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70話 殺意と脅威の板挟み

「『~という技があるわけだ』」

「使った魔力分、威力を上げる魔法ねぇ。普通じゃないの?」

「『たとえばファイヤーボールを一辺に2個作ろうとすると2倍の魔力ではなく2.5倍くらい使用することになる』」


 俺が知識を持つ剣(ゼ デ ィ ス)からレクチャーを受ける。

 現在はホワイトドラゴン・スノータァングのいる平原に向かっているわけだが、すでに一面銀世界。視界は悪くないが、吹雪いている。昼間だというのに薄暗い。出立してから数日たっているので、おそらくスノータァングの縄張りに入っているはずだが、とりわけ攻撃らしい攻撃は受けていない。

 通常のドラゴンなら、配下のモンスターを徘徊させているハズだ。ただ、平原が広いのと、この雪で配下のモンスターは限られることは確かだ。この辺には雪や氷に強いもんスターは少ない。元の平原はどちらかと言えば温暖な気候。ほかのドラゴンがスノータァングに手を出さないのは吹雪による影響は大きいわけだ。


 夜には現在地の確認や対スノータァングの作戦の確認をしている。そろそろ出会うハズである。興奮と緊張で神経がすり減っていく。とくに睡眠は3交代で見張りを立てて行う。

 そんな中、知識を持つ剣(ゼ デ ィ ス)が俺に新しい魔法を教えてくれたわけだ。ただし自分が使用できる分しか魔力を上げることは出来ない。直接 体内にあるか、魔法の物品で魔力を増加させたぶんの魔力でしか威力が上がらない。誰かの魔力を使って魔法を唱える術はない。今の俺だと高が知れているが、知識を持つ剣(ゼ デ ィ ス)と合わせれば結構な値まで跳ね上がるだろう。どっちにしろ、この前のように半死の状態になること間違いなしだが、一発の威力は保証付きというわけだ。今回のスノータァングに射ち込めれば、効果は期待できる。ただ、みんなは反対のようだが……。


「そりゃー反対するわよ。だってお兄ちゃんがそんな魔法、使いこなせるわけないでしょ。私の後ろに隠れてた方がいいわよ」

「そーそー、攻撃は腹筋オバケにまかせたほうがいいよ~」

「あーん? それは俺のことを言ってんのかチビエルフぅ?」

「私ではないでしょうね。このクソ寒いのにお腹をだして8つに割れた腹筋を見せつけているのはアネットだけですし……どちらにしてもラーズ様が戦闘に出ることはお勧めできませんね」

「……いるだけでいい」

「下手に動かれるよりは目印になってもらった方が助かる」


 ガイアルとスイロウも言葉は柔らかいが俺の戦闘参入を拒んでいるようだ。そうすると俺の役目は本拠地に只いるだけに近い。

 攻撃はアネット、テーラー、スイロウ、他獣人。防御はファイレ、デスラベル、ガイアル、他獣人となる。ドラゴンなので攻撃の主体はブレスだろう。おそらく氷系。だとするとファイレの炎 の 壁(ファイヤーウォール)が有効。回復系はガイアル。遠距離としてデスラベル……さすがに大きい的になら弓も当たるだろう。それに精霊魔法もある。薬瓶の効果は期待しない。



「ねぇ、いつからか分かんないんだけど……外に誰かいない?」

「どーいうことだ?」


 ファイレがテントの外に視線を向ける。いるはずがない。メンバーは限られているし、見張りもいる。そもそも外は吹雪だ。いるとすれば……。


「ドラゴンか?!」

「考えられな~い。もしいたらブレス吐かれてるしぃー、攻撃されてるよー」

「人間形態になって様子を見ている……とは考えられないか?」

「……」

「ちょっと様子を見てくる」


 俺が立ち上がる。

 ドラゴンの可能性は低いだろう。デスラベルの言う通り、向こうが先に発見していたのなら攻撃してこない可能性は極めて低い。しかし、他の生物がこの辺にいるとは思えない。いるとすればドラゴンの配下の偵察だろう。しかし、移動中にそんな気配を俺たちは誰一人感じ取ることが出来なかった。


 テントをくぐり外に出る。防寒対策をしているが、それでも寒い。その辺をグルッと一周してくるくらいなので、心配性のファイレですら止めることはなかった。しかしその判断は間違いだったと言わざるを得ない。

 突然の奇襲攻撃を鳩尾(みぞおち)に受ける。吹雪の中で一瞬の出来事……頭が理解する前に意識が飛びそうになる。


「『なんだ! こいつ!?』」


 俺の代わりに知識を持つ剣(ゼ デ ィ ス)が叫び声をあげる。テントに照明の魔法を撃ち込み連絡をする。見張りの獣人たちから少し離れた死角となる場所での不意打ちだ。


「やっぱり、その刀。私達の邪魔をするでござるか……」


 誰だ! どこかで見たことあるような無いような独特の恰好。

 知識を持つ剣(ゼ デ ィ ス)がフル回転で回復呪文を唱えるが痛みは引かないが外傷は治る。呼吸が軽くなる。

 みんながテントから出てくるのを確認すると、ボサボサの髪を振り乱すようにそちらに視線を送る謎の人物。


「あれ……どこかで見たことがあるぞ」


 俺の言葉に何者かはすぐさま反応し、こちらに顔を向ける。あまりに髪が長く目まで被っているためにどのような目をしているか分からないが、口が異様なほど吊り上っている。いうなれば狂喜しているように映る。

 俺の頭の中には『戦闘狂』と言う言葉が浮かぶ。こいつは異常であることは見た目で感じられる。恰好も隙も気配も尋常なレベルではない。世俗を断ち切った仙人のようなそんな空気を纏っている。こんな吹雪の中に居られるような服装ではない。布を厚手の帯で括りつけたような服装。見ているだけでこちらが震えそうなのに、体からは雪解けの蒸気を放っている。この寒さすらものともしない。しかも一種の興奮状態にあることは明らかである。


「それでも……」

「『この人数と争う気があるのかねぇ~』」


 すぐに知識を持つ剣(ゼ デ ィ ス)の信号に反応してファイレ達が飛び出してきた。態勢は万全。対ドラゴン用の陣形を組んでいる。

 たしかにコイツがスノータァングだとしてもおかしくない。コイツからはそう言う凄味が感じられる。獲物を狙う蛇のような研ぎ澄まされた感覚を突きつけてくる。


「何者だ……お前……」

「……覚えてないでござるか?」


 一瞬、目を見開いたような気がした。その後の声の低さで恐怖を感じる。いや、感じているのは殺意か……ここまであからさまな殺意はいつ以来だろうか。しかも純度の高い殺意だ。殺意にも純度がある。依頼された殺し屋などの殺意は金の絡むため純度50%程度と言った感じだが、コイツは俺を殺すことしか頭の中に無い……と言った感じだ。それで起こる不具合や周りのことなどお構いなし。恨みでも早々お目にかかれないくらいに高純度。

 それにしても『覚えていない』ということはどこかで会ったことがあるのか? いや、あるな。俺も頭の片隅に引っかかるものがある。これだけインパクトのある浮浪者のような恰好……浮浪者のような……それに女性の声?


「なんとなく、思い出せそうだ。どこだ。最近? お前にあったことがある。ただ、お前に殺意を向けられるほど争った覚えがない」

「……」


 ファイレ達が取り囲んだが、謎の女性は微動だにせず俺を射殺しそうな眼で睨みつけている。

 思い出せそうで思い出せない。その顔を見てファイレが何度か繰り返して彼女の頭の天辺から爪先までを見て口を開く。


「お兄ちゃん……彼女、街中で尻餅をついていた浮浪者じゃない? ほら鍛冶屋に行く際に冒険者にぶつかって……」

「あ……あぁー。確かに!」


 ファイレに言われるまで思い出すことが出来なかったが、あの女性だ。一度、会っただけのハズ……いや、他にもどこかで出会っていたのか? それとも誰かの依頼であの時から付け狙っていたのか? 英雄トールの刺客の可能性が一番高い気がする。


「どうやら、思い出してくれたようでござるな」


 満面の笑みを浮かべる女性。

 その顔を見た瞬間、アネットがすぐさま俺の首根っこをひっ摑まえて引き寄せる。首筋がわずかに切れ 血が噴き出す。彼女の刀が俺の首を掠めていた。

 それを合図にテーラーが躊躇なく女性に攻撃を仕掛ける。


「ウルフファング!」


 まさに噛みつき攻撃。高速移動で俺の目では捉えることが出来ない。女性の方に牙を立てる。が、紋付きの肩口をわずがに捉えただけで回避される。


「繊維質は足りてるんですけどね。出来ればお肉を頂きたい所なのですが」

「犬コロにやる肉は持ち合わせていないでござるよ」


 回避とほぼ同時にテーラーに斬撃が加えられる。爪で受け止めようとしたが、あっさりと切り落され慌てて飛び退く。そこに「待ってました」とファイレのファイヤーボール。しかし、それすらも当たり前のように切り落とす。


「ちょ!? 魔法を切り落とすなんて反則でしょ! 魔法法則を無視してるんじゃないの!」


 ファイヤーボールが刀に触れた時点で爆破するはずなのだが、その現象を力ずくで抑えこまれたような異様な風景。

 ちなみに、空気を読まないデスラベルさんは弓矢を放っていますが、当たる気配はありません。精霊魔法を駆使した方がよろしいんじゃないでしょうかねー。


「何の恨みがあって俺たちを付け狙う?!」


 イマイチ誰だかも分からない彼女。目的と誰の差し金か探りを入れる。わかれば多少やり様もあるだろう。問題は口を割るかどうかだ。大抵の暗殺者はそう簡単に口を割らない。ましてや彼女は相当の手練れ。テーラーやファイレの初撃をいとも容易く看破して見せている。


「恨み? なにを言っているでござるか? そんなもの当然、無いでござるよ。

 ただラーズ殿を愛している。そしてラーズ殿も私を愛している。だから永遠に私のモノにしたいだけでござるよ。それがラーズ殿の幸せでござろう? 

 安心して欲しいでござる。もう私の眼以外には誰にも触れさせることなく箱の中に大事にしまっておくでござるから……」


 何を言っているのか理解できない。言葉よりも気配にドス黒いモノを感じる。だが、彼女の言葉を理解していないのは俺だけのようだ。ファイレも……アネットもテーラーもガイアル、スイロウも薄くニヤけた笑いを顔に張り付かせている。怖いです。


「お兄ちゃんには通訳が必要かなぁ~? ようするに彼女は『お兄ちゃんの首を自分の部屋に飾る』って言ってる狂者というところかな」

「理由は知らねーが、俺のラーズが『殺したいほど好き』らしいな」

「アナタの……ではありませんけどね」

「……加減する必要はないみたい」

「魔法を切り伏せるとか、普通には考えられんからな」

「じゃぁ、デスラベルから行っきまーっす!!」


 え? ちょっと待ってよ。どーいうこと? 殺したいほど好き? だって記憶にほとんど残っていない。言葉を交わしたかどうかも定かでないのに、そんなことがあるのだろうか? 俺からすれば「誰だ、お前?」なんだけど……。


 デスラベルの弓矢から始まり、剣戟が鳴り響く。隣にいるファイレに相談してみる。


「俺のことが好きなら交渉の余地はあるんじゃないか? ハーレムに入れるとかで?」

「うーん。おそらく無いわね。独占欲が強そうだもん。あそこまでハッキリしてると裏表がなく()りにくるほうが自然なんだよね。もう後先考えない。1か0かの二択だろうね」

「なんとかならないか?」

「なんとか……ね~」

「『おいおい、ボーっとしてんな! ヤッコさん来るぞ!』」


 知識持つ剣(ゼ デ ィ ス)の声に我に返ると、攻撃の合間を縫って俺の目の前まで来ていた。知識持つ剣(ゼ デ ィ ス)が素早く防御力上昇魔法(プロテクション)を唱える。が、まるで何事もなかったかのように刀は防御力上昇魔法(プロテクション)をすり抜けてくる。体を折り曲げ刀を交わそうとするが間に合いそうにない。

 命の危機を感じるが、その刀をファイレが仕込み杖で受け止めワンテンポ遅らせた。ギリギリで俺は刀を避けきったが、ファイレの仕込み杖は真っ二つに切られていた。


「くっ、この杖、結構いい値段するのにっぃ!!」


 俺とファイレはその場から弾かれたように、謎の女性から距離を取る。それでも、俺にピッタリと着いてくる謎の女性。


「まー、ラーズについていくよね~」


 上空からデスラベルの声。どんだけ跳躍していたのか知らんが、バラバラと女性に向け薬瓶を投下していく。俺の後を女性がついてくると確信しベストなタイミングを計っていた。薬瓶を切り付け毒を浴びてしまえ、と心で祈るがスルスルと間を抜けてくる。化け物め! 下も雪なので薬瓶が割れることはない。雪の中に突き刺さるだけ……と思いきや、雪の中で大爆発を起こした。さすがの謎の女性もこれは予期していなかったようで戸惑いを見せる。多少の爆破力はあるものの、主な目的は目くらましのようだ。煙と粉雪で視界を塞ぐ。


「温度が下がると爆発する薬品もあるんだよね~」

「気配である程度わかるだろうが、見える(・ ・ ・)私たちの方が遥かに有利だ!」


 スイロウが獣人化して真っ先に突っ込む。忘れていたが、スイロウって獣人だったっけ……。狼か何かだと思うが煙の中に消えていく。煙の中だと視界はほとんどないがエルフ、ドワーフ、一部の獣人がインフラビジョンという熱探知型の視力も持ち合わせている。これにより、謎の女性より優位に立てる。なにせ俺とファイレ以外はインフラビジョン持ちだ。デスラベルの作戦は上手くいった。


「もっとも、見えないくせに強いがな! 俺の爪をあっさり切断しやがった」


 舌打ちしながらアネットが叫ぶ。煙の中でも謎の女性は応戦しているようだ。


「ドラゴンスレイヤーでも断ち切れない刀だからな」

「獣人に引けを取らないほど早いですねっ!」

「……くぅ」


 見えている方が苦戦しているようだ。こちらが優位に立ったのは「俺を見つけられない」ことぐらいで、戦闘に差支えが無い。むしろ、気配があるものを片っ端から攻撃しているらしい。俺があの中に入ったら瞬殺されかねない。


 その他大勢の獣人たちは、この争いに参加させていない。スノータァングの見張りを無くすわけにはいかないからだ。それにしても思わぬ伏兵に出会ってしまった。こんなところで仲間を失う訳にはいかない。


知識持つ剣(ゼ デ ィ ス)、なにかいい方法はねーのか!」

「『いい方法どころか、悪い連絡だ』」

「なに?」


 知識持つ剣(ゼ デ ィ ス)に解決するような魔法がないか確認をした時、獣人の一人から連絡が入る。最悪の事態と言っていいだろう。このタイミングで……。


「スノータァングです!!」


 吹雪と煙でほとんど視界が失われているが、光る眼が見える。そして額には赤く染まる宝石。呼吸音が聞こえる。まだ距離はあるもののその大きさは歴然。前に戦ったブラックドラゴンより大きそうだ。

 呼吸音? 雪がスノータァングに吸い込まれていくような錯覚を起こす……否、錯覚ではない。


「ドラゴンブレス!?」


 こんな戦闘中にどうしろというんだ!!

エルフは雪に足跡がつかない・・・らしいです

D&Dによると・・・

体重ではなく精霊的な何かなのでしょう

おかげで雪の上では他種族より有利に戦闘を運ぶことが出来ます

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