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23話 呪いを解こう

「ウィローズ! 聞きたいことがある!」


 俺とファイレとアルビウスさんはガイアルの鍛冶屋に戻ってきてさっそくウィローズの部屋に向かった。リュガンの身分証を造りに行ってから1日以上たっている。

 ガイアルは鍛冶 兼 店の経営、スイロウは出かけているらしい。危険ではないのだろうかと思うが街中で早々襲われることも無いだろう。襲った方も衛兵も困るだろうから……。たぶん、スイロウはそのことを理解して出歩いている。今思えば森の中で白い仮面の男たちは過激派の一派だったのだろうか?

 ウィローズはベットの上で不機嫌に読書をしていたが、俺が入るなり本を投げつけてくる。


「断る!」

「待て、話だけでも聞け、スイロウのことだ!」

「知らん、儂がなんでスイロウの助けをせねばならん」

「仲間だろ!」

「お前たちなどと仲間になった覚えなどないわ!」

「ウィローズちゃん、ご機嫌斜めだね~」

「当たり前だ! お前らの師匠と話していると頭がおかしくなりそうだ!」

「待ってください。彼らの師匠に会ったのですか!?」

「……誰じゃ、おぬし?」


 師匠に会っていたこともビックリだが、まずはアルビウスさんの紹介をしておくかと思ったら勝手に自己紹介を始めていた。全く面白くないという顔でウィローズはベットの上を転がる。


「ふん! この国の犬か」

「犬か犬でないかのご判断はこれからということで……もし、彼らの師匠をご存じなのでしたらどこにいるか教えていただきたいのですが?」

「知るか、あんな奴!」

「彼らの師匠ならウィローズさんが知らないことを知っているかもしれません」

「そんなわけあるまい。あやつが知っていることで儂が知らぬことなどない」

「呪いについてもですか?」


 誘導尋問だ。師匠をダシにしたら意外とあっさり引っかかってるぞ。このまま情報を引き出せるのか?

 ウィローズはベットの上でゴロゴロしていたが、腰掛け頬杖をついてこっちらを覗き見る。


「スイロウを救う目星がついたわけじゃな。だが、儂はお前らとは関わらんつもりじゃ。助けたければ勝手に助けろ」

「ウィローズちゃん、ガイアルの家にお世話になってるんだから少し恩を返した方がいいんじゃないの?」

「うっ……」

「呪いのこともわからないんなら、師匠の居場所を教えてくれてもいいんじゃないか?」

「わからんわけではない。関わりたくないだけじゃ!」

「はいはい、わかりましたぁ~」

「わかっておらんじゃろ、このメガネ! 本当に呪いのことを知っておるんじゃぞ! あえて教えぬだけじゃ!」

「「あー、はいはい」」


 三人そろって手を上げて、頭を振りながらため息を吐く。


「おぬしらムカつくなぁ~! 良かろう。今回だけ呪いについて教えてやる。儂がどれだけ博識かその目に焼き付けるが良かろう。どんな呪いじゃ()うてみぃ!」


 一から詳しく話す。推測の域を出ない話もする。スイロウ剣士を倒せればスイロウ姫が治るのではないかとか、スイロウ剣士も助けられないのかとかも。


「ふむ、ネクロマンサーの命呪(めいじゅ)の進化というわけか」

「命呪?」

「読んで字のごとく命を糧にした呪い。ネクロマンサーの禁呪じゃ。命を(もてあそ)ぶ奴らが自らの命でかける呪い。そう簡単には解けまい。司祭や神官でも命をかけなければ完全に解くことは出来ぬじゃろうな。たとえ命を懸けたところでネクロマンサー以上の生と死について長けてなければ無駄に命を落しかねん」

「ようするに誰かの命をかけなければスイロウの呪いは解けないの?」

「呪い自体は解けるが新たな呪いとして生まれ変わるわけじゃ。今回のスイロウのように……。完全に解除できなければ呪いはより強力に、より解除の難しいモノへと進化していくのじゃよ」

「そこまでわかっているなら、今回のスイロウ様の呪いも今までに例があるわけですね?」

「ない! 命呪の進化は千差万別。ゆえにネクロマンサーの禁呪なのじゃ。一度進化を始めてしまうと同じケースの進化は起こらないっと言っても過言ではない」


 ウィローズは呪いのことは知っていたが解呪の方法は知らないようだ。というか、今の話で同じ呪いは無いと断言されている。

 アルビウスさんが言うには国で調べたらしいがネクロマンサーのこと自体 書かれた書物がほとんどなく、さらにその禁呪となると皆無らしい。手の付けようがないのかと思った……が、アルビウスさんはウィローズとの話を続ける。


「では、ウィローズ様でもこの呪いを解くことは出来ないとおっしゃるわけですね?」

「今の話を聞いておったか、小娘」

「はい、ですがウィローズ様がこの呪いを解けるかどうかについては言及されたところはありませんでした」


 そういわれれば、ウィローズ自身が『解けない』とはいってなかった。『千差万別で同じ進化は無い』とは言っていたが。ひょっとして解く方法を知っているのか?


「ウィローズ!」「ウィローズちゃん!」


 俺とファイレの大声に耳をふさぐウィローズ。嫌そうな眼つきでこちらを睨み付けるが、そんなことを気にしているわけにはいかない。


「儂はめんどうじゃから断るが、お前らが勝手にやればよかろう」

「ありがとう! ウィローズちゃん!」

「さすが、ウィローズ様」

「ウィローズ! 感謝する、本当に! あとでスイロウとガイアルにも教えないと!」

「待て、スイロウには秘密裏に行え。呪いの方が対処に動いてしまうのでな」

「うぅ……せっかく喜ばしいことなのにぃ~」

「それに、おぬしらも覚悟が必要じゃ。儂がやらぬ以上、死ぬ危険性が高いのじゃぞ?」

「ある程度の危険は覚悟の上です」


 アルビウスさんの言葉にニンマリと口が裂けそうなほどいやらしい笑い方をするウィローズ。俺たちに命をかけさせるための芝居だったのではないかと勘ぐってしまう。ファイレもちょっと身構えてますが……。


「呪いを解くにはネクロマンサーに劣らぬほど外道な方法をとる。すでに魂は呪いの代償として消滅しておる。次は肉体を蘇らせそれの消滅を計る」


 詳しく聞くとネクロマンサーをそれと同じような呪式を使い魔物化させてるらしい。死んだ人間をさらに倒すという確かに外道臭い方法をとるのだ。


「魂の無いネクロマンサーと対峙しろと?」

「その程度ならまだマシじゃな。スイロウ剣士と、スイロウ姫、両方の命を助けるとなると少々足りないと思わないか?」


 たしかに一人助けるのに一人分の肉体を滅ぼすのだ。そうするともう一つ魂なり肉体なりが必要になりそうだ。それもネクロマンサーと対等以上の力を持つ者の。


「さらに魂をBETしろと?」

「その通りじゃ。さて、何を上乗せする?」

「同等の魂が必要……生贄……ってことですか?」

「一人余計に救うのなら当然の対価じゃろ? それに獣人の奴らもスイロウを助けたいなら一人か二人くらい命を投げ出してくれるやもしれんぞ? なんなら死刑囚とかも用意できるんじゃないか、国の犬」


 ケラケラと笑うウィローズ。初めから簡単な選択などないと言わんばかりだ。

 確かにそうだが、それじゃ駄目だ。ファイレもアルビウスさんもそれくらいわかっているはずだ。ほかに……もっと他にないのだろうか?


「覚悟が無いなら、さっさと」「人間じゃなきゃダメなのか?」

「なに? あぁ、獣か。獣の魂などいくら集めたところで」「ドラゴンならどうだ?」

「……。ほぉ、おもしろい。ドラゴンの魂なら人間以上の価値がある」

「その価値は誰が決めるのですか?」

「ツマらん所に気が回るのぉ、犬! 誰であろうと関係あるまい。さしずめ神とでも言っておこうか。そんなことより勝算があるのかの方が重要じゃないか?」

「軍を動かします。情報を操作すれば難しい事ではありません」

「儂がそれを許さん。お前たちだけでやれ」

「なんでよ、ウィローズちゃん!」

「儂は只で情報をやるとは言っておらん。それなりの楽しみが欲しいのでな。あぁスイロウを連れて行っても構わんぞ。呪いのことさえ話さなければ気づかれまい」

「しかし、彼女はこの街からそう遠くには出れません」

「じゃろうな。遠くに行ければこんな町におらんだろうしのぉ。その辺は知らん。ただ連れて行ってもいいと言っただけじゃ」


 だが、ファイレが考え込む。なにか思い出そうとしているようだ。ちなみに俺は全く心当たりがない。その間にウィローズが俺にナイフを手渡す。なんかゴテゴテした飾りのあるナイフだ。説明だとこれで心臓を(えぐ)り取ることが条件になるらしい。『(きら)びやかで美しいナイフじゃろぉ』と言われるが使いづらいので困った顔になると、あからさまにため息をつかれる。俺が悪いのか? 世の中には機能美というものがあってだなぁ。


「お兄ちゃん、ひょっとしたらスイロウともドラゴン退治に行ける場所があるかもよ?」

「おっ、本当か! よくそんな場所を思いついたな」

「まだわかんないよ。スイロウに聞かないと……」

「スイロウに? どういうことだ?」

「思い出してお兄ちゃん。私たちはパーティーを組んでドラゴンを倒す予定だったのよ。それを先導していたのはスイロウ。当然、この街からある程度の距離しか離れられないことは本人が意識か無意識かわからないけど知っているハズ」

「小僧は本当に忘れっぽいのぉ。儂なんておぬしが言っていた模擬戦の話でピンと来ていたぞ」


 本当か? 本当にウィローズはピンと来ていたのか。 ウソだろ、お前!


「しかし、私たちだけでドラゴンと戦えるとは到底思えません。なにかしら対応策を執らないと……」

「アルビウスさん、えーっと、言いづらいんですけど、その対応策としてスイロウが王宮からドラゴンスレイヤーを持ち出した可能性が高いです」

「…… ……は? そんな馬鹿な話……」

「ホントよ。私達、見たもん」


 アルビウスさんは頭を抑える。そりゃそうか、まさか勝手に持ち出されているなんて思いもしないだろう。ウィローズはこれまた楽しそうにケタケタ笑っている。


「違うのです。ラーズさんにファイレさん。スイロウ様がドラゴンスレイヤーを持ち出すなんてありえないのです」

「そんなこと言ったってねー、お兄ちゃん」

「確かに勝手に宝物庫から持ち出されたことはショックだろうけど……」

「そうじゃなく、わが国にはドラゴンスレイヤーとそれに類する剣が無いのです」

「「えっ?」」


 そんな馬鹿な……。確かにスイロウはドラゴンスレイヤーを持っていた。見間違いではない……詳しく聞かなかったけど。


「まぁ、どーでもいいじゃろ。早くお前らのドラゴン退治を見せてみろ」

「お前も行くのか、まさか?」

「儂が行かんでどーやって楽しむ。安心しろ手助けなど一切せぬ。あの男の弟子など助けるわけがない。あわよくば(はらわた)ぶちまけて喰われる様を楽しみにしておる」


 ヤバい、ツッコミどころが多すぎてどっからツッコんでいいかわからない。ドラゴンスレイヤーの話がどうでもいいところか、師匠との話か、俺が食われる様か……。


「ウィローズさんの言う通りですね。このまま何もしないのでは埒があきません。スイロウ様に聞いてドラゴン退治と参りましょう」

「そうね」


 その通りだ。ひょっとしたら、スイロウ自身、呪いの解き方を知っていたのかもしれない。そのためのドラゴンの居場所を探し退治を目論んでいた……というのは考え過ぎか? 呪いは呪いを解除することを阻止する動きがあるっぽいしな。 いや、このナイフが無ければ解除できないみたいだし、偶然だろう。

 どちらにしても、こんなところで原点回帰。スタートラインに立った気がした。

ドラゴンスレイヤーは対ドラゴンに対して効果がありますが

ドラゴンほどではありませんが

その他の魔物にもそれなりの効果を発揮します

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