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神王伝史-GOD CHRONICLE-  作者: エージ/多部 栄次
第一章 風の旅立ち 水の都編
12/63

第11頁 野戦攻城 ー月夜に滾るは争いの血ー

「さぁて、準備はできたか?」

 廃墟に等しい『悲哀の獣の塔』の3階にデクトはいた。今は深夜の12時を過ぎている。夜の為、月明かりしか光の頼りがない塔の中、その階の中央は吹き抜けており、1階へと貫いていた。1階にはこの歴史観ある塔には不釣り合いな、最新の大型機械が幾つか設置されていた。

 周りには十数人の兵が待機しており、塔の周りも同様、警備を張るかのよ

うに数十の装甲兵がその塔を守っている。

「はい、あとは床に穴を空け、媒体を投下するだけです」

 ひとりの兵が言う。デクトはにやりと笑った。

「しっかし、まさかこの俺が直々に塔に来るとはな。仲立人ほかのやつらも呼んでおけばよかったか。まぁ、俺のものになるんだ。生みの親として見届けてやらねばな」

 デクトは塔の壁を見る。そこには縄で縛られたリードとエリナが身動きを取れずにいた。

「おい! さっさとこの縄ほどけ!」

 傷だらけのリードは身を動かし叫ぶ。しかし、どう動こうとも、きつく縛られた縄を緩めることはできなかった。

「少しは反省すると思ったがなぁ。折角の偉大なる瞬間を台無しにしないでほしいんだが」

 デクトはやれやれと呆れる。随分と悠々と余裕ぶっている。

「この塔で何をするつもりなの?」

 比較的落ち着いているエリナは訊く。

「それは見てのお楽しみだ。と言いたいところだが、生憎お前も関わっているからな。すべて話してやるよ」

 デクトはパイプを咥え、煙を吐く。

「俺が、いや俺らの会社がこの塔を売れと言い続けてきたのには理由があってな、どうしてもこの塔を手に入れなければならなかったんだよ。少なくとも、テメェの家を売られたって何の価値にもなんねぇからな」

「そんなにこの塔には価値があったのかよ」

 デクトの皮肉にリードは眉を寄せる。じろりとデクトは生意気な子供を見下した。

「勘違いしているようだが、金銭的な価値じゃねぇよクソガキ。軍事的な価値だ」

「でもこの塔には何も――」

「あるんだよこの地下深くにな!」

 デクトは決定づけるかのように怒鳴った。塔の中でデクトの声が反響する。

「あの一族の末裔と一緒に暮らしていたテメェなら知ってるだろ。大地の神が一度この地を滅ぼしたってな」

 それを聞いたエリナは心当たりがあったのか、顔を青ざめる。


「……っ、まさか、そんな……」

「あぁそのまさかだ! 密かに調査を続けてきた結果、この塔の真下の地中深くにその神と畏れられたバケモンがいるんだよ。それも化石とかじゃねぇ。卵があるんだ」

 おい、とデクトは言うと、傍にいた兵がなにやら書類をデクトに渡した。デクトはそれをパラパラとめくりながら、説明を続けた。

「正確にはまゆなんだが、この生物特有の成長過程があるらしくて、環境に合わせてそいつは皮膚を内部脱皮して卵殻、まぁ繭代わりになって、気圧、温度、日射量、卵殻外に生えている繊毛せんもうを触覚代わりに情報収集して己の遺伝子配列を変えるらしい。そして、その環境に適応した種へと変態する。場合によっちゃあ両生類のかえるよりも劇的な変貌を遂げられる」

「な、なんでそこまで知ってるんだよ。大昔のことなんだろ?」

 デクトはリードを見下し、鼻で笑う。

「はん、今の技術を見くびるなよ田舎者。なにもこいつ一匹だけじゃねぇ。どっかの大陸で同種の化石のひとつやふたつ手に入れてできるだけ復元してDNA調べれば一発だ」

 黙って聞いていたエリナは口を開く。「……その繭を掘り起こすのが目的なの?」

「ああそうだ。それを新しい軍事力として取り入れるんだよ。この先時代は荒れ狂う。世界各国で戦争が勃発するかもしれねぇ。そこでデクト財閥の最新兵器、そしてこの斬新な生物兵器を得、改良、増殖して軍事力、つまり財力の強い国を治めようってわけだ」

 デクトは力説する。興奮しているようにも感じられ、それだけこの生物に期待しているのがよくわかる。

「なにより交渉相手はあの"バイロ連邦"だ。この時代の中心になるであろう超大国のひとつ! この大船にのってりゃ嫌でも財力は上がる!」

 堪えた笑いが口から洩れる。その表情は嫌悪感を走らせる。

「財力財力って言うけど、そんなに財力って必要なのか?」

 すると、「はぁ?」とデクトは顔を歪ませ、リードの目の前に立つ。

「世の中なぁ、腐っても金なんだよ。愛だのなんだのほざく平和主義者もいれば、金は厭らしく汚いという奴までいるが、結局は金が無きゃあこの世界では生きていけない。そんな下らん幸福論はいらねぇんだよこの現実社会に!」

 デクトは両手を振るい、身体で説明を表している。小柄であるにもかかわらず、力強い声でひたすらに叫ぶように吐き捨てる。

「金がありゃあ権力だって土地だって軍事力だって医療だって手に入る。金で手に入らないものもあるとはいわせねぇぞ。金は万物だと思ってんのかよ、金を小汚いものでしか見てねぇくせによぉ。確かに金で買えんものはある。だが、金で買えるものの方が多いんだよ。愛とか友情とかの感情や時間とかは買えないだろって、当たり前だろ現実見とけやァ!」

 塔内に声が反響する。残響の後、デクトは冷静を取り戻し、咳を一つする。

「……と俺はそんな妄想信者に言ってやりたいもんだ。なにより、金は命より重い。これは何よりの事実だ。金のねぇ奴は権利をも奪われる。不自由なもんだよ」

「……」

 さて、話を戻そうと冷静に戻ったデクトはパイプを再び吸い、

「生物兵器となるそいつは何千年も続く生命維持の為仮死状態にある。乾眠ってやつだ。水分で生き返るんだが、大地震でも起きない限りそこに水が往き渡らないからよ、俺らが人工的に呼び起こそうとしているんだ」

「でも、呼び起したところでどうやって捕まえるの? 言うことを聞くとは限らないし、神話のような力はないかもしれないでしょ?」

 エリナの問いにデクトは「あっはっは」と笑いあげる。

「良~い質問だ。まず言っておこう。神話ではなく、記録としてこの土地で栄えた国を滅ぼしたのはその生物だというのは事実だ。そして、俺たちにはその神と畏れられる程の生物を操れる手段を既に用意してある」

 デクトは壁際の透明なボックスを持ち、ふたりの前に見せる。

 その箱の中には黒い石のような塊があった。月明かりに反射して、少しだけ紫色の光沢を放っていた。

「……石?」

 リードは目を凝らしてそれを見続ける。

 デクトは自慢するような表情で話し始める。

「こいつは鉱物かと思ったら大間違い。厳密には粘菌。生物だ。夜行性なんだが、この個体だけなんでか昼の状態にあるんだ。体内時計でも狂ったのか?」

 とデクトは冗談を言う。

「ま、これはどこにも見ない新種の菌だ。昼間はこのように石や壁のシミなどに擬態するんだが、夜になると活発化し、アメーバ体になり、植物や眠っている小動物の栄養分を吸収する。おかげで、このあたりはすっかりと腐食地帯となったがな」

「もしかして、幽霊塔の噂の正体って……この菌の仕業?」

「まぁ、妥当だな。しっかし、人まで襲って命を奪うまでに至るとは流石に驚いた。まぁこれにも訳はあるんだが」

「なんでなんだ?」

 次々とくる質問をデクトは丁寧に返答する。新兵器誕生の前に、機嫌がいいのだろう。

「はっきりしていることは、俺たちがこの菌を新兵器開発に利用する為に回収していることだ。仲間が減ったことでもっと数を増やさないとってこの菌は判断したんだろ。それで年々増殖し続けている」

「でも、この菌で兵器? 生物兵器とかの材料に使うのか?」

「れっきとした機械兵器の補助代わりだ。どうやら、この粘菌には母体がある様で、地表に出てきてんのは蜂でいう『ワーカー』ってやつだ。母体に栄養を届けるためにワーカーがこうやって養分を求めているんだろ。ほうら、おまえのすぐそこにそいつがいるぞ」

「え……ってうわぁっ!」

 リードは床に倒れ込む。リードのいた壁際には手と同じぐらいの大きさをした黒いアメーバがべたべたと壁を這うように活発に移動していた。

「リード君! 大丈夫!?」

「危うく餌になるところだったな。ハハハハハ」

「これがその菌かよ……き、気持ちわりぃ」

 悍ましいことこの上ない。今すぐここから逃げ出したかった。そうでなければこの菌に食われてしまうだろうとリードは無理に体を動かす。

「で、でも、これがどう関係しているの?」

「この菌の母体があの生物の繭に寄生してるってことが判明した。それだけじゃねぇ、この菌は無線電波みたいにマイクロサイズの胞子をレーザー状で飛ばして意思疎通していることも、個体の意志で神経や電気系統を菌糸で操作し、動物や機械を操れることも判明した。これでもう、わかるな?」

「……! そのカビを使って、逆に母体を操作するってこと?」

 勘づいたエリナの解答にデクトはにたりと歪んだ笑みを向ける。

「正~解だ。そうすれば母体が寄生しているその生物を操作できる。実験も成功している。確証ありだ」

 デクトはまたも大きく笑う。何が楽しいのか、リードは段々わからなくなっていた。どうかしている。ただそう感じた。

「てことは、おまえらは戦力を手に入れるためにこの塔の地下に眠るバケモノをその黒いカビを使って目覚めさせるって――」

「その通りだクソガキ。だが、それだけじゃあそのバケモノは目覚めねぇ。ある物質が要る」

 そう言ってポケットから取り出したのは赤い液体が入った小瓶だった。

「それは……?」

 エリナが聞くと、デクトはにたぁっと笑い、

「血だ」

「え……?」

 デクトは蓋を開け、透明の箱の中に入っている石の形をした個体の黒カビにその血をかけ、すぐに箱の蓋を閉めた。


 すると、その黒い石はたちまち溶け出し、アメーバ状になったが、動きが先程見た個体とは異なり、格段と移動力、というよりは攻撃的な動きに変わっている。

 ガタンガタンと箱を揺らし、横に倒れる。箱の蓋は開いてなかったので逃げ出すことはなかった。

「な……っ」

 リードはその現象を前に驚きを隠せなかった。エリナも同様だった。

「こいつは変わった生き物でな、ヘモグロビンによって酸素ではなく自身から微かに発生している独自の酵素と結合することで分子立体構造が変化するに伴い、酵素の基質親和性が変化し、酵素の働きが促進される。アロステリック促進といったか、まぁそれによって凶暴化と言わざるを得ない程に活発化するんだ。これなら、この菌にすっかり寄生されてしまったバケモノを呼び起こすのも不可能ではない」

 それはつまり、バケモノを凶暴化させるということ。ふたりはゾッとする。

「……っ、そんなことさせるかよ!」

「ほう? ならやってみろや。手足身体縛られているお前に何ができる」

 デクトはリードの腹部を蹴り、起き上がろうとしたリードを床へ倒す。

「リード君!」

「……あぁ、おまえらを連れてきた理由をまだ答えてなかったな」

 デクトは二人を見下し、パイプを吸って吐き捨てるように言った。

「地下のバケモノを呼び起こすための媒体にしようと思ってな」

「……っ!」

「嘘でしょ……」

「ははは、まぁ息を呑むほど驚くだろうな。死ねと言っているようなもんだからな」

「お……俺らの血で呼び起こす気なのかよ……っ」

 その声は震えていた。まだ齢十前後の少年にとって、それは無理もない話だ。

「人工で造ったヘモグロビンより人間の大量の新鮮な血の方が活力が上がると思ってな。あぁ、大丈夫だ。死因は事故にしておくから安心しろ」

「……そういう問題じゃねぇよ! ふざけんな!」

「うるせぇなぁガキって奴は」

「うぐっ」

 そう言って再びリードの腹部を蹴る。口から血の混じった唾液を吐き、リードはうずくまってしまった。

「黙ってりゃあ良いものを。少しはこの女を見習えってんだ」

「……」

「どうした? 死ぬのが怖いか? そりゃそうだろうなぁ、バケモノの一部になるんだから。ま、いいじゃねぇか、テメェの恋人にもうすぐ会えるんだからなぁ」

 そう言った途端、エリナはキッとデクトを睨んだ。

「……なんだその目は。文句あんのか?」

 癪に障ったのか、デクトは不愉快な顔になり、エリナの髪を鷲掴み、殴りつけようとしたときだった。


「社長!」

 下の階段からひとりの兵が駆け寄ってきた。息を切らしているのは、恐らく身に着けた装甲が重たいのだろう。

「……なんだ。トラブルか?」

 デクトはエリナを突き放す。

「いえ、森に誰かが入ってきたという報告が先程ありまして……」

「市民か? それとも役人か?」

「いえ、まだ特定は……」

「まぁいい、さっさと追い払え」

「はっ」

 兵がその場を去ろうとしたとき、もうひとりの兵がデクトのもとへ駈けてきた。

「社長! 侵入者です! こちらの警告を無視し、強行突破されました!」

 包囲網を張った兵も役に立たなかったのをデクトは歯を噛み締めるばかりだが、冷静に応えた。

「……誰が来た」

「はい、確か――」


       *


「我々の警告を無視したな! その上暴力を上げるとは!」

 十数人の装甲兵がふたりの人物に銃を向け怒鳴る。

 目の前には悲哀の獣の塔が月明かりに照らされていた。その姿は幽玄さを誇り、古き故の威厳を放っていた。しかし、その塔の周りには何十人もの装甲兵が銃や剣を構えている。

「あーあー、見ろ言わんこっちゃない」

 アウォードは苦笑し、数メートル先の前方で倒れている一人に兵を可哀想にと見る。

「赤髪ちゃんって見た目通り力あるんですね。あそこまで蹴り飛ばすなんて」

「これでも最近鍛えてない方だぜ? 大丈夫かよここの兵は」

 アウォードは溜息をつき、軽蔑の目で目の前の装甲兵を見る。

「どこの者だ! 名乗れ!」

「いやいつの時代だよその台詞」

 アウォードは再び苦笑する。

「ただの剣持った市民と旅人ですよ。そこ通りたいんですけどいいですか?」

 アウォードの傍にいたイノは銃を向けている兵へと近づく。

「う、動くな! これ以上近づけば撃つぞ!」

 と兵は警告するも、イノの歩む足は止まらない。

「……だから何度も言うけどな」

 アウォードは背負った錆びた大剣を抜刀し、イノの前に盾として構えた。同時に発砲された弾丸が大剣に被弾するも、カン、と簡単に弾かれる。

「銃ってもんを知らんのか死に急ぎ野郎が!」

「あっはは、いやぁ何度もすいません。ありがとうございます」

 アウォードは半ば怒っても、イノは呑気に笑う。

「だったら勝手な行動をするんじゃねぇ!」

「それにしても、こんなに集まって何をするんでしょうね。祭かな?」

 ふたりは目の前に広がる大勢の兵を見た。

「ふん、こんな物騒な祭りがあるかよ。けどまぁ、血祭には最適ってやつか」

 アウォードがニィッと歯を見せて笑ったとき、


「――おい! テメェらか! 侵入者っていう奴は!」

 塔の方から声が聞こえてきたので塔へ目を向けると、崩れかけて窓の様になった壁の空洞から装甲ではない、高級そうなスーツを着た小柄の中年男性が見えた。デクトだ。

「お、あいつが主犯か。……ん? よくみりゃデクト財閥の社長じゃねぇか。なんでこんなとこにいるんだよ」

 大剣を背にしまい、デクトを見る。

「……白髪頭の小僧に赤髪の男か……誰だが知らんが、こんな時間にこんなところに来てもらっちゃあこっちも困るんだよ。これから大事な用事がここで行われるんだ。できれば今す――」

「――エリナさんとリードを返してください」

 言葉を遮り、イノは言い放った。その目はまっすぐとデクトを見ていた。じろりとデクトはイノを見る。

「……なんだ小僧、そのふたりの知り合いか? ……あぁなんかクソガキが言ってたな、もう一人いるって。それがテメェってわけか。はん、テメェもまた随分と貧相だな。……で、そこにいる赤髪は何の用で来た」

「セコイ詐欺財閥のクソ社長の質問に答える筋合いはねぇよ」

 声を張り、塔にまで反響する。ここからの距離は少しあった。

 デクトの蟀谷こめかみに血管がうっすらと張る。

「随分と口が達者だなぁ。あぁそうだ、俺は器が広いからな。最後のチャンスをやろう」

「ああ言ってる時点でかなりの小心者だぞ」

「おお、なるほど」

 ふたりは周りに聞こえない程度に話した。

「おまえら二人に金をいくらでも払おう! だからここから立ち去ってほしいんだがね。さぁ、いくら欲しい」

 それを聞いた途端、アウォードは一瞬だけ呆然とした後、

「ハッ、なーにを言うかと思えば、金かよ結局。ある程度名の知れた社長も所詮こんなもんか」

 アウォードは救いようがないなと見下した目で苦笑した。

 だが、イノは目を輝かせて、

「マジですか! いくらでもいいんですか!」

「……おまえ、マジで言ってる?」

「だって、いくらでも払ってくれるんですよ? 遠慮してたら勿体ないじゃないですか」

「……まさかおまえがそういう奴だとは思いもしなかったぜ……」

 アウォードは片手で頭を抱え、これ以上ない程の呆れた目でイノを見る。

「はっはは! どうやらその白髪の小僧はこの話に乗ったようだな。それじゃ、森の入り口で手配させておくから、そこへ行ってくれないかね?」

「え、いまここで貰えないんですか? いますぐここで貰いたいです」

「大金を貰えるんだ、そのぐらいの条件は呑んでほしいがね」

「でも、僕ここから立ち去る気ないですよ」

 素朴に言った言葉がデクトの顔をぴくりと動かした。

「……は?」

「お金貰っても、僕は帰る気ないですよ」

「……? あぁ、そういう考えか」

 アウォードは小言で納得する。それは安堵にも例えられる。

「……話聞いてたのかおい、それだと交渉は成立しねぇぞ。馬鹿かお前」

「エリナさんとリードを助けるのを優先してますんで。まー、ついでに何か貰えたらよかったんですけど」

 デクトはイノの会話のペースに耐えきれず、言葉を挟む。


「……あぁそうかよ。そんだけなんか貰いたいんなら、銃弾でもくれてやるよ!」

 それを合図にデクトの持った銃から発砲音が轟く。すると、それが全兵への合図なのか、何十人もの兵がふたりに襲い掛かってくる。

「結局こうなるのかよ」

「話し合いで解決できればよかったんですけどね。あとお金――」

「バーカ、一端の財閥相手に俺たちみたいな庶民の説得が通じるかよ。でもま、やっぱ喧嘩は漢の華だな。腕が疼くぜ」

 そう言うと、アウォードは背中の大剣を抜刀し、片手でそれを地面へ突き刺す。刃は錆びてボロボロになっているので、土に刺さったというより重みで剣が埋まったように見て取れる。

「結構いるが……まぁ俺一人でなんとかなる。おまえは下がってろ」

 後ろにいるであろうイノに言ったあと、アウォードは大剣を片手で抜き、叫びながら前方を薙ぐ。

「うぉおおおおあああああ!」


 ドゴォン! と装甲がまとめて砕けるような粉砕音が響く。

 剣を構え、斬りかかろうとした数人の装甲兵は悲鳴を上げながら軽々しく前方へと吹き飛ばされる。

 剣で振り払う。その一撃は、その場の装甲兵を畏怖させるのに十分だった。

「おお、すごいですねー」

 人間が軽々しく吹き飛ぶ様に、イノは楽しそうな顔で感心する。

「ぎゃっはっは、やっぱ現役の時が一番だな。鍛冶ばっかりですっかりナマっちまった」

「な、なんだあいつ! ただの市民じゃないのか!?」

 兵の声を聞きながらアウォードは大剣をブゥンと片手で振り回し、肩に置く。

「おい、『罪狩り』って知ってるか?」

 アウォードは叫ぶようにその場の兵全員に、イノに、塔の中にいるデクトに問いかける。

「犯罪者を捕まえるために武力行使できる警察、というよりは自警団といってもいいか。所詮賞金稼ぎのようなもんだが」

「そんなのあるんですか」

「まぁ知らんのならそれでいい。あまりいい職じゃねぇからな」


     *


「っ、思い出した……!」

 ひとりの兵が呟く。その表情は真っ青だった。

「思い出したって……?」

「そもそも罪狩りってなんだよ」

 他の兵が訊く。その兵は怖れた声色で説明した。

「『罪狩り』は民間の私設軍隊だ。残虐すぎてまるで賊衆だがな。なんでも犯罪者の殺害を特別に許されている、非常に危険な組織さ。そんな罪狩りの中にも化物みたいに恐れられていた奴らがいたんだよ」

「ど、どんな……?」

「数年前、『罪狩り』内でも危険視された問題児がいて、そいつは大量殺人を何度も繰り返してきたんだ。罪人はおろか、善良な市民も見境なく皆殺し。そういう訳もあってその組織から外されたそうだが、まさか捕まってないとは思いもしねぇよ。話じゃ、あの大国レインガルの国軍の前線をたった一人で殲滅してきたほどだ。竜巻の様に兵を薙ぎ、戦車を大剣で叩き斬った逸話があるほどだ」

「そ、それが、あの傷だらけの赤髪の男か?」

「あぁ、確か名前は『アウォード・アルセンディア』。あの大剣の錆びは人の血によって酸化されたと聞くぞ」


     *


「うぉらぁあああああああッ!」

 ドゴン! と衝撃が轟く。その度装甲兵が悲鳴を上げ、数メートル吹き飛ばされる。

「ぎゃっははァ! こんなもんか雇われ兵はよォ!」

 近接戦では敵わないと知ったのか、装甲兵の群はいったん退き、銃を担いだ装甲兵に前線を張らせた。

「ま、正しい判断だな」

 発砲音とともに数発の銃弾が向かってくる。アウォードは大剣を前にかざし、盾として銃弾を防ぐ。巨大な剣なのでその盾はアウォードの大きな身体を覆う程だった。銃弾はいとも簡単に弾かれる。ただ、ちょっとした振動が握った柄を通じて手に伝わるのみ。

 兵は銃弾でも効かないと判断し、今度は迫撃砲を向け、砲弾を放つ。

「おいおい、こんなとこで戦争でもやるつもりだったのかよっ!」

 アウォードは大剣を地面に突き刺し、身を構える。

 ドガァン! と被弾し、爆発するも、アウォードは爆撃に堪え、吹き飛ばず、その錆びた大剣も傷一つ付かなかった。

「バ、バケモンかよあの男! それにあの剣もただの鉄じゃねぇぞ!」

「ぎゃっはは」と笑いながらアウォードは大剣を見せつけるように前にかざす。

「そんじょそこらで造った剣と思うなよ。素材も工程もわざわざ選んで丹精込めて造った俺の相棒だ。切れ味も耐久も重さも生半可じゃねぇ。刃が錆びても鉄鎧ぐらいなんてことはねぇよ。忙しくてろくに剣の手入れができなかったが、おまえら救われたな。テメェの身体ぶった斬られずに済むから……よぉ!」

 迫撃砲を叩き壊し、大剣を振り上げて兵ごとその重兵器を斬り飛ばした。悲鳴が夜空の虚空へと響いていく。

「どんどん行くぜぇ、覚悟しな軟弱共ォ!」

 百キロは越えているであろうその巨大な剣の重さでも軽々しく振り、鋼鉄の装甲を砕きながら一気に何人もの兵を薙ぎ飛ばしている様は鬼の様であった。

「ぎゃっはっは! もう少し歯ごたえのある奴ぁいねぇのかァ!」

 赤虎はその血を滾らせ、赤く錆びたその牙で獲物を食い荒らしていく。


     *


「……おい!」

 ひとりの装甲兵が話す。

「なんだ! こんなときに!」

「ここに来たの二人だよな! もう一人は何処にいる!」

「……」

 しかし、辺りを見回しても、そのもうひとりの姿は見当たらない。

「……どこいった?」


       *


「……くそ、まさかこの街にアウォードがいたとはな。『罪狩り』を辞めたとはいえ、実力は健在か」

 塔の三階の壁の崩れた場所からデクトは眼下の戦況を眺望していたが、その顔は苦虫を噛み潰したかのようだった。

「道理で見たことあるやつだと思ったわい。おい、急げ! さっさと準備にとりかかるぞ」

「――なにをするんですか?」

「……っ、うおっ!」

 デクトは背後からの声に驚き、危うく転びかける。その場にいた十数人の装甲兵も驚く。

 月明かりの夜空を背後に、崩れた壁の傍には白髪の旅人が立っていた。

「イノ!」

 エリナは泣きそうで、しかし嬉しそうな表情でその名を叫ぶように呼んだ。リードは驚き、唖然としている。

「どうやってここまで来た! あの大勢の兵の中、どうやってかいくぐってきた!」

「リードとエリナさんを返してください」

 デクトの詰問に答えず、イノは用件をただ言った。口調は、相変わらずのんびりとしているものだった。

「ハッ、まだ言うか。いい加減言葉で言っても通じないってことぐらい理解しな!」

「え、でもこの言語以外喋れま――」

「そういう意味じゃねぇ! 何言っても無駄だってことだ!」

「……じゃあどうしましょ」

 イノはう~んと悩む。デクトは「なんだこいつは?」と拍子抜けのようだ。


「イノ……おまえなんで来たんだよ!」

 そう叫んだのはリードだった。顔も体も傷だらけで、痛々しい姿だったが、その瞳は依然と変わらぬ輝きを放っていた。イノは縛られているリードの方へ顔を向けた。

「リード、僕よりも強くなってみせるんじゃなかったんですか?」

「う、うるさい!」

「でも、護ってくれましたね」

 にっこりとほほ笑む。それは、この場ではあまりにも不釣り合いなほど、穏やかな巧笑だった。

「……何をだよ。俺こうやって捕まってるんだぞ」

「エリナさんを必死に守っていたんじゃなかったんですか?」

「え……」

 まるでその場を見ていたかのような台詞にリードは驚く。

「床に血があったんです。見ていなくてもその姿を見れば、リードが必死にエリナさんを守ろうとしたってことぐらいわかりますよ」

「……でも、俺は……」

「そういえば、リードに言い忘れていたことがありました。世の中どうにもならないこともあります。エリナさんの借金だって、死んでしまったフィルさんに会えることだって、この世界じゃどうにもなりません」

 イノは一歩前へと進む。そして、睨むように、だが慰めるように、まっすぐとその紅い瞳でリードの瞳を見る。

「でも……だからといって諦めるだなんて僕は一言も言っていない」

「え……」

 しかし、イノはリードにこれ以上言うことなく、デクトと装甲兵に話しかける。

「リードとエリナさんを傷つけたのは君たちですか」

 イノは数歩進む。ゆっくりと前へ踏み出す。黒いコートが吹き込んだ風でばさりとはためく。

「僕は別に殴られたって蹴られたって、馬鹿にされて唾を吐かれたって、事が済むならなんだっていいんです。でも、どんな理由であれ……」

 月光に照らされ、輝く白髪越しの紅い眼がぎらつく。凛としたその表情はさっきまでの表情とは打って異なり、紅蓮に輝く瞳は炎のように熱く、しかし氷のように凍てつくそれだった。

 姿は同じであれ、その中身はまるで別人だった。


「――仲間を傷つける奴は決して許さない」

 イノは叫ぶように、しかし静かな声で言い放った。

 覇気が籠る。畏怖あるその声はここにいるすべての者を怯ませる。

 その威圧ある静寂を最初に破ったのはデクトの声だった。

「はっ、これが友情ってやつか。素晴らしい名台詞はいいんだが、それがこの兵力の前で通用するのか?」

 デクトの前に二十人以上の装甲兵が剣や銃を構えてイノの前に立ちふさがる。

「……」

「イノ! 逃げて!」

 エリナは必死の思いで叫ぶ。

「っ、イノ! おい! やめてくれ! イノは関係ないだろ!」

 しかし、リードの声はデクトの耳には入らない。デクトの表情には余裕があった。

「武器一つ持ってない、特に力もなさそうなおまえに何ができる! 何事にも首突っ込んじゃいけねぇってことを思い知るんだな!」

 デクトはそう言い残し、数人の兵にエリナとリードを引きつれるよう指示し、共に奥へと向かおうとする。同時に、二十人越えの装甲兵の銃から一斉に火を噴く。

「――っ!」

「――やめろぉぉぉぉぉっ!」


 悲痛の声が塔内で響き渡る。

 だが、


「……え?」

 数人の兵が唖然と目の前の人物をみた。

 パァン! と破裂音が塔内で轟くが、それは発砲音とは異なるものだった。

 そして、撃たれたはずの白髪の旅人は倒れていないどころか、血を流してすらいない。誰がどう見ても無傷だった。右腕で何かを薙ぐように打ち払ったモーションに、不可解に感じた一同は一瞬だけ動作を停止した。

「何が起きた……? いや、とにかく撃て!」

 兵の合図とともに今度は乱射を仕掛ける。

 先程は一度の一斉射撃でわからなかったが、数秒も続く連射により、その場の兵は更に衝撃を受けただろう。

「こいつ……っ! 銃弾を手で弾いてんのか!?」

 自分へ向かってくる銃弾をことごとくその白く細い少女のような素手で弾いている。否、弾くというより、その細い指で銃弾の流れを変え、銃弾の速度を格段に落としている。その銃弾は空いた壁の外へと流し出され、夜空の虚空へと消えていく。

 その目にも留まらぬ手さばきは誰もが驚く。

「砲撃部隊! 撃て!」

 用意した3台の携帯式戦車砲が一斉に徹甲弾を撃つ。

 しかし、ふたつの砲弾はその各々の手で受け止められ、あとの一発は腹部に被弾する。しかし、それは爆発することなく、まるでクッションのように受け止められた。

「……え?」

 再び唖然とする。

 デクトも異変に気づき、運ぶ足を止め、その様子を見る。しかし、数多くいる兵でイノの生死がわからないままだった。エリナとリードを担いだ装甲兵は先へと向かい、その他の兵はデクトと共に立ち止まる。

「対戦車砲だぞ!? なんだあいつは!」

「こうなったら取り押さえるぞ!」

 全兵が槍や剣を構え、イノに襲い掛かる。

 イノは砲弾をすべて石床に置き、前方を見てニッと笑った瞬間、

「……っ、消えた!?」

「どこいった!」

 突如消えた旅人を十数人の装甲兵は探す。だが、風どころか、物音ひとつすらしなかった。

「ここですよ~」

「!」

 兵が見たものは、雇い主であるデクトがイノに捕まっている瞬間だった。

「は、放せ! 俺を誰だと思ってやがる!」

 羽交い絞めにされ、デクトはじたばたと暴れている。

「え~とですね、中年男性の人間って思ってますよ」

「くそ、どこまでも舐めやがって……!」

 淡々と言ったイノを背に、デクトの顔は怒りで歪んでいたが、半ば恐怖心も含まれていた。

「あいつ、社長を盾に……っ」

 突然の形勢逆転。兵全員はデクトを人質にとっているイノに銃口を向ける。

「お、おい! 撃つんじゃないぞ!」

 デクトは脂汗を額に滲ませる。かなり焦っている様子だったが、力が意外と強く、びくとも抵抗できない。

「捕まえたはいいけど、このあとどうしよう。社長さん、どうすればいいですか?」

 イノの問いにデクトは答えず、ただこの生死を分かつであろう状況に脅えていた。

「……っ! メリック!」

 デクトが叫ぶと、イノの首筋に冷たい感覚が走る。

「ぅわっと!」

 そう感じた瞬間にイノはデクトから離れ、床を転がった。立ち上がって相手を確認しようとしたとき、眼前に刃が迫ってきていた。

「わわわっ」

 イノは背中を反らし、突きつけられた刃の先端を避ける。しかし、その脚を強く蹴られ、イノは一瞬宙に浮かぶ。その隙を突き、刃がイノの喉元へ振り落とされる。

「いょっと」

 しかしイノは空中でありながらも身体を捻じらせ、体勢を変えたおかげで間一髪、その突きを避けることができた。捻った体勢をそのまま生かし、床に着地する。

「ふぅ、危なかっ……てうわっ」

 再び刃が眼前に襲い掛かる。イノは後方へ下がるが、ふたつの刃はヒュンヒュンヒュンと攻め続け、まるで無数の鎌鼬かまいたちが襲い掛かっているようだった。

 イノは相手の下へもぐりこみ、身体を転がし、反対側へ移動する。距離を取ったイノは頭を掻く。

「いやぁ~人にしては速いですねー。誰ですか?」

 全身を黒衣で纏い、鉄製の何のデザインも施してない鉄板に褶曲をつけただけの仮面を被った男は両手の五十センチほどの短剣をくるくると巧みに振り回す。

「……」

「あり、無言ですか」

 イノは少し頬を指で掻き、うーん、と何かを考えた後、

「無言で静かだし、名前は"しずかちゃん"でいいですか?」

「……」

 それでも、黒衣の男は黙ったまま。


「よし、後は頼んだぞ! 5人ぐらいの兵は俺についてこい! 残りはそいつを始末しとけ!」

 デクトはそう言い残し、人質二人を連れて奥へと消えていった。

「あ、ちょ、待って下さ――」

 空を切る音が耳元で響く。イノの頬が短剣の切っ先に掠り、傷ができる。

 イノの前にメリックと呼ばれた黒衣の男が道を塞ぐ。

「参ったな、正直動きたくないんで見過ごしてほしいんですけど……やっぱだめですか」

 イノは頬の傷をさすりながらじりじりと近づく装甲兵たちとメリックと呼ばれた黒衣の仮面男を見眺める。

「……よし!」

 イノはにっと笑い、肩を回す。頬の傷は塞がっていた。

「久しぶりにちょいと暴れますか!」

 と言った同時にメリックを除く全兵が武器を構え、駆け出した。

 振り落とされた剣をするりと避け、その剣を持った手を掴み、くるっと回す。

「っ! うぉあ!」

 その兵はいとも簡単に宙を舞い、円弧を描き、ガシャンと装甲の鎧の音を荒く立てながら床に叩きつけられる。

「よっと」

「うぐっ!」

 他の兵もあっさりと宙返りし、背中から床へ叩きつけられる。

「うおおおおお!」

 槍を持った兵が勢いよく突進するも、イノはするりと躱し、その槍をすぽんと引き抜き、その兵を持った槍の柄で背中に一撃を与える。その兵は床を滑るように身体を何度もバウンドし、壁にガンとぶつかる。

「ありゃ、ちょっと強かったかな?」

 あらら、とイノは意外そうな目で叩き飛ばされた兵を見た。

「まぁ大丈夫か」

 次々とイノに襲い掛かるも、ひざ裏を蹴られたり、重心を崩されたりして、兵は無傷でありながらも身体を投げとばされたり、倒されたりし、床に転がる。


「な、何が起きてるんだ……?」

「あの装甲も含めて、重さは100越えてるはずだぞ!」

「何故あんな簡単に投げ飛ばされてるんだ? 何者なんだあの白髪頭は」

 デクトの護衛としてついている数人の装甲兵は同胞が逆にやられている姿を見て驚愕の声を漏らしていた。

「……合気道、か?」

 少し様子を見ていたひとりの兵は予想外の状況に最初は戸惑っていたが、直に冷静を取り戻し、分析を行っていた。

 合気道とは、相手の呼吸と自分の呼吸を一致させ、相手の重心を流す、武術の一種。一説では、相手を傷つけない、護る武道として記されている。

 イノの場合、合気道というにはあまりにも違う型だが、なんにせよ、床に倒すだけでは敵は減らない。

 倒された装甲兵は立ち上がり、再び襲いかかる。


「う~ん、やっぱり倒すだけじゃキリないか」

 イノはそう言い、今度は兵のうなじを手刀で軽い感じで叩く。

すると叩かれた兵は気を失い、ガシャン、と倒れる。よく見ると、首を覆う装甲にヒビが入っていた。

 トスン、トスン、トスン、と四方八方から襲い掛かる刃を切り抜け、イノは次々と相手のうなじ、つまり延髄に衝撃を入れ、気絶させていく。

 背後から兵が剣を振り上げる。しかし、イノはそれに勘付き、くるりと振り向きざまにデコピンを相手の額に当てる。

「うごぁ!」

 とてもデコピンを当てられたとは思えない程の叫びと装甲の振動音が響き、その兵は後ろに倒れ、気を失った。

「よし、これで全員!」

 イノは「にひひ」と笑う。さっきまでの騒動はなんだったのか、今はすっかりと静寂を迎えていた。イノの足元には気を失っている二十人以上の装甲兵が倒れていた。

「……」

 壁に背もたれていたメリックは腕を組んでおり、ただこの状況を見ていた。

 そして、両袖からサバイバルナイフのようなものを出し、くるくると回し、手に持った。

 イノは上着の黒いコートを脱ぎ、丸めて壁際へ投げる。白いカッターシャツの袖を捲る。

 白く華奢な腕を見せたイノは、屈伸や伸脚といった準備運動をする。

 そして、骨の鳴らない首を一回まわし、

「さてと、もういっちょいきますか!」

 白髪の旅人は紅い眼を輝かせ、楽しそうに笑う。

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