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12話 目覚めの一撃

 鳴り響く爆音。


 朝っぱらから、派手な攻撃魔法でウィローズを起こしているのかと思った。ファイレが師匠を起こすときは良く使っていた。それじゃなきゃ起きない師匠も師匠だが……。

 だが、今回は意味合いがだいぶ違う。


「ラーズ!?」

「わかった!」


 そういうと部屋から飛び出した。何が起こっているのか気になる。

 本当にファイレがウィローズを起こすためだけに爆発系の魔法を使ったならいいが……いいのか?……もしかしたら事故や事件の可能性もある。

 自宅や師匠の家ではない。そんなところで呪文をぶっ放すとは考えづらい。ただ、ファイレは空気を読まない娘だ。どちらか判断できない。


 当たり前だが、スイロウもガイアルも一緒についてくる。

 廊下に出た途端、一か所の扉の隙間から灰色の煙が漏れ出している。あの扉がウィローズの部屋で間違いあるまい。すぐに駆け寄り取っ手に手をかける。


「熱っ!!」


 強烈な熱を帯びていたため咄嗟に引いてしまうが、次の瞬間、スイロウが扉を切り刻んでいた。

 いつの間に剣を持ってきていたのか気付かなかった。

 いろんな方向に切られた扉は、パラパラと崩れ落ちていく。そして強烈な光が差し込んでくる。


「……」


 奥の壁が半分吹き飛んでいた。

 手前側に背中を向けファイレと腕組みしているウィローズが立っている。彼女たちの視線の先には逆光で見えずらいが、数人の人間……いや、人間と思しき者が対峙している。


「なにがあった!?」

「小僧はバカか? 見ての通り襲撃者だ。何者かは知らんがな。朝っぱらからド派手な登場じゃ。こんな朝早くから儂を起こしたんだ。死ぬ前に目的ぐらい話したらどうだ?」

「そこまで朝早くないけどね。目的は気になるわ~」


 だが、彼らは一言も発することなく襲い掛かってきた。

 ラーズはそこでようやく、武器を何一つ持ってきてないことに気がつく。手近にあった金属製の帽子掛けを手に取った。

 上から下に垂直に振り下ろされる剣を紙一重で受け止めることが出来た。これが木製だったら真っ二つにされていたかもしれない。一撃目で帽子掛けの中央はへの字に曲がってしまっている。

 なんとか押し返して……いや、相手が飛び退いた。


 改めて周りを確認しようとする。

 スイロウとガイアルは武器を持ってきている。無いのはラーズとファイレ、ウィローズだ。が、ウィローズは素手で闘う術を持っているらしく斧を持った男を蹴り飛ばしている。

 ……。


「獣人?」

「お兄ちゃん、考えるのは後だよ!」


 後から聞こえるファイレの言葉に我を取り戻し、目の前の敵の攻撃を受け流す。使い慣れない道具で反撃は難しく防御に徹する。もとより、防御中心がラーズのスタイルである。

 本来ならラーズが守っている間にファイレが攻撃を加えるのだが、杖を持ち合わせていない。

 スイロウとガイアルに目を向けようとすると、敵らしき声が撤退を告げる。


「くっ、だめだ! 撤退しろ!」


 獣が瓦礫の上をピョンピョン跳ねるように逃げ出そうとする。スイロウとガイアルを見るとすでに武器を閉まっている。ウィローズも腕を組んで追いかける気はないようだ。

 『このまま逃がしても良いモノだろうか?』と、悩んだところでラーズの力だけでは追いかけるのは無理。ファイレは杖が無いし……。


「逃がすかぁ!! 杖が無くたって呪文が唱えられないわけじゃない!」


 詠唱を始めるが撤退に入っている彼らの行動は早い。

 彼らの姿がおぼろげになる瞬間、呪文完成。魔法の矢が飛んでいくが、姿が消える。魔法の矢は追ってか 追わなずか、フラフラと飛んで行ってしまう。どうなったかわからない。

 悔しそうにファイレは地団駄を踏む。


「みんななんで追わないのよ!」

「……」


 ガイアルは襲撃者が逃げて行った方を見つめたまま口を開かない。

 スイロウは視線を逸らしている。


「わかりやすい小娘たちだ。狙われることに思い当たる節があるんだろ」

「そんなことはわかってるわよ! そんなのどーでもいいの! お兄ちゃんが危ない目に遭ったのが許せないのよ! そもそも明日、なんとかとかいう伯爵のバカ息子と闘うのよ! 何かあったらどうするの!? 今からぶっ潰しに行きましょう!」

「目的は知っているが、居場所は知らんぞ?」

「……」


 ガイアルは視線の先を変えることなくスイロウの言葉に同調する。どうやら二人とも獣人たちの目的は理解しているようだ。


「そうなると、狙いは儂や小僧たちではないということか。じゃぁ朝食にするか」

「するわけないでしょ!? 事件よ事件!! まずは衛兵だか自衛団だかに連絡をしないと! それから……」

「そのつもりはない」

「だろうなぁ」


 連絡をさせるつもりのないスイロウの言葉にラーズがゲンナリする。どうやら厄介ごとの宝庫らしい。アルーゾに仮面の一団、今回の獣人の襲撃、さらに偉い人っぽい……っと。

 ガイアルの関係ではないんだろうか……とも考えるが、雰囲気からすれば違うのだろう。


「諦めるしかない……か」

「こっちから潰しに行くのはダメなの? もちろん衛兵とかには連絡しないで……」


 ファイレも気を使っているのだろう。提案を出してさっさと今回の件を片付けたいらしい。


「相手が獣人だからな」

「だから……何? こんなに家をぶっ壊されて大人しくしてろと? だいたいお兄ちゃんが殺されそうになったのに黙ってろと……」


 ラーズは周りを見る。

 よくよく考えたら、殺されそうになったのはラーズだけだった。少し情けない気分になる。杖の無いファイレですら反撃していたのに自分の身を守ることで精いっぱいだった。


「私は獣人と争うつもりはない。彼らは今まで虐げられてきたんだ。多少の……」

「『多少の出来事には目をつぶる』? 私とお兄ちゃんの考えとはまるで反対ね」

「そうだな。普通の人間でもドワーフでもエルフでも獣人でも悪いモノは悪い。罪を行えば償う必要はある。今まで差別されていたからといって、罪を差別するわけにはいかない」

「罪を差別?」

「ようは獣人だろうと なかろうと、良いことは良いし悪いことは悪い」

「……」


 ガイアルの無表情の眼がラーズを捕える。その瞳に何が移っているのかわからないが興味を持ったようにも見える。

 ウィローズはすでに今の現状に興味を失い、扉の無い出入り口から出る。


「やはり、まずは朝食だ。朝食を食べながら議論すればよかろう。どのみち儂はそんなことに手を貸すつもりはない。儂が頼まれているのは小僧に明日勝てる技を身に着けさせることだけだからな」

「でも、今回の事件が片付かないと訓練も出来ないんじゃない?」

「授業に出ない生徒にまで教える義務はないんでな。教えて欲しかったら、お前から来い」


 ウィローズの横に並んでファイレは協力できないか説得を試みるが無理そうだ。

 部屋を片付けるにしても後でいいだろうと、その後に三人も続いて廊下へと出た。

 どうやら大変な一日になりそうだ。少なくとも明日は大変な一日になるというのに……。


 結局のところ、獣人は野放しにすることになった。正確に言えば保留。もう一度来るようなら倒すという方向性だ。

 理由の一つにはラーズが明日、アルーゾとの対決があり、今日中に訓練しておきたいという所。それに部屋の修理も頼まなければならない。言い換えれば、追いかけている暇が無かっただけとも……言えなくもない。


―――――――――――――――――――――――――――


 真っ暗い一室。日の当たらない部屋に五人の人影があった。いや、人影というのは適当ではない。頭部は動物のそれである。

 フクロウ、ウサギ、犬、ヒョウに猿……いわゆる獣人たちだ。そう、さきほどスイロウ達を襲った者たちだった。

 その一室でも夜目が効くため、手さぐりで席を探す必要もなく円卓を囲む。


スイロウ(・ ・ ・ ・)様の解放(・ ・ ・ ・)は失敗したか」

「仕方ないですよぉ。二人だと思ったら五人もいたんじゃぁどうしようもないですよぉ」

「まったくだ。スイロウ様とガイアルだけでも我々には荷が重いというのに……」

「新たに増えた奴らも、それなりの手練れだからのぉ」

「成功すればこの国をひっくり返すに足るちからがあるんだけどな」


 頭を抱える獣人たち。

 彼らはスイロウを なにか(・ ・ ・)から開放することを目的としているようだった。


「それにしても、新しく入ったやつらも油断ならん奴らだ」

「まったくだよぉ。知らない間にプロテクトの魔法がかかっててナイフの攻撃が無効化されてたよぉ。あれは一流の魔術師かなぁ?」

「俺の方はガキかと思ったら、怪力の持ち主だった。斧を振り下ろそうとしたら手首を掴まれ身動きが全く取れなくなった。奴も獣人の可能性があるんじゃないか?」

「ない! 見た目人間で獣人の力だけを使用する方法は無いからな。よく考えろ」

「そーすると、あのガキもガイアルと同じでドワーフか? そんな風には見えなかったぞ」

「それより、魔術師だよぉ。私たちが逃げ切れなかったんだからぁ」


 獣人たちは全員、手傷を負っている。最後にファイレが放った魔法の矢は、大事には至らなかったが確実に全員に的中していた。

 また、邪魔者が増えたとため息しか出ない。

 ただ、ラーズはこの時点では話題に上らなかった。

獣人は人間形態、獣人形態、完全獣形態になれます。

人間形態は普通の人間と変わりません

獣人形態は全体的に獣の能力が使えるうえ 動物の能力も有します

獣形態は四つん這いなど、獣特有の能力です

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