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49話 ネクロマンサーが そばにいる可能性

 鍛冶師の朝は早いらしい……て云うか、まだ夜だよ。日が昇るのにはあと1~2時間くらいあるんじゃないだろうか。それなのにカッキン、カッキンとリズミカルに鉄を叩く音が聞こえる。いやオリハルコンなのか? 音では区別がつかない。この部屋、防音だったらよかったのになぁ。


 うるさいけど、俺の武器を最優先で作ってくれている二人、ガイアルとデスラベル。もっともデスラベルは口出ししているだけのようで、ハンマー一つ持つ気配がない。初日に学科をガイアルに叩き込んでいた。彼女曰く『体で覚えるなんて二流のすることだ』そうだ。俺と正反対……いや、だから俺は二流なのか? それはともかくオリハルコン加工に必要な学問を習って、それから実技(武器制作)となったのは今日の朝早くからということだ。

 当然、少し学科を叩き込まれた程度で全部理解できるわけがない。本来なら何日も何か月も何年もかかるモノだろう。実技にしたって、教科書の教えが生きてくるのは、どれくらい先かわからない。ようするに一番初めに試される俺の武器は試作品と言っても過言ではない。どの道、時間がないのでしかたのない話ではある。

 『オリハルコン加工なんか魔法を唱えて10分程度でできないの?』って聞いたら、『剣一本作るのだってそんな早くできるか!』とブッ飛ばされた。それが出来たらこの国の鍛冶師いらないもんなぁ。一人でこの国全部賄えそうだ。


 デスラベルが最初にオリハルコンの量を見て言った言葉は『全然足りんわ!』。ナイフ一本作れないらしい。オリハルコンは加工過程で縮むらしい。沢山の量があってようやく剣が一本作れるとか言う話だ。オリハルコンの装備が少ない理由の一つでもあるそうな。

 そこで前に折れた竜骨刀の修復にオリハルコン加工するということ。折れた部分と刃の部分に使う。強度と切れ味が増し、魔力付加の効果が大きくなる予定。ただ、ガイアルにとってはオリハルコンを使用した武器の制作は初めてなので上手くいくとは限らないと念を押された。


 それはいいのだが、こんな朝早くからやらなくてもいいのではないだろうか……と思うのは俺だけだろうか? なにか声らしきものも聞こえるが、さすがに理解できるほどの大声ではない。俺の武器の為に頑張ってもらっているのところ悪いがベットから出る気はしない。

 ウルサイながらも布団をかぶり無理矢理 眠りにつく。結局、起きるのはマッサージ店に出勤するギリギリの時間になってしまった。


――――――――――――――――――


 いつも通りマッサージ店に向かおうとすると、デスラベルが『一緒に行く』と駄々をこねたが、仕事が多すぎて俺たちと一緒に来ることは出来なかった。具体的にはガイアルの指導と国に頼まれている王冠造り。どうやら王冠の納期はとっくに過ぎていてブッチぎってるらしい。ウィローズは笑っていたが、スイロウが見張りを買って出たために逃げられなくなってしまった。下手に国に目を付けられるのは嫌だからね。難癖付けて英雄トールが攻め込んでくるとも限らないし!


 いつも通りの時間に出勤し、いつも通りに仕事を開始し、いつも通りに昼食を食べ、また仕事を開始……そしていつも通りに第三区画に帰宅しようと思っていたが、ファイレにデスラベルに聞いたネクロマンサーの情報を話したことにより状況は一変した。


「すでに一度、死んで蘇っている。たしかにネクロマンサーならありえる話だよ。そのために死体を(いじく)りまわして研究するんだから。でも『誰でもあって、誰でもなくなる』って言ってたの?」

「変身だか変化だかの魔法が使えるとか、そんなことを言っていたような気がする」

「しっかり覚えておいてよ、お兄ちゃん。姿を変えることが出来る可能性は高いわね。それに死体の一部を剥ぎ取り自分に付け加え魔法じゃなく姿を変える可能性もある。そうすることで高い変化能力を得ていると考えると……え……あれ?」

「どーした?」

「ちょっと思い当たることが……」

「本当か!? それなら上手くいけばネクロマンサーの居所がわかりそうじゃないか! まだ相手には気づかれてないだろうし!」

「第一位司祭様の弟子……だったんだよね?」

「そんなことを言っていた気もするけど」


 何を考えているのか分からないがファイレの顔が青い。ファイレにしては珍しく考え込んでいる。ネクロマンサーに心当たりがあるなら喜ぶべきことじゃないか? ひょっとして強い奴なのか? まぁネクロマンサー自体が強いと言えば強いが……。


「第一位司祭様に名前を聞きに行かないと……」

「……まさか……俺たちの知っている人物……なのか?」


 名前を聞いただけでわかる人物となれば知り合いだろうと目星を付けるとファイレに頷かれる。こういうことはハズレてもらいたいもんだが、なかなか、そうはならないもんだ。まだ、知り合いがネクロマンサーだと決まったわけではない。


「一体誰だと思うんだ?」


 念のため聞いておく。当たっているか外れているかはともかく、第一位司祭様に答えを聞いた時の心構えが必要だ。

 この国に来てから知り合いは多い……が、四名は除外できる。俺、ファイレ、第一位司祭、デスラベル……間違いなくネクロマンサーではない。個人的には英雄トールあたりが怪しいんじゃないかと思う。あと、街の噂だと情報大臣のなんとか とか言う人かもしれない。大臣が相手だと厄介だぞ。


 ファイレがなかなか口を開かない。珍しく言い淀んでいる。俺に隠し事をした記憶はない彼女が悩むほどの人物なのか、嫌な予感しかしない。


「あくまでも……可能性……いいえ、お兄ちゃんに嘘をついてもしょうがないもんね。ある程度 核心があるわ」

「…… ……だ、誰だ」


「…… ……」

「…… ……」


「…… ……」

「…… ……」




「ガイアル……よ」

「……」


 目の前が真っ白になり、何も考えられなくなった。


――――――――――――――――――


 どれくらい時間がたったのだろう……いや数十分といったところか……城の鐘が深夜に成り掛けを告げるため鳴り響いていることで我に返った。


「前にウィローズに属性を調べてもらった時のことを覚えてる?」

「……」

「ガイアルがお兄ちゃんと全く同じ属性になっていたことを……それにガイアルは大地神の神官。いえ、今は破門されてるかもしれないけど」

「だけど、ブラックドラゴンと戦った時 回復魔法を」

「ネクロマンサーの術の可能性があるわ。傷口を戻す、張り合わせる、繋ぐ……死体を操る者の基礎的な技術だって聞いたことがある。あのときガイアルの魔力切れが早かったような気がするの。それは本来回復に使用するべき魔法じゃないから余計に魔力がかかったんじゃないかって……」

「それだけじゃ分からないだろ!」

「偶然、スイロウを助けたのかしら? ドッペルゲンガーを助けた理由が自分が生み出した者だとしたら? スイロウがドッペルゲンガーだと確信して助けたんじゃないのかなぁ? それにドッペルゲンガーが本体()を狙わないのはネクロマンサーであるガイアルが抑えこんでいる可能性は無いのかしら? 一年近く経ってるんでしょ?」


 ファイレの言葉はどれも正しいような気がしてくる。だが、そんなことがあるのだろうか。否、あるわけがない。


「だって、ガイアルはスイロウを助けるため俺たちと一緒にブラックドラゴンを倒し、ネクロマンサーも倒そうとしてるんだぞ! 自分を倒すつもりなのか? それに、もしガイアルがネクロマンサーなら俺の武器をオリハルコンという高価で効果のあるモノを使うか!? そもそも武器を作ってくれるか!?」

「…… ……わかってるよ、お兄ちゃん」


 金切り声を上げた俺を寂しそうに見つめるファイレ。別にファイレが悪いわけではない。ただ、可能性があるという話をしただけだ。それなのに俺がヒステリーを起こすのは筋違いだとわかっている。わかっているけど、どうにもならない。理屈じゃなくガイアルがネクロマンサーである可能性など認められないのだ。いくらスイロウを助けるためとはいえ、ガイアルを犠牲になどできるわけがない。ましてやガイアルが悪人であるはずがない!


「だから……第一位司祭様に名前をききたいのよ」

「ガイアルというのが偽名の可能性は?」

「あると思うけど、第一位司祭様が素直に全部教えてくれるとは考えづらいからね。名前だけでも聞ければヒントになるかもしれないじゃない?」


 確かに(もじ)った名前かもしれない。ガイナスとかガイガンとか。全然違えば一安心……ではないが少し落ち着くかもしれない。ようは気休めだ。初めからファイレも自分の考えを信じたくないのだ。だから第一位司祭に名前を聞きに行くことを提案している。


「じゃぁ今から第一位司祭様に会ってくる」

「今から!? 夜遅くじゃ流石に会ってくれないんじゃない?」

「ダメ元で。鍛冶屋に戻っても落ち着けないからな」

「……まぁね。でも、詳細がわかるまではガイアルの動向を注視しないといけないだろうから私は戻るね」

「……大丈夫だと思うけどな」

「『大丈夫だと思いたい』の間違いでしょ? お兄ちゃん、わかってると思うけど私たちの目的はドラゴンでもなければネクロマンサーでもない。それらはあくまで手段でしかないんだからね」

「……わかってる……つもりだ」

「心情で動くのがお兄ちゃんだから仕方ないけど、最終目的を忘れないでね」


 『ドラゴンの主を倒す』。その一点だけでこの街に来てスイロウやガイアルと行動を共にしているだけだとファイレは言いたいのだろう。『誰を切り捨てるにしても戸惑うな』、そんな義妹の心の声が俺に響く。

 だけれど、これまで一緒にやってきた仲間を倒すことなんて考えられない。


 夜遅くに店の前でファイレと別れる。

 俺は『貴婦人の剣』で馬を借りることにした。一刻も早く第一位司祭と面会をしたいと焦り気味である。

 あいにくとセリナーゼは外出中で馬の貸し出しに手間取ったモノの、持ち金を全て預けることで解決させる。その時の所持金が幾らだったか覚えてもいない。このときは その金額を返してもらうということも考えていなかった。

 第一区画に馬を走らせる。当たり前のように門番がいて行く手を塞いでいる。強行突破したくなる自分を抑えつけ冷静に対処する。無駄に食って掛かれば時間だけが浪費するのは目に見えている。焦っている時ほど手順を踏むのを忘れてはいけない……と師匠にいわれていたっけ。


「すみません。これから大地神神殿に向かいたいのですが……」

「……」


 不審そうに見つめる二人の門番。

 確かに俺は第一区画にふさわしいような格好はしてないけど、急いでいるのでさっさとリュガンの確認を行ってもらいたいと思う……そうか手順が抜けてるな、相応しい恰好をしてくるべきだった。後の祭りだが、それほど大きな問題ではあるまい。

 辛抱強く相手の反応を待つ。早くリュガンを調べてくれ、と祈りながら……。


「リュガンを確認する」


 ようやくか、とすでに準備していたリュガンを渡す。魔導具の装置で確認を行っている。いつもはあっという間に終わるのだが今回はやたら長く感じる。焦っているせいか、本当に時間がかかっているのか分からない。

 二人のうち一人は詰め所に戻るが、それが何を意味するか気にしていなかった。


「ラーズだな? 馬から降りろ」

「え? は、はぁ」


 逆らったところで時間を取られるだけだと思い馬から降りる。本来ならリュガンを返してもらえれば、そのまま神殿まで突っ走っていきたい所なのだが……。


「えーっと……もう行ってもいいですか?」

「少し待ってろ」


 一人残った衛兵が魔導具からリュガンを外しぶっきら棒に答える。それに合わせるように10人前後の衛兵が俺を取り囲んでいく。

 なんでこうなった!? 俺は何をやらかしたんだ? 知らない間に指名手配? 理由はわからないがハルバートを俺の方に向け完全に包囲されてしまった。


「一体どういうわけですか?」


 出来るだけ冷静な態度で抗議したつもりだが自分でも声が上擦っているのがわかる。この場を切り抜ける手段を考える。まずは罪状の確認だ。問題がなければ解放されるはず……。


「残念だが君はリュガンを所持せず第一区画に不法侵入しようとした罪により投獄することになった」

「…… …… …… ……は?」


 後から来た隊長格の男が訳の分からないことを言う。

 『リュガンを所持せず』? いや、今渡したから! と思ったら俺のリュガンが目の前で隊長格の男に砕かれた!

 えー!? なに!? 何がどうなってんの!? 俺、これから神殿に行かなきゃならないのに……って人の心配より今 俺が投獄されそうになってるんだ。なんで俺がこんな目に?


 思考が回復する前に地面に倒され抑え込まれ牢獄へと運ばれることになった。


――――――――――――――――――


「隊長……こんなことをしてもよろしいのですか?」

「宜しいも、宜しくないも英雄様からの命令だ。だいたいリュガンを壊してしまえば証拠は何も残らない。このまま奴は存在が消されるわけだ。それにいらない(・ ・ ・ ・)人間なら使い道は多い。若い兵士に試し切りさせるチャンスは少ない。最近は獣人を使うことも禁止されてるからな。あの男をしばらく練習台にするから一週間は生きながらえさせろ。骨を切る訓練に使え、ついでに拷問の方法の実地訓練もおこなえ」

「それにしても運の無い男ですね。英雄トールに目を付けられるなんて……」

「運じゃない。英雄様と敵対した時点でお終いだ。あとは死体を豚のエサにすれば俺たちは一階級昇進だ。だからといって慌てて殺すなよ」

「こんなことで昇進するなんて思いもしませんでしたよ。それにしても あの男、根性なさそうですから苦痛に耐えかねてショック死するんじゃないですか?」

「そんときゃーそん時だ。最終的には殺すんだからな。ただ案山子よりはいい的だ。できるだけ長く使いたいところだな」

「しかし、リュガンには名だたる名前が載ってましたけど大丈夫ですかねぇ?」

「見た目、二流か三流の冒険者だろう。おそらくリュガンに載っていた名前も金で買ったと考えるのが妥当だ。売った方は覚えちゃーいまい。万が一覚えていたとしても、さほど重要な人物ではないから気にも留めまい」

「捜索される可能性は?」

「極めて低い。第一区画で貴族、商人ならともかく、冒険者というだけでほぼ皆無だ。しかも名前もよく知られていないような奴ならなおさら『どこか冒険に出かけたんじゃぁありませんか?』で片が付くさ」

冒険者が捜索されることはほとんどありません

ダンジョンとかならありますが その場合は救出か遺体回収の作業です

街中でいなくなるのは自己責任と言えるでしょう

ただし要人なら話は別です

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