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17話 マッサージとは・・・知っているのか! ファイレ!

「ぐあっぁあがぎはぁあああ!!」

「やめろっぉおお、やめてくれっぇ!!」

「いたたたたたっ、マジ、マジ痛いから勘弁してっぇ!!」

「話すっぅ、何でも話すっぅう!! ちょー、あっぁああ!! ヘソクリはタンスの裏に隠したっぁ!!」


 審判員の全員が叫び声を上げる阿鼻叫喚の地獄絵図。そんな構図になるとはアルーゾは想像もしていなかった。普通に考えてマッサージは筋肉を解し疲れをとる……が、目的のハズ。


「やれやれ、まったくわかってないって顔だ。アルーゾ、お前がやっていたのは表面的マッサージだ」

「なんだと……」


 ラーズが男たちの足裏のツボを容赦なくギューギューと押している。足に手を伸ばそうとして、体がそんなに柔らかくないおっさんたちはもがき苦しむだけである。タップするが格闘技じゃないのでギブは無い。

 『どう考えても僕の勝ちだろう?』とアルーゾが思う……疑問形で……。あんなに苦しがっていて負ける要素は無いハズなのだが、平然とその行為を続けているラーズの様子が気になる。まるで熟練の拷問官のようだ。いや、熟練の拷問官なのか?

 足の裏だけを終えると、ラーズは一息つく。悶絶打つおっさんたち。なんだこの構図?


「さて、背中もあるが、状況だけ説明しておこう」

「状況……だと?」

「これだけでも俺は十分だと思っている」

「そんな!?」

「アルーゾが行ったマッサージは、俺がやった足の裏ほどにも満たない」

「バカにするな!」


 しかし、ファイレ達は納得できる話だ。あの苦痛の後に来る解放感を思い出すだけで、三人ともうわの空で涎を垂らしている。そんな状況を見ている者はいないが……。


「なら、このまま勝負でも構わないということですね!」


 肩を張り若干 怒気をはらみながらラーズを睨み付ける。その視線を正面から受け止めラーズは頷く。


「それでも構わない」


 何たる余裕。屈辱的である。まだ、足の裏でしかも苦痛を与えただけで勝った気でいるこの男。本来なら正々堂々と最後までやらせて勝敗を決めたいと思っていたが、そこまで言うのならこの場で敗北を味を教えてやろうと宣言する。


「では、審判員の方々。どちらが気持ち良かったか判断してもらいます。僕の方が良かったと思う人は右の席に、彼の方が良かったと思う方は左の席に!」


 この場を取り仕切るように指示を出す。

 当然のざわめきをきき、アルーゾはニヤリと笑う。

 『あんなに痛いのがいいわけがない』『あれがいいなんてマゾか』『地獄の苦しみだろっ』等々。

 ゾロゾロとアルーゾの席に座っていく。

 圧勝。

 ……かと思われたが、一人が首を捻る。それに気が付くアルーゾ。そして、一度座ったはずの席から立ち上がり、今度は左の席へと移動する。


「な……?」


 他の酒場の客もその行動に"?"が浮かぶ。『マゾか催眠術か?』などという言葉が酒場内に広がる。だが、その一人だけではなかった。

 初めはアルーゾの席に着いたはずの審判員たちが次から次に立ち上がり、左のラーズの席に移動し始めた。

 唖然と口を開け体が石化したかのように動けないアルーゾ。横目でラーズを見ると、当然のように腕組みをして椅子に腰かけている。それに、スイロウをはじめとする三人もニヤニヤとしている。こうなることを理解していたのだ。

 結局、10人が10人ともラーズ側の席に着いた。


「バカな! バカな! バカな! バカな! バカな! ありえん! 何故だ何故だ何故だ! 賄賂?! 金を積んだんですか! それとも仕込みを用意したんですか! あんなに痛がっていたんですよ!」

「お前は筋肉を解す意味を分かっていない」

「そんなものあるはずがない! 絶対に何か仕掛けが……」

「そういうと思った。そのためにファイレがお前を審判員の一人に選んだんだ」

「! そうだ! まだ僕が残っています! 僕が納得しなければこんなものは無効です!」

「いや、駄目だな」

「くっ、初めからこうなることがわかっていて、僕を選ぶことで安心させるつもりだったわけですね?」

「違うな。お前が納得しなかったら無効ではなく、俺の負け(・ ・ ・ ・)だ」

「な……に……!?」


 なんたる自信! 腹立たしい!

 こうなれば嘘をついてしまえばいいと考える。それだけで一泡吹かせられる。たしかにアルーゾにもプライドがある。だが、ここまで無茶苦茶な話を多少の納得で収められるはずもない。


「おっさんたちと同じく足の裏だけでいいだろう」

「くっくっく、いいのですか。全身隈なくやった方がいいんじゃないですか? それで納得するとも思えないが……がっ……がっ……ぁあっぁがああっぁ、忘れてたっぁあぁ、痛いんだったっぁ、ちょーーーえーーーマジでぇえっぇ、こんなにっぃいぃ、いたがっぁありいぃあ」


 初めは調べるように足をぺたぺた触っていた為に油断していた。親指で土踏まずをぐりーーっと押された。まるで親の仇のように……! 今までに感じたことのないような痛みが脳天まで直撃する。


「んごごんあがあっぁぎぁ……たんま、ちょっとたんまっぁあ、ごめん、謝る、あやまるからっぁあああ」


 足に手を伸ばそうとしても、苦痛と身体の硬さで手が届かない。そのことをよく理解していて容赦のない連続攻撃。いろいろな痛みが全身を襲う。

 そんな状況なのにラーズは丁寧に説明していく。


「なぜ痛いか? そもそも筋肉が硬化していなければ足の裏は押されても痛くない。毎日、地に足をつけているのだから。ようするに硬化が凝りという原因の一つになる。そしてそのまま押すと神経に圧力がかかり痛みに繋がるわけだ。この筋肉が軟化すれば圧力は分散され痛みが和らぐ。

 だからといって、硬いところを押せばいいというモノではない。筋肉は細い糸の集合体だと思った方がいい。かならず付け根がある。その場所は硬いが凝りとは違う。凝る場所はあくまでも筋肉の束が重なり合っているところなのだ……」


 延々と解説が続いているが、苦痛で息の続かないアルーゾの耳には届いていない。苦痛に筋肉の緊張が緩みヨダレが流れそうになる。

 云々かんぬんとラーズが御託をならべて、それが終わるのとほぼ同時にアルーゾも解放される。

 おっさんたちがもがき苦しんでいたのを内心『この程度のことで』と見下していたのだが、とても他人を笑える状況にはなかった。

 そこにファイレがやってくる。


「さて、決めてもらいましょうか。貴方がどちらの席に座るか?」

「こんなに痛めつけられて、気持ちいいはずがない! 当然、自分の席に座る。僕の勝ちです」

「じゃぁ、席に着いてください。席に着くまでが勝負です」


 『~遠足です』みたいに言い放たれる。少し馬鹿にされた気分になりながらも自分の勝利を確信するアルーゾ。

 自分の席まで歩いていき着席する。これで勝った……はずなのに何とも言えない違和感がある。歩いて座るまでの動作が清々しい? いや、もっと根本的な何か……その何かが掴めず立ち上がってしまう。

 酒場の中がざわめいているが、アルーゾの耳には入らない。

 何度も確認するように立ったり座ったりする。そして、頭を抑え天を仰ぎ見るように笑い出す。


「く……くっくっくっく……くはっはっはっは!! なんだ、これはぁ!! これがマッサージだと!? なんなんだ、僕がやっていたことは!? まるで媚び諂いじゃないか……その場凌ぎもいいところだ。僕がやっていたことはお遊びにすぎなかったのか……」


 審判員は納得しているが、酒場のほとんどの人はポカーンと口を開いてアルーゾが壊れたかのように笑った後、膝から崩れ落ちていく様を見ていた。


「君の勝ちです……はじめから、僕が勝てる要素なんてなかったわけですか。ファイレ君だっけ、君の妹の? わかっていたんですね、この結果が」


 うなだれたまま立ち上がろうとはしない。それに対しファイレもスイロウも何も言わない。もちろんガイアルも……むしろ、ガイアルが何か言ったら驚く。


「完全な敗北です。大人しく引き下がりましょう」

「ちょーーーーっと、待った!! 儂が納得せん! なんじゃそりゃ! マゾか! おぬしはマゾなのか! みんな納得できるか!?」

「おぉー!」

「これは謎のマッサージとかいうモノを体験するべきではないかぁ!」

「おぉー!!」


 言わずもがなウィローズである。十分なバカである。相手の状況や雰囲気など、空気を読む気ゼロである。しかも、かなりの人数の酒場の客がいるというのにラーズにマッサージをさせようというのである。


「まずは日ごろお世話になっている酒場のマスターからが良いと思うぞ」

「おぉー!」


 どうやら、客だけではないようだ。『従業員も!? えーマジで! やめようよ!』と言える雰囲気ではない。ラーズは空気を読める子なので……。

 だが、念のため助けてくれるかもしれないファイレ、スイロウ、ガイアルを見る。


「……」

「……」

「……」


 三人そろって首を振る。逃げられないらしい。誰の仕業だ! まぁウィローズの仕業なんですが……。

 それから、足裏だけのマッサージだけが延々と続いた。途中で『僕は二人を送っていこう』と調子のいいことを言ってスイロウとガイアルを連れて脱出するアルーゾ。ファイレは途中で夕食をとりながらラーズを待っている。なんか知らんけど無料らしい。……いや、わかる。ラーズのマッサージ代がファイレの無料分だろう。ウィローズは『真打だから最期じゃ』と訳の分からないことを言っていたので当分 出番はない。

 結局のところ酒場の閉店時間まで足裏だけのマッサージは続いた。途中で、全く終わる気配がなく『おかしいなぁ~』と気づいたのだが、どうやら後から入ってきた客も面白半分でマッサージを受けていっていた。

 ウィローズ出番なし。

 帰りはアルーゾの所の執事さんが馬車を用意して待っていてくれた。意外と親切だが、ファイレ曰く『完全敗北を感じたからじゃない?』ということ。

 マッサージに完全敗北も何もあったもんじゃないと思ったがラーズは喋る気力が無かった。むしろ、誰かにマッサージしてもらいたい。アルーゾのような表面的なモノだけでも……と。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 次の日は昼過ぎに起きた。ラーズを起こしに来るものは誰もいなかった。

 いい加減、慣れてきた廊下に出ると、反対側の扉もちょうど開いた。中から出てきたのはウィローズ。


「なんじゃ、おぬし。今頃起きたのか?」


 と、言うウィローズがパジャマで寝ぼけ眼だ。こいつも今起きたことは聞かずともわかる。『着替えてから廊下に出ろよ』と思うが、絡むと面倒なので言葉を押し殺す。もちろん、ラーズは着替えている。

 昼食には間に合うかと思い、記憶が正しければダイニングキッチンの扉を開ける。

 記憶が正しくなかったらしい。

 閉める。

 もう一度開ける。確認する。

 閉める。


「おぬしは何をしておるのじゃ?」


 後からついてきたウィローズが呆れた顔でラーズを見上げる。おかしくなったのかと尋ねられるが……。


「ここがダイニングキッチンならおかしくなったのかもしれん」


 廊下を見渡しながら『ここでいいはずだよな』とウィローズに尋ねる。

 『あたりまえじゃろ!』とラーズを小馬鹿にし扉を開けて入ろうとしてウィローズが固まる。……扉を閉める。周りを確認する。


「なん……じゃ?」


 そーっと開け、ウィローズとラーズが中を確認する。向こうでこちらの扉を見ているファイレとスイロウ、ガイアル。若干、さびしそうに、戸惑ったように引きつった顔で笑っている。

 中は昨日までは木造だったはずだが、大理石に! 柱もキッチンも机も! そしてメイドが四人。下座の一席でアルーゾが話をしていたようだ。

 バタンッと閉める。


「何が起こっておる!?」

「一日で模様替えしたのか、あのお坊ちゃんは!」

「落ち着け、半日で、いや、四分の一日で模様替えじゃ。いくら金を注ぎ込んでおるのじゃ! しかも他人の家に! バカか! バカなのかアイツは!?」

「まぁ、バカなんだろうな。それはいいけど、なんでメイド四人も引きつれてここに居るんだ? だってアイツはマッサージ勝負で負けて、スイロウ達との冒険は諦めたんじゃないのか?」

「ど、どうする? 入るか?」

「碌な話しなそうだが、いつまでもココにいるわけにもいかないし……」


 ラーズとウィローズは二人でしゃがんで相談した結果、なぜアルーゾがいるか気になる……が、無視して酒場で昼食にしようということになった。


「難しい話はスイロウ達に任せよう」

「そうじゃな。まずは食事に行こう!」

真打は落語用語だった気がしますが気にしないでください

日本のことわざとか使いますがその辺も・・・

なんか この世界の言い回しとかにしたら面倒だろうしね

考えるのが・・・

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