19話 身分証は簡単に発行されません
少し大きいテーブルに移動。主なメンバーが顔を揃えている。具体的には俺、ファイレ、スイロウ、ガイアル、ウィローズ、アルーゾ……あと執事のおっさん。おっさんはアルーゾの後ろに控えている。話聞かせて大丈夫だろうか? あとで裏切ったりしないか心配だ。でも、面倒なので大丈夫だと思い込もう!
「それじゃぁ、スイロウの秘密を探るにあたって本人から聞いておきたいことがある」
「私に聞くのか? 何も応えられんぞ」
「秘密を教える気が無いのか、教えられないのかどっちだ?」
「なるほど、面白い質問じゃ! 要は"何かしらの原因があるのか"それとも"教えたくないのか"というわけか」
スイロウは口を結ぶ。答えを思案しているようだ。
「教えられんな……」
どうやら、自分の意思と関係ないようだ。脅されているのだろうか? はじめにガイアルが監視だと思ったといっていた。てっきり偉い人だから監視だと俺は思っていたが、誰かに話さないための監視だったとスイロウは感じたのかもしれない。ちょっとややこしいぞ。どうする?
「これでスイロウは脅されているか、あるいは呪いとかの可能性が出てきたね、お兄ちゃん」
確かに呪いという可能性も有るのか。どちらにしろスイロウは応えることができない。いったい何なんだ。獣人連中に聞く手もあるが、なんとなく嫌な予感がするんだよなぁ。
まずはこちらで出来ることをしよう。
「では、スイロウに聞いても仕方ないので、アルーゾに聞こう」
「確かに! なんかスイロウのこと知ってそうだもんね!」
「僕か!? 僕はスイロウ様のことは知りませんよ?」
「おぬしがアホなのは充分分かった。なぜスイロウに『様』を付ける?」
「ぐっ! まさかそんな鋭い質問をしてくるとは思いませんでした」
「関係ないけどさー。アルーゾって口調がおかしいよね?」
「やっぱりそうですか。……父上に……父上? お父様か? センダーク」
「はい、アルーゾ様。この場合は"父"だけでよろしいかと」
執事の名前はセンダークらしい。新たな事実! どーでもいい、本当に。
「父に言葉遣いを注意されまして、王宮では丁寧な言葉を使うようにと指摘されたのですが、これが中々難しくて使いこなせていないわけですよ」
「面倒くさそうね、貴族って」
「そうでもありませんよ、それ以外は税金で悠々自適な生活をおくっていますから!」
「それは滅茶苦茶 駄目じゃろ」
はっはっは、とのんきに笑っている。本気なのか冗談なのか分からんところだが、今はその話はどうでもいい。スイロウの話だ。話を戻して、なぜ『様』付けなのかを改めて質問する。
「本来なら隠すのが貴族として正しいのでしょうが……スイロウ様は王族なのです」
「うん、それから」
「え!? 驚くところですよ!」
「驚かんじゃろ。貴様の態度からすれば公爵前後なのは間違いあるまい。そんなことより王位継承権が何位にあるとかの方が重要じゃ。そら、喋れ!」
スイロウは無言だが止めるための行動は起こさない。どうやら、喋ることは許されないが止めるまではしなくてもいいらしい。そう考えると呪いの線の方が強くなってくる。脅されているなら、調べられたらまずいのだろう。呪いはマズイこともあれば、そうでないこともある。
「王位継承権第3位……でした」
「"でした"? 過去形ってことは今は違うの?」
「いえ、違わないんですが……」
「煮え切らん奴じゃのぉ。ハッキリ言え!」
「その~、本人を前にしてこんなことを言うのはどうかと思うのですが……スイロウ様は死去なされたとの情報がありまして……」
「何を言っているんだ?」
「そうなんです! わけがわからないんですよ、正直僕も! ここに生きているというのに! ですが護衛が付いていないことを考えると何かしらの理由があると思っていまして、具体的には何者かに失脚させられているのではないかと……」
「ありそうな話ね~。政関連だったら面倒よねぇ。どうしよっか? 私たちの出る幕じゃないかもよ、お兄ちゃん?」
「心にもないことを言うなよ。さて、もう少し具体的に知ってそうな所というと……」
「王宮内じゃろうなぁ。おぬしら自身で聞き回った方が良かろう」
「……違う」
「なに?」
久しぶりにガイアルの声を聞いたら否定的な言葉だった。
「なにが違う?」
「……調べるのは教会」
「なるほど、さすがガイアルちゃん! そうだよ、死んだことになっていれば神官が知らないわけがないし、呪い関係も聞けるかもしれない。それに王宮に入るより簡単だよ。それでも第一区画の教会じゃないと駄目だけどね」
ファイレの言うことはもっともだ。最高位の教会でなければ大公、公爵、侯爵レベルの葬儀は行えないだろう。しかし、公にされていないのなら教えてくれるとは思えない。
そんなことが俺の顔から読み取れたのだろか……。
「噂話を聞くにしても この辺よりましじゃし、王宮で聞き回るより安全じゃ」
「全くです。僕も第一区画での噂しか聞いたことがありませんから。教会ならもう少し込み入った内情が聞けるかもしれません」
「何でアルーゾは教会で噂とか聞かなかったの? だって求婚する相手なんでしょ?」
「本物のスイロウ様だとわかったら、求婚できる相手ではありませんから! わからなければ結婚してしまってから調べればいいかと。それなら問題はないでしょう」
「……確信犯」
「それは兎も角、どちらにしろ第二区画でマッサージは必須となると思いますけどね」
「どういうことじゃ? 第一区画にサッサと行けばよいではないか?」
「チッチッチ。そうはいかないのですよ、マドモアゼル」
顔の前で人差し指を振る。容赦なくぶん殴るウィローズ。当然の結果だろう。誰も止めない。執事の人くらいは止めてもいいような気がするが、見て見ぬふり。
鼻血が出てきている。すばやくハンカチを渡す執事。そんな時は素早いんだ。もっと根本を何とかした方がいいんじゃないか?
「なはなは、いいハンチをおもひれ……っと……第一区画に入るには僕の証明だけでは無理なのですよ。"複数の"あるいは"王族の"身分保障が必要になります。昔戦争が遭った時の名残といわれていますが、スパイの排除にはどうしても必要だったみたいですよ」
「今はドラゴン相手だろうに……そんな奴いるのか?」
「ですから、昔の名残です。そんなわけで、第二区画にはそれなりの豪商、貴族がいます」
「で、その人たちに気にいられて身分保障をしてもらおうというわけね。教会に行くにしても王宮に行くにしても第二区画で媚を売らないとならないわけね」
「そうとわかれば早速いこう。早い方がいいだろう。このリュガンをどうすればいいんだ? もう持っていくだけでO.K?」
「そうお思いですか?」
とりあえずファイレが一発殴る。執事見て見ぬふり。本当に執事なのか、疑問が湧いてくる。
「もったいぶらなくていいからさっさと話しなさい! 魔術師ギルドとかに持っていくんでしょ? で、あんたの血とかなんかが必要なんでしょ!」
「はい、その通りです」
だいぶ素直になってきた。
全員、机から立ち上がる。スイロウはどうするのだろうか?と思ったら、ココで別れると告げて一人さきに出ていってしまった。一緒に居ても手伝うことも止めることも出来ないから、精神衛生上よくないと判断したのだろう。ガイアルと目が合うと頷いてスイロウの後を追った。彼女は空気が読める娘である。ウィローズを見ると首を傾げた。スイロウの護衛を頼みたいと、わかっているはずなのにワザと断ってきやがった。空気を読まない娘である。好奇心で第二区画に行く気満々のようだ。
酒場を出て馬車に乗る。窓から町の様子を見ようとすると、もう着いた。歩いても魔術師ギルドまでそれほど距離がなかったようだ。目を凝らせば酒場が見えそうである。
「ところで、このリュガンだけで、ファイレもウィローズも身分証明でき」「できません」
できないらしい。
「それじゃぁ、みんなの分を用意」「できません」
「ちょっと、どういうことよ!」
「それは儂らに"第二区画に行くな"ということか!? 強行突破するぞ」
「しないでください。リュガンは大量に発行できないモノなのです。身分証明なわけですからラーズは僕が認めましたが、あなた方を認めたわけではありません。何かこの国に利となることがあるならリュガンの発行を考えましょう」
「「なん……だと……」」
二人がハモってる。それを横目に俺とアルーゾが魔術師ギルドの中に入っていく。執事は彼女たちが国の利益になりそうな提案に耳を傾ける役なので三人はギルドに入って来られない。
ギルドの店員? 職員? が駆け寄ってくる。黄緑色の綺麗なローブを着た30~40代くらいの品のある女性だ。
「これはアルーゾ様。今回はどのようなご用件で」
「ふむ、彼の身分を僕が保証したいと思って記入をお願いしに来た」
「竜の眼球ですね。では、こちらにどうぞ」
小奇麗な一室に案内される。特別な部屋っぽいし、お茶も出してもらえる。そもそもリュガンの記入ということは身分の高いモノが同席しているわけだから、特別な部屋になるのは当然だろう。部屋自体に魔法がかかっているのかもしれないが、魔力を感知する能力が無い俺では判断できない。この部屋に魔力がかかっているか聞くのも"俺って才能ないですよ"って言っているようでなんとなく嫌だ。見栄を張りたいお年頃なのだ。聞く意味もないしな。
「ではお名前、年齢、出身地、職業をお願いします」
「名前はラーズ・サトクリフ、年齢は18かな、たしか……出身はグリンウィンド、職業は」
「「グリンウぃンド!?」」
「戦士です」
「どういうことですか、アルーゾ様!」
「ちょっと待て、僕はそんなの聞いていないぞ!」
そんなこと言われても聞かれてもいないし、なんだグリンウィンド出身だと犯罪者扱いか?
「落ち着け、落ち着いて話合おうじゃないですか」
「そ、そうです。落ち着いて、落ち着いて!」
「二人ともお茶でも飲んで」
「あ、あぁ」
「はい、ありがとうございます。……。」
ずずずっとお茶を飲み落ち着く二人。スイロウも珍しい村だと言っていた気がするが、身分証明に問題が出てくるのだろうか、犯罪者は言い過ぎにしても。
「結局のところ、グリンウィンドだと問題があるんですか、お姉さん?」
「あらやだ、お姉さんだなんて!」
お姉さんくらい言っておいても罰が当たらないだろう。たぶん、身分証を造るのに有利に働くはずだ。もっとヨイショしておくか。いや、後回しだ。
「問題はないけど嘘は記入できませんので……」
「嘘じゃない場合は証明しなきゃならないわけだ」
と言っても、証明できるものは何も持っていない。いや、竜骨刀ならどうだろう?
「この剣ならどうだろう? この辺じゃ売ってないと思うんだけど」
携帯している竜骨刀を机の上に置く。
職員の女性とアルーゾが顔を見合わせる。どちらが手に取るか悩んでいるようだが、職員さんが『どうぞ』『いえいえ、そちらから』『いえいえ』
面倒臭いので『じゃぁ俺が』といって抜いて見せる。
「これは……」
アルーゾが絶句している。アルーゾと対決したときは用意された剣だったからコイツを見るのは初めてだろう。そして手渡すと感嘆の声を上げている。しばらく見た後、職員さんに回す。ジックリ見ているが判断がつかないらしい。これじゃぁ証明にならないのだろうか。
「これでは証明が難しいと思います」
「ですよね~」
「ですが、鑑定すれば何とかなるかもしれません。ですので、しばらく、しばらくでいいので預からせていただけないでしょうか。1時間……いえ40分ほどで構いません。かならずお返しいたします、お姉さんの名に懸けて!」
ただ『お姉さん』といいたかっただけじゃないだろうか? 別に問題ないので承諾すると大事そうに抱えて出ていった。これで鑑定して証明できれば楽でいいんだけど。
「よかったのですか? 僕としては一時でも手放すのは、気が気ではありませんが?」
「師匠にもらったもんだけど、たかが剣だし」
「なら僕に売ってください!」
「断る! 身分証明にもなる!」
「リュガンが手に入れば大丈夫でしょ! って言うかあんな凄い剣を身分証代わりにしないでください!」
「なんか しっくりこないんだよね、あの剣。なんで師匠はあれを俺に渡したのか」
「理由があると?」
「いや、たぶんその辺で買って手渡しただけだと思う。あの人、剣のこととかよく知らなかったし」
「何の師匠なんですか? 戦い方を教わったんじゃぁ?」
「戦い方を教えて欲しかったんだけど、いや、戦い方でいいのかなぁ」
よく考えてみる。戦い方を教わっているつもりだが、その実、教わっていたのは生き残り方だった気がする。とにかく一日中逃げ回るサバイバルがほとんどだった。その途中に自然の動物、魔物と戦ったという印象。師匠に見つかると戦いにはならない。いかに生き残るか……と言うのが俺の防御の原点だった気がする。
40分間、そんなやり取りをして職員さんを待つこととなる。思ったより大ごとになってる。やってきたのは魔術師ギルドの偉そうな人。なぜ偉そうかというとお姉さんを従えているし、髭が生えているから。
「これをどこで手に入れたんですか!?」
「グリンウィンドの村ですけど……」
「信用しましょう。えぇ、信用しましょうとも!」
「ちょっと、おじさん、顔 近い!」
「ですがねぇっぇ! どうやってこの町まできたのかっぁ! 教えてもらいましょうかっぁ! 我が国の中隊ですら超えることができなかったドラゴン山脈をどう越えたのかっぁぁあ!!」
「え!? なんで俺怒られてるの?!」
「すみません、ギルド軍部長はあの山脈を越えるために2度軍を要請して失敗して降格しているので」
「マグスタルファー君! 黙ってて! 確かに『こんな素晴らしい素材を適当な技術で作っているところを見ると普通の町じゃないことは一目瞭然だ』と、数々の鍛冶師たちが唸っていましたよ」
「じゃぁ身分証を……」
「もう、それどころじゃないでしょ!?」
「それどころじゃないの?」
アルーゾを見ると頷かれた。お姉さんを見ても頷かれる。なに、どーなるの? 怖いんですけど……。
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私はどうしたいのだろう。彼らを止めるべきだった。
真実を知れば私は殺されるだろう。私を助けるために……。
どうすればいいのだろう。
死にたくはない……しかし、助かりたい……
同じことのハズなのに、何故こんなことになったのだろう。
どこかに元凶があるはずなのに……。
本来ならもう教会くらい着いてるはずなのに身分証も発行されていない
ちなみに一般人は第三区画




