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31話 マッサージ屋さん開店します

 ネクロマンサーの肉体を探すため、それなりの月日を費やすこととなる。思っていたよりも長期戦になりそうだった。

 ドラゴンでもないのでスイロウは参加させていない。ネクロマンサーというだけで呪いを解こうとしていると感づかれそうだ。それじゃなくても、なんかウロウロしている。危なっかしい。

 第一区画ではアルビウスさんが書物をひっくり返しているらしいが、芳しくないらしい。第三区画では獣人たちが飛び回る、文字通り……。鳥形の獣人は情報の配達に重宝する。獣人たちの諜報能力は高い。ただし、第二区画には身分証明がないと入れない、上空であってもだ。第二区画にいる獣人は大抵は個人で雇っている傭兵だけ。

 ゆえに第二区画での情報は乏しい。


「そんなわけで、お兄ちゃんに打って付けなのが第二区画でのマッサージなわけよ」

「アルーゾと同じ考えじゃねーか」

「だから一も二もなく協力してくれたわ」

「どっちが協力してるかわかんねーよ」


 第二区画を歩いていく。第三区画と違い大半が石畳で建物も木造よりも石造りの家の方が多い。大通り以外は住宅街になっている。大通りは本店が構えており、どこも大きい店ばかりだ。入るだけでも少々勇気がいる。

 どうやら、マッサージをこんなところでやるらしい。そもそも、マッサージって金取ってやることじゃないだろう。


「そこが素人の浅はかなところよ」

「俺たち素人じゃん」

「残念でした。お兄ちゃんは玄人なのです」

「俺が今『素人だ』っていわれたんじゃないのか?」

「細かいことはいいのよ! そんなことよりジャジャーン!」

「……」


 唖然……。なんだこれ。第二区画の大通りの少し外れの豪華な店の前に立つ。『ラーズマッサージ本店』……もう一度、なんだこれ。


「なんだこれ?」

「お兄ちゃんのマッサージ店だよ?」

「なんで?」

「日銭を稼げて情報も集められるから!」


 お金の出所は……まぁ、ラーズだろう。おかしいだろう、色々と! なんだ、どこからツッコめばいいんだ!


「まぁまぁ、社長。とりあえず中へ!」

「誰が社長だ!」

「お兄ちゃん」


 そりゃそうか『ラーズマッサージ本店』なのだから……いや、そう言うことじゃない。そう思いながら中に入っていく。装飾にはかなり凝ったところが見られるが、内装は教会や神殿と言った雰囲気だ。ただ教会にしてはベットは豪華過ぎる。


「マッサージするのにあそこまで豪華なベットは必要ないんだけどな。それを言ったら店自体がどうなのか……って話ではある」

「それより、スケジュールが詰まってるから準備して、お兄ちゃん」

「あぁ……。あぁ? 待て、もう始めるのか!? って言うか俺『やる』って言ったっけ?」

「お兄ちゃんの意見は聞いてないの! 早くし・な・さ・い!」

「えぇ~!」


 更衣室に押し込められる。真っ白い衣服の神官ぽい格好をさせられる。だが、動きやすさ重視になっていてちょっと変な格好。マッサージはしやすそうだ。

 そんな恰好で出ていくと、ファイレがしきりに褒める。そういうのはいいから。


「で、マッサージを受ける人を便宜上『患者さん』と呼びます」

「うーん。まぁ、そう呼ぶならしょうがない。でも、服の上からマッサージはやりにくいんだぞ。服を脱ぐなんて普通嫌だろう? 来ないんじゃないか?」

「あぁ、一週間はお試し期間で無料だからたぶんくるよ。あと偉い人に宣伝してもらうから」

「そんな期間が……え? 偉い人?」


 と、渋っていると、アルーゾが店に入ってきた。おそらくオーナー。


「大丈夫です。なにせこの僕が無料期間に一度は利用するようにとこの辺り一帯に厳命しておきました」

「バカじゃねーの、本当に!? そんなの職権乱用もいいところだろ! 商売やってる人とかこれねーよ」

「いえ、まずは一番に私の家族からマッサージを受けますので問題ありません」

「色々問題だよ! あの髭のおっさんとか怖いんだよ!」

「父上が怖い? ……だそうですよ、父上」

「……」

「……」


 いつの間に……アルーゾの後ろからカイゼル髭のおっさんが出てきた。睨みつけられてる。めっちゃ怖ぇ~。


「こ、これは。本日はお日柄もよく……」

「私は忙しい。さっさと済ませてもらいたい。息子の『是非』との願いでなければただでは済まさん所だがな、あと、息子の話以下だった場合もただでは済まさん」

「えぇー!?」

「大丈夫です、父上。僕の話などホンの触りでしかありません。ラーズマッサージ師の神の指を堪能くださいませ」


 すげーハードル上がってるじゃん! 無理、神の指とか そんな話 聞いたこともねーよ!

 ファイレを見るとすまし顔で『こちらにお名前を』とかカイゼル髭伯爵の受付をしている。マジで! マジでやんの!? こんなことしてる場合なの俺!?

 マッサージ室に案内する。カイゼル髭伯爵と二人きり……。

 もう、覚悟を決めてやるしかない。


「忙しいのでしたら、簡単な足裏だけ、または背中だけのコースがあります」

「ここまできて中途半端なモノでは判断できん。だが、暇という訳でもない。1時間で出来るだけのことをしてもらおう」


 1時間あればかなりできるよ。簡単にやって帰ってくれよ~。


「では、足裏から。伯爵様は痛みに強い方ですか?」

「うむっ? マッサージなのに痛いのか?」

「あっ、痛いのはダメですか。それなら……」

「馬鹿にするな。儂は軍人だぞ。マッサージ程度の痛みなど痛みのうちにも入らん」

「アルーゾ様は叫んでいましたが?」

「あのバカ息子が……。構わん、時間もないのでさっさとはじめてもらおうか!」

「では……」

「…… …… ……。

 ……ぬっ。

 …………ぐっ。

 ぐあぁあっぁ、待て待て待て待て!! 本当に、本当にこれはマッサージなのかっぁ!!

 お前、本当は拷問官じゃないのがっぉああおおっぉぁ!!」

「だいぶ、凝っていらっしゃいますね。立ち仕事が多いみたいです。すぐに慣れますよ、たぶん」

「んがっぁあがっぁ。『たぶん』たぶん、ってなんじゃっぁ。こんな痛いもん慣れるわけあるかっぁ。やめろっぉ! 殺す気かぁあっぁ」

「凝りがたまると痛いのですが慣れてくればそうでもないですよ」


 カイゼル髭伯爵の罵声を浴びながらのんびりと足裏マッサージを続ける。なんか、マッサージしていると結構 冷静に慣れるね~。伯爵が何言っても気にならないや。って、こんな叫んでも誰も入ってこない所を見ると、ココのマッサージ室って防音になってるのかなぁ? そういえば最近、おっさんばかりマッサージしているなぁ。若い女性とかは来ないかもな。背中とはは服を脱がないとできないし……。

 などと考えていると、足裏はだいぶ解れてきたので手を離す。


「んんぁが、死ぬかと思ったわ! というか殺す気か! アルーゾのヤツ、こんなのが神の指だと!」

「かなり怒っていらっしゃいますね」

「当たり前だ! 今すぐこの店を潰す」

「お帰りはあちらです。もし、帰るまでに続きをご希望でしたら、次の予約までは時間があると思いますのでここで30分ほどお待ちしております」

「30分後にはこの店は無いわ!」


 プリプリ怒ってベットから立ち上がり、扉へと出ていく。

 次の予定ってどれくらいなんだろう。適当な時間を言ったけど大丈夫だろう。

 マッサージやるとなんでこんなに冷静になれるんだろうと考える。伯爵に目を付けられるって凄くヤバいんじゃないかと思うんだが……。


 椅子に座りながら、マッサージ室を見る。彫刻やら絵画やら、誰の趣味だ。芸術には疎いので無駄金だと思うんだが、何もなければ真っ白な部屋で窓もないので気味が悪いかと考え直す。


 扉が開くとカイゼル髭伯爵が顔を真っ赤にして入ってきた。どうやらアルーゾかファイレが丸め込んだのだろう。足裏マッサージの効果を語ればこう言う結果になる。


「その、まぁ悪くはない。だが!」

「上半身を脱いでそのかごに入れてください。そうしたらベットにうつ伏せで。背中のマッサージをします。あぁ、こちらは痛いことは無いのでご心配なく」

「痛くないのがあるなら、そっちだけで十分じゃろ!」

「足の疲れなどは背中では取れませんので」

「ぅうむっ!!」


 唸り声を上げる伯爵。

 ベットに横になり背中を押される。足裏とは全く違う感覚。

 そういえば、アルーゾには背中マッサージをやった覚えが無かった。どう説明したんだろうかと疑問に思いながら、背中のツボを押していく。



 おっさんのマッサージシーンを大幅カット! 途中から寝てたし!

 時間になったので起こす。


「伯爵、時間です」

「んぁ?」

「伯爵、よだれです」


 手拭いを渡す。

 ちなみに枕には涎を垂らしてもいいようにカバーが掛かっていて、すぐに取り換えられる。おそらくファイレの案だろう。気が利いている。


 寝ぼけ眼で周りを見渡す伯爵。何をしていたのかもわからないようだ。俺が肩を軽くたたくと、ようやく我に返る。


「はっ!? わ、儂は一体!?」

「途中からお眠りになられていたようで」

「ぐぬぬぬ」


 伯爵は苦虫を噛み潰したような顔で上着を着ながら睨み付けてくる。なんか悪いことをしただろうか? 気にくわなくてこの店を潰されても、よく考えたら俺としては何一つ困ることはない。と、言うかこんなことしている場合か? これ、情報 集まるのか?


「また来てやる! いいか、いい気になるなよ!」


 バタンと扉を閉めて出ていく。伯爵の後姿を見送る。

 1時間マッサージをしたが、俺自身は身体も精神も全く疲れていない。これでお金が貰えるなら天職だと思うがそんな商売は存在しないし、長持ちしないだろうと思いなおす。堅実に冒険者をやるべきだ……と。


 マッサージ室にファイレとアルーゾが大喜びで入ってきた。何があったのだろう。あのカイゼル髭伯爵が何か言ったのだろうが何を言いふらしたんだろうか?


「素晴らしい。父上にしては珍しく上機嫌だった!」

「それに第一区画の人にも声をかけてくれるって!」

「そんなこと望んでない!」

「いや、考えてもみろ。リュガンの保証人になってくれる人物が増える可能性があるんだぞ」

「それに情報もお金も入って来るわよ」

「伯爵からは情報が一切入ってこなかったが?」

「そんな一回目では無理だよ。徐々に慣れてくれば口も軽くなるってもんだよ……って酒場のマスターが言っていたわ」

「又聞きかよ!」

「しかし、1時間は長すぎる」

「いや、そんなもんだろ?」

「それじゃぁ、人数がこなせない。少なくとも30分にするべきだ」

「そうね、人数は情報を引き出すうえでも必要だからね。一日8時間だとしても30分じゃぁ16人しかできないのよ」

「じゃぁ30分でも……いや20分で大丈夫だ」

「おいおい、それはいくらなんでも短すぎるんじゃないか?」

「気合入れてやれば、おそらく満足できるマッサージにはなる」

「お兄ちゃんが言うなら信じるけど、早速試してみる?」

「もう、お客さんいるのか?」

「あぁ、お客というか、僕の妹だ」

「アンジェラ・アルーノ?」

「知っているのか、ラーズ!」

「初日にあった、スイロウと酒場にいるときに」

「それはちょうど良かった。では彼女を頼む。僕も忙しいのでそろそろ戻らないと……」

「忙しいのに、こんなところ来てるなよ」

「この店が大きくなっていくのに初日に来ないなんて考えられないよ」

「こんな地に根の張らない仕事を続けるつもりはない。それに冒険者としてドラゴンを倒していくことが……」

「そっちの情報は持ってきてくれるって。っていうか、この仕事を引き受けてくれるなら、冒険者としても協力してくれるらしいよ。アルーノ伯爵が」

「アルーノ伯爵が!?」

「そう、父上が。そんなわけで、マッサージ師として頑張ってくれたまえ。ついでに冒険者でもやればいい」


 いや、逆だよ! と、言おうと思った時にはアルーゾの奴は遠ざかっていた。それと入れ替わるようにアンジェラが入ってきた。


「いつまで待たせるつもりですの、マッサージ師とやら! あら、アナタは確か三下冒険者でしたか?」

「むっ! お兄ちゃんは超一流のマッサージにして、二流の冒険者よ! 決して三下冒険者じゃないわ!」

「ファイレさん、正直ならいいってもんじゃーないですよ?」

「まぁ、二流でも三下でも構いませんわ。私はお兄様に言われて『どんな疲れでもとることのできるマッサージ師』がいると言われてきたんですわ。そのお方はどちらに?」

「だ・か・ら、お兄ちゃんは超一流マッサージ師!」

「まさか二流の三下冒険者が? お兄様の眼も曇ったモノですわ!」

「ふっふっふ、そんなこといってお兄ちゃんのマッサージを受けても同じセリフを吐けるかな!」

「な、なんですのこの娘は!」

「俺の妹」

「アナタに妹がいたとは意外ですわね。……似てませんわね。まぁ試すだけですから、さっさとはじめてもらえます。代金が先ですの?」

「うんん。後払いだよ。気にいらなかったら払わなくてもいい」


 えぇー! そんなシステムだったの!? 当の本人が知らなかったんですけどー!?


 そんなわけで、アルーノ家、兄、親父に続きアンジェラもマッサージすることになるのだが、アンジェラの声がエロい。

この世界のマッサージ師の最初の人物がラーズとなります

まぁ そんな予定もなかったんですけどね

マンガ初めて物語です

ドラゴン退治の冒険者になれない気がしてきます

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