72話 風の精霊魔法は世界一っぃいいぃ!!
ドラゴンブレスを回避できない状況に陥った。すぐ目の前まで迫っている。ファイレも知識持つ剣も呪文が間に合わない。現在、敵でも味方でもない状況の葉弓 楓も俺たちが囲んでしまっていてブレスを切ることも出来ないだろう。切れるかどうかは知らないが……。
吹雪のドラゴンブレスが直撃すれば身体が粉々に砕け散ってしまうだろう。いや、知識持つ剣が氷防御魔法をかけているから、生き残る可能性もある……か?
意識を強く持ちドラゴンブレスに抵抗を試みる……。
…… …… ……。
ゴゥーっと激しい音が耳を劈く。風圧で吹き飛ばされそうになるが……ドラゴンブレスが直撃しないどころか、掠めもしなかった。おおよそ5mくらい離れたところを通り過ぎていく。冷や汗がるが、スノータァングのブレスは外れたのだ。アレが当たっていたら凍りつくとかじゃなく圧力で跡形も残らないほど粉々に押し潰されていただろう。
回り込んだ直後にブレスを吐いたため、狙いが定まらなかった? いや、それは考えづらい。なぜならこの吹雪自体スノータァングのテリトリなのだから。狙いが狂うような吹雪を起こしながらブレスは吐かないだろう。そうすると他の原因があったはずだ。
その原因は雪の上に華麗に、そしてスタイリッシュに立っていた。
「それはデスラベルが行った幻! スノータァング、貴様はすでにデスラベルの手の平の上!」
右手の平を顔に当て、左手のひらを右の腰に当て、体を大きく反らし斜に構えて立っているデスラベル。
「それこそ、風の精霊魔法の真骨頂! 距離をとればとるほど現実と目視との誤差が生まれる蜃気楼! 対遠距離戦に置いてデスラベルに死角なし!」
おそらく死角はいっぱいあるだろうが、そのことは黙っておく。事実、デスラベルのおかげで助かったわけだし……。
蜃気楼は地面と空気との温度差に生まれるハズだが雪と吹雪で蜃気楼は生まれない。確かに風魔法だから出来たと言えばそれまでだが、デスラベルは蜃気楼を作りやすい空間を作り出していた。冷却により薬瓶が破裂し煙を巻き上げていた……あれは葉弓に対する攻撃というよりもスノータァングの対する蜃気楼効果を狙ったものだったのだ。
そしてファイレが再び炎 の 壁でブレスの進路を塞いでおく。次にスノータァングがブレスの誤差を修正してくるのは間違いない。もう一度、蜃気楼が効くとは考えない方がいい。奴が猛攻を仕掛けてくる前に葉弓を片付けよう。
「葉弓、俺の部下になれ! お前はもっと世間に評価される人間になる」
「別に世間などどうでもいいでござる」
「世間の評価は俺がお前に感じる評価に等しくてもか?」
「ラーズは私をそんなことで……」
「ごちゃごちゃウルセー! デスラベル様がハキューの命を助けてあげたんでしょ! 恩を返せ! 今からハキューはデスラベルの部下。デスラベルの部下はラーズの部下でもあんの。わかった? わかったらサッサとあのドラゴンを倒しなさい!」
唖然とする一同。
そんなに物分りが良かったら苦労しない。
考えても見ろ、俺の首をとるためなら……。
「わかったでござる」
「「えぇーーーー、わかったのっぉお!!?」」
納得できねぇー!! あんなに必死に説得したのに全然言うこと聞かなかっただろうよ! 恩で動くとは到底思えない。なにがどうなってデスラベルの部下になることに理解を示したんだよ!
どうやら、全員納得できないように刃の行先を彷徨わせている……が、こうなった以上仕方ない。
「ラーズ様、いかがなさいますか?」
テーラーは戸惑いながら俺に指示を伺う。俺が指示してもらいたいくらいだ。葉弓を信用していいのかどうか、ということだろう。だが、疑っても始まらない。こうなりゃ開き直って信用してやろう。その際に首を飛ばされたら諦めるしかない。そもそもスノータァング一人で手一杯なんだから、無理に敵を増やす必要はない。
「全員、葉弓への警戒解除! 敵スノータァングのみ集中せよ!」
「やっとここから本番ってーわけだ」
「遠距離攻撃が互いに効果薄だったのよね~」
「ドラゴンスレイヤーがどこまで効果を発揮するか」
「……」
「総員スノータァングを囲め!」
「やるわよ、ハキューちゃん」
「御意」
光る眼玉と額の赤い宝石を取り囲むように配置されていく。よく考えたら、まだスノータァングの全体像を掴んではいない。どんな姿のドラゴンなんだ? ワーム型、翼竜型、トカゲ型……etc。
「『……今さらだがヤバいぞ、ラーズ』」
「なんだよ。戦力が増えてこれからって時に……変な水、差すなよ」
「『スノータァングはドラゴンじゃないかもしれないぞ』」
「え? ……いや、だって……じゃぁ、あれ、なんだ?」
あの巨体といい、ドラゴンブレスといい、環境を作り出す吹雪といい……これがドラゴンじゃなけりゃーなんだというのだ? 条件的にはホワイトドラゴンとしか思えない。確かに姿は確認できていないが、どんな形を取っているにせよドラゴンの可能性が一番高いだろう。
「『 カーバンクル 』」
カーバンクル? 聞いたことのないモンスターだ。そいつはドラゴンじゃないのだろうか? ドラゴンより凶暴の可能性があるということか。知識持つ剣ならカーバンクルの対処法を知っていると考えて……いや、知っているならヤバいとは言わないか。対処法が無いのか……。
だが、すでに戦闘は始まっている。アネットやテーラーなどの接近戦部隊が直線状に立たないように移動しながら近づいていく。
ファイレは炎 付 加 魔 法を使い、接近戦部隊に炎を武器にまとわせている。ガイアルは救急班、怪我人の救護のため下手に近づかない。
「『カーバンクルは未知の生物だ。
分かっていることは只一つ……額に燃えるような赤い宝石が埋まっているということだけ。報告例はいくつかある。だが、リスくらいの小さなものからドラゴンくらいの大きなものまで。爬虫類、哺乳類、鳥類とも言われ、額の宝石はドラゴンの証という説もある。
要するに何も分からない生物……それがカーバンクルだ。攻撃も防御も何もわからない。なにをしてくるかも、どういう移動法かもだ』」
接近戦に近づいていった部隊が吹雪の中に消えると同時に、スノータァングの影も見えなくなる。慌てて周りを遠距離部隊に捜索させる。
そうだ、俺たちが後ろを取られた時、ファイレも見失ったのだ……あの巨体を……。移動方法がわからないということは姿を消しているのかもしれない。それどころか、接近戦部隊と俺たちが切り離されてしまう。否、すでに切り離されている!
スノータァングの能力を俺たちは全く知らなかった。近くにいる者全てを飲み込んで姿をくらます。どこにいるかわからない。だから正騎士団でも勝てるわけがない。遠距離攻撃が当たっているのかもわからない。
只のドラゴンだと思って舐めていた。力押しでイケると思っていた。ブラックドラゴンでは苦戦したが力押しで勝つことが出来た。だが、スノータァングは違う。まるで別物。何をしているのか、どうなっているのか、悟られずに行動を起こしている。今分かっているのは、吹雪のブレスを吐いたことだけだ。もっと言えば、吐いている姿すら見ていない。あれは魔法だったのかもしれない。
未確認生物……カーバンクル
かなりヤバイ!
どうする。どうやって、合流する!?
「ファイレ、良い手立てはないか!?」
「魔法で探してる。デスラベルも風の精霊に頼んでもらってるみたい」
吹雪の中だ。風の精霊が強いハズ、すぐに見つけられる。精霊が見つけられなくてもファイレなら……。だが、いつまでたっても返事はない。魔力を注いでいることだけがわかる。時間だけが過ぎていく。魔力も尽きようとした時、ようやく見つかった。
「……見つけた。生と死の境界線」
見つけたのはファイレでもデスラベルでもない。ガイアルだった。
一方そのころ 王国の方ではラーズ達を追うため軍に招集がかけられていた
だが それは不発に終わる・・・正確に言うなら不発とはいわないだろう
なぜなら集められた軍は活躍するからだ
ただし 対戦相手はレッドドラゴン
不用意に冒険者がレッドドラゴンの巣を突いてしまったのだ
もちろんその不用意を用意したのはセリナーゼ情報副大臣なのはいうまでもない。




