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神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第三章 孤独の影光 廃島フォルディール編
38/63

第37頁 駆動

「……ただではくたばらなかったか。流石最新鋭兵器ってとこだな」

「ただの古い技術を取り入れただけでしょ」

 先程軍隊と共にいた三機の人型兵器。耐久できたのか、それとも免れたのか。金属光沢がみられない藍色のボディは傷一つついていない。

 ガシャコン、と両腕からヘビーバレル軍用ライフルの銃口が出現する。

「ただの電子回路と金属の塊が調子こいてんじゃねぇぞ」

 少数相手に空圧砲は非合理的。全員がマガジン式マークスマンライフルを構える。しかし、その銃は軍で使うような型とは少々異なっていた。

 リトーの両肩、所謂上腕三角筋から双銃身のロケットランチャーが、前腕部から四門の連射砲が展開される。

 照光から身を逸らし、銃弾を避ける。精密機械だが、そこまで精度はよくはないのだろう。リトーは避けずに被弾するが、表面の金属塗料の被膜が欠けるものの、これといった損傷はなかった。

「今度こそ作戦開始だ! キンタマ落とさねぇように気ィ引き締めとけ!」

 ドレックの声を合図に、リトーは通路の鉄の壁に手を突っ込み、バギャ、と壁をぎ取る。それをドレックたちの前に落とす。銃弾を防ぐための即席防弾壁だ。

 瑛梁国軍隊の頭数は七。それに対してバイロ連邦側は兵器搭載のロボット三体。数としては瑛梁国の方が有利だが、銃弾の多さは明らかロボットの方が勝っている。鉄の塊の防弾壁から顔を出す機会が少ない。

「タコ野郎が、数撃ちゃいいってもんじゃねぇぞ!」

 ラックスは頼りなくなってきた防弾壁から顔を出し、3発撃つ。通り過ぎた弾が肩に掠るも、その腕は的確。各一機に一発被弾した。

 だが、その装甲は堅く、数ミリの穴を空けただけで、内部回路までには達しなかった。一発だけでは効果はないようだ。

 人型兵器ロボットは銃弾を撃ちながらこちらへと近づいてくる。規則的に一歩、また一歩と同じ速度で進んでくる。

「クソッ、腹立たしいぜ」

「どいてろ」

 踏み込むように膝を曲げ、リトーは両肩のロケットランチャーを発射させる。向かってくる無数の弾丸を弾き、二機に被弾し、爆炎をまき散らしながら左右の二機は後方へ大きく飛ばされていった。内部の燃料にも誘爆したのか、その二機の胸部から再び爆発が起きる。

「ま、重元素と軽元素が結合した高強度のボディだろうが、所詮量産型が俺の造ったスペシャルなロケランに勝てるはずがねーってんだ」

 特に何もしていないシードが得意げな顔をするが、誰も彼の顔を見ようとはしていなかった。

「まだ一機残ってるぞ。気を抜くんじゃねぇ!」

 リトーは両腕の連射砲からガドリングのように数百発の徹甲弾が撃ち放たれる。リトーも同様、数秒に数百の弾丸を受けているが、表面の鎧部位は炭素素材と鉄鉱石を原料としたダマスカス鋼、その下――ボディは超高分子量ポリエチレン繊維を始め、チタン装甲板や複合素材の超硬合金、超耐熱合金が使われている。傷はつけど、これといった損傷は皆無。

 相手の方が耐性が低いのか、銃弾の猛攻に押されてしまう。武器も壊れ、ただ徹甲弾の雨を受け止めるだけの金属塊となった。バチバチと放電し、そして積み木のように崩れてしまった。

「よし、全滅だな」

 所詮は自動車と戦車の差。数を作る分、素材不足やコスト等で頑強な兵士をバイロ連邦は造れなかったようだ。ましてや派遣隊。十分な兵力はないだろう。

「……ッ、いやまだだ!」

 しかしそれは、本来ならではの話。大黒柱ともいえる切り札を連邦軍の派遣隊は持っていた。

 世界を誇る強者と賢者。

 歴史にも刻まれるであろう二人の天才。

 それらがいる限り、兵の士気は収まることはない。

「あの奥に何かあるはずだ……進むぞ!」

 広い工場内の正面奥。そこから武装兵が流れ出てくる。先程の空圧砲で飛ばされ、床に転がっていた兵も何人か意識を取り戻した。

 足元の鉄の瓦礫を踏み分け、前へと進む。走りづらいが、防壁となるものが多い。

 誰もがライフルを構え、機を窺う。

 撃つ。

 走る。

 避ける。

 発砲音が広い空間で響き渡り、交差する。

 どちらも撃ち続けるが、中々当たらない。当たったとしてもバイロ連邦軍のアーマー装備は頑丈。関節部に銃弾が当たらない限り、血を流すことはないだろう。

「ああチクショウ! くたばりやしない!」

 弾が掠る。服が切れ、肌から血が流れる。

 腿のポケットから弾薬を取り出しては再充填し、再び撃ち続ける。

 互いの撃ち放つ銃弾はそこらに転がっている鉄くずの塊に数多の穴を空ける。

 バイロ連邦のアーマーに対し、瑛梁国の武装は最小限。どちらかといえば採掘、工事用を重視している。防弾性能のあるものは着ているが、下着アンダーのように薄い。戦闘においてのスペックは劣っている。

「こういうときにシードの失敗作が必要だって思えてくるぜ!」

「誰だ失敗作って言ったポンコツはァ! グレネードで使えねぇ脳みそブッ飛ばすぞ!」

「クソ、冗談抜きでシードの試作品アレを装備していけばよかったぜ」

「全くだ」

 ドレックの言葉に対しオービスが一言呟き、背に担いでいたロケットランチャーを一発放った。けたたましい銃撃音にひとつの爆音が響き渡る。熱波と衝撃波が物理的に肌に圧力として感じてくる。

「だが、瑛梁国の武器も捨てたものではない」

「全くだ」

 ドレックはそう呟き、吹き飛ばされていくバイロ連邦軍兵を見、歯を出して笑う。

「このままじゃ弾切れになるのも時間の問題だ! 早くこの状況を切り抜ける方法を探さないと!」

「それはおまえの役目だホビー! いい案はねーのか!」

 あちらから小型ミサイルが飛んでくる。咄嗟に避け、その場が爆破する。転がり、受け身を取っては再び撃ち続ける。上から鉄の破片が降り注ぎ、数個の大きな鉄塊が落石のように上から落ちてはゴロンと転がった。

 シードは隠れることもなく、ハンドガン式のガドリングを撃ち続ける。奇跡的なのか、弾は一度もシードに当たらない。リトーも同様、隠れることなく一定リズムで腕から30mmミサイルを撃つ。反動が大きい。

「あの二人はいいよな。弾で死ぬリスクがない」

「嫉妬してんのかダリヤ」

「これ以上からかったら撃つわよ」

「へいへい」とラックスはすぐに持ち場へ戻る。

 互いの隊の距離はおよそ10m。装備としても、弾薬や兵の数も勝り、完全武装に近いバイロ連邦が7人しかいない少人数相手に一斉に攻めてこない理由。

「――点火ァ!」

 それは、火力の違い。

 技術者シードの製作武器とその男が作り上げた傑作リトーの攻撃によって迂闊に近寄れない状況にあった。

 シードの撃つガドリングの弾。リムド型であり、大きさは7.62mm。だが、その中身は発射薬、起爆薬だけでなく、TNTと同等の爆薬が高密度で詰まっている。故に、着弾すれば地雷同等の爆発を巻き起こす。

「――おうよ!」

 シードの合図に応えたリトーはガチャン、と握った両拳に対人地雷のような鉄の塊を、自動でメリケンのように装着する。既に背中から小型ジェットエンジンが展開され、勢いよく噴射した瞬間、推進力による突発的な動きを見せた。

 砲弾のような速度でやや放物線状に飛び、兵のいる地点の中央に地雷弾薬マイン付きの拳を打ちつける。

 案の定、大きな爆炎が巻き上がり、周辺にいた十数の兵が吹き飛ぶ。熱・衝撃耐性素材でできたリトーは無事であったが、零距離での爆破はすさまじく、いとも簡単に天井付近までその金属人形の巨体が舞い上がった。

 その爆発が起爆装置代わりだったのだろう。いつ仕掛けたのか、誘爆が連続で発生し、オービスたちのいる地点以外――周辺が間欠泉のように爆炎を引き起こした。

「うぉっ! いつ設置したんだよアイツ」

 銃撃戦に集中していた故、誰もがそのエンジニアの行動など目にもくれなかったのだろう。上から鉄くずだけではなく、アーマーの欠けた、血を流した兵が降り注ぐ。炎の光に照らされ、オレンジ色に染まっている。

「フハハハ! 天才ナメんじゃねぇぞポンコツ野郎が」

 聞こえるのは銃弾と爆撃の残響音のみ。広い工場はあられもない姿と化していた。ドシャッ、とリトーが鉄くずの山へ落下してくる。

 先程の爆発によって照明のほとんどが落ちる。爆発や炎も収まり、真っ暗程ではないが、夜明け数十分前の空のように薄暗くなる。

「……全滅したか」

 オービスの一言を始めに、周りも口を開いた。

「あの連邦軍相手でも、何とかなるもんだな」

「増援が来る前にここから出るわよ。ホビー、このまま真っ直ぐ進んでもいいんだろうね」

「ああ、うん、そうだよ。あの先だ」

「うっし! まだまだいけるぜ俺は!」

 全員の表情は未だに真剣さが残っていたが、少しだけの安堵が表れていた。鉄くずの山からリトーが出てくるのを確認したシードは「急ぐか」と呟いた。

 再充填をし、戦闘準備が整った後、兵が出てきた通路へと歩を進めたときだった。


     *


「――全システム作動! 電力を一斉に回復させろ!」

 鋭い女性の声が響き渡る。

 操作室に座る工作兵は数えきれないほどのスイッチを手慣れた様子で操作し、キーボードを打つ。電力が出力される音が振動と共に伝わる。

 フォルディールのシステムをバイロ連邦なりに操作できるように作られた巨大な装置があるその一室で、そう命令を下したのはフェルディナントだった。

 測候所傍の発電・変電施設を通じ、坑道内へと続く数十の太いコードに莫大な電力が伝導していく。山の中へ造られたエネルギーが渡り往く。

 独立峰の最深部。そこは、数百年前に栄えた国の動力源。所謂、地下深くのマグマ溜まりと連携している唯一の心臓部。比率的に少ない割合の電力と割合高のマグマの熱エネルギー。そして、それらを増幅させ、抵抗率を少なくさせる独創的な金属回路と超伝導プラズマ炉心。

 高温プラズマ生成。

 電子温度一億℃突破。

 マイクロ波周波数200ギガヘルツ突破。更に倍増。温度上昇。

 それは、タービンを回すためのものではなかった。

 作られたエネルギーが島全土に行き渡る。

 壊死したはずの組織が再生し、再び動き出すように。

 水を得た草花の細胞が雄叫びを上げるかの如く膨張するかのように。

 心停止した心臓が鼓動し、血液を循環させるように。

 滅びたはずのこの島は、息を吹き返した。

 蘇るはずのないこの島は、生き返った。

 

 廃島フォルディールは目を覚ます。

 

     *


 突然の大きな揺れ。非常に足場の悪い凸凹道をトラックの上に乗って進んでいるような振動がこの場を、否、この島中で起きていた。天井が軋み、小さな砂礫が降り掛かる。

「――なんだ!?」

「ぅおっと!」

「うわっ!」

「――ッ」

「マジかよッ!」

「……っ、まさか」

「全員! 今すぐここから撤退せよ!」

「急げ!」とオービスの怒鳴り声が地鳴りと共に響く。

 上から数mの瓦礫が落ちてくる。辛うじて点いていた山内の工場の照明はとっくに消えており、暗闇に染まっている。しかし、それも一瞬だけ。奥の出口――通路から照明が点く。それを頼りに7人は走る。

「崩れるぞ! 気をつけろォ!」

 天井だけではない。足場も地割れのように砕け、沈降していく。ドレックの叫びも崩れる轟音で聞き取りづらかった。

 足場が傾く。拳ほどの石が頭に当たり、血が出ても、構わず一点へと目指す。

「……っ、クソッタレ!」

 しかし、その中で最も重量がある機械鎧の身体をもつリトーは遅れをとっていた。足が地に着くたび罅割れ、泥沼のように足が埋まりかける。

「――ッ、リトー!」

「リトーさん!」

「構うな! 行けェ!」

 ドレックやホビーの声に反応したオービスらは振り返る。

 リトーは既に体の半分以上が崩れる床と天井に飲み込まれつつあった。今助けに行けば共に巻き込まれる。助けに行かなければ。その思考よりもまず、リスクが脳内に浮かび上がった。

 一人を除いて。

「……っ!? シード!」

 引き留める言葉も手も出なかった。シードは崩れゆく空間へと踵を返した。

「来るんじゃねぇチビ野郎! 死にてぇのか!」

「うるせぇデカブツ! 情けねぇカッコでかっこつけたこと……」

 石橋が倒壊するように足場が崩れる。

 リトーと共にシードも落ちる。その腕にはコイルの装着されたバネやワイヤー付きの不完全なガントレットが装備されていた。その手をシードはリトーの大きく、そして冷たい背中に当てた。

「ッ、テメェまさか」

「――言ってんじゃねぇぞ!」

 その手のコイルから発生した電磁力の巨大な反発力が、金属体リトーを押し上げた。位置エネルギー、重力に抗い、リトーは爆風に飛ばされるかの如く浮き上がり、オービスらのいる通路手前にガシャン! と落下した。

 作用反作用。リトーを上へ飛ばした反動が、シードをより早く下の奈落へと落としていく。

「シード! おい!」

 ドレックはシードのもとへ駆けようとしたが、滝のように天井の瓦礫や山内の土砂が大量に流れてきた。その風圧と揺れでドレックは足を崩す。例え連邦軍の武装であれど、その中へ入ればセメントに固められるのと大差ないだろう。

「ッ、クソ!」

 ドレックは拳で罅割れた通路の床を叩く。びりびりと痛むが、気にするはずもなかった。

「……馬鹿野郎が……!」

 オービスはただ、そう呟き、小さく俯いては奥歯を噛み締めた。

 揺れが収まる。目の前は土砂の壁。数秒の間の出来事だった。

「シード……」

「……ッ、畜生ォ!」

 この場で初めて、リトーが感情的に大声を出す。何故助けた。何故おまえが犠牲になった。それだけではない感情が脳を締め付ける。

 だが、その猶予はすぐに終わる。

『――いたぞ!』

「ッ、なん――」

 背後から撃ってきた弾がオービスたちの身体に突き刺さる。

「しまっ――」

 数十の爆発が連続でリトーに襲い掛かる。爆炎に紛れ、捕縛網が手足を、胴体の動きを封じた。

『目標確保!』

「こンの……放せ!」

 リトーはもがき、暴れるが、動くほど絡まり、とうとう蓑のように動きが取れなくなった。網から電流が流れ、縛られたままその大きな体を倒していった。

 増援の奇襲。瑛梁国の選抜隊はいとも簡単に崩れる。

「……クソ……ッタレが……」

 薄れゆく意識の中、ドレックは歯を噛み締め、痙攣している腕を意識のない仲間の元へ伸ばす。感覚はない。呼吸も上手くできない。

 そして、ゆっくりと瞳を閉じていった。


主人公ですか?

そういえば見当たりませんね。

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