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24話 ダンジョンへの準備

 師匠に拾われた日から毎日、努力していた。訓練に次ぐ訓練。修行に次ぐ修行。しかし、俺は思ったほど伸びなかった。剣も魔法も上手く出来なかった。言われたとおりの修行をし反復練習をこなし、師匠と手合せをした。

 俺が助けたファイレは順調に成長した。なんとなくファイレには蔑まれているような負の感情を持ち合わせてしまっていた。そんなことがあるはずがないのに……。妬みや嫉妬だとすぐに理解できた。できたが、その感情を心にしまい込むと頭がおかしくなりそうだった。

 俺の目標はドラゴン襲来の元凶となった声の主を倒すこと。ようするにドラゴンたちの主を目の仇にしていたが、それが程遠いことだということを嫌というほど思い知らされ生きてきた。


 そんなある日、師匠に言われた。


「お前には二つの道がある。一つは商業で暮らす道。多分大成する。俺の感だが」


 絶望的な気分になったのを覚えている。案にドラゴンたちの主を諦めろと言われている。商業で大成したいわけじゃない。そんなことは師匠は百も承知なはず。だからといって、ドラゴンどころか普通の魔物にも勝てる見込みが薄い俺にそんな道を進めるとは思えなかったからだ。


「もう一つは目的通り、ドラゴンたちの主を倒す道」


 この道は死ぬと言っているのだと直感した。諦めろと……。声が出ない。俺が生きる目的は他でもないというのに。それ以外で生きたいとも思っていないのに……。


「おススメはドラゴンたちの主を倒す道だ」

「…… ……えっ?」

「もっと言うと、お前ではあれ(・ ・)には勝てんだろう。俺ならどうか、と聞きたいだろうが、俺たちでも無理だ。昔、似たようなものと戦ったことがある。俺一人でなく軍を引き連れ、仲間を引き連れ……結論だけ言えば勝てなかった。撤退はさせたがな。話にならん。撤退と言ったが"帰ってもらった"というのが正直なところだ。だが、お前は倒せる見込みがある。本気なら……だがな。あぁ、勘違いしないように言っといてやる。お前だけの力でどうにかしようとしても無駄だ。仲間を集え、信頼できる仲間を……一人でも多く。それがその道に立つ条件ではある」


 師匠はコップに怪しげな黒い液体を注ぎ込む。魔女の毒薬と言われても疑わないようなその液体を美味そうに飲み干していく。


「俺には勝てない……なのに倒せる見込みがある。矛盾していませんか? 仲間が倒すというのなら俺は必要ないんじゃないですか?」

「まったくだ……が、俺は倒せないと思っても、コイツが倒せるとほざいてるんで倒せるんだろ?」


 ボンッと机の上に分厚い書物……予言の書と呼ばれるモノを放り投げる。バラリ、と開いてみるが何を書いてあるかわからない。いつの時代の文字なのか、どこの国の文字なのかすら見当がつかない。師匠はそれをスラスラと読むことができる。

 本当にこれに自分がドラゴンの主を倒すと書いてあるかはわからない。


「しかし」

「俺は"二つの道がある"と言ったが、実際はそんなことはない。成功しないだろう道だがな。要するに好きに生きろってことだ。どんな生き方をしたって俺は責任はとれないし取るつもりもない。テメーが選んだ道はテメーが責任をとる……人に責任を押し付けるな。俺が二つの道があると言ったからってな」


―――――――――――――――――――――――――――


 久しぶりに昔の夢を見た。俺はドラゴンの主を倒すことを選択した……つもりだった。正確に言えば未だに迷っている。ただ、何もしないことに耐えられず逃げるように進んでいる道だ。横道が楽だと思ったらすぐに鞍替えしそうなほど脆い意志。


 城から鐘の音が聞こえる。たしか朝の7時に鳴るはずだ。ノロノロとベットから起き上がる。


 ドラゴン退治の話をスイロウとガイアルに持ち出した。スイロウが不信がるとともに性急ではないかとあまりいい顔をしなかった。

 それよりも、アルビウスさんがいることに驚いていた。アルビウスさんのことを知っているか尋ねると、知ってはいるが会ったことはないという話だった。ただ、副大臣ということで知っているのだと思う、と記憶が曖昧らしい。一般人なら納得できる回答だ。

 アルビウスさんの方は知らないということにしておいた。どこで、呪いを解こうとしていることがバレるかわからないからだ。

 じゃぁ、なぜ彼女がいるかという話になる。そこまでは考えていなかった。だが、アルビウスさんはすでにそこまで考えがいたっていたらしい。


「アドベンチャラーが必要でしょう?」


 アドベンチャラー。冒険者……いや、俺たちも冒険者なのだが、もっと洞窟や遺跡調査に特化した職業。戦闘については他の職に劣るものの、扉や宝箱、罠の解除などを得意とする。抜け道や、隠し扉などの捜索などもお手の物である。只、人気職ではない。いると便利だがいなくても力技で抜けきる者が多いからだ。

 そんな経緯で納得させた。『副大臣なのに?』ていう所も適当にアルビウスさんが言うのに相槌を打っているだけで乗り切る。


 そして、模擬戦はカットしていきなりドラゴン戦にも、アルビウスさんが『偽物で練習しても意味がない』と一刀両断して、ドラゴンだけに専念するよう助言する。『あながち間違いでもないな』とウィローズは他人事のように高笑いしている。他人事だった。


 ファイレは忘れないうちにアルビウスさんにドラゴンスレイヤーを見せるようスイロウに頼む。『仲間なら切り札は知っておいた方がいいでしょう』という言い訳で。ウィローズには見せなくてもいいんじゃないかと言ったら、床でバタバタと暴れ出して『ヤダーヤダー』というので見せてやることになった。お前はおもちゃを買ってもらえなかった子供か。

 スイロウがいないときに確認をとったが、ドラゴンスレイヤーはやはり『王国には無いハズだ』と再確認される。じゃぁどこから持ってきたのか疑問が残るが、いまは助かるので言及をやめる。全てが終わったら誰かに返せばいいだろう。いや、スイロウが冒険で手に入れたかもしれないし……。


 数日かけて準備をする。装備品や消耗品などの準備や、体系、隊列の確認。対ドラゴンの作戦などを話し合い。ファイレをはじめ真剣に話し合うが、どうも俺の緊張が解れない、どころか高まっていく。嫌な予感しかしない。ミスるイメージしか湧いてこない。

 『大丈夫、私がなんとかするから』とファイレに言われるがさすがにそれはダメだろう。

 『案ずるよりも生むが易し』とスイロウの言葉。やってみて駄目だったら取り返しがつかないじゃん?

 『……』無言でガイアルに背中を叩かれる。諦めの境地! 見捨てないで!

 『私もあまり戦えませんから、気にしなくても』アンタはアドベンチャラーで俺、戦士!俺は戦わないと!

 『楽しみにしているぞ』ウィローズはニヤ~ンと口裂け笑いをしている。まるで俺の死を待っているようだ。禿鷹かこいつは!


 準備期間中にドラゴンの居場所を確認する。ひょっとしたら、スイロウ自身、遠くに行けないことを知らずにそんな場所を選択している可能性もあると思ったからだ。だが、場所を聞いて驚いた。ドラゴンがいるダンジョン……この街の地下だった。アルビウスさんですらその事実を掴んでいないらしい。両腕を組んでウィローズが感嘆を漏らしている。


「そんなスイロウ様、ありえません」

「アルビウス殿。そのスイロウ『様』はなんとかなりませんか? アルーゾ殿でもあるまに」

「確かに……スイロウさんでよろしいですね。もし、この地下ににドラゴンが生息しているとなると、ドラゴン襲来以前だということになります。この国ができたのは、襲来以前。その後のドラゴンに関しては撃退できています。入り込む余地はないハズですから……」

「まぁ、そーとも限らんがな」

「ウィローズさん?」

「ファイレ、答えてやれ。おぬしなら知っておるだろう?」

「地中を進むワーム型のことね。ドラゴンが使役する中で巨大なワームがいるの。ドラゴンの住処を作るためにダンジョンを掘り進むワーム。迷宮のようになるのは彼らの道のりの後だからって話だけど、師匠の話だから何とも言えないわね。どうして、どうやって使役しているのかは知らないけど、ドラゴンは上流種になるほどモンスターをより多く使役できるらしいわ」

「地下を掘り進んだ……ということですか。忌々(ゆゆ)しき問題ですね」


 そう言ってアルビウスさんは唇を噛む。軍隊を動かしてはいけないというウィローズとの約束があるため国の大事だというのに何もできないという訳だ。国をとるかスイロウをとるか……と言われれば国をとりそうだが、自分たちが片付ければスイロウも助けて国も救える、一石二鳥と上手くいく可能性があるわけだ。

 こちらには、ドラゴンスレイヤーもあるしパーティーも揃っている。一名邪魔がいますがー。


 そろそろ出発の時間だ。

 竜骨刀を腰に携えて立ち上がる。

ダンジョンは自然に出来たダンジョンとワームが作ったダンジョンと

人工のダンジョンと魔界から繋がるダンジョンと……

色々あるということです

自然のダンジョンが一番少なそう

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