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神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第三章 孤独の影光 廃島フォルディール編
34/63

第33頁 在るはずのないテクノロジー

 夕日が映えるフォルディール島西海岸。島の沿岸の6割は10mものコンクリート製の防波壁が島への侵入を防いでいるが、それ以外では砂浜や岩肌の海岸、波の侵食で壁の砕けたコンクリート製の海岸があったりする。

 茜色に染まっている西の海岸は、船が停泊するには丁度いい海の深さとスペースがあった。そこに泊まっていたのは浮上した三隻の巨大な潜水艦。全長70m級のUボードVⅡC型の大型海洋兵器の停泊している海岸から少し離れた、舗装されていた平坦な地にテントなど簡易的な拠点が建てられていた。傍には幌付きトラックや戦車、軍用8輪車、4m電波塔などが置いてあった。そこにいる誰もが深緑色の軍服を着、戦闘用装備を着ている者もいる。


「ったく、多少の収穫があっても、廃材ばっかりだなぁ。そろそろ革新的に面白い設計図の一枚や二枚回収できてもおかしくはないんだけどねぇ」


 40代半ばの強面の180㎝ほどの男がテント内のコンピュータ機に付属されたモニタを通し、解析データを見ながら煙草を片手に不満を告げる。


「ですが、かなりの資源が採掘できていますよ。大がかりな油田採掘をしないでここまで採れるのはここ以外ないはずですし、それに斬新な設計資料もいくつか回収されています」


 コンピュータの操作をして解析を行っている兵の一人が嬉しそうに報告する。「まぁそれはそれでいいんだけどな」と長身の男は前のデスクに手をつけ、体重を掛けては別のモニタに映っているデータを凝視する。


「ホントにお伽噺とぎばなしに出てくるような大国ひとつ滅ぼせる『古代兵器』がぁ、ここに眠っているのかどうかってのを俺は知りたいのよ」

「そ、それはもっと深くまで探さないと……」

「じゃあさっさと出動して探しに行った方がいいだろうに。大佐ときたらどぉして……あぁそうか、そういや大佐って――」

「ユンカース中尉! 大佐がお呼びです」


 後ろの入り口が開き、兵が畏まった表情で報告する。ユンカースと呼ばれた長身の男は振り返り、


「やぁっと終わったか。待ちくたびれたよ」


 ふらりとユンカースは歩き、軍用コートを羽織る。コートの背にはステンシルでBFMの白文字と円形記号を背景に羽ばたく紅鳥が刻まれ、その胸に黄色の星が入っていた。

 バイロ連邦軍特殊編成派遣部隊「EH-06」。崩落しかけたアリオン帝国の広大な領土の完全略奪と他国の植民地化を有利にする為に、フォルディール島の豊富な資源回収と独特の技術が記されている史料「設計図」の回収を目的としている。

 テントから出、連邦軍中尉ユンカースは6つあるテント式の簡易拠点の内、いちばん奥の直方体型テントへ入る。

 中央のデスクにはパソコンがあり、映像を通じてコンタクトできるらしいのだが、磁場的に不安定なので、少しでも電波環境を良くするために、音声のみの通信となっている。本国との連絡は不可であるため、指揮権はすべて「大佐」が握っている。


「ユンカース、ただいまきましたぁ」


 ユンカースはデスク前のチェアにすっと腰を下ろす。パソコンから聞こえる音声だけがユンカースの耳に届く。何やら機械音や溶接音が聞こえてくる。


「あれ、開発は終わったのでは?」


 すると、やっと向こうから声が聞こえてくる。女性の落ち着いた声だった。


『それは終わった。今は準備をしている』

「準備、ですか」

『着替えているんだ。素っ裸でおまえと話している』

「……そ、そうですか」


 軍人であれ、中身はひとりの女性なのだが、それは自分からいうことなのか。女性の着替えている姿を映像越しで見られなかったことに少し残念がっていたユンカースだが、冗談でもそのことは口にしない方がいいと思い、別のことを話す。


「そもそも準備中ってことは、今から出動するという意味で……」


 ユンカースの問いに大佐は即答する。


『そのとおりよ。こちらの開発も完成した。先程偵察隊とタンクから幾つかの報告があったわ。工場のシステムの復帰も電力も回復したから、部隊もそろそろ準備を終えているはず。今夜を通し、本格的に回収していくわよ』


     *


 シードとリトーは6m前方にいる「バイロ連邦軍」を見る。

 5人の兵がこちらに向けているのは兵器開発も取り組んでいる技師シードでも見たことのない黒銀の銃。似ている物を挙げればAUGブルパップ方式「Tavor21」を連想できる。ハンマーはスティール製、銃身は軽量で強度のあるチタン製だろうと判断した。しかし、最新技術に手をつける先進大国、それも狂気的な軍事力をもつバイロ連邦の武器がどのような「合成素材」を使っているかは予測し難い。それぞれの身には一回り小さいマシンガンやバズーカなど、共通武器とは別の、各一つの携帯型重火器がつけられていた。


(服の中にも幾つか入ってるだろうな)


 シードはそう思い、夜間には溶け込みそうな黒色の軍服を見る。一見すると軽装だが、レーヨン繊維の下にはも様々な環境にある程度適応することを可能とした幾層もの金属繊維、その一枚下には鎧ともいえる防具を纏っているだろう。ヘルメットと首まで続く防弾マスクで素顔が見えない。

 その一方で、3機ある人型の自律型二足ロボットは無機質なアーマー型であり、金属光沢のある黒と銀色に着色され、軍服のようなデザインとなっている。右腕には銃身の長いラチェット式のキャノン、左腕には3連レーザー砲、左肩には筒型の6連ガドリング砲、右肩には一門の赤外線センサー付きの口径60mmロケットランチャーが搭載されてあった。素材は不明。頭部の形は角の無い直方体型、目は平行四辺形に近く、口はない。リトーの弾丸に似た頭部とは少し違っていた。

シードの場合、あくまで推測にしか過ぎないが、X線等の波長変動による透視を可能とするリトーのレンズでは、確実に何を武装しているかが判定できる。しかし、それを報告するまでのことでもないとリトーは敢えて言わなかった。それだけ一流技師シードの目に狂いはないという一種の信頼なのだろう。それか、ただ個人的に嫌いなだけか。


「流石連邦国といったところだな。この天才を感服させる新素材と新技術の産物を創り上げるとは、大したもんだよ」


 シードはリトーの前まで歩き、腕を組んではニヤリと歯を微かに見せる。シードの赤銅色の金属質ブーツが草の生えたやわらかい土を踏む。その音が聞こえる程、辺りは静かだった。

相手は武器を構えたまま動かない。不審な動きをすれば最後、瞬く間に蜂の巣にされるだろう。


「……」


 リトーは黙ったまま、シードを一瞥する。アンドロイドのような人間の顔を再現していない無機質なロボットの頭部でも、どこか納得したかのように「ふん」と小さく息を吐くように音声を出した。


「――とでもいうと思ったかァッ!」


 腕を組んでいたシードは肩付近の小さな腕ポケットから注射器のように小さい銀色の拳銃を出してはトリガーを引く。同時に、軍兵の武器と自律兵器のガトリングが一斉砲撃を始めた。その判断は早かった。

 しかし、数多の銃弾が一瞬で消し飛び、チリチリと金属が発熱し焦げる音を立て、そして装甲の剥がれかけた兵とロボットが地面から離れる。砂利の混ざったやわらかい土の足場ごと後ろの廃村へと吹き飛んで行った。

 その光景が見えたときに、鼓膜が破けんほどの爆音が生じる。


「うぉっとぉ!」


 一発しかない弾の豪快な威力は己の銃身をも粉砕する。否、あえて壊れやすく、トリガーを引いた指が持っていかれないようにするために、脆弱性を備えたのだろう。注射器のような小さな銃身は弾け散り、その爆風と衝撃波はシードの腕を始め、160ほどの身体を右後方へ捻り飛ばし、宙に一回転した。

しかし、背後にリトーがいたのでその勢いはぶつかったことで止めることができた。リトーの機械的に重量のある金属巨体でも、その衝突と爆風でよろめき、3歩ほど後ろへ下がっては体勢を整えた。


「銃を抜くのが遅いんだよヘボ軍隊め」

「っとぉ……テメェって奴ァホント無茶するな」

「はははっ、バイロ連邦が最先端に手をつけようが、俺様の天才的発想と天才的開発には敵わねぇよ。相手を間違えたな馬鹿め。はっはっは!」


 十数m先まで抉れた前方の大地を見、悪役のようなわざとらしい高笑いを上げるシードに呆れ、リトーは別の話題を提供する。


「そういやあの白髪の旅人はまだ図書館にいるのか?」

「ん? 知らねぇよ。なんか『ルミナスの柱』のこと話したらそれ探しにどっかいっちまったけど」


 そう言ったとき、上空から騒音がバタバタと聞こえてくる。対気速度の増大と減少による圧力の急激な変化で発生した風切り音。

 シードとリトーは聞いたことのある音がする方を見上げる。

 そして確信する。


「ヘリ……やっぱり既にこの島に来ていたか」


 山の方から1機の輸送用ヘリと2機の対戦車ヘリが空を横切っていた。その機体にプリントされたシンボルマークはやはりバイロ連邦のものだった。

 シード、とリトーは呼びかける。


「なんだよ」

「少なくとも、その手に持ったガラクタみてぇなバケモノ銃で撃ち落とす考えは捨てろ」

「は? なんでそんなこ――」

「滞空シールドだ」


 ピクリ、とシードは眉を動かす。

 リトーの特殊なレンズは全てのヘリから発しているレーザー線が無数に張り巡らされ、見えない防御壁と化しているバリアを視認していた。シードは猟銃に似たスチームパンク風の自作銃を懐に戻す。


「レーダー感知系の電磁バリアとかじゃなくて、物理的に障壁バリアが張ってるってのか?」

「ああ、おまえも何度か実験していたそれが別の国で実現しているってことだ」


 リトーの身体に数発のフル・メタル・ジャケット弾が撃ち込まれる。しかし、傷はついたもののリトーのダマスカス鋼と何かの金属でできた合金装甲は頑丈であり、銃弾は簡単に弾かれた。


「……気づかれたな」


 一機の攻撃ヘリが向かってきており、こちらに煙の漂っているガドリングを向けている。「やべ」とシードは口元を引きつらせる。


「――逃げるぞ!」


 シードは真っ先に図書館へと逃げ出した。それに続き、リトーも追いかけるが、鈍重の機体からだは人間の全速力には敵わない。


「テメッ、逃げ足だけははえーなおい!」


 しかし、狙われたのは真っ先に行動した生身のシードだった。申し訳程度の中途半端な武装では、そのガドリングから射出される尖頭弾に被弾すればひとたまりもない。搭載されたふたつのガドリングはシードに向けて集中砲火する。

 そのとき、くるっと振り返り、懐から出した掌サイズの八角形の装置をヘリの方へ向けた。カチリと音がしたと同時に十数発の弾丸が目の前に来る。

 バチン! と銃弾全てが装置の目の前で速度を停止、否、ほぼ同速度のままヘリの方へ反射された。

 リフレクター。直径1mの二次元状円形に展開された流動する電磁波は金属質の軌道、運動ベクトルを正反対に反射リフレクトする。


(あっぶねー、あんなの『避けれる』自信ねーよ)


 内心そう思ったシード。角度も良く、弾丸は全てヘリに戻ってきたが、ヘリに被弾する手前、全弾が散り散りに焦げ、機体に被弾する前に跡形もなくなってしまった。


「こりゃあマジで一次元が二次元になった感じか」


 なるほどな、と呟きながら図書館へと飛び込んだ。


(電磁気シールドも表面に薄膜として張ってあるから普通の電波ジャックも効かないっつー感じだな)


 そう思考したシードは走るのを止めない。後ろから追いついてきたリトーも図書館内に入り、階段を登らず、共に一階の奥へと走る。


「あ、テメッ、何勝手にジェット使ってんじゃボケ!」


 走っているシードの隣には、背中から展開された4つの複合出力小型ジェットエンジンを小火力で噴出して走力速度を上げているリトーがいた。タービンの音と噴出音で、熱気と共に騒音がシードの鼓膜を振動させている。ドスン、ドスン、と歩数は少ないが、搭載された熱機関ジェットエンジンのおかげで一歩の速度が速い。


「これは俺の身体だ。勝手に使って悪いかよ。追いつくにはこれしか方法ねーしな」


 本棚に迫られた通路を突き進む。途中に設置されていた鉄製の梯子を蹴り倒し、図書館の裏へと走る。


「燃料消費しちまうだろーが! つか囮は残ってろ! どうせガドリングやそこらのミサイル程度でぶっ壊れねぇ身体にはしてあんだからよぉ!」

「テメェだって銃弾程度は『当たらねぇ』身体してんじゃねぇか!」

「バッカ、おまえこれでもあんなガドリング喰らったら――」


 後ろから爆発が聞こえ、数コンマ後に焼け焦げてボロボロになった本や木片が振りかかってくる。


「冗談だろ!? 歴史財産構わずヴェリー・ウェルタンにするつもりかよ! ばっかじゃねぇの!?」


 叫ぶシードは咄嗟にリトーの前へ走り、飛んでくる本や木片を防ぐ。後ろから熱気を感じる。


「盾にするんじゃねぇ」

「本の角って結構痛ぇんだよ」

「知るかチビナス。いいからそこをどけ」

「テメッ、誰がチビ――ぃああぁああっ!」


 図書館の奥裏の行き止まりに着き、リトーはシードの服を掴み、前方の蔦で覆われた窓へ強く投げつける。

 ガシャアン! と古いガラスは砕け散り、グリーンカーテンとなっている蔦の壁も突き破って、裏庭に出る。


「ぐへっ」


 ごろごろと荒れた雑草地帯に転がり、奥の岩壁にぶつかる。同時に、ボゴォン、と突進で脆い壁を突き破ったリトーが現れる。その背後は爆炎が迫ってきていた。

 ボォン! と崩れた壁から爆炎が飛び出してくる。それは割れた風船のように一瞬だけであり、一度爆炎に包まれたリトーだったが、なんとか無事に抜け出し、ガシャンと転がって受け身をとった後、リトーの前に辿り着く。


「――ぉまえ何さらしてくれとん――」


 ズドォン! と転がった時にキャノン型に展開、変形したリトーの左腕が火を放ち、天体観測所のある高さまで聳える崖に人2人分ある穴を空ける。爆風でシードは再び吹き飛び、雑草の中を転がる。潰れた草の滲み汁で工事作業用に似た服が青臭くなる。


「やっぱりな。こんな岩を山積みにして作ったような壁なんか、絶対何かあるって匂いがプンプンすらぁ」


 その穴の先には坑道へと繋がっていた。暗くて先が見えないが、炭鉱ガスが充満していたのか、溜まっていたメタンガスが外の雑草地帯へと流れ込んでくる。

 怒りよりも出現した坑道に気が行ったシードは起き上がり、


「何がプンプンだ独り言言いやがって。嗅覚ねーだろおまえ」

「強弱ぐらいはわかる」

「つーか早く入らねぇとヘリ来るぞおい」


 そう言いながらシードはガスマスクを装着した。


「あいつはどうする?」


 リトーはイノのことについて訊く。シードはピタリと坑道へ踏み込む足を止め、


「……後から行く。おまえは先に行っててくれ」


 ガスマスクを外し、真剣な声でシードはそう告げた。それに違和感を覚えたリトーは少しおちょくった。


「お、どうしたらしくねぇ」

「いいから行けよポンコツ」

「やっぱりかわいかったか」

「うるせぇ! 早よ行け!」


「ま、頑張れや」と笑ったリトーは暗闇の中へ消えていった。「調子に乗りやがって」と呟くも、暗視スコープも搭載しているから大丈夫だろうと製作者のシードは片隅でそう思い、イノを待つ。

 少し広めの自然的に荒れた裏庭。3階建ての図書館の裏の壁は蔦で覆い尽くされている。爆撃を喰らっていた一階は少し炎がちらついているものの、何故か燃え栄えていない。紙や木質は可燃性の低いものなのか。


「……来ねぇな」


 諦めがついたのか、一向に来る気配も音もない。少し安堵したシードは崩れた岩に座る。


「……」


 空を一瞥すれば、すっかり夜を迎えている。涼しくなり、落ち着いたのか欠伸を一つする。

 もう坑道の中へ入ってもいいのではないかと考えるが、すぐに放棄した。他人とはいえ、ひとりのか弱い女の子かもしれない可愛い若者を見捨てるようなことはできなかった。


「やっぱりもう一回図書館の中探すか……」


 そう呟いたとき、何かの嫌な予感を抱いたシードは空を見上げる。


「――ッ」


 咄嗟にその場から離れた途端、上空から80㎝徹甲弾が4つ投下された。3mはあるミサイルだが、深々と地面に埋まっただけで爆破はしなかった。すぐさま見上げるが、飛行艇らしき影が見えただけで、図書館に隠れてしまった。


「……クソ、居場所はバレてたか」

(それにしたって早すぎだろ。近くに拠点でもあんのか?)


 シードは傍の一本の木に寄り、不発の巨大徹甲弾から離れては見つめ続ける。


「なんだかめんどくさいことになりましたね」


 隣から聞こえた声にぎょっとする。そこには逆さまに枝にぶら下がったイノがシードを見ていた。


「おまえ普通に出てこいよ! びっくりしたわ!」

「あっはは……あれ、なんでここにいるんですか?」

「こっちが訊きてぇわ! 『ルミナスの柱』探してたんじゃねぇのかよ」


 イノは木から降り、「ん~」と頬を掻く。


「といっても、どこにあるかわからなかったんで落ち着いて木の中で休んでたんですよ」


 それを聞いたシードは呆れ、肩を落とす。


「鉱石は大抵山ん中だ。島の中央のあのデッカイ山にあると俺は見ている」

「そうなんですか」

「そうなんだよ。ま、見つかってよかったぜ。あの坑道の中にマシン野郎が先に行ったから後追うぞ」


 しかし、イノは返事せず、何かを見ている。


「おい、どうした」

「あのドデカいロケット弾から何か音しません?」


 それを聞き、微かに予測していた懸念が再び浮かび上がる。

 しかし、その予想された懸念は違う形となって現れた。


「……は?」


 爆発ではなく、フシューッと白い蒸気が少し割れた大型徹甲弾の隙間から噴き出る。そして、バコン! と底部のリムから金属質の細長い三関節の六本足が開き、地面にその足を着けては本体を徹甲弾から出す。出てきたのはバクテリオファージ型の自走兵器。直径3m程の円柱型の太い鞘のようなボディと頭部の正二十面体様。ピピピ、と電子音を鳴らし、周囲の環境をデータとして取り込んでいるようにもみえる。


「すっごいですね、変わったロボット出てきましたよ」


 呑気に話しかけるイノだが、シードは信じられないような表情を表していた。未だ薄暗い夜だからこそ、表情は僅かにわかる。


「あんな兵器、流石の連邦軍でもまだ開発途中のはずだ。……いや待てよ……?」


 シードは思い出し、そして思考する。

 そのときは何の疑いもなく、バイロ連邦だからある程度の開発は可能とすると過信していたが、よく考えれば、軍事力や技術力が優れている「だけ」で、科学力が発達しているわけではない。滞空シールドや兵器として利用できる安定した自律型の人型ロボットなど、空想上の兵器を造れるほどの科学力はないはずだ。

 しかし、実現できる可能性をもっている世界一の科学発展国「サントゥ」は条約として軍事関係の協力や戦争の参加は放棄している。それに、兵器を造るとしても目の前にいるような大型の機械は作らず、もっと小型軽量のものを開発するはずだ。サントゥと協力しているという可能性は低い。


(……まさか)


 連邦軍がすでにフォルディールの技術を手に入れているとしたら、あの斬新で優れた武器や兵器も、目の前の変わった兵器も実現しているのも頷ける。


(それにしたって……何日ここに滞在しているか知らねーけど、開発する時点で早すぎるだろ!)


 信じられない速度でこの島独自の設計を理解し、実現しているのがにわかに信じがたい。しかし、それが本当だとしたら、それを実現させている人間が連邦軍側にいるということだ。それも、今この島に。


(……まさか)

「シードさーん、考え事してないで逃げた方がいいと思いますよ」


 イノの声に我に返ったシードは前を見る。

 ファージ型の鉄色の兵器はその鞘の装甲部分をシャカン、とスライドして開かせ、数百の口径10mmの砲口をこちらに向けていた。正二十面体の頭部はブレイン――センサーの役割をしているのだろう。


「――ッ」


 シードは咄嗟に先程使ったリフレクターを懐から出す。これならなんとか防ぐことができる。

 しかし、シードの挙動に反応したのか、一機の自走兵器は動いた腕と手を狙い、ズドドド、と数十発の弾が一度に速射された。


「ぅわっ!」


 咄嗟の反射行動で木の裏に隠れる。間一髪被弾することはなく、掠り傷で済んだが、起動していないリフレクターが一発被弾し、壊れてしまった。足元に転がり、すぐには使えないものとなってしまった。


「しまった! 畜生!」


 あのとき手を抜かずに防弾機能もつけておけばよかったとシードは後悔した。弾は幹を貫通し、幹の裏に座っているシードの服を掠る。


「……まずいぞおい」


 ひとりだけならまだどうにかなるかもしれない。しかし、ここには武器一つ持っていなさそうな弱々しい旅人がいる。相手が未知数の新兵器4機。とてもじゃないが、護れる保証はない。

 隣に座っているイノの顔を見る。しかし、何の根拠があるのか、特に恐れている様子はない。顔に似合わず紛争地帯とかに住んでいたのかとシードは妄想を膨らませるが、すぐに切り捨てた。


「イノ、俺が合図したらあの坑道の中に逃げるぞ。いいな」

「でも普通に撃たれますよ」

「あのタイプは動いたものを優先的に撃つからな。どうしようか」


 先程の一瞬であれ、シードはしっかりと敵の特徴を把握できていた。しかし、その対抗策が未だ思い浮かばない。最善策が出てこない。ファージ型の機体の雑草を踏みにじる足音はだんだんと近づいてくる。


(4機もあるんじゃあ石投げたって仕方ねェ。武器はある……でもあのヘリと同じシールドがあったら終わりだ)


 シードは考える。だが、その時間も限られている。認知されれば無数の銃弾が豪雨のように振りかかってくるだろう。そうなってしまえば、もう逃げ場はない。


(俺たちが動く前に臨戦態勢を立てていて、こちらに近づいていたから、多分熱探知もあるだろうな。クソ、時間がねェ!)

「あ、ねぇシード」


 この緊急事態であるにもかかわらず、あまりにも呑気な声に少しばかりの苛立ちを覚える。


「なんだよ」

「僕これでも影薄いんですよね」


 それはシードにとって意味の解らない言葉だった。何故今の状況でその台詞が出てくるのか。


「は? だからなんだよ。関係ねェ話すんなよ」


 何を言っているのかこいつは。シードは半ば怒鳴り口調になってしまったが、イノは構わず笑顔で話を続ける。


「まぁ、見ててくださいよ。失敗するかもしれませんけど」


 といってはイノは立ち上がり、ボロボロになって盾としては頼りなくなってしまった木から隠れるのを止めた。


「バッ、おまえ――」

「シードはそこから動かないでください」


 突然の強めの声にシードは思わず動きを止める。助けなければならないのに、その言葉の重みに運動神経が活動を停止したかのような衝動に駆られる。イノはゆっくりと4機の兵器の前へと歩を進めた。

 何を考えているのか。自分が手を動かしただけで弾丸の雨を浴びさせるほどの鋭敏性と殺戮性を前に、小動物が横切っただけでペースト状にされることは誰でも予想できる。例え影が薄くても、それは人間の脳科学的、心理学的の問題であって、機械探知の前では無力だ。そうシードは思っていた。


「……え?」


 目を疑った。

 ファージ型の兵器は一切イノを撃とうとしない。それどころか、


(……センサーが反応していないのか……?)


 認知されていない。それは、影が薄いという問題ではなかった。


(電波ステルスか、いや、赤外線かもしれねぇ……待てよ、そもそも武器どころか道具1つ持ってなさそうな奴が何ができるわけでもねぇし……)

「……訳がわかんねぇよ……。あいつなんかした……のか?」


 囁くような呟き。イノは兵器の前に辿り着いては、


「ねぇシード! どこ叩けば動くのやめる――」


 4の兵器がジャコン、とイノに向けられる。


「え」


 瞬間、バゥッ! と豪雨の如く無数の弾丸が至近距離にイノを掃射する。屋敷の形をした図書館の壁には文字通り蜂の巣のように無数の穴が空いた。だが、そこにイノの姿はなく、兵器の一機の真下にしゃがみこんでいた。


「うわ、音声認識ついているんですか」


 他三機がその兵器ごとイノを囲み、弾丸の雨を浴びせる。その兵器はシェルターをすぐに閉じ、防御を図る。太い木の幹でも貫通する弾丸の雨を浴びても、そのファージ型の兵器は無傷だった。


「ふぅ……、危なかった~」


 だが、イノは兵器の頭部である正二十面体のオブジェにしゃがむ体勢で乗っていた。いつのまに移動したのか、陰で見ていたシードは唖然と口を開けたままになっていた。


「お、撃ってきませんね。じゃあここ壊せば……」


 周りの様子を見たイノはその無数のセンサーランプが敷き詰められているオブジェの表面ガラスに手をつけ、ニッと笑う。

 そのガラスの表面にビシィッ! と罅割れた瞬間、その姿を消した。同時、他三機、計四機の兵器の頭部が同時粉砕されていた。内側から破裂した様に。


「……は?」


 一瞬の出来事に、シードも驚きを隠せなかった。兵器はガシャガシャと身を崩し、ドズン、と鞘型の重い巨躯が倒れていく。中枢部位を破壊された兵器はもう動く気配を見せない。


「……しんじられねぇ……」

「今のうちに行きましょっか」


「んなはぁ!」と変な声を上げてしまったシードの目の前には既にイノの姿があった。顔が近いのもあってか、身を倒し、腰を抜かしてしまう。


「いきなり出てくんなおまえ! つーか今のって……」


「超能力なのか?」と恐る恐る訊いてみる。しかし、シードの質問に対し、イノは「違いますよ」と首を横に振る。


「でもそれ使えたらいいですよね。念じただけで物とか動かせたり浮かせたりするの憧れているんですよね」


「あっはは」と笑うイノにシードは冷静を取り戻す。


「訳わかんねぇけど……とりあえず助かったし、ありがとな」

「いやーお礼だなんてそんな――」

「いやありがとうって言っただけな!? 勝手に報酬貰うつもりでいるんじゃねぇよ!」


 ダン! と銃声が鳴る。

 イノは肘を曲げた腕を振り上げ、右側の頭部に来た弾丸を指で触れ、チュン! と弾くように軌道を逸らした。


「おお! やるねぇ君」


 その声が聞こえる方へ、銃弾が飛んできた方へとふたりは顔を向けた。

 ファージ型の兵器に隠れていた隈が濃い三十代ほどの細身の男の姿は軍服であったが、先程のような武装兵のような風貌ではない。パイロットのようなきっちりした服の上には高級感ある軍用コートをはためかせている。それが、ただの軍兵ではないことを示していた。

「……誰だテメェは」とシードは睨む。

 その男は余裕の笑みを向け、腹の底を震えさせるように低く笑う。


「連邦軍曹長メッサー・ハインケルだ。この島にいる間は僕の名前をしっかり覚えておいてくれ」


「わかりましたー」と呑気に返事をするイノに構わず、シードは再び訊く。


「ずっと様子を見ていたのか?」

「まぁそうだね。あそこの崖の上からこの試作品が正常に動くか記録をとっていたんだけど、その白い髪の子には反応なかったし、仕方なく遠隔で操作して撃ってたんだけど……いやぁすごいね。目も真っ赤だし、君もしかして『他の世界』から来た?」

「……? どういうことですか?」


 イノは首を傾げる。その反応は特に心当たりがない様にもみえる。


「あれ、じゃあここの世界の人か。てっきり超能力か魔法かと思ったんだけどな~」

「何言ってるのかよくわからないんで先行きますね」


 爽やかにそう言い、坑道へ歩を進める。


「いや待て待て! 待てよ雰囲気考えようぜ!? 折角の幹部が来たってのにその反応はひどいと思わないか?」


 少し焦った様子で引き止める。イノは仕方なく立ち止ったが、未だ身動きせず、警戒しているのはシードのみだった。


「シード、他の世界ってどういうことですか?」

「少し黙ってろ。そんなこと話している場合じゃねぇ」


 その睨みつけた目を侮蔑すようにメッサーは見下した。


「おー仲間に対して冷たいねぇ君。ま、僕も急ぎの用があるからね、こうやって悠長にお話ししている場合じゃないん――」


 シードは腰からギアや管のついた金属質の猟銃に似た武器を構え、メッサーを撃った。その小さな口径からは考えられないような太い熱線が人一人を雑草の生えた地面ごと飲み込んだ。撃った本人も感じる熱波は凄まじいものであった。


「――ま、これで武力の差が明確に分かったわけなんだけどね」


 しかし、メッサーの肉体は焼却されるどころか、火傷一つ付いていない。彼の周りだけ焼却され、炭を被った地面が捲くれていた。「チッ」と舌打ちする。


「なんにしろ、こちらにはフェルディナント大佐がいる。どの国が刃向おうが、バイロには敵わない。そんじゃ、行くとするよ」

「――ッ!?」


 メッサーはスタンガンのような装置を取り出し、自分の首に刺すように当ててスイッチを押した。その途端、バチン! と一瞬だけの放電とデジタル化した彼の姿を最後に、跡形もなく消えてしまった。


「あー……いっちゃいましたね」

「……」

「あんな面白いのも持っているんですね。いいなぁ。……あれ、どうしました?」


 イノに応えなかったシードの表情は固まっていた。恐怖の類ではなく、愕然としたそれだった。そして、最初に発した小さな言葉は、


「フェルディナント……あいつがこの島にいるってのかよ。それに、今の技術テクノロジーは……」


 メッサーが口にした大佐の名。当然聞いたこともない名前を前にイノは問う。


「それって誰なんですか?」


 シードはそんなことも知らないのかといわんばかりにイノをじっと見、目を細める。


「とりあえず、先行った金属野郎の後を追う。まずはそっからだろ」



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