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27話 逆鱗

 ドラゴンの胸元より高く首より低い位置に、あからさまに一枚 逆さに生えている鱗があった。その後ろに心臓があるはずだった。

 ガイアルの制止の声が響き渡り、ラーズは触れたところで慌てて行動を止めた……が、次の瞬間 何が起こったのかわからないまま、天地がひっくり返り腹と背中に激痛が走り、血反吐を吐く。周りを確認しようとしたが、視点が定まらず世界がぼやけて見える。誰かが叫んでいるようだが、耳鳴りが酷く何を言っているのかわからない。

 冷静になろうとする。何が起きたのか理解しようとするがわからない。


 ウィローズは頭を抑え声を殺し笑っていた。


 ウソはついていない。ドラゴンの最大の弱点は心臓であり逆さに生えた鱗の裏にある。その一枚の鱗の名を『逆鱗』(げきりん)と呼ぶ。その硬度は角をも上回るのである。ただしココに触れたら最後、怒り狂い限界以上の力を発揮し、あるモノすべてを壊し尽くす。嘘か本当か、死んだあとでも暴れ狂うという話もあるほどだ。今回も頭の中に爆破系呪文を打ち込まれているのだ、そんな話もあながち嘘ではないのだろう。

 現にいま飛び回っているブラックドラゴンはドーム内を破壊しようと体当たりやドラゴンブレスを打ちまくっている。もはや初めに殴り飛ばしたラーズのことすら眼中にない。


 さて、これからどうなるか、それが楽しみでしょうがない。

 彼らは全力ではあった。だが、それは己の秘密を隠しながらだ。正体が見てみたい。スイロウは呪いだとわかったが、ファイレとガイアルはまだ先があるはずだと……。


――――――――――――――――――――――――――――――


「ガイアルさんはラーズさんを! ファイレさんとスイロウさんは退避! 私が時間を稼ぎます。場合によっては仕留めます」


 ウィローズの思惑を覆す行動に出たのはアルビウスだった。

 いまさら、何の能力もない人間が出てきたところで、逆鱗に触れた竜をどうこうできるモノではない。ドラゴンの体当たりで天井が崩れ、ドラゴンブレスで周りは火の海と化した地獄絵図。

 ブラックドラゴン自身も全力以上を強制され骨が砕けようと、喉が裂けようとお構いなしに目につく全てを消し去っていく。


「ちょっと、一人で大丈夫なの!?」


 ファイレはアルビウスの後ろへと下がりながら大声で叫ぶ。スイロウも身体を引きずるように撤退してくる。ガイアルはラーズの応急処置だけして運び出す。想像通り魔力切れで回復魔法は使えないのだろう。

 ファイレに声をかけられたアルビウスだが、ドラゴンを睨み付けるだけで返事はない。ドラゴンの暴れる爆音で聞こえていないのかもしれないと思いファイレは無視して来た道を戻っていく。


 アルビウスがゆっくりと視線を上げていく……その先にはウィローズ……視線が交わる。ドラゴンブレスの光が下から当たり邪悪に笑っているように見える。だが、ウィローズから見たアルビウスもまた、いやらしい笑みを浮かべていた。

 その笑みを見て、ウィローズは笑いながらもゾクゾクするものを感じていた。何か楽しませてくれる隠し玉を彼女も持っているのだと確信する。


 「さて……」


 アルビウスはウィローズに余裕があることを確認してから袖から53枚のカードを引き出す。バラバラとシャッフルする。そんなことをしている間にもドームの天井が崩れ落ちアルビウスを(かす)める……が、そんなことで微動だにもせずカードの方に意識を集中させる。

 上から順にカードを垂直に飛ばすと空中に並んでいく。5×10で手元に3枚残りその3枚はしまう。


 『当たるも八卦、当たらぬも八卦』


 心の中で神にでも祈るように呟き、指先に光を集める。

 その光がドラゴンを呼び寄せたのか、光を失っているドラゴンの眼がアルビウスを捕える。大きく息を吸う。

 その間にアルビウスは指先の光を50枚のカードうちの1枚に飛ばすと、パタンと裏返り絵柄が現れる。石の塔。


「盾とする!!」


 アルビウスの前に巨大な岩の針が出現する。と、ほぼ同時にドラゴンブレスがその岩に直撃する。岩により拡散するドラゴンブレス。だが、岩をも溶かす。

 のんびりしている時間は無いとばかりに、再びカードに光を当てる。次のカードは剣を重ねたカード。舌打ちをするアルビウス。今欲しいカードはこれではないが、これで代用するしかない。


「束縛とする!!」


 大量の剣が宙に現れドラゴンを囲む檻になる。だが、ドラゴンは自分が傷つくのも構わず殴り壊していく、骨が折れている利き腕で。おそらく魔力で操っているのだろうと判断する。ザクザクと腕が切り裂かれていくが気にも留めない。行動を制限している今のうちにトドメを刺したい。あまり数多くカードをめくるのは得策ではない。

 次に引かれたカードは雷の盾。ここで剣が欲しかったが無い物ねだりだ。


「剣とする!!」


 『少し勝ちを急いだか』とアルビウス自身も思うが、ドラゴンも瀕死のハズ無理矢理押し切れると思い込むことにする。幅の広い雷撃がドラゴンを襲うが、剣の檻から脱出して右半分だけを雷撃に晒される。筋肉を焼き切っていくが魔力で動いているためか攻撃が止むことはない。


 舌打ちをする。もう一枚めくらなければならない。53枚のうち1枚ハズレがある。引けば自分が即死だ。できれば、このカード自体使いたくないし、めくる枚数が少ないに越したことはないのだ。


 次のカードを引いている最中にドラゴンがガムシャラに岩を叩き壊し、ブレスを吐く。あまり時間もない。周りは溶岩の海で足の踏み場もなくなってきている。ブーツから白い煙も出てきている。天井も崩れこの空間が長く持たないことを示している。

 このまま逃げても天井の落石でドラゴンが死ぬんではないかと思うが、死ななかったら……地上に出てくる可能性もある。

 確実に仕留めないと逃げることは許されない……ということだ。

 4枚目のカードは……バリスタ。巨大なクロスボウのような攻城兵器のカード。本来なら束縛した状態で使いたいが、悪くはない。狙いは逆鱗、そしてその裏の心臓。


「剣とする」


 空中に巨大な弩砲が現れる。ドラゴンの目に留まらないわけがないが、怒り狂っている彼は分別が無い。周りのついでに攻撃する程度だ。が、傷一つ つくことはない。魔法で構成されているからだ。ギリギリと音を立て弦がしなっていく。


 ガンッ!! と発射の音だけで空気の振動で身体が震える。溶岩を裂き、一直線にブラックドラゴンの逆鱗へと吸い込まれていく。逆鱗に激突するが中々貫通しない! そのままブラックドラゴンを壁まで押し込み壁が割れていく。

 激しく抵抗を試みるブラックドラゴンだが勢いが強すぎて動くこともままならない。壁に激突してから壁に亀裂が入り始めたときゴンッと音が響き渡り、バリスタの矢が逆鱗を貫通した。口から炎と血を吐きながら壁に張り付けられたまま絶命していく。


「心臓を取れなかったけど生きているだけでありがたい……か」


 周りの熱で服もそろそろ燃え出しそうだ。耐炎魔法(レジストファイア)も時間が切れそうなのかもしれない。

 奥に進む道もあるだろうが、先に進むのは不可能だ。カードを手元に呼び寄せてみんながいるところへと駆け足で戻っていく。


 カードの威力は絶大だが、リスクが大きい。何せ文字通り命を賭ける上に仲間まで容赦なく巻き込む、どころか自分すらも巻き込みかねない。使い勝手が悪すぎるのだ。


 みんながいるところに戻ってくるとラーズは意識を取り戻しているようだった。ラーズもスイロウも包帯でグルグル巻きだ。薬草やポーションも使い切っているらしい。

 いつの間にかウィローズがアルビウスの横に並んで戻ってきていた。


「残念だったのぉ、ドラゴンの心臓が取れなんで」

「ウィローズちゃん、アナタのせいでお兄ちゃんが!」

「儂のせいにするな。儂は聞かれたことを答えたまで、儂がいなければ何もわからなかったくせに難癖だけ付けるのはやめてもらおうか」

「……死にかけた」

「そりゃーそうじゃろう。儂は『安全だ』などとは一言も()っておらんからな。それともなにか『危険じゃ』といったらココに来なんだか?」


 真剣な眼つきでガイアルを睨み返す。


「まぁ、俺たちが甘く見過ぎていたんだろ。ウィローズに聞かなくても同じ結果になっていたさ。いや、ここまで辿り着いていないかもしれない」

「良ーわかっておるのぉ。褒美を遣わせて進ぜよう」

「今欲しいのは回復薬だな」

「おぬしがもっと欲しがるものじゃ」

「この状況で……か?」


 包帯だらけの体を広げて見せる。当然だが、そうするだけでも骨がミシミシと音を立てて激痛が走る。すぐに丸まってうめき声を上げる。呆れたように身体を摩るファイレ。


「ようするに何をくれるの?」

「ドラゴンの心臓じゃ」

「え?」

「デカい杭が突き刺さったままだったが引き抜いて(えぐ)り取ってきてやったぞ」


 小袋を手渡される。中を見れば(ほとん)ど肉片のようなものになっていた。あれだけのものが刺さっていたのだ、粉々になっていない方がどうかしている。血が滴っているが仕方ない。


「ちなみにレッサードラゴンの血肉は特別な効果は無いから諦めろ。食用としてなら問題はない。骨や皮、鱗は使い道が多いらしいぞ。儂はいらんがな」


 と言って後ろを振り返る。

 いまだに熱風が細い道にも吹き込んでくる。とてもじゃないが戻れる見込みなどない。『ドラゴンの素材も魅力的だし、しかも貴金属を集める習性があるんだっけ?』とファイレは思ったがあの(・ ・)奥だと思うとゲンナリする。

 それに今はそんなことは些細なことだ。兄の容体を考えれば教会に運ばねばならない。ガイアルの見立てでは命に別状はないが、早く治してもらいたい。


「治療費はあるのか?」


 スイロウからため息が漏れる。準備に金が掛かっている。お金は無い、働くにも今そんな状況にない。教会に治療費が払えない。残念だがアルビウスもお金を動かせない。ガイアルも今回のことに貯金をはたいている。自然治癒しかない。


「とりあえず、帰ろう」


 ラーズの言葉に全員無言でうなずく。

 帰り道は行きと同じルートを辿る。できるだけ敵に遭遇したくないからだ。片付けて来た道なら敵が少ないだろうということだ。こんなときにスライムにでも会ったら目も当てられない。


 『家に帰るまでが冒険です』


 偉い冒険者の言葉だ。まったくもってその通りである。大物を倒して帰りに死ぬ冒険者が最も多いと言われるほどだ。


 スライムには遭遇しなかったがコボルトやオーガなどに遭遇した。まさに死闘!ラーズの竜骨刀は折れたし、魔力の無いファイレが仕込み杖で闘った。スイロウも途中で使い物にならなくなった鎧を捨てた。途中からはガイアルとアルビウスが先頭で作戦も何もない殴り合いのような戦い方でピンチを切り抜けて、ようやく鍛冶屋に戻ってきた。

 ハシゴを登り鉄の扉の鍵を閉めると、ウィローズ以外は全員その場でぶっ倒れた。寝ているのか気を失ったのかわからない。一見すれば死んだのではないかと勘違いしそうな見た目だ。


 ウィローズはため息を吐く。『面倒じゃが……』と心の中で自分に言い訳を巡らす。一人一人を引きずるように寝室に運んでいく。

 そのあとに、内緒で持ってきたドラゴンの財宝の一部を換金し、教会に怪我人を見てもらうよう頼みに行き、鍛冶屋まで神官に来てもらう。


 まだこれで終わったわけではない。むしろ始まりなのだ。こんなところでリタイヤされても困る……と言うのはウィローズの考えた言い訳。


 『面倒なことに巻き込まれたものじゃ』とダイニングキッチンで一人お茶を飲む。

カードはトランプでもタロットでもありません

魔法のカード

この世界のドラゴン・竜にはかならず逆鱗があります

枚数は1枚か13枚 触れると理性に関係なく暴れます

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