4話 持ち物検査
「拾った」
「……」「……」「……」
スイロウの言葉に何とも言えない沈黙が流れる。
『拾う』可能性が無いわけではない。ダンジョンに潜ればお宝の一つや二つ見つけることもあるだろう。ただドラゴンスレイヤーを見つけられるかといえば、偶然見つかるような代物ではない。
ガイアルも沈黙を保っているが、彼女もドラゴンスレイヤーの一件には一枚噛んでいるかもしれない。
深く追求するか……と考えなくもない。普通はどう考える?
ここでこの話題を曖昧にしておいて、あとで王族や貴族の盗品だった時、共犯にされかねない。
そう思ったのだが……やはり追求することをヤメた。
「まぁいいか」
「え!? いいの、お兄ちゃん!」
「本人が『拾った』って言ってるんだ。信用しようじゃないか、同じパーティーだしな」
「ありがたい。機会があればこれについては説明しよう。だが、決して盗品などではないことを神に誓おう」
「はじめっからそう言えばいいのに~。私たちを試したんでしょ~」
ファイレはスイロウをジト目で睨み付ける。が、涼しい顔で紅茶を口にするスイロウ。そして、その動作からこちらが何者かを探るような質問を投げかけてくる。
「ラーズが持っていた剣もただの剣ではあるまい? 微量だが魔力も含まれていたし、それに銅でも鉄でもない白濁した白い刀身……その剣は何だ?」
不気味な剣だった。
スイロウが考えるにそれはラーズとファイレの核心を付く質問のように思えた。
ラーズとファイレが互いの顔を見る。
……。
何かを確認し合っているのかと思ったが、二人とも首を傾げる。
ラーズが何事もなかったように鞘から自分の剣を引き抜いて見せる。
「……!?」
激しく反応したのはガイアルだった。
紅茶をこぼして立ち上がっている。
「ガイアル? あの剣を知ってるのか?」
「……」
目を見開いたまま、力強く頷く。
そして口を開く。
「……竜骨刀」
「竜骨? 船に使う?」
「いや、文字どおりの意味だ」
ラーズがスイロウの言葉を遮り、疑問に答えるように続ける。
「ドラゴンの肋骨から作られた剣だ」
「何!? そうなるとお前たちはすでにドラゴンを倒したことがあるのか!?」
ガイアルが驚くのも頷ける。
竜骨刀を持っている時点で彼らが竜殺しの可能性は跳ね上がる。
「ないわよ。倒さなくても手に入れる方法はいくらでもあるでしょ。買うとか貰うとか……」
「可能性は低いな。ドラゴンの素材を誰かに譲るなど考えられんし、ましてや貰うなど」
「まぁ、師匠から餞別でもらったんだけどな。それに俺の住んでいた村ならドラゴンの素材を使った装備は高かったが珍しくは無かったさ」
スイロウもガイアルも考えていたことは一緒だった。
『ドラゴン装備が珍しくない……それに村……この時代に村が残っている?』
ドラゴンを狩る村の話を噂で聞いたことがある。実在しているとは思ってもいなかったが……。
「……幻の村『緑 の 翼』」
「へー、あんな田舎の村、ガイアルちゃんでも知ってるんだぁ。旅人も来れないし、ドラゴンしか取れないのにね~」
「旅人がこれないのは仕方ないだろう。ドラゴン山脈やら竜の寝床と呼ばれる森などがあって四方囲まれているんだ。簡単に村に出入りできないだろ」
その通りだ。
この街からでも何人もの冒険者や軍隊がグリンウィンド村を目指したことか。だが途中の山脈に住むドラゴンに行く手を阻まれ進むことができないのだ。
その山脈だけで20体以上のドラゴンが確認されている。そんな山をこの二人は越えてきたのかと思うと想像以上の猛者ということになるが、スイロウを助けたときのラーズの動きを考えればそれは考えづらい。
「ちなみに師匠の付き添いで、あの山脈越えてきたのよ。私たちだけじゃぁ無理だからね~」
「なら、その師匠とやらとドラゴン退治をすれば……」
「可愛い子には旅をさせろってやつだ。俺たちだけじゃぁドラゴン退治は今は無理だろうな。独自の修行も大切らしい。で、餞別に……」
と言って、竜骨刀を掲げてみせる。
禍々しさはドラゴンの骨から作られているからだ。
そして、ドラゴンを倒すのにはドラゴンの素材で作られた武器はかなり有効だ。
「……」
ガイアルはファイレの方を見る。
師匠からの餞別なら当然、ラーズだけではないのだろうと考えたからだ。そしてそれはこれからの戦力になるはずである。
「うん? なぁにガイアルちゃん、私が師匠から何貰ったか気になる?」
素直に頷くガイアル。
ニヤリッと唇を釣り上げると、ファイレは懐から巾着袋を取り出した。
「それは!」
「イイ香りがする袋!」
「……」
「効果は?」
「? だからいい香りがするんだって」
「え? 戦闘中の効果は?」
「戦闘中? 戦闘中でもいい香りがするけど?」
「何か戦えるモノは師匠から貰わなかったのかって聞いている!」
「何、怒ってんのよぉ。戦えるモノなんて女の子にはいらないでしょ」
「いるだろ! 今の時代! 大陸の大半をドラゴンが占拠してんだぞ!」
「……スイロウ、落ち着いて」
無機質な目で、いつの間にか立ち上がっていたスイロウの服の袖をクイクイッと引っ張り席に着かせる。
ドラゴンと闘うことが目的なら、それに見合った道具をもらえと言いたいところだがスイロウ達はファイレ達の目的をよく理解はしていないので、怒鳴ることは筋違いだとガイアルが諌める。
納得いかないが納得するしかない。
ラーズは苦笑している。すでに一悶着あったのかもしれない。または妹に甘いところがあり何も言えなかったとも考えられなくもない。
「俺たちの主要な装備はあとは大したものは無い。そっちはドラゴンスレイヤーとオリハルコンのナイフか?」
と聞いたところで、ガイアルが首を振り、青白い黄金を机の上にゴロンと転がした。
拳より少し小さい、これがオリハルコンであろう。
「どういうことだ?」
スイロウがガイアルの顔を見る。
ナイフを作るよう頼んでおいたのに、オリハルコンは渡したときと同じままで机の上に置いてある。
「……加工できない」
「え、加工できない……って?」
スイロウはガイアルが優秀な鍛冶師だと確信していた。当然、オリハルコンも加工できるものだと考えていたが、そう上手くはいかない。
ファイレも加工方法くらい、いくらでもあるのではないかと提案してみる。
「まず槌で打つ、加熱温度を上げる、魔力を通す、冷たくする、鑢をかける」
「……」
一つ一つに首を横に振っていく。
最終的には他の鍛冶師と相談するといった案も出されたが、それすら すでに試されていた。
「この街の鍛冶師ではオリハルコンの加工方法はわからない……ということか……」
「……」
コクコクと力強く頷くガイアルさん。
そもそもオリハルコンの剣はドラゴンの鱗を切り裂き、オリハルコンの盾はドラゴンの炎も効かず、オリハルコンの鎧はドラゴンの爪も通さない……と言う噂だ。
それが本当なら加工の仕方がわかるわけもない。
魔法を使うことはほぼ間違いないだろうが、そこからどうしたらいいかわからないらしい。槌を強化させたり、魔法の炎なんていうのも試したらしいが……。現在、保留するしかない。
「……」
ガイアルは表情を変えることは無かったが、内心では悔しがっていた。
自分の技術の無さを……考えの甘さを……後悔していた。ただ、終わったわけではない。何かきっかけがあれば加工できるはずだと、諦めてはいなかった。
「出来ないモノはしょうがないでしょ。今あるもので何とかしましょ」
「いいことを言う。あとは一般の装備だな。他に師匠から貰った物などはないな?」
「いや、あるけど?」
「おいっ!」
「隷属の首輪の鍵……レグイアとかいう人の首輪の鍵らしい、けど、今は関係ないでしょ」
「いや、少し探してみるのもいいかもしれないぞ?」
「なんで?」
「信用できるパーティーが一人増える」
「無理矢理、連れて行くのか?」
「獣人だろう? 問題ない」
「いや、問題あると思うよ。この街にいるかもわからないし、そんなのに時間をかけるのはどうなのよ。それに私とお兄ちゃんは獣人に抵抗はないから、無理強いは好まないの」
「……」
「名前だけしかわからないのなら、時間がかかることは間違いない。ただ、お前たちの師匠と呼ぶ人間が預けた鍵だ。どんな人物か気になっただけだ」
ラーズとファイレは顔を見合わせる。
「どうした? 言われてようやく『その鍵の人物』に興味が湧いたか?」
「あっ……いや……そっちじゃなくって……師匠が人間って話……」
「……?」
「いや、今はその話は良いだろ、ファイレ。それよりドラゴン退治の作戦だ」
途中でラーズが話を打ち切った。
スイロウは彼らの師匠が人間ではない可能性があることをようやく気付いた。
ドラゴン山脈を超えることができる人間はいないと思っていた……人間じゃない可能性もあるとは……。
「で、今後の予定は?」
「まずはドラゴンと戦う前に、互いの実力を知るべきだと思う。ゆえに酒場の依頼でドラゴンに見立てた討伐クエストを受けたいと思う」
「簡易模擬戦ってーわけね」
「なるほど、悪くないんじゃないか」
「……」
「ただし、その際、厄介な人物に会うとは思うが……」
「厄介な人物?」
「……」
ラーズは仮面の一団を思い出した……が、実際には全く違う人物だった。
この世界ではミスリルも珍しいですが加工は簡単です
量も金よりわずかに少ないくらいです
オリハルコンは滅多に見つかりません……
ようするにスイロウはドラゴンスレイヤーとオリハルコンを
どうしたのかという話