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52話 救出部隊結成

 『隷属の首輪』をはめられる。これで魔法は使用不可能だ。もともと俺は魔法を使えないから関係ないが……。あともう一つの効果は指先一つで首輪の爆破可能ということか。そんなわけで逃げ出すことは出来ない。

 なんでこんなことになったのか理解に苦しむ。


 ガイアルがネクロマンサーか確認するために第一区画の神殿に向かっていたハズなのに、門番に理由もなく捕まってしまって投獄された。難癖もいいところだ。捕えるのが目的だったとして『俺だから捕えたのか』『誰でも良かったのか』は少々気になる。それにより裏で何か行われていることだって考えられるわけだ。


 武器防具は全部 押収されボディーチェックも受け怪しげなものも全部取り上げられてしまった。怪しげなモノといっても針金やらナイフやらの小物だ。俺の技術では針金を持っていたところで脱出につながることはないけどね。持ってる理由? もし牢獄に同室した誰かがこれを使えればラッキーだろうという淡い期待からお守り代わりに持っているわけだ。


 それから投獄されてから1時間程度……だと思うが、俺の牢屋の前に白い仮面の男二人がやってくる。恰好は先ほどの門番と変わらない。と、いうか先程の門番じゃないのか? 何で白い仮面を……それにこの白い仮面もどこかで見たことあるような気がするが思い出せない。まぁいいか。

 ガチャリと牢獄の扉をを開ける仮面門番。


「出ろ」


 とは言うものの釈放される雰囲気ではない。どちらかというと処刑所に向かいそうな感じだ。聞いたところで行先が変わるわけでもないので黙って出る。牢獄の中で頑張ったところで『隷属の首輪』を爆破されお陀仏だ。

 仮面門番に前後を挟まれ誘導されていく。細い道幅なため彼らはハルバートではなくショートソードを携えている。

 それにしても薄暗い道だ。牢獄にしたってもうちょっと明るそうなものだが……嫌な汗が背中に流れる。


 拷問……ってーことはないことを祈るしかない。師匠の話では『拷問に堪えられる人間はいない』そうだ。『師匠でも?』と質問したところ『俺なら全部ゲロる』と即答された。あの師匠ですら拷問には耐えられないのに俺が絶えられるはずがない。震えて足がすくむと、無言で後ろから突き飛ばされ歩みを急かされた。

 ヤバい……俺なんか秘密持ってたっけ? さっさと全部 喋って楽になりたい。けど、知りもしないことについて『吐け!』とか言われたらどうしよう。知らないのに滅茶苦茶拷問されそう。

 胃が鉛でも入っているように重くなる。怖い……針やら拘束具やらノコギリやらを想像しただけで血の気が引いていくのがわかる。


 大きな鉄扉の前に来る。

 如何にも『脱獄不可能』みたいな扉だ。


「入れ」


 ショートソードを背中に着きつけられ、嫌々ながら中へと入っていく。


「……」


 中に入ると地下闘技場のような場所だった。……いや『地下闘技場のような』ではない、これは『地下闘技場』だ。観客スペースもある。今は観客の代わりに10人前後の仮面門番がいる。

 何をするつもりか想像がつく。魔物か獣かと俺を戦わせて見世物にするつもりだ。それならそれで武器くらい欲しいところだが、処刑も兼ねているのだろう。それに万が一 俺が逃げ出せたときに武器なんぞ持たれていたら面倒なことになるからな。

 俺の考えを読んでか読まずか仮面門番の声が響く。


「これから、お前は死ぬまでそこで闘い続けてもらう」


 俺は只、その声を上げた仮面門番を睨む。

 俺に拒否権はないのだから、どんな声を上げても意味のないことだ。ただ、拷問じゃなかったマシか。だけど生きたまんま内臓とか食うような魔物とかだったら最悪だなっと苦笑いする。すでに喉がカラカラだが水分補給させてくれる様子もない。


 俺が入場してきた扉……というか門の反対側の門が開く。

 どんな魔物が出てくるのかと戦々恐々としていたが、出てきたのは完全武装の仮面門番の一人だ。

 おかげで、状況がさらにわからなくなり首を傾げる。いや、まぁ、俺を殺せないことも無いだろうが十分とは言い難い。

 俺の感では対等ぐらい相手に思える。もっともこちらは素手なので防御一辺倒になるだろうが……。



 始まりの合図も何もない。

 仮面門番はいきなり切りかかってきた。だが、防御に専念すれば楽にかわせる。完全武装が裏目に出ている。そこまでガチガチに固めてしまえば当然 重たくて動きが鈍い。だが、こちらから攻撃を仕掛けることは出来ない。下手に仕掛ければその隙を突かれ致命傷を負いかねない。しかも完全武装。拳が通る場所を探すことすら難しい。

 剣先が幾度となく俺の体を掠め血飛沫が飛ぶ。皮を切られている程度なので問題はない。なぜか相手は深く切り込んでこない。剣筋が中途半端でとても致命傷を与えようとしている人間の攻撃ではない。

 何度かニジリ、剣先を躱し回避していると、例の仮面門番(おそらく隊長)が突然声をかける。


「それまで!」


 え? それまで? ひょっとして逃げ切ったから解放してくれんの。と淡い期待で仮面隊長を見る。勿論そんな甘いことはなかった。先程の完全武装仮面門番が門から出ていくと、いれかわりにNEW完全武装仮面門番が出てくる。……まったく違いが分からないほどそっくりだ。背丈が違うかな?


 そして、やはり前触れもなく襲ってくる。太刀筋が一新され戸惑うが肉を立たれるほど深く踏み込んでこないのは一緒だ。訳が分からないがとにかく逃げまどう。さすがに防御一辺倒だったとはいえ疲れないわけではない。それでも辛くも逃げきると仮面隊長の『それまで!』の声がかかる。……どれくらいの時間逃げ回っていたんだ? 二人合わせて1時間ちょいというところか?


 だが、さらに同じ完全武装仮面門番が出てくる。そこで膝を地面に着きそうになる。おそらくこれは『終わらない』のだ。致命傷を与える気がなく、永遠に追い回し続ける。だから深く踏み込んでこない。コイツから逃げ切っても次の仮面門番が待ち構えているに違いない。

 少なくとも10人前後いる。一回りすれば初めの奴は十分に休憩が取れるだろう。俺の方は休憩なし、水分無し、食事も無し、身を潜める場所もない。運よく相手から剣を奪ったところで首輪がある以上、剣を手放すように言われたらそれまで……。ようするに俺は仮面門番の剣技の練習台にされているわけだ。


 さて、どうすれば助かる? 助かる道なんてあるのか? 一層、思い切って諦めるか? ……諦める選択肢はないなぁ。たとえ無間地獄だとしても永遠に繰り返してやる。

 折れそうな心を奮い立たせる。

 そうだ、俺の目標は初めから無理だとわかっているような『ドラゴンの主を倒す』ことだ。それに比べれば人間の与えた試練など越えられなくて成すことが出来るわけがない!


――――――――――――――――――


 昼過ぎくらいだろうか……副大臣になってからここまで私が焦ったことはない。大急ぎで必要な人員を呼びつけ第三区画のガイアルの鍛冶屋に急ぐ。

 想像よりも敵の動きが早い。バーグルド・デ・バリス大臣の差し金ではないだろう。おそらく王か英雄のどちらかが動きを加速させている。しかし、それをバーグルド大臣が放っておく方が気になる……が、今はそれを気にしている時間がない。下手をしたら用意した旗印を失い私の計画が台無しになる。


 ラーズにはガイアルの情報を故意に流していなかったが、どうやら真相に近づいたようだ。でなければ今の結果が起きてはいないだろう。できれば彼がネクロマンサーの情報を知らないまま事を運びたかったが、仕方あるまい。ガイアルの対処についてもう少し時間がかかるのだが後回しにしてラーズの救出を試みる方が先だ。

 残念なことにすでに正攻法の道は閉ざされている。要するに門番を副大臣の立場から問い詰めラーズに辿り着くことはバーグルド大臣に塞がれてしまっているのだ

 そうなると、怪しい場所に乗り込むしかない。そのために人員が必要だ。少数精鋭が望ましい。かといって国内の兵を使うことはできない。誰がバーグルド大臣の息のかかった者か判断できない。情報部なら私の派閥の者は信用おけるが兵としては二流だ。そうなると……と考えガイアルの鍛冶屋に来たわけだ。

 鍛冶屋に入り早々 彼女らを大部屋の一か所に集める。


「時間がない。私の命令に従ってもらう!」

「突然 来て横暴だな」


 スイロウ剣士が私を睨み付けるが、受け流す。


「まずはスイロウ。お前はコイツと身を隠せ」

「誰だ? そいつは?」


 私の後ろに控えていた中年の身軽そうな風貌の男。

 スイロウ達も面識はあるだろうが、人間(・ ・)の恰好をしていると分かりづらいようだ。


「今は人間の姿を取っているが猿の獣人だ。信用できる。それからガイアルは武器を作っている最中だろうからそのまま続行。対ホワイトドラゴン用に必要になる。ファイレとウィローズは私と共に来てもらう」

「儂がなぜオヌシと同行せねばならん! 儂はヤリたいようにヤル」

「ラーズが攫われた」

「「ななににっっ!!??」」

「何でそれを早く言わないのよ! 早く助けに行かないと!!」

「落ち着けファイレ、飛び出そうとしてもどこにいるかわからないだろ! 私の指示に従え」


 ファイレの怒りが私に向く。それだけで部屋の温度が2~3度上昇したような錯覚に陥る。冷や汗をかき唾を飲み込む。ドラゴン並みの迫力だが私が冷静さを欠くわけにはいかない。

 スイロウが『なら私も向かうべきだ』と主張したが適当な言い訳をして却下する。今、スイロウ剣士が第一区画に来ればスイロウ姫を殺害してしまう呪いが発動しないとも限らない。ガイアルはネクロマンサーの可能性が高く連れて行けるわけがない。


「他のメンバーは?」

「ホワイトドラゴン・スノータァング討伐の準備をしてもらっている。アルーゾ、アンジェラ、セリナーゼ、テーラー、アネッサ、サズなどはそちらを優先してもらう。」

「ほう、ラーズの小僧を救出するより重要か?」

「同じくらい重要だと思ってもらった方がいい。国内に敵が潜んでいる。出来れば新天地に逃げ込みたい。ラーズ救出後すぐさまホワイトドラゴン討伐の連戦の予定だ」

「凄い過密スケジュールだ!」


 見たことのないエルフがいたが、すでに報告は受けている。神殿の客人エルフのデスラベルであろう。オリハルコンの細工師だという話だから、ここでガイアルに指導していたに違いない。ただ、ガイアルが敵である可能性も考慮しなければならない。


「アナタがデスラベルで違いないか? よろしければラーズ救出に手を貸してもらいたい」


 彼女自身、どういう経緯でこの工房にやってきたのか分からない。ラーズに貸しはあっても借りがあるとは思えないがエルフの多くは精霊使いであるし彼女も例外でないのは調査済みだ。力が借りられればかなり事が運びやすくなる。


「うん、いいよ! 大船に乗ったつもりで任せてぇ! 具体的には全長269.1m 幅28.2m 乗員2223人くらい乗れそうな大船で!」

「あー、わかった。期待している」


 連れて行かない方が良いのではと考え直す。エルフだけれど、どうも言動から隠密行動が苦手そうな気がするのは私だけか? 精霊魔法は隠密行動に向いているモノが多くあるが、本人自身にその気がなければ話にならない。言っても栓無きことか、と諦める。


「では私と、ファイレ、ウィローズ、デスラベルの4人で出発する。スイロウと猿の獣人は身を潜めてガイアルと連絡をとりながら行動してくれ。他の獣人も使って、こちらからの連絡をいつでも取れるようにしておく。予定では先ほども言ったが救出後、そのままスノータァングと連戦になる。その場合の覚悟はしておいてくれ。ラーズを助けに行った私たちの戦力はあまり期待するな。疲労が蓄積しているだろうからな」

「いや、待て待て、儂はお主らに手を貸すとは言っておらん」

「ウィローズには『手を貸してくれ』とはいいません。ただついてきていただければ結構です」

「どういうことじゃ?」

「悪いけどウィローズ、話は後回しにして付いてきて! お兄ちゃんにもしものことがあったら私……」


 ファイレのその表情は決して悲しみや焦りだけではない。相手を全て焼き払いそうな恐ろしい笑顔にも見える。何を考えているのかもわからない。

 その表情を見てウィローズは一瞬ギョッとしたものの、次にはニヤリと笑みを浮かべた。楽しそうだから着いていくのも悪くないといったところだろうか。エルフのデスラベルはそういう意味では初めから乗り気なのかもしれない。

 どうやら人選を少々間違えたようだ。このメンバーでは隠密行動は難しいかもしれない。


 ウィローズの横に座っていた黒猫が大あくびをしていた。

『全長269.1m 幅28.2m 乗員2223人くらい乗れそうな大船』

名前はそう タイタニック

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