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神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第三章 孤独の影光 廃島フォルディール編
33/63

第32頁 天体観測所と日記

構造アーキテクチャもそうだけどよ、機体の耐久以上に出力エミットと負荷が強すぎるってのがまだわかんねぇのか。エンタルピーと制御サーボシステム考えてねェだろ。個人的な好みで法則通りにやらねぇからああいう暴走が起きたんだよ独学野郎」


 全身機械でできた大鎧の男「リトー・チューナー」は音響独特のスピーカーを通じて説教染みたことを金髪の小柄な青年「シード・ステイク」に言う。

 昼下がりの曇り始めた空の下、列車のあった倉庫を出、イノ達は工場用の露出鉄骨階段を上った先、針葉樹林の森に入る。曇り空で少し薄暗いだけでなく、霧がうっすらと森の中を漂っているので、一種の不気味さがあった。その上、森には潰れ、凸凹になったボロボロの自動車らしき乗り物があちこちに錆びとシダ植物に侵食されている。およそ二、三十台はあるだろう。元々廃棄場だったのかもしれない。

 シードは挑発しているといわんばかりの呆れた表情と、それに似合う口調でリトーに言い返す。


「はぁ、これだから軍人の筋肉頭は。法則を極めたものはな、法則を作れるんだよ。アンダースタァン?」

「テメェのとち狂った脳天に弾ぶっ放せばイイっつうことは理解できた」


 リトーの鋼腕の一部が展開し、ジャコン、と腕から三連PPSサブマシンガンの銃体部が出てきてはシードの頭めがけて火を噴いた。数秒の轟音の後、シードのいた場所は言葉通り蜂の巣状になった。幹や廃車に貫通穴が無数にある。


「おおおおっ! かっこいい!」


 シードの心配すらせずに、イノは機械男の搭載された武器に言葉通りの意味で目を輝かせていた。


「テメッ、マジで殺す気かクソ野郎!」


 しかし、隠れることも防ぐこともせず、ただそこにいたシードの身体には弾一発受けている様子はなかった。息切れしているが、イノの目からは、とてもすべての弾を避けきれているようには見えなかった。コミカルな軽快ステップで必死に避けていたのは誰の目から見ても分かったが。


「……はぁ~、金髪さんも面白いですね」


 感心した声を出したイノだが、馬鹿にされたと思ったのか、「バカにするのもいい加減にしろ」とシードは機嫌の悪い表情でイノを半目で睨んだ。

 森の道中で雑草の生えた線路を見つけ、それを辿る。森の木々の隙間からはコンクリートの建造物がちらちらと見える。上を見れば、屋上の角が見えたり、建造物から木が生えているのも確認できた。


「ロボ男さんの中身ってどうなっているんですか?」


 唐突にイノがリトーに訊く。すると、シードが横に入り、自慢口調で流暢に話し始める。


「こいつはな、もともと軍人野郎だったんだけどよ、紛争で目も当てられねェ姿になっちまってさ。そこで天才の俺が助けたわけよ!」

医師メシアにじゃなくて、マッドな技師ハデスに出会ったのが人生で最大の不幸だったぜ。おかげさまで、こんな酔いも女を抱くことも何も満たされもしねぇ不細工な機械兵器カラダに改造されちまったよ」


 リトーは皮肉たっぷりの言葉を嘲笑いながら吐きつける。動くたび電気によって動かされている機械音や金属の軋む音が聞こえてくる。


「あんな野晒しでハゲタカのエサになるよりはまだマシだろうが。ちゃんと命に感謝しろよ」

「趣味で全身殺戮兵器に俺を転移させといてよく言うぜ。死んだ方が百倍マシだ」

「結局何で動いているんですか?」

「あ? なーにが死んだ方がマシだって? 命の恩人に対してようそんなことが言えるなぁ、心臓捨てた軍人気取りさんよぉ」

「軍人の心得すら知らねぇ坊ちゃんが何を言ってんだかなぁ。全身機械の生き地獄ってものを知らねぇからそんな命の恩人気取りでいられるんだよ」

「あの、ちょっといいですか?」

「俺がその身体造らなかったら、そういう風に口すらきけねぇのになぁ。そのありがたさをまだ理解してねぇとなると、もう一度その機体分解して脳味噌ごとメンテナンスする必要があるな」

「無免許のくせによく言うぜ。そのふざけたアタマを精神科にメンテナンスしてもらえよ」

「すいませーん、聞こえてますかー」

「うっせバーカ、最年少で技師の国家試験受かってしっかり証明されてるわ!」

「じゃあ免許更新受けてとっとと剥奪されて豚箱にぶち込まれろってんだ!」


 ゴガン、と両者の後頭部に強い衝撃が走る。人間のシードはともかく、機体のリトーも応えたのか、身体をふらつかせた。

 ふたりは咄嗟に振り返る。痛かっただけで、特に外傷はなかった。


「お、やっと気づいてくれた」


 ほっとしたイノの両手には錆びの付いたスパナが握られていた。湿った土が少し付着している。

「痛っつ……何すんだよテメェ!」とシードが単純に怒りを示す。


「あ、すいません。ついやっちゃいました」


 イノはスパナを置き、すっ呆けた口調で言うが、特に皮肉は感じられない。リトーは怒鳴ることもなく、目が覚めたかのように冷静を取り戻す。大人げないことをしたと言わんばかりのため息をついていた。


「ついもクソもあるかおい!」

「そんなことよりトンネル着きましたね」


 シードの怒りを流し、イノは目の前のトンネルを指差す。地盤が傾いているようにも感じる、違和感ある緩やかな坂道に沿ったトンネルの通路は短く、暗いトンネルの数十メートル先は天井だけが吹き抜けている様にもみえる。射していた日の恵みを与えてもらっている故か、トンネル内には植物は生えず、そうでない壁には苔がうっすらと張っている。

 シードの怒りも、リトーの大人の対応で沈めさせ、しばらくは無言でトンネルを潜り、更に奥の二つ目の長いトンネルも潜っていった。

 濁った雫の滴る、ふたつ目の薄暗いトンネルの中、イノが話しかける。湿った青臭い匂いが時折鼻につく。


「それで結局ロボ男さんはサイボーグなんですか?」


 まだその話終わってなかったのかとリトーは思いつつも、応えてくれる。


「まぁ、ザックリいえばそうだな。無事だった脳味噌丸ごとコイツの作ったこの機械鎧に神経接続されたってわけだ。ちなみにだが、俺はこの身体になってから3年も経っている」

「へぇ~、すごいですね」

「ただ脳髄を兵器にブチ込んだわけじゃねーぜ。自律神経とか狂わせたり、まぁ脳幹の拒絶反応の停止や機能の補強といった調節もそうだし、金属タンパク質と糖質代わりのエネルギーの増幅、髄液や血液代わりの化学溶液の製造、何より神経と電線回路を繋げる作業が手こずったぜ。もっと聞くか?」


 その表情は少年のように輝いていた。しかし、「別にいいです」とイノが断わると、つまらない顔をして舌打ちをする。技術者として専門的なことを熱弁したかったのだろう。


「……で、脳機能の一部停止と一部活動の境界ボーダーがこれまた難しくてな、金属機械を肉体として繋げるんだ。ヘタすりゃ生命維持できねぇし、マジで脳を生かす溶液を作るのにも苦労したし、そもそもこいつの精神力が軍人並みじゃなかったら確実にイッてたぜ。『シンレイ』師匠に教わってなきゃできなかった代物だ。まさに現在においての最高傑作ってわけなんだぜ」


 断ったにもかかわらず簡易的な話を続けたシードに、イノはただ「そうなんですか」と耳を傾けている。リトーは「作品扱いすんじゃねぇよ」とシードの頭部に拳骨を下す。


「じゃあ何歳なんですか?」

「38だ。ちなみにこいつはこの身体(ナリ)で25だからな。男性ホルモンと成長ホルモンがストップされてる可哀想な奴よ」


 見た目だけだと髭すら生えていない10代後半にも見える少年のような体格と声質。精神年齢もそれ相応だが、一般人の認識において、ここまで小柄かつ童顔なのも中々いないだろう。


「余計なこと言うなアホ! ちゃんと毎日タンパク質とカルシウムとビタミンD摂ってるわ! あと他の栄養素もバランスよく!」

「つっても、開発に夢中で寝不足になっている様じゃ一生伸びねぇぞ。寝る子は育つってのは迷信じゃねェンだぜ?」


 リトーはガシャンと腕を組んで、そう言った。

 しかし、その成長停止ともいえるその体つきは栄養失調や睡眠不足による病気や不健康状態とは言い難いものであり、どちらかといえば遺伝的体質か、ホルモン分泌不足の方が強ち合点がいく。


「わかってらぁそんなこと。いつか伸びる体質なんだよ俺は。覚えておけ」

「はいはい、わかったよ」

 トンネルを出ると、桃色のラベンダーが咲き誇る丘に出る。線路は続いているものの、その常緑樹の一族であるラベンダーや名も無い草丈の高い雑草で隠れてしまっていた。灰色の層雲は風で流れ、日が射してくるものの、少し肌寒い。ラベンダーに含まれる酢酸リナリルやリナロールの芳香が呼吸をするたび入り込んでくる。


「へぇ、こんな平和っぽい場所もあったんだな」


 リトーは感心したようにその両目の緑色ライトの付属したカメラレンズを通して脳内に景色を記憶インプットする。


「ずっと廃墟でしたもんね。色と香りがいい味出してます」


 丘を登り、左手の急斜面を見下す。


「思ったより結構登ってきてたんだな」


 下手にみえる森に混じった灰色の直方体型建造物と、微かに見える海の片鱗をシードは見眺めていた。涼しげな風がその金髪を揺らす。

 標高800m。低地の密林に近い森に比べ、気温と湿度が低く感じるのも、それ故か。


「あれなんですかね」


 少し進むと、右奥に大きな館らしき建物と崩れかけたドーム状の塔がみえてくる。その背景には、少し距離があるが、標高2000m程の成層火山型の独立峰が見える。しかし、既に活動は停止しており、緑が生えているものの、白灰色の岩山が雲に紛れ、うっすらと見える。晴れれば全貌が明らかになるだろう。


「あの館だけ独立してるな。なんかの公民館か?」とリトーは踏み場のない花畑に重い足を乗せ、坂下にある廃村らしき一帯も見つける。村と館とは瓦礫道を挟んで少し別離している。


「知るかっての。とりあえず行ってみようぜ」

「ま、なんかの情報集めにはなるだろうな」


 看板のひとつもない木製の扉をキィィ……と鳴らしながら館の中へ入る。中は埃が舞っており、あらゆる場所に張ってある数多の蜘蛛の巣とかび臭さが少し不快な気持ちにさせる。


「図書館、だな」


 独り言をしたシードの言う通り、円形のエントランスホールを通じ、その周囲は壁のような本棚の並んだ通路と天井を繋ぐ柱によって部屋を形成していた。正面には幅の広い階段があり、階層としては3階建てだろう。本棚にはびっしりと古ぼけた本が詰まっている。窓から射してくる弱い日光が唯一の光源だ。


「こんな独立した島でよくこれだけの文献が揃っているな」


 他のメンバーとの合流には関係はないが、この島フォルディールの情報収集にはうってつけの場所だろう。


「人いないですね」

「あったりまえだ。何十年も前に滅んだ島国だぞ」


 シードは手短に床に落ちている本をパラパラとめくりながら応える。


「うっわー……」

「どうした」


 シードの残念そうなリアクションにリトーが反応し、声をかける。

 開いた本に書き込まれた文字はシードにとって見たこともないものだった。


「やっぱり俺たちの国とは言語が違うか」

「そんだけじゃねぇ、この天才でも解読不明な言語だし、この島独特の言語だったんだろうな。流石にそんなもの知ったこっちゃねえって話だぜ」


 折角の情報の宝庫も、他国語で書かれていれば解読は非常に困難だ。

 二階や三階に上がっては幾つかの本を漁る。だが、どれも言語的に読めないものばかり。ただ時間が過ぎただけだった。


「くっそ、印刷されてるから読みやすいってのにな」


 3階の窓際の木のデスクに腰を下ろしたシードは、壁にもたれるリトーの疲れたような言葉に応える。


「そーだな。……そういやあいつは?」


 シードの気付きにリトーは「そういえば」と辺りを見回す。レンズの動く音がし、機械越しでズームや熱探知等を行い、分析する。そのレンズは機械で補強されたリトー自身の眼球である。角膜や虹彩は無いものの、視神経や網膜、硝子体、そして水晶体は受け継いだままだった。


「おい、赤外線でも熱探知でも反応ねーぞ。この館にいないんじゃねぇのか?」

「……まぁこの近くにいるだろ」


 どうでもいいと思いつつも、少し気になったシードはデスクから降り、


「あのドームっぽいところに行くぞ。隣接しているし、どっかに通路があるだろ」


 窓際にいたリトーを一瞥しては先へ進む。リトーも気怠そうに重い身体を動かす。汚れた窓から見える太陽は少し沈みかかっていた。


     *


 一方、リオラを始め、オービスら5人の採掘師と共に麓の廃工場に足を踏み入れていた。


「この島って工場多いけどよ、元々そういう島なのか」


 曇り空の下にひっそりと、しかし威圧的な巨大さを誇る石灰セメント工場のような線密な施設はかなり古く、雨の流れた跡が染みとして残っている屋根や壁に穴が空いている。稼働している様には到底思えない。

リオラはここに至るまでに見てきた様々な廃工場を思い出し、そう口にした。


「そうだな、フォルディールは豊富な鉱石や金属を主として生活していたらしい。製造技術は派遣者を通じて他の国の技術を参考にしたんだろう。俺たちの国ではよく見る構造だ」


 ドレックはリオラの言葉に応える。不気味なほどに静かな空間の中、複数の足音が木霊する。彼らの目に飛び込んできた複雑な鉄の迷路が、行先を少しだけ迷わせた。鉄とコンクリートの色に覆われ、申し訳程度の黄色い塗料で塗られた鉄柵の他、パイプにバルブ、圧力計など、様々な機械がそのまま残されている。

「これまた疲れそうな場所だな」とラックスは首を鳴らす。

「奥へ進めばいいだけでしょ。目的は鉱石なんだから」とダリヤはラックスの大きな肩を拳で軽く叩いた。

 通路がなければ階段を上っては降りての繰り返し。靴と鉄床がぶつかる音が奏でられる。何処に行きつくかわからない。それでも彼らは進み続ける。

 どこまでも上へと続く無数のパイプ、天井を覆う電線コード、人一人分の幅の鉄の渡り廊下、高所へと続く穴の開いた螺旋階段……。見れば見る程、数多くの停止した景色が狭い空間の中に広がっていく。


「広いところに着いたな」


 圧倒的な空間にドレックやダリアは感嘆の溜息を吐く。

 高い天井の窓から自然光が入っているため、電気がついているように明るい。すぐ近くに巨大な溝があり、底が深い。100m級の巨大戦艦がすっぽり入りそうな程だった。吸い込まれそうな感覚にホビーは足を震わす。少し埃っぽく、独特の匂いがし、ドレックは思わずくしゃみをする。


「でもオービス隊長、さっきの物音がした場所とは少し離れてますけど」


 先程の汽笛の音や金属のぶつかり合う轟音がした場所とは違うとホビーは意見する。「そうか」とオービスは髭を弄り、傍に転がってあった航空機のエンジンらしき筒状の精密な内構造をした機械を一瞥しては、


「まぁいい。仮にそこにリトー達がいたとしても、もう既にいないだろう。我々は国と己の為に目的を果たす。ただそれだけだ」

「そういやおまえらってどこの国のもんだ?」


 リオラが訊く。地面付近にまで続いている巨大パイプを潜ったところでドレックが答える。


「オーガニア大陸の瑛梁えいりゃん国に住んでる工業関連の技術者だよ」


 つい最近聞いたことのある国名だったが、関心の無かったリオラはどのような国か忘れているのか、これといったリアクションはしなかった。

 だが、勘は良かったかもしれない。


「へぇ、そうか。ンで、結局はその国の何に属している」


 全員の鼓動にブレが生じたことをリオラは聴き取った。その地獄耳は、人の体内の動きまで聞き取れる。

 そのことを確信したリオラは、追い打ちをかけるように話を続けた。


「別にオレはなんの職にも就いてねぇし、国籍も持っていねぇ。言っちまえば昔に幽閉された囚人だ。今の世界も時代も知らねぇオレがテメェらの秘密を知ったところで何の得もねぇし、バラす相手もいねぇ。オレの探している白髪頭の旅人もどこにも就いてねぇ放浪者と変わりねぇよ」


 全員が黙り込む。しかし、オービスはリオラの目を見、確証が持てたのか、厳格な表情で話し始める。


「……そうだな、我々の素性も知らないまま同行しても、そちらに不利がある」


 立ち止ったオービスのその言葉で、全員は歩くのを止める。少し広い空間に出、全員がリオラを見る。


「改めて紹介をする。我々は瑛梁えいりゃん国国家直属憲兵団緊急選抜隊だ。目的は先ほど言った通り、『ルミナスの柱』を始めとした資源用金属・鉱石の採掘・回収。そして、この島の再稼働を阻止し、再起不能の状態に陥らせることだ」


 おそらく、彼らの真の目的は後者にあたるだろう。そう考えたリオラだが、その理由がいまいち理解できなかった。


「再起不能だと?」


 眉を潜め、低い声で訊く。風は通らず、だが涼しい灰色の空間と鉄網の床の中、壁際には黄や水色などで塗料されたバルブが並んでいる。


「そうだ。他国から学んだ技術は独自に発展し、それは軍事にも反映された。その軍用兵器の設計図及び、廃材サンプルを他国に回収され、それを利用されぬために、我々は選抜隊としてこの島に来たのだ」


 芯の通った声。瞳孔、鼓動も正常。嘘ではないと確信したが、もうひとつ疑問が浮かび上がってくる。否、確認の問いが浮かび上がった。


「じゃあ、今工場が動いているのは、おまえらがやったことじゃねぇんだな」


 その言葉でその場が凍りつくのを感じた。それが、確信を生む。


「……? どういうことだよ」


 ラックスの一言に「だろうな」とリオラは腕を組んだ。


「おまえらの耳じゃ聞こえねぇくらい遠いところの話だ。この島再起不能にするなら、急いだ方がいいんじゃねぇのか?」


     *


 夕方を迎える頃、シードとリトーは隣接したドーム状の屋根の付いた塔へ入る。4階まであるが、そこから先は螺旋階段となっていた。内部もそれ相応に古く、木製の壁に罅や穴が空いている。外側はコンクリートでできていたが、内装は木の合板で覆われているようだ。穴から蔦が侵入しており、天井まで侵食している。一種のグリーンアートを連想させる。

 半径7mの円柱型の部屋はどの階層も幾つかの木の机や椅子、倒れた花瓶や萎れた花、小さな本棚や何かの手動式研究器具や観測器具、調査器具が古い木製の床に散在していた。古い書類も床に散らばっていたが、やはり別の言語で書かれていたため読めなかったが、手書きだった。


「おい、もう少し慎重に歩いてくれよ」


 2m近くあるリトーの機械鎧カラダはかなり重く、歩くたび古く脆い床が悲鳴を上げている。いつ抜けてもおかしくはなかった。


「これでも最小限に抑えてるつもりだが」

「まぁ落ちてもなんてことはねーと思うけど、俺を巻き込むんじゃね――」


 バキャ、と床が抜けおち、シードの下半身が床に埋まる形になった。突然の落下に声すら出なかったが、落ちる身体を支えた腕と肘がジンジンと痛む。


「ま、おまえも気をつけろってことだ」


 そう言い、「ははは」と軽く笑った。

 そのとき、ガタン、と上の階から物音がする。ふたりはそれを聞き逃さすことなく、螺旋階段を見上げる。


「上に何かがいるな。おいシード、ふざけるのも大概にしてさっさと上見てこい」

「うっせーわ! 好きでこうなったわけじゃねーよ!」


 木製の床を軋ませながら身体を持ち上げ、埃等を払った後、中央にある人一人分の螺旋階段へと登る。リトーは体格が大きく、重たいので、4階で待機することにした。

 シードは何の木でできているか解らない程変色している木製の階段を壊さぬように慎重に上る。


「早くしろよチキン野郎」

「わかってらぁ! 催促すんなや鈍重デカブツ!」


 下からヤジを飛ばしてくるリトーに罵声を浴びせ、ついに最上階らしきドーム状の屋根の内部へ入る。

 最上階。先程までの散在した様子は無く、同じ面積であるはずなのに広く感じた。天井が高い故だろうとシードは上に視線を向けたが、天井に穴が空いているというよりは展開し、開いていると表現した方が正しかった。自動開閉式の天井らしく、壁にはそれらしき装置があり、電線と鉄線が天井付近のレバーと歯車に連携している。よくみるとドーム状の天井は鉄板ともプラスチック製とも言い難い、何かの素材でできていた。触ってみないとわからないなと思いつつ、中央の巨大な装置が目に入る。

 空いた天井に広がる夕焼けの景色。奥は薄暗く、夜を迎えようとしていた。もうそんなに時間が経ってしまったかと片隅で思いつつ、その中央の台座に設置されている埃被った装置――口径40㎝のカセグレン式反射天体望遠鏡で空を覗いているイノを見る。シードの存在に気が付いたのか、イノは振り向き、笑顔になる。


「あ、金髪さん。やっときましたか」


 複雑な構造をしている天体望遠鏡にあった鉄製の白い椅子から立ち上がる。天体望遠鏡の傍にはパソコン型の機械とローボードのようなデスクが隣接していた。


「こんなとこでなにしてたんだよ。あと金髪だけどよ、俺のことはシードさんと呼べ」

「はーい、シード」

「さん付けなしかよ」


「?」と首を傾げてきたイノに軽く苛立ちを覚えたシードだったが、イノの後ろの装置が気になったのか、寄り、白い筒に触れてみる。


「天体観測室だったのか……パソコンっぽいのもあるし、やっぱり他よりある程度技術は進んでいるな」


「そうなんですか」とイノはシードの隣に来る。床は頑丈なコンクリート製だったが、ボロボロであり、雑草や葉の生えた蔦が所々育っている。


「ここは書類とか整っているし……研究ノートも何冊かあるようだな。まったく読めねぇけど」


 棚に並べてあった色褪せたノートや少ない資料にざっと目を通し、独り言のように話した。


「え、読めないんですか?」


 その一言にシードは「は!?」と驚いた。


「おまえ読めるのかよ!」


 それは、敗北感と嫉妬を抱いた上での発言だったのだろう。しかし、そんなことも露知らず、イノは淡々と話す。


「図書館のは読めなかったんですけど、ここにあるのは読めましたよ」

「は? 同じ言語じゃないのかよ。ちょっとそれ見せろ」


 イノが手にした古ぼけたノートを奪い取り、ぱらぱらとめくる。しかし、図書館で見た、似たような形式の文字だと判断したシードは、ますますわからんと首を傾げた。


「……じゃあ、この文なんて書いてあるかわかるか?」


 シードは手書きのノートを見せる。覗き込むようにイノはノートの上部に書いてあった大きめの文字を視る。白い髪が頬に触れ、吐息が聞こえるのを意識したとき、シードは少しだけ顔を赤くした。


(よく見りゃこいつめっちゃ可愛いじゃねーか)


 性別は分からなかったものの、その少女に近い顔立ちから、シードは女性だと判断したのだろう。そう考えた瞬間、急に心臓が高鳴り始めた。


(でも、なんか違うよな……女だったら、もっとこう……)

「えーとですね、『シューツェル星雲に埋没した大質量星団の観測と、その近辺のAS惑星状星雲中心星の磁場との関連性について』です」

「……え、ああそうか」


 一度も噛むことなく流暢に答えたイノだが、殆ど聞いていなかったシードは生返事をし、我に返る。


(……ってマジで読めたのかよ!)


少しばかり唖然としたシードはぱたりとノートを閉じる。


「こっちのノートには赤色超巨星のバウショックについての研究が書いてありましたよー。言葉も意味もさっぱりですけど」

「もういい。わかった……」


 何とも言えないシードは天体望遠鏡の椅子に腰を下ろす。夜を迎えつつあるとはいえ、夕焼けがまだ確認できるが、一応接眼レンズに目を当て、覗いてみる。


「……これ電力無ぇと起動しないやつじゃん」


 そう呟き、シードはイノの先程の行為の意味がますます解らなくなってきていた。何にも見えないのに覗いていたのはどういうことなのかと。


「ちゃんと視えましたよ?」

「見間違いだバカ」


 女の子とはいえ、幻覚か妄想が激しい奴だ、とシードは心の中で言い、溜息交じりに席を立つ。おかしいな、とイノはぽりぽりと頭を掻く。


「……あれ」


 シードの呆れた様子を気にすることはなかったイノは望遠鏡の傍に一冊のノートが落ちているのを見つける。こんなのあったっけ、と小さく呟いてから、


「シード、なんか落ちてましたよ」


「ん?」とシードは埃の被ったノートを拾っているイノを見る。

 書類等の類はすべて棚に整頓されていた。下の階とは異なり、床にはそのようなものは落ちていないと思っていたが、見逃しだろうか、とシードは考えつつ、その茶褐色の古ぼけたノートをぱらりとめくっているイノの傍に寄っては内容を読んでみる。



『――7のお日さま、4・12のお月さま

 今日もおじいちゃんと空をみた。雲がひとつもなかったから星がよくみえた。星はいつも動いていて、同じ場所にはいないってチィちゃんがうれしそうにいってたけど、おじいちゃんはわたしたちのいる星が動いてるからそうみえるんだよって教えてくれた。チィちゃんは顔が真っ赤になって泣きだしちゃったから、わたしが大丈夫だよってなぐさめたら、泣き止んだからほっとした』



「……なんて書いてあるんだ?」


 これも見慣れないこの島の言語で書かれていたのでシードは読めなかった。しかし、イノは読めるのか、特に困ったような表情をしない。


「日記ですね。ここによく来てるこどものでしょうかね」


 イノとシードは読み続けるが、内容の大体はここの天体観測所と『おじいちゃん』と数人の友達の話だった。字は幼く、内容も子どもらしい純粋な感想とラクガキにもみえる鉛筆絵が描かれていた。


「……あれ、この日で終わってる」

「せめて俺に分かるように音読してくれ」



『――7のお日さま、7・6のお月さま

 おじいちゃんが教えてくれた。明日みんないなくなるって。

 石を掘り起こしすぎたから、工場をつくりすぎたからって。それがみんなを苦しませているって教えてくれた。だからチィちゃんもダイくんもリリナちゃんもローランくんもいなくなっちゃったのってきいたけど、おじいちゃんはなにも答えてくれなかった。でも、明日なにがしたい? ってきいてきたから、わたしはおじいちゃんと空がみたいっていったら、ありがとうってあたまをなでてくれた。とってもうれしかった。明日もきれいなお星さまみれたらいいな』



「……」


 イノは読み終えると、シードの表情は気難しそうで、しかしどこか哀愁漂う何かが含まれていた。


「公害か……」


 シードはイノから離れ、開いた天井の向こうの小さな夕焼けを仰ぐ。


「公害ですか……?」


 あまり理解できていなかったイノの方へと振り返り、シードは口を開く。


「社会的災害のことだ。経済合理の追求をしようとした社会・経済活動によって、環境が破壊される人為的な災害だ。この島は工場の廃液や坑道の鉱毒で滅んだんだ。公害病で住民は亡くなったんだよ」

「……」


 イノはノートを持ったままシードの話を聞いていた。その表情はいつもの気の抜けたような呑気なものではなかった。風が止み、夕日がふたりと大きな天体望遠鏡を照らす。沈みかける頃だ。


「滞在して4日ほど経つけど、確かに水銀やカドミウムとかのいろんな有害物質の溜まっている場所が幾つか見られたんだよ。排煙や鉱毒ガスは長年でもう発生していないし、オキシダントももう浄化されてるから島には入れたけど、当時はスモッグとか島中に蔓延していたんだろうな」

「……そうですよね」

「医療技術がどうだったかはわからねぇけど、治療が病に追いつかなかったんだろうな。昔にしたら公害病はかなり厄介な難病だ。気が付いたら、もう毒が体内からだに溜まっているし、苦しみ始めたらもう手遅れに近い。俺も似たようなの経験したことあるからよくわかる」

「シードはどこに住んでいたんですか?」

「瑛梁国に住んでるぜ。ま、故郷はドミニクス大陸のヴィスペルド国だったけどな」


「瑛梁国……?」とイノはどこかで聞いたことあるなと思ったとき、「あ」と声を出した。


「どうした?」

「その国行ったことありますよ」


 すると、シードは少し嬉しそうな表情で、


「え、マジで? いつ行っ――」

「王様殺したきっかけをつくったんですよね」


 シードの言葉が遮られる。その赤い目があまりにも冷徹だった故、無意識に動きが止まってしまっていた。

 少しの間。言葉の出なかったシードはやっとのことで口を動かすことができた。


「……なにが言いてぇんだ」


 慎重に話したシードに対し、つらつらとイノは語る。


「瑛梁国がアリオン国の王様の殺害を煽ったって友達から聞いたんです。殺してしまったのは国民ですし、そのときは仕方なかったと思います。もう過ぎたことですし、復讐心とか全くないです」


 その言葉を聞いたシードは少し警戒を解こうとした。


「でも、その王様とは一度出会ったことがあったんです。言葉も交わして、また会おうっていった仲なんです」


 逆に言えば、ただそれだけのことかもしれない。しかし、イノにとってはとても大事なことなのだと、その若き技師は諭した。

 そうせざるを得ない程の強い意思が己を呑み込もうとしているから、嫌でも理解できた。

 それ故の申し訳なさなのか、それともこの旅人に話しても大丈夫だと勝手な判断をした故なのか、シードは知っていることを話そうと決意した。


「……アリオン王を暗殺したのはその国の国民だ。こんなこといっちゃマズいけどよ、それを煽ったのは俺らの国だ。俺たちの国はアリオンの植民地だった。瑛梁国(おれら)にとっちゃ、アリオン国は脅威的な存在だったんだよ。けどよ、立ち向かったところでどうにかなる相手じゃない。戦争なんてもってのほかだ。確実に敗ける」

「そうならないようにアリオンの国民を反乱へと煽ったんですか」


 シードは息をのみ、告白する。


「ああ。そうすれば瑛梁国は優先的に狙われずに済む。国民の不満も広まって、ますますパニックに陥るし、他の国もアリオンを狙っているから、俺たちが攻めようが攻めまいがアリオンは崩壊するって算段だ。けどよ、アリオン地方の現状知っているか?」


 そう聞いてきたシードにイノは「いえ」と首をふる。


「アリオン帝国は最早王都とその周辺ぐらいしか領地をもたない状況だ。その莫大な領土を求めて、いろんな国や他の大陸の奴等が奪い取ろうとしている。公に戦争になるのも時間の問題だろうな」

「……」

「でもよ、そのおかげで植民地の制度は強引になくなった。今が混沌と言われている世界大戦勃発寸前の中、それがいいかどうかはわからねーけどな」


 イノは黙って聞いていた。感情を示すこともなく、ただ、耳を傾けていた。


「でも、再び支配されそうな状況に陥っているんだよ」

「再び……?」


 シードは真剣な目で訴えるように、その名を言った。


「『バイロ連邦』だ。この先の時代を制するといっても過言じゃねぇ程の超大国でよ、アリオンどころか瑛梁も、他の植民地もそいつらの手に落ちるのも時間の問題だ。戦争もすぐに鎮圧するはずだ。そいつらの力によってな」


 シードは話し続ける。日はもうすぐで沈もうとしていた。


「それを催促するための技術がこの島にあるんだ。何もバイロ連邦だけじゃねぇ、この島の実在を知っている国も狙っている。古いものばっかりだけど、現代の科学力で再現すれば強大な新兵器になることは間違いねぇ。それを防ぐために、俺や機械野郎(あのガラクタ)がここにきているんだよ。メンバーは他にもいるけどな」


 シードは改めてイノを見る。イノの目は変わらず感情を示さない、また真剣なようにもみえる。


「……わかりました」

「おまえ眠たそうだな。世界情勢つまらんかおい。今起きてることだぞおい」


 べしっとイノの頭にチョップをかます。「起きてます」と言い返した。


「でも、こんな島にそんなものがあるんですか?」

「なかったら俺たちここに来てねーよ。それに、これは大事な任務なんだよ」

「どうしてですか?」


 シードは天体望遠鏡の椅子に座る。立ち話で疲れたのだろう。


「おまえ……話聞いてたか? この島には軍事的向上を図る技術と豊富な資源が宝みてぇに埋まっている。採掘はともかく、俺たちはそんな人を殺す為だけの兵器技術を利用するつもりはねぇが、それを狙う奴等を消していくより、その目的を消せば早い話だろってことだ。仮に俺たちの国が利用したとして、その技術を奪われたらおしまいだからな。なんならその技術がなくなればいいという割とバカなお国の考えだ」

「……」


廃島(フォルディール)の技術と資源を盗まれたら歴史的大敗北するだろうぜ。ま、どのみち戦争――世界大戦は免れられねぇだろうが、最悪の想定を避けるためにも、何が何でもバイロ連邦だけは阻止しねぇと……って聞けよおい」


「きいてますよー」と長話に飽きていたイノは木製のデスクに仰向けで寝っころがり日記の白紙のページをパラパラとめくっていた。


「聞いてねぇだろ絶対」

「……お」


 すると、最後の方のページに文字が書いてあった。絵はなく、文章だけだったが、字の幼さからしてこの日記の持ち主が書いたものだろう。十数ページ先に書いてある理由は分からなかったが、シードの言葉を無視したイノは読んでみた。


『――109のお日さま、12・22のお月さま

 目がいたいの。

 とってもいたいの。

 いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。

 息が上手にすえない。

 おいしゃさんおねがいなおしてください。

 目がぼやけてるの。はだがいたいの。

 わたしの病気もなおしてよ。

 ねぇ。


 ――110のお日さま、1・13のお月さま

 なにも見えない。

 まっくら。

 こわい。

 にっきちゃんとかけてるのかな。みえないからわからない。

 どうしてこんなことになったの?

 きいてもだれもこたえてくれない。

 みんないるの?

 だれかへんじしてよ』


「……」

 文字というには、あまりにもひどいものだった。クレヨンらしきなにかで書かれたそれは、殴り書きにしては筆圧が弱く、絵というには記号的だった。それでも、イノは読めることができた。

 ページをめくり続ける。いちばん最後のページを読んだ。


『――437のお日さま、7・7のお月さま

 きょうもおほしさまがみえない。まっくらのまま。

 みんないない。

 だれもいない。

 さびしいな。

 だれかこないかな。

 きづいてくれないかな。

 おひさまはまぶしすぎてなんにもみえないし、よるはまっくらでなんにもみえない。おつきさまもみえないよ。

 やさしくてらしてくれるひかりがほしいな。ひかりがみたい。おじいちゃんやみんなとみた、あのおほしさまのあかるいそらをもういちどみたいな』



 日記は今度こそそこで途絶えていた。

「おい、どうした」

 シードは天体望遠鏡の席から立ち上がり、イノの寝ているデスクへと歩む。すると、イノはノートをデスクに置き、よっと起き上がる。

 そして、シードの方を見ては微笑んだ。その不意打ちにシードはドキリとする。


「な、なんだよおい、なんか顔に付いてたか」

「……? あ、そういえばこの島に光るものってありますか?」


 顔に何もついていないことを確認したシードは、その問いに答える。


「光るもの? なんだよ突然」


 とは言いつつも、腰に手を当てて考え、そして答えた。


「まぁ光るものっつったらいろんなのあるけど『ルミナスの柱』っていう稀少鉱石が一番光るやつだろうな。ま、その鉱石は俺たちのチームの第二の目標だから、光る石探すなら、それを見つけてくれるとありが――」

「わかりました! じゃ、早速探しましょう!」

「え? ……あ、おい!」


 イノは張りきった様子で階段を下りていった。

「なんなんだよあいつ……」と呟き、その原動力であろう古ぼけた日記を手にし、ぱらぱらとめくる。

 しかし、「7・7のお月さま」の日付以降、1枚ずつめくっても最後まで特にこれといった文も文字も書いていなかった。前のページに戻るが、読めない以上、イノの行動のきっかけがわからなかったシードはノートを閉じ、展望台の椅子の上に置いた後、イノを追いかける。



(……あいつがいねぇ……)


 螺旋階段を軋ませ、下の階に降りるが、イノはともかく、ロボット姿のリトーの姿が忽然と消えていた。中枢はひとりの軍人の脳なので、図書館のどこかにいるだろうと思いつつ、シードは塔を出、エントランスへと向かった。窓を見ると、夕焼けは消え、仄かに明るい夜へと切り替わっていた。


(お、いたいた)


 1階に降り、半ば空いた正面玄関の先に機械鎧の姿が確認できた。

 シードは駈け、ドアを全開に開ける。


「おい! なんで勝手に外に出……」


 言おうとした言葉が詰まる。目の前の状況と相棒の雰囲気。それらを判断材料にし、そして、新たな言葉が浮かび出ては、吐き捨てた。


「……あんたら、どこの国の奴等だ」


 目の前には5人ほどの藍色と深緑色の混色されたデザインの武装兵と2mある3機の自律型二足ロボットが身に付けた黒色塗料の武器をこちらに向けていた。


「どこだろうと関係ない。君たちこそ、こんなところで何をしている。我々も疑うつもりはないが、その身に付けている金属と、その喋るロボットの搭載しているものが危険物である以上、警戒対象としてその身柄を拘束する」


「はっ、素直に情報吐かせるとか邪魔をするなら抹消するとか言えばいいものの」と余裕を浮かべる。だが、その目は警戒・臨戦態勢へと入っていた。


「シード、こいつら……」


 目のライトが緑から赤に切り替わっているリトーは前方にいる彼らと自律型の人型兵器に見覚えがあるようだ。というよりは、自律型兵器の右肩にプリントされているマークで知ったのだろう。

シードも同様、それを見て把握した。


「ああ、わかってらぁ。……バイロ連邦軍だ」


・バイロ連邦は「第6頁 野戦攻城 ―月夜に滾るは争いの血―」より関連

・アリオン地方と国王については「第18頁 それぞれの進むべき先へ」より関連

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