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50話 私は死人使い 名前はガイアル(前編)

 私の名前はガイアル。

 20年くらい前だろうか……死人使い(ネクロマンサー)になった。


 それまでは大地神の神官として、ココより北の国で働いていた。その国はドラゴン襲来前から他国と比べ、獣人と人間、ドワーフは共存ができていた。

 別名・鉱山王国とも呼ばれ、大量の鉄、銀が産出されていた。食糧に関しては国内では賄いきれず、他国からの輸入に頼っていたが、それを補って余りある鉄鋼や武防具の輸出。とくに武器の生産は芸術品ともいえる一品をいくつも作り上げるほどだった。ドワーフの鉱夫も鍛冶師、軍隊は獣人などが多く、人間は商人を中心に成り立っていた。


 私は第一位司祭の命により、鉱山の教会で神官をしていた。負傷者は少なくない。鉱山が危険かと問われれば多少は危険だと答えるが、負傷者の主な原因はケンカだ。鉱山街にも酒場があるが開店している時は四六時中、誰かしら喧嘩をしている。私が担当した鉱山の鉱夫の割合は2:3:5 人間:獣人:ドワーフといった感じだ。だが、人間でも獣人でもドワーフでも喧嘩っ早さが変わることは無かった。とりあえず殴り合う。簡単なストレス解消法といったところだろうか。彼ら自身はそれなりの理由があると言い張ってはいたが……。

 教会は大繁盛、朝も夜も休む暇は無かった。そのおかげで鉱夫のほとんどの者の顔と名前は一致するようになっていた。


 ココの鉱山の欠点は他国と隣接していて狙われやすいというところだが、この頃はまだ戦時下に無く落ち着いていた。だが、前線ということもあり兵の数も多く、鉱山で取れた鉄鋼を使い武器・防具も充実していた。そして、最強の武防具を誇る町としての名も持ち合わせていた。

 この街の兵士の半数は獣人で成り立ってる。獣人と言えば戦士か剣士だと思われがちだが、魔術師も神官も精霊使いもいる。ただ首輪をされると魔法は使えないだけの話である。そして、この国では犯罪者以外で獣人に首輪をつけることはない。


 侵略は唐突に起きた……切っ掛けがあったわけではない。

 宣戦布告もなく、巨大なサンダーストームが鉱山街を襲った。兵士も一般人も見境のない範囲魔法。殆どが丸太小屋のような家々は粉々に砕かれ中にいた人たちは抵抗するまもなく肉が引き裂かれていく。不意をつかれた兵士でも一溜りもないのだ。一般人がこのサンダーストームないで生き残るのは難しい。

 私は石造りの教会で、初撃で致命傷を受けることは無かったが、教会はあっさりと崩壊し慌てて飛び出した。そこは元の街並みが完全になくなり、荒廃しきった景色に変わっていた。


 唖然と立ち尽くす中、熊の獣人に腰のベルトを掴まれ担ぎ上げられその場を逃げる。反対の手には大振りの剣を抱えている。今でもその光景を夢に見る。家は燃え雷撃で人々が引き裂かれ、追撃するように敵の兵士が襲ってくる。

 もし、宣戦布告をされていれば、この地域に住む住人も移住し、兵士も増員されていただろう。一般人が死ぬ確率は少なくとも減っていただろうが、彼らの狙いは一般人も含む獣人だった。

 兵士は放っておいても出てくるが、一般人は不意打ちでなければ狙いづらい。だから、不意打ちを選んだ、そのせいで他の隣国を敵に回すことも(いと)わずに……。


 獣人が狙いでありながらも、容赦なく人間もドワーフも手にかけていく敵兵。そのこと自体はしかたない。下手に手を抜けば自分の命が危ないのだから。だが、彼らは逃げまどう者にも容赦なかった。その中でも獣人は一人残らず確実に狙っていく。愉しんでいるのではない事は明らかだった。むしろ一人でも逃したら自分たちの命がないというような危機的な表情を浮かべていた。

 その中で一人だけ けたたましく笑っている男がいたが、その男が何者か知ることは出来なかった。おそらく彼がこの殺戮の元凶であることは疑う余地は無かった。


 状況を理解した後は私と熊の獣人は逃げ回った。しかし、途中で私たちは殺されそうな獣人の子を見つけ助けに入ってしまった。そこで、後戻りはできなくなった。獣人の子の向こうにはさらに人間やドワーフの子も集まる託児所だった。鉱山は忙しい。大抵の夫婦は男女問わず仕事に出る。鉱夫として鍛冶師として宿屋や店員、兵士もいる。そんなところで託児所はあって当然だった。もちろん兵士もいるが前線施設より遥かに少ない。そもそも戦争で子供を巻き込んでしまう可能性はあっても、狙ってくるなんて想定外である。私と熊の獣人もココで仲間の兵士二人に加わり子供たちを守ることにした。


 激戦だった。

 考える暇もなく、神に祈り続けた。神は力量と信仰心の分だけ私に力を与え、仲間を癒し続けた。だが、圧倒的な人数の前に私たちはなす術がなかった。初めに兵士が一人……次に子供が……それが切っ掛けであっという間に何もかも失った。


 次の日の朝。私は辛うじて生き残っていた。気を失っていたため死体と勘違いしたのか、それとも熊の獣人が上に追いかぶさっていたために見逃したのか定かではない。

 私が失った者は町の大部分と全ての住人、そして私の身体の一部……よくこんな身体で生きていられると思うほど……。神の加護かとも考えたが、もし加護があるなら私の代わりに……と見下ろす。おそらく私より長く生きることが出来たであろう者たち。私より強いであろう者たち……。

 人間やドワーフはただ殺すだけだが、獣人に関しては念入りに首を確実に刎ねていた。老若男女問わず……。


 私の力量と信仰心では人を蘇らせることは出来ない。よしんば出来たとしても私の命と引き換えにたった一人だけだ。

 私は近くの村に助けを求めに行った。いや、このことを知らせに行ったのかもしれない。当時のことがよく思い出せないが、熊の獣人が持っていた剣を護身用に抱え、とにかく力の限り歩み続けた。山を下るのに2日かかった。だが、そこに村は無かった……あったのは村だったモノ。すでに死臭が漂い始めた……廃墟。



 その時から本格的な戦争はすでに始まっていたのだ。

 不意を突き鉱山王国の獣人を全て殺す気でいたのだ。


 愕然とひざを折る私の下に隠し扉があった。おそらく村長の家があった場所だと思われた。もの凄い埃でこの扉が使われた形跡は無かった。村長ですら忘れている扉だと思ったが、一縷の望みを託し片手で重い扉を引き上げた。


 察しがついている者もいるだろう……ココが元・死人使い(ネクロマンサー)の研究室だという言ことに……。

 この頃はまだ私には信仰心があった。聖なる光(ホーリーライト)で辺りを照らす。当然、邪悪なモノを退ける力があるため一部の書物や魔導具は灰と化したが、私は気にしなかった。それよりも生存者を探してみたが、狭い部屋である。2~3度、見渡せば誰もいないことはすぐにわかった。ただ、頭がい骨がいくつも並べてあったときは背筋が凍った。ここに居ても殺されたのではないかという疑念から……。そんなことがあるはずもない。そもそも、この扉は発見されていなかったのだから。


 それから、しばらくここで休むことにした。逃げる場所もないが、一時的ならココは安全だろうと。

 聖なる光(ホーリーライト)は6時間 明かりを保つ。時間の感覚が狂わないように気を付ける。落ち着けばお腹もすくし暇も出来る。まずはこの部屋に食料がないか探すことにした。だが見つかったのは……。


 『死者蘇生の書』……

 見たことも無い字で書かれたタイトルの本。見たことも無いのに読むことが出来た。空腹も忘れそのタイトルに見入る。何度も何度もタイトルを読み返す。聖なる光(ホーリーライト)が当たっても砕ける散ることがないのだから、邪悪なモノではないと自分に言い聞かせる。そんなわけはない。この状況でどうあっても邪悪であることは間違いないのだが、それを無理矢理 心の奥に押し込めてしまった。聖なる光(ホーリーライト)より強力な呪文書だっただけの話……だが、藁にもすがる私の心が屈折していた。

 引き寄せられるように……いや、隠し扉を開いた時点でこの本に私は導かれていたのだろう……ページをめくった。


 それから、貪るようにその本を読みふけった。読めば読むほどのめり込んでいく。その本の一説に『この先を読み進めたければ神への信仰を捨てよ』と一文を目にして、あっさりと私は信仰を捨てた。神に縋っても私の実力では人一人蘇らせるのは不可能なら、この本にすべてを託すことにしていた。

 『全てを失えば全てを手に入れられる』『敵を憎み死の言葉を……』と怪しげな言葉が続いていたが、私はその言葉が心地よくさえあった。堕落している自覚が無かった。むしろ昇華しドワーフであることを超越していく感覚があった。全ての神聖魔法と神への信仰を失ったが、それ以上の死人使い(ネクロマンサー)の技術と魔術を手に入れたとその時は思っていた。


 本をほとんど読み終えたとき、当たりは真っ暗だった。当然だ、信仰を失った時点で聖なる光(ホーリーライト)の効果は失っている。それでも私は『死者蘇生の書』を読むことが出来ていたのだ。暗闇が私の肌になじむ。死んだ街や村人を蘇らせる術を手に入れた。自然と笑いが込み上げてくる。心の中で笑ったのか声に出していたのか定かではないが とても愉快だった。

 死者を蘇らせ、自分たちの手で仇を取らせてやろうと思いついた時は、実にいいひらめきだと心躍った。


 外に出たときは、月明かりの夜だった。

 その時は『本を読むのに半日かかったか』と思ったが実際には一ヶ月近い日にちを要していた。だが、空腹感は無かった……自分の手を見て納得した。

 真っ白い骨が手の平から肩へと伸び、肋骨や恥骨などが剥き出しになっている。内臓はすでに失われている。お腹が減らないはずだ。……確か、本の途中で肉体を要求する文章が連なっていた気がするが、どうでもいい。私自身が生と死の狭間の存在・アンデットとなっているのだと悟った。代償は私の肉体だ……対価としては安いモノだ。これでみんなを蘇らせられるなら……。


 だが、このまま動き回るのは都合が悪い。肉体が無ければ街中に入れない。幸い今の私には肉体を操る術を会得している。その辺の腐った死体から自分の骨へと移植していく。手を切り、足を落し、内臓を入れていき縫い合わせる。ある程度の見てくれが出来たら、呪文でわずかな差を誤魔化す変化の魔法(トランスフォーム)で整える。これで普通に見れば今までの私の出来上がりだ。

 そういえば、この辺の村人の死体だったが、まぁ構わないだろう。数人蘇れない所で初めから死んでいたんだから……と納得できた。


 それから、死者蘇生の実験と儀式をこの村で繰り返す。残念なことに『完璧な死者蘇生』は記載されていなかった。研究成果は途中までしかなく、そこから先は白紙で私が埋めていくしかないようだった。何人ものスケルトンを作り、ゾンビを作り、グールを作った。一度、アンデットとしてしまうとその死体を違うアンデットに出来ない。要は一生スケルトンでありゾンビだ。蘇生することは二度となく魂はそのアンデットに縛られ続け苦しみ続ける。

 しかし、それは必要な犠牲だ。いずれ出来るであろう『完璧な死者蘇生』のための……。


 村人を全員実験に使い鉱山の町に戻り、そこでも死者を使い果たしてしまうが全てアンデットに変えてしまい、実験は失敗位に終わる。どこか根本的に欠点があるらしい。

 このアンデットはとりあえず、攻め込んできた国に送って処分することにする。と、同時にその隙をついて()の国に潜り込むことにする。戦争はまだ続いている。彼らの仇を取ると同時に『完璧な死者蘇生』の実験も出来る。もう、アンデットになってしまった彼らを蘇らせることは出来ないが、同じことが起きたときの為に研究しておいて損はない。むしろ、世界中の人々を死の恐怖から救うことが出来るかもしれない。


 まんまと、街中に入り込むことに成功した。それからは適当に浮浪者のように生きていた。その間にも戦争による死体が溜まっていく。ワクワクする。これだけの実験材料が手に入る戦争の素晴らしさに改めて感心させられる。

 それにしても、この街の人間は呑気なモノだ。自分たちが獣人を……いや、隣国の町を潰したことも知らないとは。いや、知っていて歓喜している者が大半だった。だが、歓喜したくなるのもわからなくない。何せ『完璧な死者蘇生』が出来上がれば誰も死なずに済むのだから……。

長いので分割しました

ちょっとくらい話が続くので一旦 息抜きでもしてください

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