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神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第三章 孤独の影光 廃島フォルディール編
40/63

第39頁 島の貌

 イノが見つけた脱出口の案を却下したシードは、自分の調査した道をイノに案内する。

「列車があったんだよ。しかも線路レール付きで。ちょいと修理すりゃ動かせそうなんだ」

 錆びた鎖を掴んで登り、歯車が交差する空間の隙間を潜り抜け、電線ひしめく低い天井の真っ直ぐな坂道通路を通った先、高い天井や大きな壁に細かな結晶が形成されているトンネル状の空間に確かに列車らしき乗り物があった。

 配管と歯車に覆われた煙突のない黄銅色の機関車。損傷は少なく、2つの貨物コンテナと連結している。それに沿って線路レールが奥の闇へと続いていた。

「いろんな道具もそのまま残ってるんですね」

 見渡し、列車に置いてあった溶接機らしき道具を手に持つ。手動発電式らしく、付属していたゼンマイを数回回すと息を吹き返したかのように問題なく起動した。

「それも、あの壁にあるデカい装置も、あの蒸気機関車っぽい形のやつも、全部手動発電式だ。それもからくり人形みたいにゼンマイ回せば簡単に発電できる。全世界が欲しがるだろうよ、こんなちっぽけなゼンマイ回すだけで大量の電力が手に入るんだからな」

 手より一回り小さいネジをドアノブのように回し続ける。中央のボタンを押すと、壁に張り付いていた無数の軟金属コードと接続されている箱状の装置が起動し、グォン……と起動音と同時、付属のランプが赤く光る。同時に線路に沿っている両端の岩道が照らされる。

「こんな感じにな」と笑った。

「ここたくさんありますね」

 廃材を手に持ち、イノは色々な角度からそれを見つめる。

「列車が置かれているだけあって、工房なんだろうな。道具か製品かわからねぇ、見たことねぇ物も揃ってるけど、俺にしたらパラダイスみたいな場所だ」

「オンボロですけどね」

「ボロくてもそう変わりねーよ。要はメカニックの腕次第だ」

 薄暗くとも、シードの笑みには光があった。イノも小さく笑みを向けた。

「つーかよ、おまえ機械とかイジッたこと……ないよな」

「お、よくわかりましたね。でも動かさないようにしたことならありますよ」

「人はそれを壊したというんだ。できないなら仕方ねぇな、俺一人で直す」

「がんばってくださーい」とイノは列車に乗り込んだシードに手を振る。



 道具はあれど、古く、脆く、そして粗が多い。自身のもつ工具が主となるだろう。材料も少ないわけではないが古い。専用機械もない分、加工に苦労するだろう。

 現代より発達しているか否か。しかしあくまで昔ながらの製造工程。石造りの時代ほどではないが、慣れたものではない。しかしそれが逆にその工学技士の熱意を奮わせた。

「……マジかよ、これってもしかして……」

 列車のコンテナの中を見、シードは驚きを見せる。そして壁に置かれたコードの絡まったガラクタの山と一台の2mほどのボイラー機のような機械を振り返って見る。相互を見た後、「もしかしたら、できるかもしれねぇな」と歯を見せた。


 咄嗟の設計。設計こそすべてを決める過程であり、重要な部分。人によるが、設計こそ最も時間をかけるべきだと述べる者もいるが、シードは設計そんなものにそこまで時間をかけたりしない。今の状況なら尚更だった。そもそも設計図となる大きな紙がない。頭に叩き込んだ知識もあってこそ、資料もなにもいらない。要るのは発想。どれだけ自分の理想を実現できるかのイメージが重要となってくる。

 加工、溶接、組立、回路接続、プログラミング……作業内容はそう変わりない。手早い作業は集中と共に続いていった。

 4時間が過ぎようとした頃、機関車から大量のガスが噴出する。側面のドアが勢いよく開き、ガス臭い無色の煙と共にシードが転がり落ちる。

「げほっ、おぅぶ……数百年分の熟成ガスは最高だぜ……おぅええ」

 逆流したものを口から出し、気分を良くした後、口元を拭ったシードは列車を振り返り見る。

 細かく振動し、車体を震わせる機関車。歯車はすべて動き、パイプも細かに振動している。

「これでなんとか動かせそうだな。付けるもんも付けたことだし」

 自画自賛の笑みを浮かべる。すぐに大声で旅人の名前を呼ぶが、ただ自分の声しか反ってこなかった。

「あいつまたいなくなりやがって」

「ここにいますよー」

 またも絶叫が響く。未だに慣れないシードは、列車の屋根に座っているイノに向けて叫ぶ。

「もっと普通に出てこいよ! 心臓に悪いぜまったく……いいから乗るぞ。早く地上に出ねぇと」

「はーい」とイノは屋根から降り、機関車内へ入る。

 詰まっている。そう言えるほど、内部は機械で埋まり、わずかなスペースしかなかった。人が乗るべきではない、無人用のものだと思わせる。

 部屋全部がエンジンだ。

「そこの剥き出したタービンに気をつけろ。おい天井の歯車に髪の毛挟まらねぇようにな」

 シードの指示にイノは従う。そして後方の運転室に着く。

「よし、線路先に障害物なし、まぁ車掌なんてやったことねぇからもういいだろ」

「あれから何時間経ったかもわからねーしな」といい、水平ハンドルを回し、レバーを引く。この島特有の仕組みなのか、シードのやりやすいように改造したものなのか、本来の機関車と構造が違う。

 汽笛の音はしなかった。エンジン音は強く、重い金属がかみ合う音が動力車内から聞こえてくる。

「まずはこれだ」

 小刻みに車体が振動している中、シードはイノに黒いヘルメットとライト付属工業用ゴーグル、手袋を渡す。イノは「?」の表情をしつつも装着する。

「こんなものどこにありました?」

「一応、機関車以外にも修理や作ったものはある。結構材料あったからな。んで、どうしてそれを付ける必要があるのか……」

「運転が危なっかしいからですか」

 途端、呆れて溜息をついた。

「最後まで言わせてくれよ空気読めねぇ奴だな。ああそうだよ、ハイスピードな車窓の旅路をご覧あれ……っと!」

 工作用のゴーグルを着け、ガシャン、ともう一つのレバーを思い切り引く。列車であるにもかかわらず、自動車のようなエンジンとモータの混じった轟音が鼓膜を激しく振動させる。

 爆発に似た音は下から聞こえた。同時、全長十数mの機関車は急発進、そして加速させる。

 90、120、180……時速は上がり続ける。

 イノは真後ろの壁に背もたれ、機関車が揺れるがままに細かく振動してる。「おぉおぉお」との半ば驚いたようなリアクションも震えた音となって轟音に消える。

「前みえないなぁ……あのーこれ大丈夫ですかね」

「風が気持ちいいぜヒャッハー!」

「自分見失ってますね」

 道の両端にあった照明はなくなり、真っ暗のトンネルへ入る。一寸先は闇という言葉の通り、なにも見えない。

「どんどん突っ切るぜベイベー!」

 ズム、と狂人シードの股下に鈍痛が生じる。違和感に気づき、股下を見れば茶褐色のブーツの爪先が見えた。そして自分はとんでもないところを蹴られたのだと気づいたときには既に遅かった。

「――Nooooooo!」

 ハンドルから手を離し、両手で悲鳴を上げている大事なところを抑える。身を任せ、床に転がる。何とも言えない締め付けられたとも、押し潰されたかのような気持ちの悪い激痛は、どの男性も耐え難いものだ。

「べ、ベイベェー! 俺のベイベーがァァァ!」

「夢中になってるとこ悪いんですが」

 男を失いかけたシードは現行犯イノを睨み、見上げる。ただシードのハイテンションをどん底に突き落として話を聞かせるようにもちこませるための行為故なのか、まったく悪意が感じられなかった。イノにしてみれば肩を強めに叩いた感覚なのだろう。

「これってどこまで続くんですか?」

 洞窟内が狭いのか、ガリガリと車体が岩壁に接触している。気がつけば車輪からも似たような音が聞こえる。軋むような音。脱線していた。

「……たぶんそろそろどっかの壁に突っ込む」

「壊れる程ですか?」

 驚くこともなく、イノは質問を続けた。シードはよろりと起き、

「勿体ねぇが壁ぶち破るための列車だ。事故って死ぬなんてモブキャラみてぇなオチにはなんねーよ」

 シードが操作盤についているグリップを掴み、前へ押す。

 機関車の側方が展開され、左右計十門の小型砲が前へ砲口を向けている。

「これの製作に時間かかったんだよ」

 といいながら横のハンドルを一回回す。すると、砲口からミサイル型の爆裂弾が同時発射された。3秒後、爆発音が聞こえる。弾速約800mにして反射音速約340m。そして列車の現時速は200㎞を越えている。

 爆撃音感知と状態把握に1秒経過。シードの脳内でアバウトに演算された砲弾発射地点から壁までに達する猶予、約10秒余り。演算時間、2秒。

 現在地点においての猶予時間、約5秒。

「……っ、おいおいおいマジかよ。すぐそこじゃねぇか……! おいイノ! 伏せろ! ぶつか――」

 衝撃が襲う。

 鉄の塊が岩盤を豪速で突進する。先程の砲弾による爆発で壁が削れた故に、その岩盤の厚さは薄くなっていた。

 黄銅色の鉄の巨体はひしゃげ、潰れ、しかし止まることはない。内機関が潰れ、摩擦を起こし、爆発までに及ぶ熱を発しても、その鉄心は曲がることはない。

 だが、運転室の操作はすべてショート。歯車も狂い、シードとイノは鉄に押し潰されそうになっていた。

 それは一秒にも満たない出来事。列車は岩盤の殻を破り、既に外に出ていた。

 垣間見れた地面。狭くはない、安定した平行な床。

「降りるぞ!」

 そういいながら飛び込むように地面に転がり落ちた。道標レールがない列車は横滑りして前に進むも、激突ゆえにその速度は失っていた。だが、その先は絶壁だったらしく、その機関車は崖下へと転がり落ちていった。

 それを見届けるも、シードは崖下を見ることなく、何とも言えない顔をした。振り返れば、自分たちが突っ込み出てきた壁の穴に貨物コンテナが詰まっていた。連結部の金属疲労で別離したのだろう。

「いやぁー危なかったです。それよりここどこですかね」

 イノは既に立ち上がっており、崖の傍へと歩む。機関車の落下音らしき音が下から響く。

 シードも打撲した部位の痛みに堪え起き上がり、上を見上げる。ヘリポートみたいな足場が山の急斜面に設置されているようだ。

(……山に工場建ってるのか。あそこのやつは塔っぽいな)

 見た先には幅6m程のガス灯付きの道路。そして奥に幾つもの塔らしき鉄色の施設が山の斜面に抗い立っている。散在して赤いランプが点滅している。そしてここも明るい照明がイノたちを照らしていた。


「……ちょっと待てよ」

 つい口に出てしまった。しかし、シードはそのようなことを気にすることはない。それだけ、衝撃的な状況に気づいてしまったのだから。

「おお~、シード! 見てくださいよこの景色」

 イノの言葉を無視し、隣にまで走り駆ける。その息は荒くなっていた。

 シードは当たり前のように考えていた違和感を瞬時にリピートした。

 夜なのにどうして明るい。

 どうしてこんなにも煩い。

 重苦しいこの白いもやは何だ。

 それが、目の前で答えを出していた。

「な……どうなってんだよ……これ」


 それは靄ではなく蒸気だった。

 闇夜とは対照した真っ白な蒸気が、見下ろす森にも廃墟にも充満している。そして、奥の島一番の独立峰も。

 今日まで見てきた数々の廃工場は動き出しており、騒音と蒸気を吐き出している。すべての工場は目を眩ますほどの灯りに包まれ、まるで昼のようだった。

 数日過ごしてきた、幾度の島の夜を迎えたシードにとってこの景色は異常そのもの。夜の寒かった記憶が肌に触れた熱気でぼやけてしまう。

 鼻腔を侵す大臭気グレートスティング。まるで体内に溜め込んでいたガスを一斉に放出したかのように、充満している。公害霧スモッグだ。

(っ、ただの蒸気じゃねぇ! 重水素デゥーテリウムか!)

 重水が蒸気化したもの。そして、独特の鉱毒素の微粒子。長居すれば疾患が訪れる。長年の島の鬱憤どくが溜まりこんでいたようだ。

「すごいですねー! なにがあったんですかねこれ」

 ヘルメット等を外したイノは楽しそうな声を出して眺望する。

「……まさか」

(バイロ連邦の手に落ちたのか。フォルディール全島が……っ)

 シードは歯を食いしばり、ただ制圧された島の全貌を見るだけだった。イノは感嘆しながらも、何かの違和感は感じ取っていた。


     *


 夜空に浮かぶ一等星のように眩しく照らされた島の真っ暗な沿海。ぽつんと離れた、貝や海藻がへばりついている岩肌の小島には数匹の鮫の死骸。そして、小島の後ろには殆ど食い荒らされている15mほどの鯨の死骸が浮かんでいた。

 喰らい続ける音。食い千切り、一口一口を噛み締め、飲み込む音。赤髪の男は島の全貌を眺めるかのように巨大な島フォルディールを赤黒い瞳で睨むように見続けていた。

「こりゃあ面白れぇことになったな」

 喰い終わり、その男、リオラは歯を出しにやりと笑みを浮かべる。

 まるで、その島で起きたすべてを知っているかのように、笑った。

 空腹の渇きを潤すために幾つの魚や鮫、そして巨大なる鯨を喰らったのか。

 だが、厄神の竜人の潤いはこれだけでは満たされない。

 鬼龍の血。それを得た人間「リピッシュ・タンク」。あの男の血を喰らうまでは竜人の食欲は収まらないだろう。

 海が揺らぎ、小島から波紋が生じる。波が揺らぐが、風は凪いでいる。

「そろそろ、白髪頭アイツのところに向かうとするか」

 紅き厄神の龍が立ち上がる。それは、大海をも揺るがした。

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