2話 青髪剣士は仲間になるのか
日が落ちかけた夕暮れ。
あれから半日ほどで、近くの町にやってきた。いや、都市と呼べるレベルである。
今から数年前、天空から大量のドラゴンが飛来し、村や小さな町の大半は滅び、大きな街しか残ることができなかった。
その大きな街でも運が悪ければ、数体のドラゴンの攻撃を受け滅んでしまう所もあったらしい。
ただ『預言者』と呼ばれる者が各国にドラゴンの襲来を警告していたため、備えていた地域もあるという話だ。
ある一定数、街を破壊したドラゴンたちは縄張り争いをはじめ、現在は当初飛来してきた半数以下まで激減しているという噂もある。
そんなわけで、ご多分に漏れず この街も大きいわけである。
そんな街の一角にある大きな酒場、町の人ごった返している中、ラーズとファイレ、それと謎の女剣士の三人が木で出来た丸テーブルを囲んでいる。
ドット疲れたようにラーズは深く椅子に腰を下ろしたが、女性陣はあまり疲れた様子を見せていない。
「助けてもらったお礼だ。好きなモノを頼んでくれ」
「とりあえず、ブドウジュースとステーキ、それとライ麦パンと鶏肉のオニオンスープ、あとは面倒くさいなぁ、ウエイトレスさん、メニューのここから ここまで持ってきて!」
「待て待て、ファイレ! 普段そんなに喰わんだろ!」
「何言ってんの、お兄ちゃん。奢りよ、奢り! こういう時に食べておかないと元が取れないでしょ!」
ファイレは半分嫌がらせで無理矢理高い料理を選択していたのだが、ラーズは妹が『戦闘に巻き込まれる』のを嫌う傾向にあるのを理解していたので深くツッコむのを止めた。
もっとも嫌がらせは兄から女性を遠ざけるためだとは露程にも思っていなかった。
「妹が申し訳ない」
「いいえ、問題ありません。私も似たようなものですから……」
「……ぅん?」
「話し合いの席でもありますから……私は宴会用セットで。お兄さんの方は何を頼みますか?」
色々ツッコむところが多い。『話し合いの席は料理は無くてもいいのでは?』とか、宴会用セットを頼んだ時点で『俺は頼まなくていいのでは?』という疑問が湧くが、置いておくことにする。
「紅茶を……お願いします」
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場違いなほど料理が運ばれてきている。
そんな中で、互いの自己紹介を始めた。
「俺がラーズで妹が……」
「ファイレよ。もっとも、アナタの話を聞いたら赤の他人だから名前なんて気にしなくてもいいでしょうけど!」
赤髪ショートヘアの妹は同性が大嫌いでため息を吐くラーズ。
事あるごとに睨みを利かせている。なんでそんなことになっているのか理解できない兄。
「私はスイロウ。あの仮面をつけた者たちと何故 敵対していたか……。簡単に言えば意見の違い。ドラゴン排除を考えている者と、それを阻止しようとする組織というわけだ」
「それで、あんた……スイロウだっけ?……はどっち派だ?」
…… ……
ドラゴンの襲来は神が与えた試練だという噂がある。
獣人という種族を人間と認めるためのモノだという話だ。
獣人は元々、魔族であり人間と敵対していた。だが、およそ300年前に和解し地上に住むようになったと言い伝えられている。
だが、神はそれが並々ならぬことだと示すため、いくつかの試練を与えるとのことだ。その一つが大量のドラゴンが地上に降りたったことだと言われている。
現に神の声[といわれている]を地上にいるほとんどの者が聞いている。
ここで獣人を人間と認めるモノはドラゴンに抗い、認めないモノはドラゴンを受け入れる……というおかしな流れにもなってきている。
獣人と共に戦いドラゴンを倒すのが筋と考えそうだが、遺恨が残っているため素直にそうならなかった。
元々、魔族だったこともあり、人間の間では獣人狩りなどを行い、奴隷またはそれ以下の家畜として散々いたぶりまわしていた過去もある。それも数年前の話だ。
そんな獣人を人間と認めることを恐れている者たちも多いわけである。
ただ、獣人は人間に変身することができるため、人間の姿になった獣人は人間と区別がつかない、変身の魔法を解かない限りは……。
そのため、スパイなどを恐れた人間たちが考えたのが『隷属の首輪』。魔法を一切使えなくし、その鍵を持っている者が首輪を爆破することも出来る。もちろん、無理に引き千切ろうとしてもドカーンっといくわけだ。
現在では犯罪者にも使用される。
要するに獣人は虐げられている。……が、今は多少マシになった。
理由は人手不足。
ドラゴンによる攻撃で土木関係、軍事関係はいくらいても足りないほどだ。『隷属の首輪』は着けられているが、傭兵や大工などは待遇がよくはなっている。
そういった獣人たちの首輪の鍵は雇い主が持つことになっているが、犯罪でも犯さない限り爆破は認められていない。それに給料も当然のように支払われることになっている。
獣人にとってはドラゴン様様と言った感じだ。
…… ……
それを踏まえた上で、スイロウはラーズの問いに答えなくてはならない。
場合によっては敵対する。
が、ラーズ達がどちらの派閥かわからない以上 偽っても仕方がない。それに普通に考えればドラゴン排除の方が圧倒的に多い。
「ドラゴン討伐を目的に冒険者をしている」
「ちっ」
舌打ちするファイレにスイロウは、彼女たちがドラゴン擁護派かと思った。
てーか、普通そう思う。が、当然 真逆。
「俺たちもドラゴン討伐を目的にしている」
ラーズの言葉に思わず驚いてしまう。『あれ? さっきの舌打ちは?』と……。
「先程の奴らがスイロウを襲ったのはドラゴンを殺させないためというわけか。そうすると、すでにドラゴンの居場所を知り倒せる手立てがあるということか?」
「お兄ちゃん、念のため言っておくけど、彼女は彼女でやる、私たちは私たちでやるべきだよ? 私たちはまだ何も成してないんだからスイロウの足手まといになる可能性があるんだから」
「確かにそうだな。手柄を横取りするようなモンだもんな」
「いや、助けてくれるならありがたい。それに命の恩人でもあるのに横取りなどとは思わない」
「待って待って待って待って! アンタ一人でドラゴン退治しようと思っていたわけではないでしょ? パーティーメンバーもいるでしょ。その人たちと相談しないと駄目でしょ!」
「なるほど、一理ある。私の相棒のドワーフが」「そうそれ!」
上手くいきそうだとファイレは直感した。そのドワーフが自分たちを信用しないだろうし、万が一ついてきたとしてもプラスドワーフになる。
四人になれば女性率が減る。
「それから私たちがいかに信用できないかを話して、まずはそのドワーフさんと相談でしょ! それで許可が降りたら私たちとパーティーを組むか考えればいいじゃない」
「ファイレ、なんで『信用できる』方に話さないんだ?」
「……えーっと……こういうのって信用第一じゃない? 自分のいいところだけをアピールするのって卑怯じゃない? だからまずは悪いところを相手に言っておいた方がいいじゃない?」
しどろもどろで全部疑問形で適当に話してみる。そんなこと考えているわけはないんだが、何とか誤魔化すための方便もいいところだが……。
「なるほど、ファイレはちゃんと考えているわけだ」
「そこまで真剣に考えているなら私の相棒も納得してくれるであろう」
二人とも力強く頷く。
アホっぽい二人だと思いながらも、兄の好感度を下げずに信頼できない方向に行けそうなのは良かったが、スイロウの好感度が上がったような気がするのは予想外であった。
「それじゃぁ、すぐにドワーフさんの所に……」
「いや、飯を食い終わってからだろ……喰い終わるのか? あれ? 食べても食べても無くならないぞ?」
「食べ終わった皿は下げてもらって、新しい料理が来るからな。他にも食べたいものが あったなら注文してくれ」
「お兄ちゃん、何を言っているの、この人?」
「さぁ、俺の理解の範疇外なので何とも言えんなぁ」
嫌がらせで頼んだファイレの注文もスイロウが勝手に食べてしまっている。元々食べる気が無かったのでファイレとしては構わないのだが、目の前の状況がよく理解できない。
「食べれるときに食べておかないと、ドラゴンスレイヤーにはなれないぞ?」
綺麗で尚且つ素早く食べるスイロウにかける言葉は無かった。
それから一時間半後、ドワーフのいる鍛冶屋に行くこととなる。
そして、ファイレは叫ぶことになる。
「なんでよ!!」
あけおめ ことよろ
最近聞かなくなった言葉
次はドワーフさん出る予定