16話 剣とお酒とマッサージ
アルーゾの予想通りの展開だった。
最初の一撃に全てをかける以外、この男に勝ち目はないだろうと。そしてその一撃は最速である"突き"になる。わかっていれば回避は容易。気になったのは初めに地均しと見せかけ小石を飛ばしたこと。そして、その小石に目を向けたことで、確信に変わる。
「何を仕掛けた?」
ちらりと、様子を見るが、別段変わった雰囲気はない。魔法は使えないと思っていたが、それ以外の仕掛けを疑うが反応は全くない。剣先に視線を戻す。その間、1秒にも満たなかっただろう。だが……。
「!?」
先ほどまで喉元を狙っていた剣先が消えている。慌てて回避行動に移る。
ラーズがとった技は"視線誘導"。単純だが効果的なフェイント。相手にわずかな時間、剣先の視線を反らせるだけで、その間に移動させ次の瞬間には元の場所にはない。警戒していても意外と引っかかる技だ。ましてや油断していれば効果は絶大。初めの小石を蹴飛ばすことにより、意識が散漫になったことも加わる。
回避行動だけでは間に合わないと悟り、ガムシャラに近い状態で剣を振るい見失った剣先に当たることを祈る。そんなことは奇跡に近い確率だ。ハッキリ言えば負けたとアルーゾは思った。だが『カキーン!!』と甲高い音が響き渡る。
「くっ!」
その奇跡に近い確率を引き当てた。見えない剣先に触れることができラーズの攻撃を防いだのだ。これでほぼ、ラーズの勝ちは無くなったといえるが、立て続けに剣を振るいあげる。まだ負けたわけではない。しかし、剣を完全に捕え鍔迫り合いにアルーゾが持ち込みラーズを弾き飛ばす。
「見事な一撃でした! 感心しましたよ」
「そりゃどーも!」
だが、それからはいいところが無かった。剣と魔法の両方を駆使されたら、手の打ちようがない。接近戦ではもとより、距離をとっても魔法で休ませてもらえない。ときたま見せる"視線誘導"はそこそこ活躍したが、すでに警戒されているため効果は薄かった。
数十分、戦ったがラーズの剣は弾き飛ばされ首元に刃が付きつけられてしまった。
「僕の勝ちのようですね」
「あぁ、俺の負けだ」
負けを認める。
勝てる要素はあった。ラーズは素直にそう思う。ただぞれを上手く使いきれなかったのだと。本来なら初めの一撃で仕留めることが最重要だが、二の太刀、三の太刀も計算に入れておくべきだった。
「すまない、スイロウ」
戻ってくると、彼女の為に闘っていたことを思い出し頭を下げる。だが、気にした様子もなく微笑んでいる。
「気にするな。まだ終わったわけじゃない」
「?」
「忘れたの、お兄ちゃん? マッサージ対決が残ってるのよ」
「しかし、マッサージ対決など、あまり意味がないだろう?」
「その通りですよ。それより次の対決前にお茶にしましょう。僕の部屋にご案内いたします」
アルーゾは執事に剣を渡しながら提案してくる。闘ったばかりなので休憩時間が欲しいラーズ達はその提案に乗っかることにする。
次の対戦は酒場でのマッサージ対決なのだが、それまでにファイレがルールを追加したいと申し出る。
「お断りします。追加されたルールなど認めると思いますか?」
「思いますんですわね~、これが! まずはどんなルールか聞いた方がいいんじゃない?」
「どんなルールであってもあなた方が有利になることしかないでしょう。要するに抜け道が用意されているはずですからね」
「うーん。11人の審査員を決めなきゃダメじゃない?」
「それをアナタたちが決めたいと? または11人中6人はそちらが決めるとかですかね」
「てっとり早くいうと逆」
「逆?」
「10人はアルーゾが決めれ。一人だけこっちで決める、というルールにしたいんだけど? ただし互いに誰を選んでも構わない」
「……。それは酒場にいる人間でなくてもいいということですか?」
「もちろん」
「……。たとえば『王様を呼ぶ』とか言い出して、ノーカウント試合にしようというたくらみですか? 呼び出せないのでは対決になりませんからね」
「疑り深いなぁ。じゃぁ呼び出せなかったら違う人にしなきゃいけないってことで」
「何を企んでいるんですか?」
「公平に判定できる人を用意しようかと思ってね~」
「……」
口には出さなかったが、アルーゾは公平に判定できる人間など存在しないとわかっていた。かならずどちらかに贔屓しないわけがない。知り合いでなくても、権力や金を持っていれば必ずなびく。愚かだと思った。
お茶会は軽食も含まれていた。剣での対戦自体は短かったが、開始時間も遅かったのでどうしても昼を回ってしまっていたのである。それから、酒場に向かうことになる。
当然、アルーゾは一週間前から酒場に通っていた。知り合いも増えた。ただ、賄賂を渡すのは躊躇われた。『どんな手を使っても』と思っていたがそこまで卑怯な手を使う気にはなれなかった。それに酒場の話では意外にもスイロウ達がそれほど有名ではなかった。
彼らの優位は知人による判定だと思っていたのに……。
タカラッタカラッタカラッ……と箱馬車で城下町の酒場までくる。アルーゾが知り合いを増やした酒場であり、スイロウ達が良くいく酒場だ。何かしらのクレームをつけてくるかと思ったが、スイロウをはじめガイアル、ファイレは優雅に落ち着きのある態度だ。若干、勝負の本人であるラーズが落ち着かないくらいで……。
「勝負はこの酒場でよろしいですか?」
「私達はどこでもいいわよ。ねぇ、スイロウ」
「あぁ、問題ない。……がファイレ、一人だけこちらで選ぶのは誰なんだ?」
「ひみつ~」
どうやらファイレの単独犯らしい。一体誰を選ぶのかと思ったら、中から騒ぎ声が聞こえる。昼間から大騒ぎする客が来ているようだ。
高級な酒場ではありえない光景にアルーゾは少しだけゲンナリしながら入っていく。
なかでは、緑髪の子供が机の上でグラスを片手に、もう片手に酒瓶を……そして大声で歌っていた。それに合わせて周りに人が集まり、手拍子と合いの手を入れている。
「何の祭りだ……」
今度、ゲンナリするのはラーズだった。想像通り大声で歌っているのはウィローズである。家で寝てるのかと思ったらお昼にこんなところで食事をとっていたらしい。
「よう、ご一行! 儂の歌を聞きに来たか!」
「昼間から上機嫌だな」
「なんじゃ、朝から不景気な顔をしおって……おぉ、そちらはお坊ちゃんじゃな! まぁ飲め飲め。儂がおごってやろう!」
アルーゾを見ても対戦結果を聞いてこない。ホントにどうでもいいのだろう。それどころか酒を進めている。
「いえ、僕は結構です。それより、対戦をしたいので審査員を募りたいのですが、よろしいですか、お嬢さん?」
アルーゾはウィローズを知らないらしい。ウィローズの説明だと彼女は領主だか貴族だった気がするのだが、アルーゾと面識がないことがあるのだろうかと首を捻る。
「いいぞ! 許可する! 好きに選べ! いや、審査員やりたい奴おるか! やったモノには儂が酒をおごるぞぉ!」
『おぉー!!』という声が登る。『バカか? バカなのか?』という疑問は放っておいて話はトントン拍子で進んでいく。
本来ならアルーゾが選びたい所だっただろうが、そんな雰囲気ではなくなってきている。酒場にいる全員が手を上げる。『10人までに絞って欲しい』という要望に『よーし、ジャンケンで決めるぞ!』とウィローズが叫ぶと大盛り上がりの酒場内。
「みんな、酒が飲みたいかぁ!!」
「おぉー!」
「最後まで儂にジャンケンで勝った10名は飲み放題じゃ!」
「おぉー!!」
もう本来のマッサージ対決まで辿り着けない。延々とジャンケンをやっている。
暇なのでラーズ、ファイレ、スイロウ、ガイアル、アルーゾは円卓に座り飲み物を注文する。アルーゾの後ろには執事が控えている。ジャンケンで『誰が勝つかね~?』などと眺めている。
「いやいや、僕はこんなことをやっている時間は無いんだよ」
「落ち着け。あっちが終わるまでファイレにもう一人の審判員を聞いておこうじゃないか?」
「……」
「確かに、あと一人は誰ですか? ここまできているなら問題はないでしょう? まさか、あのテーブルの上で仕切っているお嬢さんじゃ!?」
「ちゃう、ちゃう! あんな酔っ払い何の役に立つのよ! てーか彼女、私たちの知り合いだから公平じゃないでしょ?」
そこでアルーゾは立ち上がる。これは仕組まれた審判員じゃないかと……。
「落ち着いて、座りなさいよ。私たちも彼女がここに居るとは思わなかったんだから。それより、その審判員を決めればある程度納得できると思うから」
「先程から思わせぶりがいい加減、鼻についてきているところです」
「はいはい、わるーございました。私たちが選ぶ審判員はアルーゾ・アルーノ。伯爵の息子よ」
「……なに?」
「なるほど、確かにアルーゾ殿自身に判断してもらうのはいいかもしれないな」
「それは僕が嘘を吐いたのなら、僕の票でいいのですか……というか僕は僕自身をマッサージできないのだが」
急展開についていけないアルーゾ。まさか自分が審判員に選ばれるとは露程にも思っていなかったため混乱している。
「アンタがお兄ちゃんと五分の気持ち良さだと思ったら自分にいれればいいわ。いや、少しでも迷いがあるなら自分に入れて構わない……ってことよ!」
「じょ、冗談じゃない! 僕がそんな卑怯な真似できるわけがない! だが、どちらかといえば僕は僕自身を選びますよ。そもそもマッサージなんて……」
「"誰がやっても同じ"そういう固定観念を持っているうちはラーズに敵わないだろう。そのためにアルーゾ殿 自身がラーズのマッサージを受けるというのは間違いなく良い方法だ!」
納得がいかない。
たかだかマッサージなどという民間療法ごときに差などでようはずもない。アルーゾ自身もメイドや執事たちを使い色々と実験をした。多少の上手い下手があることは納得できる。だが、その差は微々たるものだ。彼自身が納得できる差が生まれるはずが無かった。
「ジャンケン勝者が決まったぞ!! サー飲み放題だ!」
「いやいや、飲み放題の前に審判員をしてもらわないとだめだから」
「あー、そうだった。忘れておったわ。飲み放題のジャンケンかと思っておった」
アイツはもう駄目だとファイレがため息をついている。
それはともかく、これでマッサージ対決が出来ることになった。しかも、選ばれたのはアルーゾと酒場でよく話す連中だった。多少の有利を感じるアルーゾだが、明らかに焦りを感じていた。
さっさと並ばされる審判員たち。全員男。女性はマッサージを避けたようだ。
「僕が先にやってもいいかな?」
「なんで?」
「君たちが一つルールを付け足したわけですよね。それなら、僕が一つルールを付け足してもいいハズ」
「うん? まぁいいけど?」
ファイレは意味が分からないと言わんばかりに首を捻る。ラーズは何も言わなかったが、アルーゾの作戦をよく理解していたし、関心もした。
一人一人に丁寧に筋肉をほぐしていくアルーゾ。その姿を見ながらラーズの唇が吊り上る。
「感心する」
「え? なにが?」
「彼はマッサージを理解しようとしている」
「?」
ラーズ以外の三人は頭に"?"が浮かぶ。
「まずは先手を取ったことだ」
「それがどうしたというのだ?」
「マッサージは最初にやった方が有利。なにせ筋肉が揉み解されれば、それ以降 疲れるまでマッサージの必要はない」
「ホントだ!!」
「次に筋肉の多い脹脛、太もも、二の腕などを中心にやっている。簡単でいながら、且つ効果が目に見えて分かりやすい」
「言われてみれば、自分で揉み解すときは筋肉の多いところを揉む気がするな」
「それじゃぁお兄ちゃん不利になってる!?」
「いやぁー見事だよ」
相手を称賛するラーズの顔は晴れやかである。むしろ三人の顔の方が焦りがある。ラーズが褒めるほどの腕。たしかにマッサージを受けているおっさんたちは気持ちよさそうだった。
マッサージの勝敗にあまり頓着無さそうなラーズの態度から『筋肉が揉み解されたなら負けても仕方ないか』というオーラが放たれている。
「大丈夫!? お兄ちゃん勝てる?」
「うーん、そもそもマッサージって勝ち負けじゃないんだ」
「いやいや、普段は知らんが今回は勝ち負けだから! 勝たないとお前がパーティーから外れることになるんだぞ!」
「そういっても、元からこんな勝負自体がおかしい」
正論だが、それどころではないご一行。
どさくさに紛れてウィローズもマッサージされている。『うぃ~、極楽、極楽』とか訳の分からないことをほざいている。こちらは頭を抱えているのに……。
一通りアルーゾのマッサージが終わる。
「僕はこれで終わりです。さて、そちらのマッサージ技術を見せてもらいましょうか?」
余裕がある。
先手を取ったことでこちらの陣営が『不味い状況』を理解したことに内心ほくそ笑む。
だが、それでもラーズは落ち着いて、腕まくりをする。
「一週間でマッサージの基礎を理解しようとしたことは称賛に値するよ、本当に。でも、理解しようとしただけだ。本物のマッサージを見せてやろう、アルーゾ・アルーノ!」
ゆっくりと審判員たちに近づくラーズ。その言葉と後ろ姿をファイレ達は頼もしく思えた。
たかだか、マッサージなんだけどね。
よし これから 開き直った文章でやっていきます!
なんか 日本語とか面倒臭くなった!
適当にフインキでいきます




