48話 トランプ無双
今回はエルフのデスラベル視点です
デスラベルの一人称はデスラベル(自分の名前)です
トランプを初めて数時間。ラーズとかいう人間の弱いこと弱いこと! 我がトランプ術の前に敵は無し! 他の人間の貴族と神官は……ま……まぁまぁね。
ラーズとの勝敗は10勝7敗。……なによぉ、大差ないと思ったわけ? 私の方が3回も多く勝ってるんだから文句ないでしょ! 他の2人? そんなの知らん!
「くっそー、おかしい! 俺が負け越しているだと……」
「と、言いますか、ラーズは弱すぎですわ」
「ラーズ様の腕前、篤と拝見させていただきました」
「あはははは、ラーズ弱ーい!」
かなりの優越感! どうにもこの神殿の人間はトランプに強い人が偶然多かったせいで、私がなかなか勝てなかったけど、一般市民相手ならざっとこんなもんよ! 何よ、その眼は!? 疑ってる? ひょっとして私がトランプ弱いと思ってる? そんなはずないでしょ! ……そりゃーエルフの国では勝率が悪かったけど……人間の国に来ても勝率が悪かったけど……酒場で身ぐるみも剥がされそうになったこともあったけど……あくまで、たまたま、運が悪かっただけなんだから! その証拠に人間の一般人になら圧勝よ、圧勝……泣いてないわよ! 目にゴミが入っただけよ!
「よぅーし、次は何やる? ポーカー? ブラックジャック? 神経衰弱?」
「大富豪なら……大富豪なら勝てる!」
「そうじゃありませんことよ、ラーズ。ワタクシたちの目的は」
「オリハルコンの加工方法を教わることです。遊んでいる場合ではないのではないでしょうか?」
「はっ!? そうだった! 遊び過ぎた!」
「えー、いいじゃない。もっと遊ぼうよぉ。オリハルコンの加工なんて面倒臭いんだもん」
「では、『オリハルコンの加工が出来る』というのは本当ですの?」
「できるよ~。場所と材料があるなら……だけどね。何、作んのぉ?」
「武器が作りたいんだが、できれば俺の仲間のドワーフに教えてやってほしいんだ」
「えー、ドワーフにぃー。嫌だよ。アイツラ土臭いし、田舎もんっぽいじゃない? 私の洗礼された技術をそんなズングリムックリに教えるなんて最悪ぅ~」
「会ったことも無いのに適当なこと言うなよ」
「だいたい人間だって私達エルフから見れば下等生物なのよ。私にトランプで遊んでもらえるのを光栄に思ってもらいたいものだわ」
「……もう、遊んでやらんぞ」
「うっ……。べ、別に私が『遊んで』って頼んだわけじゃないもん!」
「頼んでましたけど……」
「うるさーい! 私が『頼んでない』っていったら頼んでないのぉー!」
もう、何なのよコイツラ! 私が全部正しいってーのに、逆らってくるなんて100年早いってーの! 黙って私の遊び相手になってればいいのに……。納得できないわ。だいたいコイツラだって私に遊んでもらいたいんでしょ? なのに何で逆らうのよ。
「それじゃぁ、俺たちも暇じゃないんで ここいらでお暇させてもらおうかな」
「なっ!? 逃げるつもり!」
「ラーズが勝ち逃げならともかく、負けているんですからよろしいんじゃなくて?」
「よ・く・な・い!! もっと遊ぶのぉ!!」
「そういう訳にはいかないのです、デスラベル様。私たちはホワイトドラゴンとかネクロマンサーとかを退治しないといけないのです」
「あれ!? なんでサズ神官がその情報を知ってんだ!?」
「今はそのことは重要じゃありません、ラーズ様」
「え!? そう!? 割と重要じゃね?」
ホワイトドラゴンとネクロマンサー?
ホワイトドラゴンは簡単に倒せないだろうし、ネクロマンサーは……あれ? どっかでネクロマンサーの話を聞いたことあるような気がするけど、あぁ、ココの神殿の司祭が話してたんだっけ。まぁ、いいか。私には関係ないし。
なるほど、それでオリハルコンの武器が欲しいってーわけね。
「ドワーフに教えないけど、デスラベルが作ってあげよーか?」
「さっき『嫌だ』って言ってただろ、どういう心変わりだよ。それにドワーフに教えて欲しいのには変わりない」
「デスラベルが作ってあげるのになんでドワーフに教える必要があるのよ!」
「だってお前、仲間じゃないだろ。これからいつオリハルコンが手に入って、新しい武防具を作れるようになるかもしれないだろ! そんときにお前はいない。それなら俺の仲間に教えてもらっておいた方が助かるじゃないか」
「じゃぁ、デスラベルが仲間になればいいんじゃん!」
そうだ。コイツらの仲間になればずーっと遊んでられるわけだ。さすがデスラベル頭いい! 痛いのとか面倒なのは嫌いだから、貴族の女と女神官にやらせればいいし、とりあえずオリハルコンの武器だけ作ればいいだけだ。……それでも面倒だなぁー、ちょっとだけ我慢するかぁ。ドワーフに教えるのも癪だし……いや、待てよ? ドワーフを弟子として顎で使うのは気持ちいいかも……『跪けードワーフ共!』『そこを槌で叩くのだ、ドワーフ共ー!』『菓子パン買って来い、ドワーフ共!』……あれ、これ、すごく楽しいんじゃない?
「いやいや、そもそも大地神の神殿の客人だろ? なんか仕事とか伝達とかあるからここに居るんだろ? 俺の仲間になるとか問題が色々出てくるだろ」
「……。そーいえば何か頼まれてたっけ? オリハルコンで何作るんだっけ……そこの神官!」
「え!? 私ですか!? 詳しくは知らないですけど、王冠じゃありませんでしたか? 英雄トール様用の王冠を作るため細工師を呼んだとか、そんな話を耳にしましたが……」
なかなか使える女神官だ。デスラベルはすっかり忘れていたけど、全然関わっていない神官が知っているとは思いもしなかった。そーっかー、王冠を作るんだったっけー。遊びに来たんじゃなかったんだなぁ。どうりで みんなトランプやってる時、渋い顔をしていると思ったよ。それなら、もっと手加減してもらいたいもんだけど……。
そーだ! 弟子のドワーフにそれも作らせればいいか。
「なら、王冠も練習にそのドワーフに作らせよう! そーすれば一石二鳥だ!」
「いいんですの!? 第一区画の神殿の依頼を練習がてらに弟子に作らせるなんて、問題ではありませんこと!?」
「知ーらーない。嫌なら、人間たちが作ればいいんじゃない? デスラベルはデスラベルがヤリたいようにヤルのぉー。そうと決まればさっさとドワーフにオリハルコンの武器でも王冠でも作らせに行こう! そしてトランプをやろう」
「いや、ホワイトドラゴンとネクロマンサーを倒さないといけないから……」
「じゃぁ、さっさと倒してトランプをやろう」
「気軽に言ってくれるなぁー。相手はドラゴンだよ? それにネクロマンサーに至ってはどこにいるかもわかってない」
あー!! 思い出した!!
ネクロマンサーがどこにいるかわからないんだ。だから、神殿でも探してるんだった。
「ラーズ! ネクロマンサーはどこにいるかわからないんだよ!」
「うん、俺らが捜してるからね」
「違う、そうじゃない! 神殿でも探してんの」
「そんな話は私の方には流れてきていませんが?」
「えーっとね、あれだ……えーっと『いんぺい』とかあって、一般の神官や司祭には気づかれないように探してるらしいの。そんで、一部の事情を知っている人がネクロマンサーを探してるって言ってたのを聞いたよ」
「本当か! もっと具体的になんかわからないか、名前とか居場所とか?」
「名前は……えーっと……ここまで出かかってんだけどなぁ。なんか死んじゃったらしいけど蘇ったらしいの」
「死んだけど……蘇った?」
「私の考えですが、ネクロマンサーが禁忌なのは理を無視した死者蘇生を研究しているところにあります。ようは永遠の命を手にせんがために行う禁呪。己が死ぬこと同時に魔物化し蘇ることが可能なのではないでしょうか? リッチなどアンデットとしての復活が有名です。ですからネクロマンサーが『生きている』という情報が流れたと推測できます」
「あー、なんかそんなようなことを言ってた気がする。難しくって覚えてないけど。で、なんか魔法が使えて姿を変えるから居場所がわからないんだって。『誰でもあって、誰でもなくなる』ってデブの偉い司祭が言ってた」
「『誰でもあって、誰でもなくなる』……なんか、聞いたことあるような無いような……」
「だけど、『この街からは出られないだろう』とも言ってた。周りがドラゴンだらけだから逃げるのが難しいんだって。だから、街中で人間に化けて潜伏している可能性が高いらしいよ?」
「凄い情報だ! エライ!」
「ホント! トランプやってくれる!?」
「ドラゴンとネクロマンサーを倒したらやってやろう」
「えー、程遠いじゃない。今すぐやろうよぉ」
「では、ラーズの役に立てたならトランプをやるというのはどうかしら? まずはワタクシたちの仲間のドワーフにオリハルコンの加工を教える。そうすれば一日中トランプでお付き合いするというのは?」
「うーん、貴族は強いからなぁ。とりあえずラーズがやってくれるならいいよ。よし、行こう、ドワーフのもとへ」
「私が神殿の方に連絡してまいりますので少々お待ちください」
なんか女神官が慌てて出ていった。ドタキャンだから大変なんだろう……いや、ドタキャンじゃないや、作る場所と人が違うだけだ。……それってドタキャンと変わらない? でも何とかしてくれそうだ、ラーズに『力の限り説得して来ます』と言っていた。デスラベルの為に頑張れ、女神官。
それから、ほどなくして女神官が汗びっしょりで帰ってきた。『本当に、本当にオリハルコンの王冠を作ってくださいよ』と手を握り絞められ力の限り説得させられた。何があったかは聞かない方がいいみたい。さっきまでは比較的冷静な女神官かと思ってたのにねー。怖いわー。
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デスラベルたちは第三区画? とかいう場所の小汚いところでオリハルコンの加工技術を教えに行くことになった。アンジェラとサズ神官とか言う二人は第二区画で別れた。そのかわりファイレとかいう小娘が一緒に来ることになったので、特別に許可してやった。
それにしても、ファイレとか言う小娘は生意気でデスラベルを上から見下したうえ、笑いながら頭を撫でる。デスラベルは猫じゃないってーの!
ラーズのことを『お兄ちゃん』と呼んでいた。どうやらラーズの妹らしい。これはトランプでコテンパンにしてやらないといけないので覚えておこう。所詮、ラーズの妹だ、デスラベルの敵じゃない!
第三区画は清潔感の無いところだけど、神殿よりよっぽど面白いモノがいっぱいある。
だいたいねー、エルフは神を信仰しないのよね~。神は隣人で精霊は協力者ってイメージだから。そもそも神もピンキリじゃない? デスラベル的には神って偉そうで何か頼む気がしないのよね~。むしろ亜エルフ(人間・ドワーフ・獣人など)はエルフの信奉者であるべきだと思うんだけどね。貢物とか持ってきてもいいんじゃないかなぁ。面倒だから力は貸さないけど。
さてチャキチャキと加工技術を教えちゃいますか! そしてドワーフに拝まれますか!
あれ、思ったよりも美少女ドワーフが出てきた。何だコレ、チンチクリンで可愛いぞ? 突然押しかけてきたから服装は耐火性の恰好をして煤だらけだけど、外側のプニプニ感と内側にある筋肉が絶妙なバランスだ。
「うわっ!? なんだ、この可愛い生き物は!?」
「……。オリハルコンの加工を教えてください」
ペコリと頭を下げるドワーフ。
ドワーフなのか、ヌイグルミなのか判別に難しいぞ! デスラベルより小さいドワーフ。こんなのが『ししょー、ししょー』と声を上げてついてくるのか! これはいい!
「『ししょー』と呼びなさい」
「……。はい」
「……」
「……?」
「呼んでみて!」
「……? 師匠」
うん、なんかイメージと違う。
硬いというか、堅いというか、固いんだよねー。
「サッサと教えてやってくれ、デスラベル」
「うるさい。物事には順番があるの! まずは自己紹介とか」
「たしかにそれは言える。私はスイロウ、剣士だ。そしてアナタの弟子になるドワーフがガイアル」
スイロウと名乗った剣士は、気品がありスラリと背が高くスタイルがいい……なんかムカつく!
「お前は敵だ!」
「えぇ!?」
「とりあえず、ガイアルとラーズ兄妹とトランプをする。スイロウはおやつを持ってきなさい!」
「待て、待て、儂に挨拶も無しか?」
眼つきの悪いチンチクリンがいる。ガイアルと比べると可愛らしさの欠片もない。ネコ目 美人チンチクリンだ。だが、高飛車だ。相手にしたくない。
「お前はあっちにいってろ」
「ほう、エルフ風情がずいぶん高飛車な態度を取るなぁ?」
「エ・ル・フ・風情だって?」
ネコ目チンチクリンに睨みを利かせていると、ラーズにガシッと頭を鷲掴みにされる。あっ、ネコ目チンチクリンも頭を掴まれて……痛たたたた……万力みたいに頭を締め付けてくるっぅぅうう。指が頭にめり込んじゃうっぅ。
「痛たたたっぁぁあ! 待て、ラーズっぅう!! どこでこんな強力な技ざざざざぁ……」
「マッサージのツボの一種らしいんだ。効果もあるぞ、ウィローズ」
「仲良くするぅ、仲良くするから! 頭、頭・放してっぇえぇ!!」
まさかラーズが素手の暗殺拳の使い手だとは知らなかった! 恐ろしい、恐ろしいのであんまり逆らうのはよそう。
「デスラベル、じゃぁガイアルにオリハルコンの加工を教えてやってくれ」
「分かりました、隊長!」
敬礼をしてすぐさまドワーフっ娘を連れて鍛冶場へと逃げる。
エルフの国も神殿も娯楽施設が少なすぎるんだよね~。折角、長い命なんだから面白おかしく生きたいじゃない? でも遊びのためとはいえ、ちょっと早まったかなぁ~。でもラーズぐらいしかトランプ勝ち越せないしなぁ~。
高飛車は将棋からきた語です 成金も。
ちなみに岡目八目は囲碁のからきた語です
あと八百長も囲碁の得意な八百屋の長兵衛さんのことらしいです
囲碁が超強い。ホントか嘘かヒカルの碁のサイ並みだとか
まぁ 話半分で聞き流してください




