63話 休日の終わりに
そんなに難しい話ではない。敵がいたら潰す……それだけの話じゃ。儂が……ではないがな。だが、何かおかしいと感じたのは儂らを襲ってきた冒険者が1組や2組でなかったことじゃ。まったく! 人が楽しんでおるというのに、どこの馬鹿がちょっかいを出してきおるのじゃろうか?
高級レストランでデザートを山ほど頼む、セリナーゼ商会主のツケで。テーラーとかいう獣人にきいてみたところ「問題ないでしょう」と言っておった。哀れな商会主じゃ。飼い犬に手を噛まれるとはこのこと……コヤツは狼だったか、まぁ、いいじゃろ。
特別ルームに案内させて、テーブルに乗せられるだけデザートを乗せ、みんなでラーズの口の中にデザートを突っ込む。何か喋ろうとすると口にデザートを押し込める。呼吸する隙があったかどうかも怪しい。ほとんどフォアグラのガチョウと変わりない。だが、ラーズが困った顔をしながらも食べていく姿を見ていれば嬉しくってやめられるはずもない。現にファイレを先頭にデスラベルもテーラ―も止める気が無いようじゃ。無論、儂もだがの。
自分に順番が回ってこないときは、その辺の果物でもつまんで食っておればいい。オレンジやリンゴ、ブドウなど色々ある。どれも美味であるが、儂は甘いモノは得意ではないので酒と一緒に食することにする。意外なことにデスラベルが酒のことについてやたらと詳しかったので、奴の勧めたものをいただいた。ワインなどはダメらしい。酒に強いなら香りが弱くアルコールの強い酒が良いそうだ。好みにもよるじゃろうがな。どこでそんな知識を得たのか謎であるが、仮にもエルフである。何年生きておるか定かではない。少なくとも10や20の小娘ではないだろう。それこそ100、200は生きている可能性がある。それでも儂から見れば……。
「ウルサイのが、まだいるみたいね」
ファイレが窓の外を舐めるように目を走らせておる。一見すればにぎわいのある午後の街並みじゃ。だが、ちらほらと冒険者や工作員が見て取れる。テーラーも目ざとく何人かチェックしているようじゃ。デスラベルは無関心……コヤツは危機管理がまるでなっていない。全くの他人ごとで遊びに夢中といったところじゃな。
さて、儂が見たところラーズを敵視していそうな人間は……多いのぉ。200mくらいに絞らんとならんか。さきほどの『デットマンショー』とかいうグループを除けば、3グループ人数にして27人。この辺りを徘徊しておる。窓から見えるのは……。
「見えるのは3人ですね」
「気配であと数人……ってところかね~」
「モガ~、モボモボ、モゴー」
「あはっはっは、何言ってるかわかんなーい。次はコレ、食べてみようか。ハバネロタルト!」
…… ……。
そんなモノがこの店のデザートとしてあった方が驚きじゃ!? 「とりあえずテーブルに並べられるだけデザートを用意しろ」とは言ったが、明らかに無理して作ったじゃろうなぁ。あ、あーぁ、ラーズの口の中に押し込んどるが、大丈夫なのじゃろか? うむ、やはり駄目じゃな。慌ててファイレがジュースを与えておる。ついでに、儂もラーズに酒を入れておくか。傷には問題あるまい。
……テーラーは警戒モードに入っておるようじゃな。こちらを気にしながらも窓の外と出入口に意識を向けておる。凄い集中力じゃな、恐れ入る。どこから敵が入って来ようとも、彼女がいる限りラーズにその剣が届くことはまずあるまい。ひょっとしたら27人全員の居場所を把握し、いつでも対抗できるのではないかと思えるほどじゃ。伊達に『国の先陣』など名乗ってはいないのぉ。儂が出るまでもない……っとっと、出てはイカンのじゃったな。じゃが、儂に仕掛けてくる輩がおるならまとめて相手しても問題あるまい。
と、笑みがこぼれそうになったが、それより早く動いたのはテーラーじゃった。
「申し訳ありません、ラーズ様。セリナーゼ様から仕事を言いつかっておりましたので私は一旦、用事を済ませてまいります。おそらく夜には戻れると思いますので……」
「ふがぐが……ゴクッ……。慌てるな、まだ動くときじゃない」
「!?」
一瞬、ラーズが外の連中に気が付いているのかと思ったが、コヤツがそんなに聡い奴でないことは重々承知じゃ。ファイレも瞬きほどの時間、動きが止まったが感づいていないと判断したのじゃろう。言葉を続ける。
「『動くときじゃない』ってカッコよく言ったけど、動けないだけでしょ。食べすぎで……」
「げふっ……」
「まだ、入るんじゃない?」
「てーか、病み上がりで食わせすぎじゃろ?」
「……。 いえ、私一人の仕事ですので申し訳ありませんがお先に戻らせてもらいます」
「一緒に出るわけにはいかないのか?」
「そう言ってもらえるのは光栄ですが……」
「なんとなくツケって怖いんだよね~。店から出るとき取りたてられそうで……」
「お兄ちゃん、お金の心配してたんだ……」
生暖かい目で見ておるファイレ。蔑むようでいて、意外と温かみもある不思議な目をする。ようするにラーズの何もかもを知っておるといった感じじゃ。儂やテーラー、デスラベルでもあの眼をできるモノはおらんじゃろうな。互いを知り尽くしている。過ごした時間がそうさせるのか、それ以上の何かかは図ることは出来んがな。
思わずため息が出そうになる。ファイレとラーズの仲に……という訳ではなく、儂自身に……。
テーラーは儂らより先に出ることになる、ラーズが持たせたお土産 のデザートを持って……。「身に余る光栄」と表現していたがそこまでではないじゃろ、とツッコミを入れたかったが部屋から出る方が早かった。
儂らはテーラーが冒険者を片付けていく気配を感じてから、慌てずに店を後にする。その際、ラーズがみんなの分のお土産を包んでもらっておった。どの道、テーブルにありったけのデザートが全て食べきれるわけもないのだから、必然の成り行きである。儂は今はデザートを見る気にもならんがな。あとデスラベルが酒を体内に入れ過ぎたようで目を回しておった。
外に出たときには日は沈みかけていた。空が赤い。敵の人数は……まだ、戦闘中のようだ。あやつは暗殺者としての才もあるようじゃ。ワザと時間をかけている節がある。理由までは分からんがな。さっさと片付けてこちらと合流すればいいモノを……。ラーズの役に立つことでもしておるんじゃろう、真面目でツマらん奴じゃ。……。決して、テーラーが褒められるのが気に喰わんとかそんな意味はないんじゃからな! …… …… ……儂も何か手伝った方が喜んでもらえるのじゃろうか?
儂の方こそツマらんことを考えたもんじゃな。
身動き一つしない酔いどれエルフをラーズの膝の上に載せ、車いすを発進させるファイレ。怪我人でありながら、諦め顔のラーズだが笑っておる。
その笑顔に腹が立つ。なにせ『自分がここに居ていい』という気にさせられる。落ち着き安らぎを得ることが出来る。いつからそんなことを思うようになったのかなんて分らん。気づいた時には手遅れじゃった。それでは困るというのに、あの預言者のせいで碌なことになりはせん。手を貸したくなるが、それは許されていない。
だから、この場も儂抜きで何とかしてもらうしかあるまい。
前から来る男……たしか名前は英雄・トール。あまりにも悪意が無かったので見落としておった。
時刻は夕暮れ。まだ人ごみもある。まるで買い物にでも来たかのように儂らの前に立つ。目の前の道を塞ぐように……否、道を塞いでおる。儂らの横を通り過ぎる者たちが訝しげに横目で眺めはするがそのまま通り過ぎていく。おそらく誤認させる魔法か何かを使用しておるのじゃろう。英雄・トールがいればさわぎになるじゃろうしの。
儂は手を貸さん。そう言うルールじゃからな。だが、そうなるとラーズ達に万に一つの勝ちの目はない。おそらくテーラーは彼の手によって引き離されたのじゃろう。冒険者たちを吹っかけたのは英雄・トール。それくらいはファイレも気づいておろう。
もっとも、テーラーがいようがいまいが、彼を倒せる人間なんぞ存在はせんがのぉ。彼は別物。ドラゴン類を除けばこの地上に置いて最凶最悪の存在と言ってもよいじゃろう。しかも並みのドラゴン類では刃が立たんと来ておる。ラーズ達が今、戦えば瞬殺されることは免れぬが儂が巻き込まれるなら……止められる。
まるで仮面のような薄ら笑いを浮かべて英雄・トールが喋りかけてきおる。どうやら、すぐに殺そうという考えはないらしいの。まずは話し合いか? 余裕があるのぅ、さすが強者じゃ。
「まさか、こんなところで会えるとは思わなかったよ」
「雷剣・トールでしたっけ? 英雄・トール? あぁ、こっちは義妹のファイレ。それとデスラベル。それとウィローズです。会うのは初めてでしたよね」
「こんにちは~、ファイレです」
「ウィローズじゃ」
「もう食べられな~ぃっぃ」
「くっくっく、なかなか面白いメンバーだね。その他にもサズ神官に伯爵令嬢もいる。それに先程まで優秀な犬もいたようだね」
「犬……じゃなくって狼だけどね。まさか、俺たちを怒らせてこの場でやり合うつもりかい?」
ラーズ……車いすのクセしてあまり挑発するでない。儂以外のここに居る人間が死ぬことになるやもしれんのだぞ。勿論、周りの通行人、住人含めて……。そんなことわかっておったら、ラーズは軽口など叩きはせんか、少々、小物臭いところもあるしのぉ。
無理に儂が割って入るわけにもいかん。さて、どういう風に持っていく、ウィローズよ。ラーズ達を助ける義理も義務もない。ただ、儂が寝ぼけている間に世界は大きく動いていた。そんなことも理解できなかった儂が何もせんでいいのだろうかと、苛まれる。いや、ただ単に彼らを助けたいだけじゃな。通行人や住人など儂は気にも留めておらん。
「やり合うつもりはないよ。ただちょっと、彼女と話がしたいだけだ。小一時間ほど彼女を貸してもらえるかな?」
「……儂に話じゃと……」
この世界の魔法の成り立ちについて
無詠唱魔法は存在しません 基本的に・・・
コンセントを入れず電化製品を動かくようなモノと
考えていただければわかりやすいかもしれません
もっとも神が使う神聖魔法や意思の疎通が取れている精霊魔法など
例外もいくつかありますので絶対ではありません
設定が細かくて申し訳ありません
魔法だけで さらに細かく設定がありますが つまらなそうなので
ほとんどカットしています
後書きにちょろちょろ 出るくらいですね




