21話 アルビウス副大臣(メガネ)
アルビウス副大臣が部屋の中に入る。
「先程は失礼しました」
さすがに偉い人が集まる中、俺もそうだがファイレの態度はデカすぎだろうと頭を下げる。ファイレも下げる……いや? ファイレの方が頭を下げるのが早かったか?
その態度にアルビウス副大臣は目を丸くするが、すぐに 破顔一笑する。あれ、この人意外と若いんじゃないか? 遠目とメガネのせいで気づかなかったが、20代前半のような気がする。いや、それだけじゃない顔には深い傷がいくつもあるせいだ。一番大きい傷は額から頬にかけてバッサリとやられている。
「なるほど、先ほどの態度は演技だったわけですね、まんまと騙されました」
騙したつもりはないんですけど……と思って横を向くと、ニヤリと邪悪なほほえみのファイレさん。あれ? 騙す気満々だったんだ。俺に相談なしに? ひょっとして不敬罪とかに問われたかもしれないんじゃないんですかね、ファイレさん?
「グリンウィンドの情報がどうしても欲しい私たちから、スイロウ様の情報を引き出すために対等な立場と誤認させるための演技。アナタたちを牢にぶち込んだところで情報が引き出せないでしょうからね。尊大な態度をとることで苛立たせ判断を鈍らせていたわけですか」
「"今やっとわかった"みたいな言い方をしていますが、だいぶ前からわかっていましたよね?」
「えぇ、おかげでビギヌス第一位司祭様の情報を引き出せましたからね」
「なるほど」
"なるほど"と言ってみる。なんで『情報なの?』と聞きたいところだが、バカだと思われそうなので納得しておく。きっとなんか色々あるのだろう。俺たちには関係ないし説明もいらないだろう。
「それでは早速、スイロウ様の情報ですね」
資料を机の上に広げる。
盗聴とか気になるが、この施設自体、お偉いさんがあつまるところだ、問題があるはずがない。
「どこまで知っているんですか?」
「ほぼ皆無」
両手を広げ、降参状態を示す。スイロウが偉い人だということだけだ。しかし、アルビウス副大臣は納得しない……というか、そういうことが聞きたいのではないらしい。どこでスイロウのことを知って、どうして詳しく知りたいのか、ということだそうだ。
俺がスイロウと出会った時のことを話そうとすると、ファイレが止めた。
「アルビウス副大臣、こちらの情報を引き出そうとするのは止めていただけませんか」
「あら、アナタたちが知っているところを報告する手間を省こうと思っただけよ」
「グリンウィンドとは何の関係もありませんから」
「それはそれで気になるじゃない? 第一王女のことを知っているんですもの」
どうやら、スイロウはこの国の第一王女らしい。無防備な第一王女だな。大丈夫かこの国。……いや、第一王女のことを知っているのは不自然なのか? グリンウィンドまではその名は聞かなくても隣国なら知っている人がいてもおかしくないと思うんだが?
そんな疑問が顔に出ているのだろう……ファイレも渋い顔をしている。こちらが知らず相手だけが情報を持っていると歯痒い。
「"話がかみ合わない"。顔に出てるわよ。一方的に聞くより情報交換の方がいいんじゃない? 整理しながらじゃないと私の情報は曲解しかねないかもしれないわよ」
にこやかだが目は笑っていない。凄みもある。戦場にも出たことのある雰囲気だ。殺意も向けられていないのに脂汗が出てくる。俺たちの情報を握られているみたいな気がする。気のせいか、気のせいだよな。
「こちらが情報を一つでそちらが情報一つ……これで対等な取引だと思っていたんですけどね……もう一つ引き出す算段があったとは思いませんでしたよ」
「そうね、本来なら一つでも出したくない所なのにアナタたちの演技力で譲歩せざる得なかったからね。私もあのまま手ぶらで帰るわけにもいかないのよ」
どこからか、騙されていたわけだ。こちらの手の内を晒さないと、ワザと怪しい情報を掴まされるわけだ。いや、手の内を晒しても本物の情報が流れてくるとも限らない。会場では嘘はなかったが、本物の情報を渡すとはいっていない。そう考えると、一方的にこちらが情報を渡しただけのような気がしてくる。
「虚偽識別魔法を……」
「駄目よ、お兄ちゃん。アルビウス副大臣は"断る"わ。情報が本物だと言ってね。そうすると、本物の情報だった時虚偽識別魔法の代金が私たちに降りかかる。さっきも見ていると思うけど、安くないのよ、上位神官の時間を拘束するからね。それに、忙しかったりすれば、どれくらい先になるかわからないわ。アルビウス副大臣と上位神官の両方が暇なときじゃないといけない」
ファイレの口元が吊り上る。笑っている……若干、狂気を孕んでいるのがわかる。こんな顔は滅多に見ない。嘘かもしれない情報に飛びつくか、他の方法を考えているのか……。
しばらく考えを巡らした後、ようやく重い口をファイレが開く。
「アルビウス副大臣……てっとり早く話を進めてもよろしいですか?」
「話す気になったのかしら? もちろん、私の方の情報は」
「何が目的ですか?」
「……アナタたちの情報……っと、ファイレさんだったかしら、頭の回転が早いのね。その先の話ね」
ヤバい、話についていけない。どーなってんだ。なんか段階 踏んで話してもらわないと、よくわからないんだけど それを聞くとアホの子だと思われそうだ。どうしよう。なんか適当に先回りして言ってみるか? やめておこう。
「先にスイロウ様についてアナタたちの意見を聞く必要があるわ。ひょっとしたら目的が一致しないかもしれないじゃない?」
「私達から情報を引き出す目的の一つ……だったわけね。私たちの目的がアナタとそぐわなければ偽の情報を掴ませるつもりね」
「まさか! 虚偽識別魔法の可能性も考えれば嘘の情報は流さないわ。ただ、話す情報と話さない情報の選り分けはさせてもらうけど」
にこやかに笑っている。豚みたいな司祭が狸だと思ったが、それ以上だ。虚偽識別魔法なんて何の意味もない。国同士の外交で使わないわけだ。一方的に信用を失うだけだ。
「そうすると、こちらも下手な情報をだせないじゃない?」
ファイレの言う通りで何を喋っても相手の手の平の上。嘘も本当も見分けることができない。目的も何もかもがわからない。ベストの選択は無い、ベターな選択は情報を吐き出さず、情報を貰わない……だ。一方的にグリンウィンドの話を話しただけになってしまうが、それ以上の悪化は無い。それが妥協点に見えるがそれでも相手の思う壺。査問会がそのつもりだったのだから……。
「じゃぁ、俺たちとスイロウの話を全部しちまおうか」
「!? お兄ちゃん!?」
「このままじゃ前に進めない。選り分けられても真実なら進めるだろ?」
「嘘を吐くかも」
「なら、それを一つ一つ判断していけばいい。いきなり真実にたどり着けるとは思ってなかったんだから。噂話をきくつもりだったんだぜ?」
「そ……それはそうだけど……。敵かもしれない人にスイロウの情報が渡るんだよ? スイロウが危険かもしれない」
「今だって十分危険だろ。問題の解決を急げばいいだけの話だ」
「…… ……。うん。そうだね。……そうだよ、お兄ちゃん!」
会心の笑み。何か吹っ切れたらしい。というか、俺の方が先に吹っ切れたからだろう。グダグダ悩んだってしょうがない。副大臣もきっといい人に違いない。根拠なんて必要ない。全部話そう。もし、悪い方に転んだなら俺がなんとかすればいい!
そこから、俺たちがスイロウに会ってからのことを話した。それでも居場所などは伏せるようファイレがいちいち釘を刺す。全部話そうと思ったが、俺の責任を軽減するためだと要所要所でストップがかかった。それでも、ほぼ一連の流れはわかっただろう。アルビウス副大臣は深く頷いた。
「わかりました、本当によく」
自分の顔の傷に手を当てながら、アルビウス副大臣は可愛らしく笑った。今までと雰囲気が違う。
「私はあなた方の味方です。私もスイロウ様を助けたいと思っております」
「今までのことがあって信用できないけどね」
「それはそちらのお考えでどうぞ」
ちょっと険悪ムード。アルビウス副大臣の顔が無表情になり見下す感じになる。さっきまでは可愛らしかったのになー。こっちは威嚇されている感じで怖いです。
「それではこちらの情報に入りますが、他言無用でお願いいたします。万が一、情報が漏れることがあればあなた方の命の保証は出来ません」
生唾を飲み頷く。嘘かもしれない情報で暗殺者が回って来るなんて最悪だからな。それにしても命にかかわる情報なんて生まれて初めてだよ。
「あっ、ちょっと待ってください。話す順番はどっちがいいのかしら?」
急に反転し書類に目を通し始める。バラバラとめくって何かを確認する。パタンと閉じて深呼吸する。
何が行われるんだ。
「そうですね。情報前にこちらの連絡を先にした方がいいでしょう」
「何かわからないけど、早くして! 私たち暇じゃないのよ」
「わかりました」
そういうと一つ深呼吸する。
「これから、アナタたちのパーティを私・アルビウスが監視することになります」
「「…… …… …… はぁっ?」」
「えぇーっと、ですから、街中や冒険依頼などの際に私がついて回るということになります」
「えーと、待って、待って、待って、待って! えーっと、何・言ってるの? えー意味がわからないんですけどぉー?」
「グリンウィンドの人間で、スイロウ様の情報を有する者をそのまま野放しに出来ないというのが私たちの見解です」
「色々おかしいが、その見解を丸呑みしたとしても、アルビウス副大臣が……『副大臣』が監視っておかしいでしょ! 考えて、よく考えて。よーく考えよー」
「監視は建前でスイロウ様の救出のために……そのー私が行動を起こすということになります」
「副・大・臣! 要・職!」
「逆……に考えてもらいたいですね。要職以外の人間に漏れると危険な情報だと」
「おいおい、そういうの勘弁してもらいたいんだけど……」
「ラーズさん、嘘、ですね。はじめから覚悟なさっているって顔をしてますよ」
「うん、お兄ちゃんはそういう顔をしている。困ったことに……実力が伴わないのに……」
大げさにため息をつかれる。
いやいや、ちゃんと実力伴ってますよ……ダメ? 全然? あ、そう。でも覚悟は出来ている。安全であるはずがない。スイロウは止めなかったが、彼女の顔は葛藤していた。助かりたいけど止めたくもある……それ以外のモノも混じっている。たぶん俺たちしか彼女を助けられない。国も取り組んでいるのだろうか。状況的には放置しているように見える。アルビウス副大臣がようやく動いたと言った感じだ。その辺は後で聞こう。獣人たちも何か知っているが何故襲うのか、聞かなきゃいけないことが山ほどある。
「では、お話ししましょう。スイロウ様のことを……」
アルビウス情報副大臣 情報局を取り仕切る機関です
副大臣は数人いますので一人くらいいなくなっても……
「アルビウス副大臣~! お仕事が溜まっています~」
「アルビウス副大臣! この書類に判子を!!」
「アルビウス(ry




