦の国旗。

 フォルディールの古き設計図をバイロの最新技術で再現されたもの。蒸気漂う中、岩肌荒れた山の急斜から滑らかな動作でイノたちのいる平らな床に降りるそれは今にも襲い掛かりそうな警戒態勢を取っていた。

「……その願いは叶わないみたいですね」

「だな」

 金属製の鋭利な爪を掻き立て、大口を開き、咆哮する。エンジンの全開音だった。

 これは勝てない。というよりはこんなところで無駄な弾薬と体力と時間を浪費するわけにはいかないと考えたのだろう。それ以前の話、シードは怖気づいていた。

「――ッイノ! 早く乗れ! 俺は後ろであの犬畜生を撃つから操縦頼んだ!」

「え、でも僕運転免許持ってませんよ」

「なぁーんでそーいうとこは良識的なんだよクソッタレ! じゃあ俺がやる! おまえは後方で撃て!」

 イノにもうひとつの武器を投げ渡し、焦った様子でバイクに乗ったシードはセパレートハンドルを握り、アクセルを全開に回す。イノはその後ろに乗り、ふたつのライフル型の武器を両手にシードの身体を抱くようにしがみつく。

「振り落とされんじゃねぇぞ!」

「はい! でもシードが小っちゃくてうまく掴め――」

「振り落とすぞテメェ!」

 身体が退くほどの急発進で間一髪、兵器の牙から逃れることができた。崩れる足場から切り抜け、崖の側面に沿っているガス灯付きの罅割れた道路へと走る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ