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30話 34歳はおっさん(断言)

「猿のおっさーん!!」


 メキメキと音をさせて変身したのは猿の獣人だった。たしか、町はずれの倉庫で会ったおっさんだ。もっとも獣人の見た目は区別がつかないのだがあってるだろう。


「誰が『猿のおっさん』だ。俺の名前はキートンだ。忘れてんじゃねーよ」

「あれ名乗ったっけ?」

「名乗ったよなぁ?」


 後ろにいる他の獣人に声をかける猿のおっさん。後で控えていた奴らもいつの間にか獣人に変身していた。いや、猿の獣人に気を取られている間だろう。


「いや、名乗ってないぞ」

「……。まぁいい、もう一度言うぞ、俺の名前はキートン。あと、おっさんじゃないから。まだ34歳だから」

「すげーおっさんじゃん!」


 激しく同意するガイアルとアンジェラ。


「なっ! バカなことを言うな。全然おっさんじゃないよなぁ?」

「34はおっさんだろ」「間違えようもなく、おっさんだな」

「どうなってやがる! これもドラゴンの悪影響というやつか?」

「いや猿のおっさん、ドラゴン襲来前から34はおっさんだよ」


 頭を抱える猿のおっさん。どうやら自分をおっさんと認められないらしい。それはそれとして今はそれどころじゃないような気がするのは気のせいか?


「そんなことより、俺たちに用があったんじゃないか?」

「『そんなことより』だと。34がおっさんか、おっさんじゃないか、が重要じゃないというのかよ」

「……重要じゃない」

「一刀両断かよ! もうちょっとなんかないの、ドワーフのお嬢ちゃん!」

「……」

「ないのかよ!!」


 そんな猿のおっさんを放っておいて、後ろの獣人・猫型とキツネ型が場所の移動を提案してくる。ちなみに両方とも男性。


「立ち話も何だろ、場所を変えたいんだがいいか?」

「宜しいんじゃありませんこと」

「いや、貴族のお嬢様は帰っていただきたいのだが?」

「あら、なぜですの?」

「わかんね~かなぁ、貴族が好きな獣人なんていやしね~んだよ」


 猿の獣人が頭を書きながら近づいてくる。獣人を虐げている大半は王族であり貴族だ。そしてその打倒に動いていると言っても過言ではない。そんな話を貴族に出来るわけもない。


「ワタクシは獣人の方々が好きですわよ」

「そりゃー変わった趣味だな。あんたが良くてもチクられちゃー困ることが山ほどあるんだ」

「あまりよろしくない企みをしていると……わかりました、その辺は全部 目を瞑りますからスイロウ様の情報を頂きたいのです。あなた方がスイロウ様に悪意を持っているというなら話は別ですが……」


 獣人たちは顔を見合わせる。貴族は敵であるがスイロウを助ける点においては共闘できるのではないかと言う考えだ。大きく動くにしてもスイロウを旗印に動きたいなら、使えるモノは使う考えはある。

 まずは王族・貴族打倒の前にやることがあるということだ。


「まーいいか、スイロウ様を助けるのを手伝ってくれるってーんなら。ドワーフの嬢ちゃんはどうする? たぶん命がけの仕事になるぜ、引くなら今だ」

「……」

「いい面構えじゃねーか。嫌いじゃないぜ、そーいうの」


 猿のおっさんが裏口の扉を開くと中へと入っていった。後ろを見ると猫の獣人の人が頷く。ついていけということだ。

 アンジェラが躊躇(ちゅうちょ)なく入ってく。それに続くガイアル、そして俺。


 狭く薄暗い部屋に小さな机。椅子が二つに積み荷が積まれている。窓から入ってくる灯りだけでは暗く天井のカンテラ……ようはランプを付けないとならない。

 一つの椅子には猿のおっさん。もう一つはアンジェラ。


「えっ、お前が座るの?」

「ここは一番偉いワタクシが座るのが筋じゃなくって?」

「お前、情報 何も持ってないじゃん」

「関係ありませんわ。それともなんですの、アナタ女性を立たせておくつもりですの!?」

「……」

「ココにも女性が……」

「そこは、早い者勝ちですわ」


 なにか納得がいかない。


「とりあえず、初めていいか? わかっていると思うがここでの話は漏らすなよ」


 あからさまに呆れている猿のおっさんはじめ獣人たち。獣人たちは4人、部屋の中に入ってきた。あまりスペースは無いが積み荷の上に腰かけたりしている。そうか、積み荷の上に座ればよかった、もう座るところが無い!猿、猫、キツネ、フクロウ……六人いたと思ったが、あと二人は? 外で見張りか。


「まずはスイロウ様の情報をどこまで得たかだな」

「おそらく、こっちの方が一歩先だぜ?」

「面白いことを言うじゃないか、兄弟」

「で、スイロウ様がどーなっていますの?」

「貴族の御嬢さんはとこまで知ってるんだ?」

「今日、街に帰ってまいりましたわ」

「じゃぁ、スイロウ様が獣人だ……と言うことは?」

「ちょ! アナタ、こんな三下冒険者とドワーフ嬢がいる前で!」

「俺たちもそこは知っている」

「なんですって! 国家的秘密ですわよ!?」

「少し黙ってて、アンジェラが話すと話が進まなそうだ」

「ちょっと三下! アンジェラ()でしょ!」


 ダメそうだと猿のおっさんを見ると頷いて無言で仲間に指示を出す。ロープでグルグル巻きにされて猿轡(さるぐつわ)をされる……猿だけに……ガイアルに殴られる。たぶんツマらなかったからだろう。次は面白い奴を考えよう。


「さて、どっから話すか?」

「兄弟が仕入れた情報からだな」

「いや、そっちを先にお願いしていいか?」

「もったいぶるなよ、駆け引きなんてらしく(・ ・ ・)ないぜ、兄弟。まぁいいや、俺の話を聞いたら後戻りできない。仲間になるか死ぬかの二択でいいかな?」

「その後の俺の話を聞いてから決めてくれ」

「覚悟が鈍いんじゃねーか?」

「死にたくないしな」

「ちげーね!」


 がははっと笑う。下手すりゃこの場で殺し合いになるかもしれないってーのに呑気なおっさんだ。再び真剣な顔に戻る猿のおっさん。


「まずは状況確認だ。スイロウ様が王女であり獣人である。そして現在 呪いで永遠の睡眠に陥っているというところまではいいな?」

「んぐっ!? んんんんんっ!?」


 約一名、猿轡をされている人が『よろしくない』みたいだが、無視して頷く。猿のおっさんは嬉しそうに唇を吊り上げる。いやらしい顔だ、ここまで調べられて当然、て顔をしてやがる。そこまで行くのにも結構大変だったのにな。


「そして第三区画にいるお前たちと行動を共にするスイロウ様は偽物、スイロウ様を永遠の睡眠に付けている張本人・呪いだ。アイツを倒さねばスイロウ様は目覚めることはない」

「あぁ、だが、呪いも本人の記憶を持っている」

「んぐっ!? んんんんっ!?」

「我々はスイロウ様を助けたい」

「それは俺も一緒だ」

「そのためには、呪いを……」

「ちょっと待った。呪いの……便宜上、スイロウ剣士とスイロウ姫と分けさせてもらうが……スイロウ剣士が姫として王城に戻ったらだめなのか? いや、お前たちが何かするにしてもスイロウ剣士じゃダメな理由があるのかと思ってな」

「なるほど、たしかに何一つ問題が無いような感じだな。呪いといっても記憶も持っている。王女として王政を行えるだけの器量もそのままだしな。今のままなら……」

「だったらスイロウ剣士でいいんじゃないか、お前らは?」

「残念だが2つの理由がある。一つは当然、スイロウ姫を助けなければならない。もう一つは、呪いであるスイロウ剣士はドッペルゲンガーであることだ」

「んぐっ!? んんんんんっ!?」

「ドッペルゲンガー……」

「そうだ、まったく同じ容姿に化ける呪い。互いが出会えばどちらか一方は死ぬ……いや、正確には本物になり替わる化け物だよ。その後は権力を使い国を潰すかもしれないな。その前にドッペルゲンガーを処分し、スイロウ姫を……いや、本物のスイロウ様を救出したい」

「んぐっ!? んんんんっ!?」

「…… ……」


 ドッペルゲンガーかぁ。記憶を丸々共有して、同一人物に成りすまして悪事を働く。呪いにより生み出されたわけか。それは予想外だったな。


「だが、今のスイロウ剣士を見ているとそんな予兆はないんだけど?」

「俺たちもそう思っている。ひょっとしたら、本物と接触しなければ問題ないのかもしれないが、スイロウ様を助けない理由にはならない。そもそもお前たちもドッペルゲンガーは呪いだと認識しているんだろ?」

「スイロウ剣士を倒せば、確実にスイロウ姫が目覚めると?」

「あぁ、俺たちも情報は集めているからな。行きつく結果はお前たちも一緒じゃないか? そして、スイロウ様を助けるか、ドッペルゲンガーを助けるか……どちらかしかない」


 そう言うとバナナとリンゴをテーブルの上に置いた。ナイフをその机の上に刺す。


「こっちのバナナが姫、リンゴが剣士。好きな方を刺せ。それで今後お前らが敵か味方か決まる」


 猿のおっさんを見る……そして、ガイアルを見る……で、猿のおっさんを見る。猿のおっさんを指さす。俺とガイアルが笑う。


「何がおかしい?」


 キョトンとして俺たちに問うおっさん。


「……バナナの方が姫だから」

「いいだろ! 俺はバナナが好きなんだよ。そんなことより……」

「両方とも助ける……と言う選択肢が俺たちにはある」

「!?」「んぐっ!?」


 獣人たちとアンジェラが固まる。

 でも、あるんだもん、しょうがないじゃん! 現在進行中だし!


「おいおい兄弟、吹かし過ぎじゃねーのか!? ドッペルゲンガーごと助けるだと?」

「ドッペルゲンガー? ちがうね! 今のままいけばスイロウ剣士のまま助けられる。彼女は獣人化も出来る。おっさんたちにとっても悪い話じゃねーと思うんですが、いかがでやんしょ?」

「その話は間違いないのか?」

「わかんねー、正直 言って。でも、確率は高いと思っている。俺が信用している奴の証言だ」


 黙り込む猿のおっさん……そういえば、名前なんだっけ? 忘れた。まぁ、おっさんで大丈夫だろう。


「どうやって判断したらいい?」

「え?」

「もし、お前のプランが成功したとしてドッペルゲンガーがドッペルゲンガーじゃなくなったと……」


 確かにスイロウ剣士の姿かたちは変わらないはずだ。姫に会っても大丈夫かどうかわからない。


「……姫が起きればオールオッケー」

「本当だな」


 親指を付き出すガイアルさん。

 そんなこと断言しちゃっていいんですか? 確かに姫の呪いが解けたことにはなりますが、剣士が大丈夫になったかわからないじゃないですかー。心配し過ぎか? 確かに姫の呪いが解けたらドッペルゲンガーの意味はなさないのかもしれない。


「いいだろう、兄弟。俺たちの話よりおめーらの話の方が面白そうだ。失敗したら俺たちの話に乗ってもらえばいいわけだしな。で、具体的になにするよ? 手伝えることなら手伝うぜ」


 猿のおっさん34歳が握手を求める。その手を俺が……いや、俺を突き飛ばしてガイアルが握る。ガイアル、お前の方向性がわからないよっ!

 これはいい流れだ。人手が足りなかった。獣人が味方になってくれれば情報収集がかなり楽になりそうだ。


「簡単に説明する。二人助けるには二人分の生贄が必要……だが、悪い意味じゃない。ようは呪いをかけた野郎の肉体とドラゴンの心臓でいいらしい」

「ぅおぃ! ずいぶん気楽にいってくれるなぁ! ドラゴンとか!」

「あぁ、ドラゴンの心臓はすでに用意してある」

「なんだと!? 料理作りの下ごしらえじゃねーんだぞ、お前ら! ドラゴンを倒したのか!? いや、だってお前ら冒険に出た様子はなかったハズだが……」

「そんな些細なことはどうでもいい」

些細(・ ・)じゃねーよ! ドラゴン倒して些細ってなんだよ! お兄さん驚き過ぎだよ!」

「……おっさん」

「とりあえず落ち着け、おっさん。さりげなく『お兄さん』に格上げしないように。でだ、あとはスイロウ姫に呪いをかけたネクロマンサーの死体を見つけたい」

「ネクロマンサーの死体……だと」

「もう一つの生贄だからな。そう話しただろう?」

「聞いていたが、難しいんじゃねーか?」

「どういうことだ?」

「……火葬されてたら骨しかない。土葬でもおそらく……」

「骨しかない……だろうな。何せずいぶん昔に死んでる。念のため確認するくらいだ」


 …… ……。

 そうか、そうだった。当たり前だ。肉体なんて残っているはずがない。ガイアルが『時間が無い』って言っていたことはこれか。時間がたてばたつほど肉体が無くなっている可能性は高いじゃねーか!

 僅かでも残っていればなんとかなるのか? 何とかなるはずだ、でなければウィローズがこの話自体持ち出してこない。

 ……いや、違う? 本当に残っていないのか? 何か見落としていないか?


「大丈夫か、兄弟? 顔色悪いぜ。一応、ネクロマンサーの墓を探してみるけど期待はできないぜ?」

「あぁ、頼む」


 やっとの思いで声を絞り出す。思考がまとまらない。

 いままで上手くいきそうだったモノが根底から崩れていくような気分だ。少なくともガイアルはそのことに気づいていた。が、口には出さなかった。おそらく一縷(いちる)の望みにかけていたのだろう。それに比べて、俺の考えがいかに浅いか思い知らされる。

ちなみに獣人の平均寿命は人間の7倍くらいあります

そう考えれば猿のおっさんは全然おっさんじゃないんですけど

言動とか仕草がおっさんなので仲間からもおっさんと認識されています

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