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82話 交じり合わない線と線

「ウィローズ……」


 金銀財宝の山の上に座っている幼女はウィローズだった。


「二つに一つじゃ。

 すぐに帰り戦争から村を救う。今のラーズならかなりの戦力じゃ。相手は1~2万相手に2千強の村人。オヌシがいかなければ、結果は見えておるぞ?

 そして、もう一つは『ドラゴンの主』である儂と戦うこと。もっとも、儂は何時何処にいるかわからんから今の機会を逃したら二度と会えないじゃろうな。

 村人たちの命を取るか、儂との戦闘を取るか……じゃ」

「どちらも、取りたい」

「ダメじゃ!」


 俺は近場にあった岩を知識を持つ剣(ゼ デ ィ ス)で上の部分を切り落とし真っ平らにして座る。大した力を入れなくても綺麗に切り落せる。ゼディスの切れ味と古竜の力があれば造作もないことのようだ。


 さて、どちらを取るか……。

 俺にとってはどちらも大事だ。村には仲間がいる。ファイレもアネットもテーラーも……彼女たちを見殺しにすることなどできるはずがない。愛しているし出来るだけのことをしたいと思っている。それに獣人たちの命も未来もかかっている。ここで獣人たちが滅びることがあれば、長期間 獣人の奴隷時代が生まれる可能性は高いように思える。そう考えると知らない間にずいぶん重たい荷物を背負い込んだモノだ。

 

 ウィローズを倒す。

 俺の一番の目的だ。これをやらないわけがない。が、ココで戦わなければ探すのが大変そうだ。古竜の能力で探せるが、いつまでたっても追いつけない気がする。彼女自身が俺との接触を避けるだろう。そうすれば追いつける気がしない。


 ウィローズを倒すべきだ。

 熟考した結果、そう答えを出す。考えても見ろ。シャーリー師匠と古竜が俺の為に命を懸けて力を与えてくれた。それはウィローズと戦うためだ。戦争の為じゃない。


『戦争の為かもよ』

「せっかく考えがまとまったのに蒸し返すなよ」

『あのゴーレム師匠、お前に選べって伝言してんだぞ。あの幼女と戦うためなら「アイツと戦え」って遺言にしてるだろ。わざわざ選ばしてるんだぞ?』


 「よっこいしょ」と岩から腰を上げる。ウィローズはその様子を見て結論が出たのだろうと思っているようだ。


「どうする、ラーズよ?」

「ウィローズ。お前と戦うよ」

「それでいいんじゃな? 万に一つの勝ち目もない上に、義妹や仲間を見捨て、我と戦う……ということで」

「ずいぶん棘のある言い方だなぁ」

「あぁ、その棘で刺し殺すくらいのつもりじゃからな。ハッキリ言ってガッカリしているのじゃ。オヌシの仲間に対する思いやりのなさに……」


 ウィローズは財宝の上に立ち上がり腕を組んで俺を見下す。見上げる俺。

 どうやらウィローズは俺が村に助けに行くことを望んでいたようだ。それは自分と戦うのが嫌だという訳ではなく『仲間を助けるラーズであるべき』ということなのだろう。


「わかっておる。オヌシの一番の目的は儂の命。だが、オヌシが仲間の命を(ないがしろ)にするような(やから)だとは思わなんだ」


 少し寂しそうに見えるのは気のせいではないだろう。ウィローズも仲間だった時のことを思いだしているのだ。本人は傍観者のつもりだったがいつの間にか溶け込んで一緒にいたときのことを……。仲間だと指摘されてその時それではいけないと気づいてしまった時のことを……。


「だってウィローズと戦えるチャンスはこれで最後かもしれないんだろ?」

「最後じゃな。戦えばオヌシは死ぬだろうし、戦わねば儂は二度とオヌシ達の前に姿を現さない」

「じゃぁ選択肢はないだろ」

「儂のことを忘れ仲間を助けるべきじゃった」


 そう言うとウィローズは拳を高々と掲げ、そして金銀財宝の山に打ち付ける。

 まるで水しぶきのように大量の金貨が舞い上がり地震のように洞窟内が激しく揺れる。壁や地面に大きな亀裂が入っていく。パラパラと天井から瓦礫が落ち始めた。崩落の前兆。


「場所を変えるぞ、ラーズ」


 地面が割れ大きな空洞が出来上がる。どうやら地下へと続いているようだ。相当深い。普通の人間なら落ちただけで即死しそうな高さ。底が見えない。

 ウィローズの力は古竜を取り込んでいなければ話にならないほどの差を感じる。そして古竜の力を借りても力の差が埋まった感じがしないのが恐ろしい。


 数十分かかって地面に辿り着く。物凄い高さだったが、両手両足を付いて何とか着地。砂埃を舞い上げ軽いクレーターが出来る。

 明らかに今までの洞窟とは一線を画す場所。空気も変に重みがある。いや、これは空気か? 明らかに普通の空気と違う、毒性を孕んでいる。


「魔瘴気じゃ」

「魔瘴気……」

『魔界の空気。スノータァングを退治しに行ったときに説明しただろ』

「ちょっと待てよ。なんでこんなところに魔瘴気があるんだ!?」

「魔界と繋がっているからじゃ。正確に言うなら魔族がこの地を魔界とつなげたのじゃがな。古竜と戦いやすくするために。そして古竜がこの地を封印した」

「それはおかしい。だって古竜は少年の墓を守っているハズだ。それは超古代魔法時代の遺跡の上」

『そんなにおかしくないんだなぁ。魔族は超古代魔法時代の遺産を壊して回った。邪神まで作り上げた彼らが古竜の下にある遺跡を見逃すと思うか?』

「魔界とこの場所を繋げ直接、攻撃したのじゃ。古竜の魔族への怒りの発端じゃよ。

 そんなことよりここなら気兼ねなくオヌシを殺せる。魔界は広いからな」


 いや、まだ色々 納得いかないことがあるんだけど……仕方ないか。

 周りを見れば、空は紫、真っ黒に枯れた木々、腐った大地、それにだだっ広い荒野。山脈の地下って感じじゃない。明らかに山脈と魔界を空間を捻じって繋げているみたいだ。


「そーいえば、今の崩落でシャーリー師匠は巻き込まれてないよな?」

「心配せんでもええ。アヤツを巻き込むつもりはない」

「それを聞いて安心した」

「人の心配より自分の心配をしたらどうだ?」


 背中を蹴り飛ばされた。

 早すぎて何が起こったのかも理解できない。目の前にいたはずなのに、一瞬で後ろに回り込み俺に蹴りを入れていたのだ。

 おそらく試されている……古竜の力を取り込む前なら、今の一撃で背骨が砕け俺は死んでいただろう。俺が死んでも構わないってことだな。もとから敵だし、そりゃそーか。


「今の一撃でよくわかった。オヌシは普通の人間よりは頑丈そうじゃ。だが、儂の敵ではない」


 こっちもよくわかった。ウィローズに勝てる要素がない。古竜の力を得て滅茶苦茶強くなったと思っていたけど、戦闘開始1秒で絶望に変わるような状況。苦笑いしか出ない。それでも、やるしかない。俺はウィローズに戦いを挑んだ。


――――――――――――――――――


「一万の軍隊とか洒落になんねーな、がっはっはっは」

「止めてくれませんかね。親父臭い笑い方!」


 アネットとテーラーが戦場で背中合わせで敵と交戦中。

 村へ、リンテージ王国が侵攻してきた。1万の軍勢。たかが獣人の村に対して大げさな人数だと、普通なら思うところだ。だが王国は全く油断していない。アルビウス女史が思うにこれは先発隊に他ならない。おそらく増援が来るだろうという話だ。


 この軍の総司令官はアルーノ伯爵。

 軍人らしい真っ直ぐな戦い方で隙が無い。アルビウス女史の奇襲、奇策で何とか乗り切っている。アルーノ伯爵自体は恐ろしく戦争に長けているが、彼の下につく男爵などはアルビウス女史の手の平の上……面白いように踊ってくれる。それもこれもアネットやテーラーの活躍があるからこそといえる。


 戦争当初は弓、攻城兵器、魔法の遠距離対決の応酬だった。

 遠距離関係の指揮はファイレがとっている。伊達に学校を作っていたわけではない。魔術師候補も集めてある。だからと言って宮廷魔術師たちと遜色ないかと言われれば否。さすがに劣る。


 それでも、第一陣に正面門を開け動物を放ったことが功を奏する。

 獣人たちの活躍の場だ。遠距離を縮めるのは足の速い獣人たちなら瞬時だろう……と、踏んだのはアルーノ伯爵。白兵戦と草原の不意打ちに備えるよう連絡。弓矢、攻城兵器の周りを固めるなどの対策をとる。

 が、全て無駄。放たれたのは本当にただの動物。おかげで初戦の長距離対決は上手くことを運ぶことになる。

 それからジワジワと白兵戦へと移っていく。すでに1週間が経過している。互いの兵士が疲弊しているが村の方が当然士気は高い。だが王国は補給部隊があり兵を入れ替えることも出来る。


「ジリ貧よね~」


 外壁の上から戦況を眺めるファイレ。

 一発逆転が無ければ詰んでいる。時間はかかるだろうが王国の勝ちだ。


(お兄ちゃんがいれば……何の役にも立たないかぁ。私の心が潤うくらいだな)


 さて、どうしたものかと考える。今のところはアルビウス女史の作戦に嵌っているが、アルーノ伯爵は動じない。このまま押されれば時間切れ。だが、アルビウス女史の話では、長引けば総司令官交代の可能性があると言っている。それの方が戦いやすいらしいが、誰が来るかわからない。バーグルド大臣が出てきても同じことは言えないだろうな、と考える。

 しかしバーグルド大臣が国内から動くことはほとんどないだろう。情報大臣だ。ほいほい戦場に送れまい。

 考えられるのは二人。宮廷魔術師長か英雄か……。


 クロネコ師匠のおかげで前もって戦争が起こることがわかっていた分だけ有利にはなったが、国相手でいつまで持つか……。ラーズがいれば今後の指針も変わるかもしれないが、現在は戦闘を維持。最悪、この村を捨てる可能性もある。もっとも、村を離れれば殆どの村人は殺されるだろうが、小数は生き残ろう可能性はあるだろう。村にいれば生き延びる期間は長いが全滅することも考えられる。勝つ可能性は極めて低い。もう少し時間があればビードオード王国と交渉してそっちの国に編入してもらえる算段もあったのだが……。


 激化していく戦争。

 村の方ではじっくりと時間をかける作戦にでている。大地神の神官もいるおかげで回復も出来る。溜まるのは疲労と絶望感くらいなものだ。


 さらに1週間……総司令官の交代があった。宮廷魔術師長のお出ましだ。

 アルビウス女史のいうとおりやり易かった。魔法対決では分が悪いのは否めないが、白兵戦で圧倒。このまま大多数の敵を打ち倒し勝利も掴めそうな気配すらあった。


(何か見落としていないか?)


 だが、ファイレには嫌な予感があった。覚えていないが危険性を持った奴だったはず……。

 村の会議室でファイレがアルビウス女史やセリナーゼ、スイロウなどと次の作戦について話し合っていた時、胸糞悪い知らせを受ける。

 王国にいる獣人たちを縛り上げて並べている。降伏しなければ処刑していくと言うのだ。しかも300人近く、女子供も関係なく首輪をされ並べられている。しかも、見せしめの為、すでに数人は……。


 真っ先に動いたのはファイレだった。


「正面門を開けて獣人を救出する!!」

「なっ! 馬鹿を言うな! 冷静になれ」

「見殺しに出来ないでしょ!」


 半獣人のスイロウが人間のファイレを抑えつけるという光景を目の当たりにすることになる。抑えつけられてもファイレの勢いは止まらない。普段冷静なファイレの行動にアルビウスやセリナーゼは息をのむ。


「何としてでも助けないと!!」


 何事かと会議室の前で見張りをしていた兵士たちが入ってくる。ファイレはスイロウ達では話にならないと言わんばかりに彼らに救出作戦の命令するが、スイロウをはじめアルビウスもセリナーゼも認めていないことを話す。


「なんで助けに行かないの!」

「ファイレ、お前らしくもないぞ」

「そんな安い挑発に乗るなんて、どうされておりますのぇ?」

安い(・ ・)? 人の命が安いわけないでしょ! 罠だってわかってたって助けに行かないと! 全然関係のない女子供まで含まれてんのよ!」

「わかっているが、それで村人を危険にさらしてどうするつもりだ。仕方ない……少し頭を冷やしてもらおう。牢獄に放り込め。しばらくしたら出してやる」


 スイロウに隷属の首輪をはめられ引きずられていく。その間も人質になった獣人たちの救出を訴える。いつものファイレらしさが感じられないのが腑に落ちないが、そのまま牢獄へと放り込んだ。


 その後の会議室は静かなモノだった。いるのはアルビウス女史、セリナーゼ、スイロウ。結論から言えば人質の獣人を見殺しにするということになった。だが、反対意見はない。そのことを村人に伝えても悔しそうな顔をしたものの、反発は皆無だった。自分たちの立場を理解しているのだ。


 アルビウスはファイレの過剰な一芝居が上手く働いていることを確信する。あんなに派手に暴れれば見ている方は熱が冷めていく。初めからファイレは獣人を助ける気など無かったのだ。ただ単に村人を抑えこむために率先して救出することを主張したに過ぎない。助けられればそれに越したことはないが、現状では不可能だ。それを村人に言って聞かせて納得するかと言われれば無理だろう。そうなれば愚か者の過剰演出が最もわかりやすい。しかも獣人じゃないのがいい。それだけ獣人の村人のことを親身になって考えてくれているのだと思う上に、いかに無謀かを冷静に判断できるようになる。


 もっとも本当に救出はしたかっただろう。何故なら助けないとわかっていて、あの宮廷魔術師長が意味もなく人質を殺しているはずがない。いや、ここまでの負け戦も計算のうちだろう。

 アルビウスの考えでは魔術師長は死人に鞭打つつもりだ。なにせネクロマンサーなのだから……。


――――――――――――――――――


 どれくらいの時間がたっただろう。

 俺は辛うじて生きている。手の骨も足の骨も砕けあばら骨も逝ってしまっている。身体にはバッサリ切られたような跡に重度のやけど。普通の人間なら確実に死んでいる。


 その傍らには不機嫌な顔で腕を組み俺を見下ろしている幼女がいる。言わずと知れたウィローズである。たまにガズッと脇腹に蹴りを入れてくる。


「儂に逆らった者には容赦はせん。あの世に行っても儂に恐怖するように身体に叩き込んでから送ってやる」


 まったくいいところ無しでボロボロにされた。俺と古竜とゼディスの力を合わせても、まるで歯が立たなかった。ドラゴンの主・神を殺す竜の名は伊達じゃない。それでもまだ俺は意識がある。最後まで足掻いてやろう。そう思っていたが、ウィローズが質問してきた。


「こうなることは分かっていたハズじゃ。なのに何故、儂に戦いを挑んだ? オヌシは仲間を助けるべきじゃった。そうすれば、ファイレ達も助けられ獣人たちも未来を切り開きオヌシもココで死ぬことが無かったじゃろうに……」


 その眼に憐みはない。ただ愚か者を見下す視線があるだけだ。あとは害虫を処分するだけといった雰囲気を醸し出している。俺たちの力はウィローズにとってその程度だったのだ。


「……仲間を助けるつもりだ」


 ガスッ!!

 思いっきり蹴られた。5~6回転して岩に激突する。砕ける岩。俺の筋肉もブチブチ音を立てている。痛すぎてどこの筋肉が切れてるのかすらわからない。


「寝言は死んでから言え! なにか!? 儂をすぐさま倒してその足で戦争に間に合わせるつもりだったのか? 蟻より弱いくせして随分と儂を舐めてくれたものじゃな!!」


 相当、ご立腹のようで……。そういやぁ昔、師匠が言ってたなぁ。怒りやすいのはカルシウムが足りないんだと。はぁ、思考が上手くまとまらない。喋りたいこともあるんだが、意識が飛び飛びだ。やっぱり強ぇーなウィローズは……。

 一度ふぅーっと息を吐く。


「……仲間を助けるつもりだ。悪いことをしたら誰かが叱ってやらないと……。そいつは善悪の判断が出来なくなっちまう」

「? 戦争の話……か?」

「『二度と会えない』のなら、まずその仲間に大切なことを教えてやらないと駄目だろ。村の方はそれが終わってからでも大丈夫だ。どんなに遅れてもアイツラなら生きていてくれるはずだ。だから俺はウィローズを叱ってから生き残りさえすればいい」

「儂……のことを言っておるのか、貴様」


 ここまでギリリッという歯軋りの音が聞こえる。よっぽど腹に据えかねたらしい。自分より遥かに下の生物に叱られるなんて堪忍袋の緒も切れるか。なにせ神様のお墨付きで行った"ドラゴン襲来"の儀式なんだからな。

 でも、悪いことは悪い。少なくとも俺と一緒にいたときは人間と一緒に生活していたんだ。なら人間の善悪を当てはめて叱ってやるべきだ。


「仲間……なんだから……」

「オヌシはドラゴンの主を倒すつもりだったのじゃろうが! そのためにファイレと旅をし仲間を増やし古竜の力を手に入れ師匠も失ったんじゃろう!」

「"ドラゴン襲来"が悪いとわかってさえもらえればそれでよかった。同じようなことを繰り返さないと反省してくれればそれでよかった。ましてやウィローズにこんな罪を繰り返してもらいたくなかった。だってウィローズだって辛い思いをしたんだろうから。だから、人間を監視したり、一緒に行動したり……別れたりしたんだろうから……」


 耳元に砂利を踏む音が聞こえる。ウィローズが近くにいるんだろう。だが、視界がハッキリしない。視覚がイカレているようだ。何時、ブッ壊したか見当もつかないなぁ。まぁ、いいか……。ウィローズが反省なんてするはずもないか。神をも殺す竜にとって人間は他の動物と変わりはあるまい。弱肉強食のルールの一つ。そんなものにいちいち心を割いていたら神としてやっていけないもんな。


 立ち上がることも出来ない。視覚もほとんどない。ゼディスはどっか転がってる。それでも、ウィローズに同じ罪を起こさないように怒ってやらないといけない。ファイレの義兄になると大変だ。この状況でも苦笑いが漏れる。


 さて、ウィローズを叱って、サッサと帰らないとファイレ達に怒られそうだから頑張るか……。

すみません

私用でしばらくお休みします

たぶん一ヶ月くらい

必ず続きを書きますので しばらくお待ちください

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