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39話 調査員

 ファイレです……意外とすんなり いかないもんだ。


 調査員は営業日の昼休みくらいにやってきた。


 大地神の神官にリュガンの保証人になってもらうために出向いたら、マッサージ店の調査が必要だって言われた。実態調査だから営業していて問題がなければすぐにでも保証人になってくれると思ったら大間違いだったよ。それはそうだよね~、そんなんでよかったら第二区画の人はすぐに保証人が集まっちゃうもんね~。


賄賂とか渡して保証人になってくれれば楽なんだけど、そーいう雰囲気の人じゃないのよね~、このサズ神官とかいう人。凄く真面目……金髪巨乳のクセして、店内をいちいちチェックしていく。細かいところまでウルサイ……小姑か、お前は。


「残念ですが保証人にはなれませんね」

「なんでよ!」

「まずは値段が高すぎます。次に実績期間が短すぎます。周りの店に評判もよろしくないようです」


 値段はいつものことだとして……実績はほとんどないのは仕方ない、真実だし……周りの店の評判も良くないんだよね~、困ったことに……。

 『お客を取られた』『マッサージ店に集まる客がゴミを出す』『うるさい』とか半分やっかみも入ってる苦情がたまに来るんだわー。そう言う店の人に限ってウチに来てくれないから、マッサージの良さがわからない。


「確かにお客さんには評判はよろしいようですが、第一区画に行くのにふさわしいかと言われれば『否』としかお答えできません」

「堅いなぁ。もうちょっと柔軟にいかない?」

「いきません。そう言う決まりです」


 こーいう女は融通が利かないと昔から相場が決まってる。さて、賄賂と権力の圧力は逆効果だとしてどうするかね。マッサージも受ける感じじゃないよね。念のため聞いてみるか。


「値段に関しましては、適正価格だと思うのですが……」

「そう噂されていることも存じております。ですが、一般的に考えてこれが適正だとはいえません」

「ご自分で体験されていないのに? 無料でよろしいので確認していただけませんか?」

「それは『賄賂』に当たりますのでお断りします。それに実績期間が少ないのと、周りの店の評判がよろしくないのは覆せません」


 そう言うと思った。だから困るんだよね、融通の利かない奴は!

 そりゃー教会じゃぁ、実績がなく評判が良くない人間が第一区画に行かせるわけにはいかないか。しかも詐欺まがいだと思われていたら……。

 でも、大地神ガナス教会の保証は欲しいんだよね。第一区画に行ったときに同教会に入りやすくなるだろうから……。

 もうちょっと粘るか。


「『ユニコーンの角』や『貴婦人の剣』などの商会には評判はいいんですよ。できれば、近所以外にも聞いてもらえませんか。それと一部の傭兵団にも」

「傭兵団ですか。それは意外ですね」


 おっと、傭兵団が引っかかったか。たしか大地神ガナス教会は獣人擁護派だったっけ。第二地区の傭兵といえば殆どが獣人だ。これはいい影響になりそうだ。


「『飛龍狩り』や『国の先陣』などにはご贔屓いただいてますよ」

「それは『ユニコーンの角』や『貴婦人の剣』ですから、当てになりません」


 くっ! この真面目ちゃんが! 大雑把に見ろよ。傭兵団には違いないだろ! もー!!

 お兄ちゃんが受付にやってきた。昼食時に行く気満々だ。今それどころじゃないでしょ!


「こんにちは、サズ神官」

「こんにちは、マスター・ラーズさん」

「マスター? いや、ただのラーズでお願いします。なにゆえ、マスターの称号を付けたんですか?」

「マッサージを極めし者だと噂されていましたので……」

「そんなもん極めてませんよ」


 いや、極めてる。マスターラーズで問題ない。またはゴッドフィンガーとか名乗った方がいい。ゴッドフィンガーだと無手の使い手みたいだけどね。


「それで、保証人には……」

「申し訳ありませんが、今の状況では我が教会は協力できません」

「ですよね~」


 ……お兄ちゃん、あっさり諦めすぎ。


「まぁ、それは仕方ないので、一緒に食事でもどうですか?」

「それも不正になりますので、お断りします」

「別に驕りじゃなければいいですか? そろそろ昼時なので」

「そうですね……」

「いや、お兄ちゃん、審査終わったのにこれ以上付き合ってもらうのは問題があるんじゃない? 不正になるかもしれないし……」


 なるほど、兄の考えていることが読めたぜ! 保証人は諦めてただ単に『お近づき』になろーって魂胆だ! このダメ兄はマッサージをやっていなければ、ただのダメお兄ちゃんでしかない。まさに二流冒険者がやりそうなナンパ行為だ。


「でも、ファイレ。教会の人と仲良くするだけなら不正にならないんじゃないか? だってアレだ、えーっと、ただの付き合い? お隣に作りすぎた煮物をお裾分けする感覚?」

「ダメダメ! サズ神官だって暇じゃないでしょうから、お兄ちゃんのナンパになんて付き合ってられる分けないでしょ!」

「な、なななにを根拠にナンパなんてことを……。ちょうど昼だっただけで……」


 後半のほうが小声になっていく。ドンだけ丸分かりなんだ。これで一流冒険者がいたら『彼女がいやがってるだろ、やめろ』と言われ、お兄ちゃんはヤラレ役になっているところだろう。一流冒険者がいなくて良かったね!


 ところがサズ神官、何を考えているのか お兄ちゃんの申し出を受ける。アホなのか、優しいのか知らんけど何でよ! せっかく、私が丁寧に逃げ道作ってあげたのに、なんで その道を戻ってくるのよ!


「確かに忙しいですが、お昼を抜くほどではありませんですし、私でよろしければお付き合いいたします」

「よろしいです!」


 舌打ちする。そりゃーするでしょ。

 保証人にもならないうえに、お兄ちゃんと食事しようってーのよ。どーなってんの? お兄ちゃんが悟られないように浮かれているのが頭にくる。そんなに金髪巨乳の美人がいいか!?


 鼻歌交じりに、私にどこの店に行くか聞いてきやがりますよ、バカおにいちゃんが!


「どこでもいいんじゃな~い! 第三区画とか行けばいいとおもいまーす」

「なるほど、頭良いな! どーですか、サズ神官?」


 うん、見境ないな。珍しいモノで釣ろうとしているんだろうけど、第二区画にいる人は第三区画をあまり良く思っていない節がある。簡単に言えば不潔に思っているようだ。

 私とお兄ちゃんは第三区画から出勤してますから~、そんなことはありませんが! アルーゾ、アンジェラさんあたりは珍しい部類。一生、第二区画または第一区画から出ない人も少なくないらしい。


 お兄ちゃんは知らないのだろうが、サズ神官は潔癖症というお客さん達の噂。なにげに、お客さん達の噂話を私は拾い上げてるんだよね~。ネクロマンサーじゃないからお兄ちゃんに話してないけど。

 サズ神官は差別を嫌っている割には第二区画から出たことがないという矛盾を抱えている。


「……」


 サズ神官はにこやかな笑みを崩さないが、内心はかなりの葛藤があるんでしょうよ。見下しているつもりがなくとも第三区画に行ったことがないのだから。自分の中で『なぜ第三区画に行ってないのか』理解していない。自分は公正・公平・平等を心掛けているつもりなんだろうけど、まったくそんなことないんだよね~。ニヤニヤ。

 それにつけても、何にも理解していないお兄ちゃんは流石だとしか言いようがない。下手すれば嫌われそうな展開! 私はどっちでもいいけどね~。いや、嫌われた方がスッキリするかな?


「わかりました。第三区画ですね、お付き合いいたします」

「やったー!」


 残念、お兄ちゃん。これは失望させている方ですよ。嫌々、行く感じですからね。


 本来は昼食に付き合う必要もないのに変なプライドのせいで付き合うことになったサズ神官。彼女を引き連れ第三区画のよく行く冒険者の酒場。さすがお兄ちゃん、こんなところでも下町のいいところを紹介しようと裏目に出ています!

 顔はにこやかなサズ神官ですが内心はどう思っているのか……。


 露店街を通り過ぎ、大通りをまっすぐ進み目的地に到着。意気揚々と入っていく我々三人。

 とくに注目を集めることも無く冒険者パーティーのようなものだと酒場の客は解釈しているのだろう。テーブル席に着くまでの間、周りを何度か確認していたが、いつものことながらガラの悪い客が多いこと。

 一部では喧嘩をしているバカもいる。サズ神官は口元を手で抑えオタオタしているが『日常茶飯事だ』とお兄ちゃんが一言言ったが、それでも止めに行こうとするのでしょうがないから私もサズ神官を席に無理矢理つかせることにする。こんなところで昼食時間を無駄にすることも無い。


「第三区画ではあれを楽しんでる場合もあるの。下手に止めに入ると反感買うわよ」

「し、しかし……」

「事情を知ってるならまだしも知らないで止めるのは、第三区画では無しでしょうね。喧嘩を止めるなら、命に係わる状態か、用事でもある時くらいよ。それともここでのルールを破る?」


 『ルール』と言われればサズ神官もそれ以上口出ししない。顔色が悪い。私としてはいい傾向だが、お兄ちゃんの思惑としてはいかがなモノなんでしょうね~。さっきから好感度がダダ下がりだとしか思えないんですが……。


 メニューをサズ神官に教えるお兄ちゃん。でも、説明しなくても『材料』+『調理法』なのですぐわかるだろう。たとえば豚肉の塩焼き、魚の塩釜焼き、鳥の唐揚げ……難しいことは何もない。たぶん初めて見ても想像がつくのでお兄ちゃんは邪魔でしょう、感謝の言葉を述べていますが。


 料理が運ばれて食事を始めると、見知った顔が入ってきた。


「おう、スイロウ! ガイアル!」

「……誰ですか?」

「私達のパーティーの剣士と神官よ」

「一緒にいいかな?」

「……」


 あっ、ちょっとスイロウがサズ神官を警戒している。ガイアルは、同じ神官と言うことで気にしていない様子……だけど、本当に気にしていないのかは分からない。感情が読み取りづらいのよね、ガイアルの表情は。


 全員が席に着き、スイロウが注文を頼もうとしたが、すぐにそれどころではなくなってしまう。

 酒場の扉を開け10人前後の騎士団が一斉に入ってくる。何事かと酒場にいた全員が入り口を見る。誰か犯罪者でも追いかけているのかと思ったら……あれはアルビウス副大臣じゃぁございませんか。 なんか、こっちに騎士団 引き連れてやってくるぞ。あんまりいい予感がしないのは私だけか?


 昼食に(かこつ)けて色々聞き出そうとしていたお兄ちゃんがキョトンとしている。いや、酒場中がキョトンとしているんですけどね。

 アルビウスさんの緊迫した雰囲気が迫ってくる。こりゃーなんかあったんだろうと、一発でわかるほどだ。ネクロマンサー関連かと思ったけど、こんな大勢でいらっしゃいませんよねぇ?


「ラーズさん、冒険者としての依頼があります。至急の依頼です。受けてください」

「え?」

「ずいぶん唐突な話ね、アルビウス副大臣」

「悪いですが、掛け合いをやっている時間はありません。ワームがこの街に近づいています。早急に片づけてください。パーティーメンバーは何名でも構いません。この依頼でラーズさんたちのパーティーはAランク冒険者とします。報酬は500万Gとリュガンの保証人を二人付けます」

「わかった。場所は?」


 矢継ぎ早に説明していくアルビウス副大臣の説明を聞いて、のんびりしていられないことを悟る。お兄ちゃんがこの依頼を受けないハズが無かった。実力を伴わない正義感がお兄ちゃんの美徳の一つだ。


「一匹は町の西、ココより10km離れた場所ですが、この街まで来るのは時間の問題です。もう一匹はブラックドラゴンの巣にいることが判明しています。二手に分かれて行動してください。私達も手伝うことになります」


 2匹いるのかよ。どっちも時間がないのね~。外は一時間程度で街にご到着予定、もう一匹は街の真下。焦るわけだ。


「じゃぁ、スイロウとガイアル、アルビウスさんと騎士団はドラゴンの巣へ! 俺とファイレ、あとサズ神官もご同行願えますか?」

「も、もちろんです」


 意外と二つ返事だな。戦闘なんてしたこと無さそうだけど大丈夫か……大丈夫なのかは、私たちか……3人じゃワームはキツイ。私達は地下のワームが終わるまでの時間稼ぎといったところかな。

 胴幅2m、全長50m前後。攻撃方法は体当たりしかないが、直撃したら骨が砕ける。


「俺らが手伝ってやろうか?」

「というか、すでに私たちは行動をおこしていますけど?」


 お兄ちゃんの後ろから声がしたと思ったら、サングラスとマスクを外し『飛龍狩り』アネッサと『国の先陣』テーラーが腕を組んで立っていた。


「何で二人が第三区画の酒場に!」

「それは……ほら、なぁ」

「たまには、第三区画の冒険者の酒場の様子も確認しようという話……でしてね」


 ストーカー共め。

 だが、今回は助かる。


「スイロウ! そっちは……」

「アルーゾ達に協力を求めてみる。ドラゴンがいなくなってもワームが穴を掘りつづけていたとは考えていなかった!」

「……」


 ガイアルが力強く頷く。あっちはあっちで任せて大丈夫そうだ。


「では、急ぐぞ!」


 慌てて酒場の外に出るメンバー。

 スイロウ、ガイアル、アルビウスさんとゆかいな騎士団は鍛冶屋へ

 私とお兄ちゃんとサズ神官は町の外へ……幌馬車を用意してもらっていたのを使う。ストーカー傭兵二名はそれぞれ傭兵を率いるためにいったん別れる。


―――――――――――――――――――――


 サズです。


 小さいころから、神に仕えていたため第二区画から出ることはありませんでした。

 私の役目の大半は書類の整理や確認などをしています。今回はマッサージ店が『教会に身元保証人になってもらいたい』と言うことで、相応しいかどうかを神官の視点から調査することでした。


 それがどうして、こうなったのでしょう。

 目の前にはワームと呼ばれる巨大なミミズのような生き物の死体。身体の真ん中から真っ二つにされ、炎で三割ほど焼かれ頭が潰れている状態。

 こちらの被害は傭兵5名が軽傷、ラーズさんが腕を折る重傷でしたが、これは私の回復魔法で治しました。

 圧倒的……到着したときにはすでに『国の先陣』と言われる犬系の獣人で組織される傭兵部隊が戦闘を行っていました。

 ワームはこの場に釘づけにされていました。次に私たちが到着。

 ワームが横にズルリと動くだけで簡単に傭兵が吹き飛びますが、受け身が上手くクルリと立ち上がっていました。


 ラーズさんは妹さんが制止を無視して剣で挑みました。見事にズブズブと切り付け赤黒い血がワームから吹き出ましたが、逆にそのまま体重をかけられ剣と腕を折ってしまいました。

 妹さんが巨大な火の壁を魔法で作り上げ、完全に進行方向を止めたところに『飛龍狩り』の傭兵団が到着、と同時に一斉に襲い掛かっていきました。陣形も何もあったモノではありませんでしたが……。

 あとは蹂躙(じゅうりん)するだけの光景。死にかけのミミズに群がる蟻をイメージしてしまいます。

 人数の差……これが数人の冒険者だったら、こうはいかなかったでしょう。


 不思議なのは彼の為に『国の先陣』と『飛龍狩り』が動いたこと。いいえ、そもそも、アルビウス副大臣直々に依頼を持ってきたこと。それにもう一方のパーティーには伯爵家の協力が得られそうなこと。

 もう一度、彼らを調べ直した方がいいかもしれません……。


 ワームを倒したばかりで、みんな思い思いに休憩を取っています。私はラーズさんの傷を治した後は軽傷の人の傷を見て回るついでに話を聞いてみることにしました。


「ラーズさんのマッサージ店はご存知ですか?」


 男性のレトリバー型の獣人の人は知っていました。

 その人の言葉を借りるのなら『まるで天国のようだ』ということ。少し落胆しました。なんといえばいいのでしょう。天国など人が実現できるモノではないのです。

 それからも、幾人かに確認をっとってみたところ『甘い蜂蜜のようなイメージ』『体が軽くなる』『ほんわかした気分になる』など、どうやら人を惑わせるようだと私は思いました。


 非常につまらないモノのようです、マッサージというのは……。

 ですが、傭兵団の全員がマッサージを受けたことがあることに少々驚かされました。そこまでいう『天国のような』マッサージを体験してみたいと思いました。


 そして、それを全否定したいと私は考えたのです。

ワームは電車を小さくした感じをイメージしていただければよろしいかと

そんなのが止められるのか! 時速10kmなら なんとか

あと 柔らかいです 主食は魔力と土


次回はサズ神官 マッサージ予定

しかし彼女は甘い感覚に嫌悪する体質です

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