この闘いが終わったら
お久しぶりです
お便りをもらいました・・・更新なんてすっかり忘れてました
ホント すみません
前回までのあらすじ
ラーズは山へ『ドラゴンの主』退治に……ファイレやスイロウなどの村人一団は国に戦争を吹っかけられる。
『ドラゴンの主』はウィローズでラーズをボッコボコに殴り飛ばして大ピンチ
村は善戦していたが国にいた獣人たちを処刑されてしまった。
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知識を持つ剣ゼディスはどこかに転がり俺の手元にない。骨の大部分は折れている。体のあちこちに深い傷があり、血液もだいぶ失っている。生きながらえているのは古竜の力を有したおかげでしかない。だが、その力をもってしてもドラゴンの主・神殺しの龍・ウィローズには全く届かない。
ウィローズを剣で切り付けたとき、明らかに当たっていたがすり抜けた。まるで空振りしたのではないかと思うほど手ごたえが無く、逆に相手の攻撃はこちらに当たる。
一方的に攻撃される展開。
彼女の一撃は木々を粉々にし山の形も変える。現在の地形はほぼ真っ平らだが、もとは山や林があった魔界の一角だったはずの場所だ。
回復魔法はゼディスが使えたのだが手元になく、古竜の治療法で骨を強引に繋ぐ。魔力を針にして骨の神経にブッ刺し折れた部分を補う。一つ骨を繋げるだけで意識が飛びそうになるほどの苦痛だがそんなことも言っていられない。そうやって何とか立ち上がる。
「もう、やめておけ。大人しく死んだ方が楽だぞ」
「はじめはさー」
「?」
「はじめは『ドラゴンの主』を殺そうと思っていたんだ。ファイレとの約束で世界にドラゴンを降らせる悪い奴は俺が懲らしめてやる……って子供の時そう言ったんだ」
「それがオヌシらのはじまり……か」
「でも、ウィローズだった」
「それがどうした?」
「想像とまるっきり違ったよ。悪い奴じゃなかった。それに神様の許可というか名目で行った行為だった」
「命乞いか?」
「まさか……」
そこで一つ溜め息を吐く。深呼吸かもしれない。どちらだかラーズ自身も区別はつかない。ウィローズと会話をしているのだが、ラーズの瞳にはウィローズは映っていない。過去の出来事を思い出し、ウィローズのことを考えている。
「オヌシは何故、他人のことを考える。強き者でも『自分の仲間さえ幸せならそれでいい』という人間が山ほどいるというのに……」
「俺はそれが許せない。王に生まれたなら王としての義務があるのに『不自由だ』と逃げ出す。勇者だと召喚されたのに『気ままに生きたい』と旅に出る……そのせいで俺やファイレみたいな孤児や、本来死ななくてもいい人間が死ぬことになるとも知らずにやりたい放題。だから、誰かがその分を埋め合わせしなければ人間は死んでいく。その『誰か』は待っていても現れない、それなら自分でやるべきだ。やらない人間が王や勇者をとやかく言う権利すらないだろうから、俺は俺が出来る最大まで手を尽くすことにしている。自由や気ままな生活なんていらない。一人でも多くの誰かを救いたい」
「救いたいと思う人間が王族でもなく勇者でもない。ましてや才能すら持っていない。そのためにお前の師匠は……」
「どんな犠牲も厭わない。誰かが自分の周りを幸せにするためだけに生きているなら、全てを犠牲にしないといけない人間が出てくるのは当たり前だ」
「そのためにファイレやスイロウ、ガイアル達が犠牲になっても構わないというのか?」
「出来れば幸せにする……が、知らない誰かの後だ。知らない誰かを救うためならファイレ達でも生贄になってもらう!」
「その道は破滅しか残らんぞ」
「本来なら王や勇者がこの道なんだ。彼らの代わりなら致し方ないだろ」
「奴らには力があり才能がある。上手くいけば最高の道を見つけられる奴らじゃ」
「だが、彼らは動かなかった。だから最高の道を見つけられない俺がやってんじゃねーかよ」
折れて魔力で固定している腕を地面に叩きつける。古竜の力で地面に亀裂が入る。この力をもってしてもウィローズには触れることすらできない。戦いにすらならない。みんなの為に努力してきたはずなのに、才能のない自分では手に届かない存在なのだ。
「……クロネコ、シャーリ……両師匠以外のもう一人の師匠のことを言っておるんじゃな? 彼なら色々な場面を覆すことが出来たはず。勇者としての力を持っていると確信しておるんじゃろ? だが、アヤツはお前たちを修行するだけで世界の人々のことを考えなかった。それを目の前で見せられ、自分が何とかしなければ……子供心にそう思い育ってきた。三つ子の魂百まで……というわけか」
ラーズには三人の師匠がいた。
黒猫のクロネコ師匠、ゴーレムのシャーリー師匠……そして異世界の住人・カンザキ師匠。
神様に召喚されたカンザキは武術の達人でこの世界ではイレギュラーな能力を使う。さらに異世界の技術を持ちその力は神殺しの龍に引けを取らない。ただし、見た目は子供という欠点はある。
そのカンザキは神殺しの龍と一度闘っただけで、その後戦うことはないとラーズに言っていた。
退ける力があるのに使わない。そのために起こった大惨事だとラーズは思った。自分の両親もファイレの家族も……村人も国も世界も……ひょっとしたら、もっと多くの人の命を救えたかもしれないのに彼はそうしなかった。ただ、罪悪感からか財宝目当てか知らないが多くのドラゴンを狩っていることは間違いない。
「でも、ウィローズは悪じゃなかった。後悔しているんじゃないか? 人間を苦しめたことを……。だから、反省して人間たちと共に暮らせるように……いや、俺たちと一緒にいて欲しいと思った」
「儂にオヌシの手伝いをしろと?」
「……むしろ、逆だな」
「逆じゃと?」
「反省したウィローズの力になりたいのかもしれない……この世界で力を発揮してはいけない神と神殺しの龍の為に代りに俺たちが力を使ってやりたい」
「……それは勘違いじゃ。儂は後悔なんぞしとりゃーせんよ」
「あんなに人を苦しめたのにか? それはないな。俺が知っているウィローズならドラゴンに襲われる人を放っておけないだろう。ただ直接、力を発揮できないだけだ」
「ラーズ、勘違いだ。何もかも間違っておる。たしかに儂は人間たちが苦しむ姿が見たくはない」
「なら!」
「だが、そうなったのは儂がドラゴンを出現させたからではなく、お前たち人間が選んだ選択だ」
「何を言ってるんだ? ドラゴンが出現したから人間が苦しむ結果に……」
「そう、それこそが勘違いだと言っておる。なぜ、ドラゴンが出現すっると人間が苦しむことになる」
「見たまんまだろ! ドラゴンが暴れ人々が苦しむ」
「……ドラゴンはそもそもこの世界の住人だ。この地にいるべき存在なのじゃ。ましてや元々、魔界に住む獣人族が地上に住むなら先にドラゴンの方が住むべきなのじゃ」
「話が飲み込めなくなってきた。ドラゴンはウィローズが出したんだろ? この世界の住人?」
「転生者の話は知っておるな? そやつのせいで超古代魔法文明時代、ドラゴンは人間どもに狩られる存在になった。絶滅すら免れぬと考え儂はドラゴンたちを封印しその身を隠したのじゃ。だが、封印を解くタイミングは失われることになる。当然じゃな。魔族も人間もドラゴンの存在は邪魔じゃからな。善神も邪神もドラゴンの復活は認めなかったわけじゃ」
「なら、なぜ今……」
「それが獣人が人間の……地上の一族に加わるという協定が、善・邪神に交わされたからじゃ。獣人より先に戻るべき存在・それこそがドラゴン族。儂は彼らをようやく地上に戻してやることができたわけじゃ。当然、彼らは人間を恨んでおる、じゃがそれは自業自得というモノであろう? 彼らは封印されてから時間が凍結したままじゃ。人間たちが自分たちを狩ろうとしていたのは昨日の出来事のようにすら思っておるのじゃ」
「それがわかっていながらウィローズは封印を解いたのか!」
「じゃぁ、いつ封印を解く!?」
「ぐっ!」
言葉に詰まる。
いつまでも封印していてほしいと思うが、それは人間のエゴに過ぎない。ウィローズは神殺しの龍、すなわちドラゴンである。ドラゴンの味方をするのは至極当然。とやかく言われる筋合いはない。
そもそも、人間がドラゴンを狩ろうなどと考えなければ起きなかった惨劇だった。言葉が出るわけもない。
「なぜ、ドラゴンの主が悪だと思った。ドラゴンに家族が殺されただろうが、ドラゴンもまた人間に殺されておる。ラーズ、お前が取るべき行動は儂を倒すのではなく、また反省を促すことでもなかったのじゃ。まず、ドラゴンと対話するべきじゃった」
「対話……だって? ドラゴンと話し合えるというのか!? 家族を、町を破壊する奴らが!」
「……クックック……。オヌシはホントにマヌケじゃな」
ウィローズは頭を抑えて笑った。憐みさえ感じるラーズを馬鹿にした笑いだった。
だが、ラーズは腹が立つことは無かった。何か見落としている……咄嗟にそう感じ、ウィローズに目だけでその真意を問うた。
「オヌシ、今、何の力を使って儂と戦っておったのじゃ?」
「知識を持つ剣……」
「それと?」
「それと……古竜の力……」
「そうじゃ、すでに古竜とは話し合っておる。さらに力まで借りておるのじゃ。なのに何故、他のドラゴンとは話し合いにならないと思う? 試みたことすらあるまい、愚か者め!
たしかに儂は人間が苦しむ姿に心を痛めもする、だが、それは人間自身が招いた結果だと思っておる。人間がドラゴンの生命を脅かし、話合おうともしない己ら自身の業というものじゃ。
儂を倒す? 儂の力になる? 何をトンチンカンなことをぬかしておる!
真実も探さぬまま己の正義で物事を語るなど片腹痛いわ!」
ラーズの力が抜け膝から崩れ落ちる。
才能もないのに、努力して、努力して、努力して、仲間の力をフルに使ってようやくたどり着いた場所が間違っていた。
知らないみんなを助けたくて頑張ってきた。だが、完全に見落としていた。ドラゴンが本当に悪だったのかどうか……。
ウィローズと戦って彼女のせいではないと気づきはしたが、それでもドラゴンは悪だと思っていた。なぜ、自分はドラゴンと話し合おうと考え付きもしなかったのだろうか?
考えるのをやめた。
ウィローズに負け、さらに自分に正義はなかったのだ。あとは彼女に殺されるのを待つだけだ。
「俺の負けだ……なにもかも……」
「言われずとも知っておる」
「罪のないウィローズに酷いことをした」
「そうじゃな」
「好きにしてくれ……もう……疲れた……」
今まで生きてきた人生すべてが間違いだった。ドラゴンの主を倒す意味なんてなかった。
「遺言はあるか?」
「……なにも……いや、ファイレにあったら謝っておいてくれ」
「よいのか、ファイレ達の元に戻らなくても?」
「よくはない、が、仕方ないさ……」
ウィローズに対し逆恨みもいいところだな、と苦笑しながらその場に倒れ込む。もう、指一本動かす気力すらない。
もし、戦う力が十分あったとしても戦う理由すらない。むしろ彼女を襲った罪を償なわなければならない。抵抗する気はまるでなかった。
ただ、どうすることが正解だったのか考えていた。おそらく正解なんてない。だが、カンザキ師匠がやっていることが正解に近いのではないだろうかと薄ぼんやりと考えていた。
そして、暗転の世界へと堕ちていった……
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一方、村では夜間に会議が開かれていた。
現状、こちらが有利に見えるのだが、それが良くなかった。こちらも余裕が無ければ他人をかまってる暇もないのだが、人質の獣人を殺害していく相手の手法で士気は落ちている。
それに一見、こちらが有利に見えているだけだと気づいている者は何人いるのだろうかとアルビウスは頭を悩ませる。
死者数で言えばこちらは一割未満、相手は三割以上の被害であろう。しかし、こちらの一割の被害は全員 兵士である。村人は戦闘にまだ参加していない。最終的には総力戦になるのは目に見えている。そもそも、簡易砦があるにしても二千対一万じゃ話にならない。
さらに相手には死人使いがいる。死者は敵味方関係なく相手の駒になる。
こちらの物資はジリ貧。相手は王国から補給が出来る。
ようするに、どこかで博打を打って頭を叩く以外、方法は無いのである。それも早急に!
時間がたてばたつほど兵力は減っていくし、士気も落ちる。
そういう点を鑑みて会議が開かれている。
残念なことにこの場にはファイレはいない。
人質の獣人救出を主張するあまり牢獄に一時的に放り込まれている状況だ。すぐに出すには体裁が悪すぎる。
四角いテーブルの一番の上座にアルビウスが座る。本来ならラーズを据え横に立ちたいところだが、あまり気にしている暇もない。それに、そんな些細なことを気にしている者もいない。
意外と全員、今の危機的状況を理解しているようだ。
口火を切ったのは隻眼のウサギの獣人・アネッサだった。狼の獣人・テーラーは彼女に言葉を譲ると言わんばかりに目を瞑って腕組みをしている。
「ぶっちゃけ、もう保たんだろ。一点突破の総力戦で相手の頭、もぎ取りに行かねーと……」
机に足をかけゆりかごのように椅子を揺する。
傭兵家業が長いせいか勝ち負けに関する嗅覚が二人とも強いようだ。もっといえば、勝ちが紙のように薄いことにも気づいているのかもしれない。
元・貴族の娘 兼 騎士・アンジェラが溜め息を吐く。
「こちらは村人含めおよそ二千人、相手はゾンビ含め一万強。それに宮廷魔術師・英雄・私たちの父親の将軍までの揃い踏み。どこを突破していいのかすらわかりませんわ」
両手を上げてお手上げ状態ということを示す。彼女の兄・アルーゾもため息交じりだ。宮廷魔術師と英雄・トールについては話以上のことは知らないが、将軍は実の父なのでその強さを重々知っている。二人がかりでも一度も勝利したことは無いらしい。下手すれば他の兄弟とも一戦交えることになりかねない。どの兄弟も実力者で相手したくないレベルらしい。
商人・セリナーゼは役目無し。それまでに物資の調達はしたが今は村から出ることもままならない。扇子を片手に作戦会議を傍観しているしかない。
サズ神官は意見は無い。沈痛な面持ちで会議に出席しているが基本的には裏方。兵士の傷を治すのが仕事となっている。ちなみに大地神・第一位司祭ビギヌス高司祭はどこかに雲隠れ。美術品をもって夜逃げ説が濃厚となっている。
ドワーフのガイアルとサズ神官はネクロマンサーに対する手札である。
呑気なエルフのデスラベルは見張りを買って出て『結果だけ報告おねがーい!』といって会議に出席していない。ひょっとしたら近々 総力戦になることを見越しているのかもしれない。
ファイレと葉弓は牢獄の中、ファイレはともかく葉弓は使い物にならない。ラーズのためなら何でもしそうだが、ラーズのいない状況で彼女の手綱を引くのは無理がある。
アルビウスは思案する。
ここが正念場だろうと……。ただ、国にいるバーグルド情報大臣の考えが読めない。おそらくここまでは彼の手の平の上だろう。下手をすればどっちが勝ってもいいと思っているかもしれない。
その辺は打つ手なしか、と諦めるしかない。今は目の前の戦いに生き延びるしかない。
「では、作戦を説明します。
ご期待通りに総力戦です。主力本体戦は当然アネットとテーラーの部隊。右翼であろう将軍にはアルーゾ兄妹の部隊。左翼であろうゾンビおよび宮廷魔術師にはガイアルとサズ神官部隊。初弾の弓矢、魔法部隊を率いるのはデスラベル。おそらく相手はバガーズ伯爵になると思います。セリナーゼは後方、サズ神官の代わりを果たしてもらいます。
おそらくですが、ラーズが戻ってくる可能性は低いでしょうし、役にも立たないと思われます。まぁ、この闘いが終わったらマッサージ係ということで……」
少しだけ和やかな雰囲気が生まれる。
水を差すようにセリナーゼが挙手する。
「まだ、名前が挙がっておらん人がおりますが、彼女らのお役目はいかがなさるおつもりどすかぁ?」
「ファイレはその場で判断。葉弓は使えないでしょう」
「いえ、その二人でなく、もう一人……」
あぁ、彼女のことを言っているのか……。
アルビウスはすでに動いているであろうスイロウのことを思い浮かべていた。
次回はいつになるか分かりません
前回『一か月後』みたいに言ってブッチギリましたからね・・・
また忘れられたころに更新したいと思います
もっと早く更新しろ?
そうですね 全くその通りです
頑張ります




