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35話 セリナーゼ(28)

ちょっと読みづらいかもしれません

 マッサージ師など訳の分からない職業についてから一ヶ月近く経つが、いたって健康的で安定的な生活を送っている。


 朝、早く起き、ガイアルの鍛冶屋で食事をとり第二区画のマッサージ店にファイレと出勤、昼食は第二区画で酒場やらレストランで食事。午後からマッサージの仕事を再開。店舗終了後、俺が顧客の資料を纏め、ファイレが売り上げや税金の計算。その後帰宅、夕食もガイアルの鍛冶屋でとる。就寝前にスイロウやガイアルと剣の稽古をする。

 冒険者として依頼を全く受けていないが、情報収集と割り切るしかない。売上的には冒険者でいるより遥かに儲かっているのが、困るところだ。冒険者をやる意味を忘れそうになる。


 そんなわけで、今置かれた状況が理解できない……という訳だ。どんな状況かって?


「私どもは年間契約として、2000万を出資しようかと思っています?」

「あら、いやどすわぁ、それならウチの専属になれば2200万にしましょうか?」


 高級レストラン、しかも個室で、俺とファイレ、大商会『ユニコーンの角』の商会主のメガネの男と大商会『貴婦人の剣』の商会主、扇子(せんす)の女性。商会主の後には獣人の傭兵が二人ずつ控えている。武器の持ち込みは禁止されているが、互いににらみを利かせていて一触即発と言った感じだ。


 この場にいる全員の顔をなんとなく見た覚えがある。『なんとなくじゃなく、お客さんとして全員来てるけどね』と、上品に盛り付けられた焼きキノコにナイフを通しながら俺にファイレが耳打ちしてくれた。

 両者とも第二区画の大商会……と言うと『第一区画ならもっと凄い商会が?』と思いがちだが、第一区画には商会は無い。王族と貴族の住宅があるだけである。買い物は王族・貴族が出向くか、限られた大商会が出向くかだけの商会の無い区画である。ようするに、この国でも有数の商会だということだ。


 ただし、扱ってる商品が違うため、一概にどちらが上とは言えない。『ユニコーンの角』は薬を中心とした商会。そもそもユニコーンの角は万能薬と言う噂がある。実際に使ったという話どころか、ユニコーンに会ったという話もほとんど聞かないので眉唾物ではある。そんな噂を店の名前にしているだけのことはあり、薬剤に関しては国内一の品ぞろえらしい。それを元手に、武器・防具・道具など冒険者向けの商店を数多く経営している。


 対する『貴婦人の剣』は真逆のコンセプトと言ってもいい。一般家庭をターゲットにしている。もとは貴族御用達のドレスのオーダーメイド販売店だったらしいが、それを元手に包丁や鍋などの家庭用用品を手広く扱っている。冒険者には関係ないモノが多いが、そもそも冒険者の数は高が知れている。

 しかも、若干28歳にして一代で築き上げている天才経営者と噂されている。


「無駄に金額を吊り上げるのは得策ではないのではありませんかな、セリナーゼ殿?」

「では、2000万持ってぇお帰りぃになればよろしいではおまへんかぁ、コンセクター殿?」


 メガネを指で持ち上げながら交渉する『ユニコーンの角』のコンセクターに対し、扇子で口元を一切見せないセリナーゼ。

 どうやら、俺の意見が通る場ではなさそうだ。どっちも断るけど、ファイレが『面白いから見てみよう!』と性悪な意見を出してきた。当然、ダメだろと思ったら、話を聞いてもらえてうれしい限りですと両商会主。交渉の場もなく取りつく島もないよりはるかにマシなのだとか……たしかにそうか。


 小声で確認する。


「『全員(・ ・)会った』てことは傭兵の人も?」

「はぁ~……」


 ため息をつかれた。『当然』と一言。全然覚えていない。『ユニコーンの角』の傭兵は隻眼のウサギ獣人と犬獣人。『貴婦人の剣』は狼の獣人が二人。どちらも男性一人に女性一人、美男美女で揃えている。強いうえに美形かよ! 俺にも何か才能を分けてくれ、こんなマッサージなどと言う訳のわからないモノじゃなくって!


「2000万以外のモノを用意すると言っているんですよ。おそらくラーズ君は喜ぶんじゃありませんか?」

「俺が喜ぶもの?」


 なんだ? 俺が喜ぶもの? 剣か……いや、そこまで欲しくもないな。あるならあった方がいいが。ドラゴンの主を倒せる物品……はあるわけないし、美人の彼女を紹介……は嬉しいが、そんなモノではないだろう。情報か? でもそれは秘密裏に行っているからバレてないだろうしなぁ。

 『考えたってわからないよ』とファイレに笑われる。


「質の良い冒険者道具を無料での貸出と施設の無料使用権、必要なら傭兵や冒険者パーティーのご用意も致しましょう」


 その言葉に純粋に驚かされる。冒険者としては至れり尽くせりじゃないか! これは受けた方がお得じゃないか? だってマッサージ屋なんて手段であって目的じゃないし。話では週四でマッサージすれば他の時間は好きに使っていいというのが『ユニコーンの角』商会主・コンセクターさんの意向。


 コンセクターさんは勝ち誇ったようにクイッとメガネを上げ『貴婦人の剣』商会主・セリナーゼさんを見る。俺が冒険者だと調べ上げていたらしい。

 セリナーゼさんは扇子を口元から動かすことが無いため、表情は読みにくいが眉が吊り上ったような気がする。


「そんなもの、お金で用意すればおまへんかぁ、ラーズ君。それよりもウチならもっとええもん用意させてもらいますぅ」

「マッサージ関連の施設とかならいらないです。俺、基本、冒険者なもんで」

「ややわぁ、そんなツマラんもんじゃぁあらへん。ウチの店の半分を差し上げよう思いますぅ」

「…… ……は?」


 何を言ってんだ、このお……姉さんは。そんな簡単に『店の半分をやろう』って、なんか魔王とかが言いそうな台詞じゃないか!

 だが、焦っているのは俺だけじゃない。ファイレや、眼帯のウサギの人や、狼女の人とが待ったをかける。狼女の人はセリナーゼさんの味方じゃないのか?


「ちょ、ちょっとどういう意味よ!」

「そんなの俺が許さんぞ!」

「セリナーゼ様、そんな話、私は聞いてないですよ!」


 コンセクターさんは呆れかえっている。ウサギの人と狼女の人は味方に羽交い絞めにされて抑え込まれている。当の本人・セリナーゼさんは涼しい顔で俺を見ている。口元がわからないだけで、かなり表情が読めなくなる。そこまでして俺を囲う意味がわからないのだが、ファイレが猛反対。さっきまでフォークとナイフを持っていたのをテーブルに叩きつけて立ち上がる。


「ぜーーぇったい許しません!! お兄ちゃんは私とドラゴンを狩りまくるんだから! そんなもんに縛られるわけにはいかないの! だいたいお店の経営とかの才能ないんだから!」

「その辺はウチが手取り(・ ・ ・)足取り(・ ・ ・)教えてあげますわぁ」

「俺のこの眼も潰してからいうんだな!」

「セリナーゼ様、お言葉にお気を付けなさいませ!」


 ウサギの人が凄むのはわかる……いや、それでもコンセクターさんが言うんじゃないかとはおもんだが……それは置いておいて、なんで味方の狼女の人に睨まれてんの、この人!

 凄いモテモテな気分が味わえるよ。これが恋愛感情ならどれほどいい事か……商売関係なのが少々悲しい。

 何故そう思うかだって? だって、そりゃそうだろ? ただのお客さんだぜ? しかもたぶん1~2度、会っただけで こんな人数恋愛対象になってると思う方がどうかしてる。たかだかマッサージで……俺も、ファイレとかにマッサージをしてもらったが、正直そこまで(・ ・ ・ ・)ではなかったから分かる。

 むしろ、俺のマッサージ技術の他になんで商売につながると思っているのか思惑が気になる。

 あとは、傭兵たちのツッコミもちょっと気になる。お前らは商売関係ないだろうと……。


「はじめから、この話は私達は飲むつもりはないけどね!」

「ほぉ?」

「その心はなんどすか?」


 たしかにファイレの言うように断るつもりだったっけ。条件がドンドン跳ね上がって、ついつい心変わりしそうだった。危ない危ない!


「まだ、第一区画からのお声がかかってないからよ。(セリ)は多い方が条件がいいのよ」

「違いない」

「なるほどぉ~」


 えぇー! そう言うことなの!? ドラゴンの主を倒す役に立たないからでしょー! 目的がズレてるって! もっとも存在すらアヤフヤな奴ですけどね。


 それなのにコンセクターさんとセリナーゼさんはなぜか納得。商人としてはその話は納得いくところなんでしょうよ! まるでこれから競にかけられる牛の気分だよ。


「では、第一区画の方々まで名が轟いたなら」「競を始めるということどすなぁ?」

「ちょっとワクワクするでしょぉ?」


 凄い薄暗い笑いをするファイレ。師匠が悪巧みしている時にちょっと似ている。そして、その笑いは二人の商会主も同じだ。 コイツら悪徳商人だろ……俺らも含まれるのか?

 とはいえ、俺の予想では第一区画まで名が轟くことはないだろう。


―――――――――――――――


 マッサージ店のラーズ君を交渉の席に着かせることに成功した。それだけでウチの胸が高鳴っていく。


 だが……

 だが……

 だが、だが、だが、だがっぁ、余計な奴まで着いてきよる! 『ユニコーンの角』の旦那・コンセクター。まったくウチの邪魔をしよるとは思わへんかったわ。業界では平行線なため仲良子良し……とまではいかへんけれど、たがいに商品がかち合うこともあらへんかった。

 それをよりにもよって、今ウチが一番、目ぇにかけてる男を奪おうなどと、馬に蹴られて死ぬのがお似合いだとわからへんとは……。


 レストランの同じ席に座り口元を隠し、ウチの怒りをバレへんようにしながら交渉にはいりましたぁ。

 その際に、コンセクターがおる以上、用心の為二人の護衛を連てきよう思ったら、ラーズ君のマッサージを受けて『是非に』いう獣人がおったんで彼らにしたのが失敗やった。

 ウチは会ったことあるなら彼らがいればラーズ君の気ぃを引ける思うたんやけども……。それは置といてやなぁ、交渉や。


「私どもは年間契約として、2000万を出資しようかと思っています?」

「あら、いやどすわぁ、それならウチの専属になれば2200万にしましょうか?」


 コンセクターが早々に妥当な金額を提示しおる。ウチは上乗せするだけ。いくらでもイクでぇ。隠した口元に笑いが込み上げてきてまう。

 ラーズ君を手に入れられるなら全財産をはたくつもりや。だって、ラーズ君は後々は……むふふふふ。

 だからと言ってコンセクターに最初っから手の内をみせるのは得策やあらへんから相手の出方を確認やぁ。

 さて、いくら乗せてくんのや? 1000万、2000万、1億……あかん、いくら乗せても、もうラーズ君はウチのモノになると思うとヨダレが出てきそうや、扇子持ってきて正解、正解。


 だが、動物的嗅覚……いや、商売人の直観やろぉ、金額は上乗せしてしてきぃへんかった。さすが、押しも押されぬ『ユニコーンの角』の旦那や。


「無駄に金額を吊り上げるのは得策ではないのではありませんかな、セリナーゼ殿?」

「では、2000万持ってぇお帰りぃになればよろしいではおまへんかぁ、コンセクター殿?」


 本当に大人しく帰ってくれれば御の字なんやけど、この性悪商人(あきんど)がラーズ君の才能にこの程度の金額で折れてくれるわけあらへんやろ。次はなんや? なんでも受けて立ちまっせぇ? 恋する乙女を舐めたらあきまへん!


 その間にラーズ君と妹君が何か話しているが、今はそれどころじゃありまへん。目の前のコンセクターを切り伏せないと先へは進めまへんからなぁ。


「2000万以外のモノを用意すると言っているんですよ。おそらくラーズ君は喜ぶんじゃありませんか?」

「俺が喜ぶもの?」

「質の良い冒険者道具を無料での貸出と施設の無料使用権、必要なら傭兵や冒険者パーティーのご用意も致しましょう」


 くっぅ! そう来よったかぁ! 自商の品で釣るつもりとはウチの考えが浅はかでしたわぁ! 悔しいけど『ユニコーンの角』の冒険者道具は一級品。ウチでは扱っていないモノ……明らかに不利。いくつか冒険者用の施設も建てておるっちゅー話やし……酒場に宿屋、傭兵などの斡旋も手掛け始めたとか聞ぃとる。

 ラーズ君は冒険者もやってるらしい話はウチのモンから流れてきとるが、さすがにこの短期間でそれ用のモノは作れへん。あかんで~ぇ。『ユニコーンの角』になびいてしもう……。

 何が何でもラーズ君を欲しいんや。


「そんなもの、お金で用意すればおまへんかぁ、ラーズ君。それよりもウチならもっとええもん用意させてもらいますぅ」


 そうや、相手も商売人。お金さえ払えば商品も買えるし、施設も使える。セコい店ならいざ知らず、『ユニコーンの角』に限って言えば、金さえ積めば問題あらへん。そこは信用できる店やぁ。

 さて、問題はラーズ君がウチのプレゼントをどう理解してくれるかや。


「マッサージ関連の施設とかならいらないです。俺、基本、冒険者なもんで」


 なるほど、確かにウチの店が冒険者用品は用意できへんから、マッサージ店を大きくするとか、そう言う提案やと思ぉたわけや。外れやでぇ、ラーズ君!


「ややわぁ、そんなツマラんもんじゃぁあらへん。ウチの店の半分を差し上げよう思いますぅ」

「…… ……は?」


 キョトンとしておる、カワエエわ~! そう、そう言う顔を見たいんや、ずーっと。

 なのに、猛反発をウチはうけるぅ。それもコンセクターでもあらへん奴らに! 妹君と隻眼のアネット……それにウチの狼女・テーラー! なんでやねん!? なんでアンタまでラーズ君に飼い慣らされてんのや!


「ちょ、ちょっとどういう意味よ!」

「そんなの俺が許さんぞ!」

「セリナーゼ様、そんな話、私は聞いてないですよ!」


 まさか、まさか、まさかぁ、コイツらもラーズ君を狙っておるわけじゃぁ? え? だって妹君は妹君でしょ、隻眼のアネットって筋肉の塊で男なんて……ウチのテーラーも『男なんて畑の肥やしにもなりませんよ』って豪語しておったのに? あれ、それはラーズ君のマッサージ店に行く前の話……まさか!


「ぜーーぇったい許しません!! お兄ちゃんは私とドラゴンを狩りまくるんだから! そんなもんに縛られるわけにはいかないの! だいたいお店の経営とかの才能ないんだから!」


 あかん! 妹君は完全な100%のブラコンや! こいつには負けられへんでぇー!!


「その辺はウチが手取り(・ ・ ・)足取り(・ ・ ・)教えてあげますわぁ」

「俺のこの眼も潰してからいうんだな!」

「セリナーゼ様、お言葉にお気を付けなさいませ!」


 くっぅ! どうやら、コイツら、敵やあらへんか、テーラー含めて! なんで、テーラー連れてきてしもーたんや、ウチは!

 こうなったら、ここでさらに手札を切ぃたろか! まだあるんやでぇ、ラーズ君が好きそうなネタがぁ。


 だが、それよりも早く少し冷静になった妹君が釘を刺す。


「はじめから、この話は私達は飲むつもりはないけどね!」

「ほぉ?」


 私達(・ ・)……やな。初めから条件を聞くだけやったのか? なんのためや?


「その心はなんどすか?」

「まだ、第一区画からのお声がかかってないからよ。(セリ)は多い方が条件がいいのよ」

「違いない」

「なるほどぉ~」


 ウチらはダシ(・ ・)やったわけどすかぁ。

 最低限の条件がどの辺にあるんか、確認をとりたかったわけや。少し手の内を見せすぎてしもーたみたいやな。ウチもコンセクターも……。

 もっともウチの条件は破格や、そう簡単には覆せぇないやろうしぃ、まだネタももっとる。ただ、第一区画はウチらよりも真っ黒な王族・貴族やぁ。そう簡単にラーズ君をモノにできへんなぁ。しかもブラコン妹君もいるとなると……もうちょっとネタが欲しいところや。

 コンセクターが、ココで降りてくれれば安上がりなんやが……。


「では、第一区画の方々まで名が轟いたなら」「競を始めるということどすなぁ?」

「ちょっとワクワクするでしょぉ?」


 あかん……降りる気ぃなさそうや。それに妹君もそう簡単に釣れそうにあらへん。こりゃぁラーズ君をウチのモンにするのはかなりキツそうやな!

Q どこの方言?

A この世界のどこかの方言です

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