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11話 あと1日の朝

 結局、ウィローズもガイアルの鍛冶屋 兼 家に泊まることになった。

 今まで、どこで、どのような生活をしていたのか不明である。


 明日が試合の日の為のせいか、ラーズはあまり眠れず朝早くに目が覚める。

 慎重に部屋を確認しながらダイニングキッチンへと向かっていく。広いため迷子になりやすい。そもそも扉や部屋の作りが一緒で、無理して2つの部屋を繋げたのがダイニングキッチンの為、区別がつきづらいのだ。

 そうはいっても一週間もいれば慣れるモノである。一度間違えたが思ったよりもすんなりと目的地に着いた。

 まだ、お城からは7時に鳴る鐘の音はしない。窓から差し込む日の光もわずかだ。だがダイニングキッチンには人がいた。


「おはよう、ガイアル」

「……おはよう」


 一言挨拶を交わすだけだ。彼女とは会話が続かない。話しかければ頷きはするがほとんど言葉を発することが無い。会話が得意じゃない人間に話しかけるのは良くないと思いあまり話しかけることも無い。

 彼女は朝食の準備をしているようでキッチンに入ったまま何かをしている。

 ラーズは手伝うことはしない。すでに一度 断られている。理由は延べられなかったが首を横に振られた。たしかに慣れた場所に他人が入って来るのは邪魔になるのだろう。粘ることも無くすぐに手伝うのを諦めた。

今は、彼女に挨拶したら席に着くだけだ。


 普段なら、ファイレもスイロウもラーズより早く起きている。ラーズは朝に弱い。低血圧が朝に弱いという話を聞いたことがあるが本当なのだろうかと思いつつ、机に頬杖をつく。

 ガイアルの後姿だけが見える。一見すれば10代前半にしか見えないが、筋肉の付き方や身のこなし風格などが それと違うことを物語っていた。


 ラーズ自身はそれほど多くのドワーフとかかわったことはない。村には片手で数えられるほどしかいなかった。それでも『伝説の村』と言われるのは素材によるところが大きかったのだろうと推測される。

 もし、あの村に数多くのドワーフがいて鍛冶の腕を競い合っていたら……竜骨刀のことを思いだす。

 もちろん あの状態でも素晴らしい逸品であるが、さらに光るものを放っていただろう。


 物思いに(ふけ)っていると、目の前にコトリッと暖かそうなコンソメスープの入った陶器マグカップが置かれる。

 横を向くとガイアルと目が合う。……が、それは一瞬の出来事だった。特に語ることも無い。


 マグカップをとると とても熱く今朝が少し肌寒いことを思いだす。

 やはり明日の試合のことで緊張しているのだと実感できる。それまで寒さ自体を忘れていたのだ。

 自分は緊張しないのかと思っていたが、それは村の中だけの知り合いの中にいたからだということを思い知らされる。ましてや、他人の運命の肩代わり……それは言い過ぎだと思うが、少なからず関係しているのだろうと思わずにはいられない。


 身体の底から温まるスープを飲んでいると、ガイアルが正面に座った。彼女と二人きりになることは珍しい。

 ツマラナそうに頬杖を突き、スープを飲んでいるラーズをじーっと見ている。

 なんとなく、気まずい。


「ぇーっと……」

「……」

「美味しいスープだ。ありがとう」

「……」


 反応は無い。まるで人形に話しかけているような気分になる。それからしばらくしてガイアルが小首を傾げる……が、すぐにゼンマイが止まったかの様に動かなくなる。

 それ以上話が続かない。『スイロウのことを聞いてみるか?』と思わなくもないが、『他人のことを聞くのは失礼か?』と思い直す。だが、秘密に関さないことならいいのではないだろうか? たとえば普段の生活とか好きなモノとか……いや、それなら……。

 スープをまた一口喉に流し込んでからラーズは口を開いた。


「ガイアルのことを教えてくれないか? もちろん秘密とかじゃなくって、好きな食べ物とか、普段何しているとか、趣味とか?」

「……」


 再び無表情のまま首を傾げる。『何を言っているのだろう』『意味があるのだろうか?』と言ったような感じがする。


「仲間なら互いのことを少しでも理解しておいた方がいいだろう?」

「……」

「うーん、信頼と理解は似ていると思うんだ。相手のことをより知っている方が信頼できるし、命を預けられるような……上手く説明できないんだけど、情報共有というか……」

「……」


 首を横に振るガイアル。

 あまり通じなかったかとラーズがため息を吐く。


「……私は誰でもなく、全てでもある。ゆえに語ることは許されない……」

「え?」

「……」


 それだけ言うと話は終わりだと言わんばかりに、席から立ち上りキッチンに戻っていく。

 ラーズも一瞬だけ立ち上がりそうになった。しかし、これ以上話すことはないというか、話せる状況ではない。

 すぐに思い直し、マグカップに口をつける。……すでに空になっていた。意識していない間に飲み干していたようだ。

 自分の意識の安定の無さに苦笑してしまう。


「おはよう、ラーズ。今朝は早いな」


 ラーズとガイアルよりは遅いが、それでも早朝と言って問題ない時間にスイロウが部屋に入ってきた。いつもならラーズの方が後から入ることになるのだが、そんな日もまれにあるだろう。


「ウィローズの訓練が気になるのか? それとも明日のアルーゾ戦か? どちらにしても気を張る必要はない。負けたとしても、お前に責任を押し付けるほど私も礼に欠く女じゃない」


 今度は先ほどガイアルが座っていたラーズの正面をスイロウが座ることになる。

 『そういうことか……』と頭をかくラーズ。


「すまない、心配をかけさせてるみたいだな。スイロウにもガイアルにも……」

「ガイアルにも……?」

「さっきまでその席に座ってた」


 その言葉に自分の今座ってる席をスイロウは確認して、少し恥ずかしくなる。


「別に心配とか……うーん。その、まぁいいだろう。ガイアルとは話したのか?」

「なんだっけな? "自分のことは話せない"みたいなことを言われたよ」

「へぇ~!」

「なんだよ、ニヤニヤして気持ち悪い」


 ダンッとスイロウの前にもマグカップが置かれる。何か怒っているような雰囲気があるが、表情を見ると別段変化はないいつも通りだ……いつも通り?


「なにか怒ってる?」

「……」


 ゆっくりと背を向けてキッチンに戻っていく。

 スイロウの眼が笑っているように見えるのは気のせいだろうか?

 足を組み軽く目を細めて、ガイアルが入れてくれたスープを飲む。


「ガイアルはあまり自分のことを話さない娘だ。私もほとんど知らない。はじめは私の監視役かとも思ったがそうでもなかった」

「俺にそんな話していいのか?」

「ある程度は気付いているんだろ? 伯爵の息子のアルーゾが"様付け"なんてしてたんだから……」

「まぁ……あれは何とかした方がいいだろうな」


 伯爵の息子が相手に"様付け"呼ぶということは、伯爵位よりも高い地位にいることは容易にうかがえる。しかも伯爵より上となれば、数は限られる。簡単に言えば凄く偉い。下手をすれば王族関係者だろう。だが、あえて知らないふりをしている。


「そんなわけで、私に監視役がいてもおかしくはない」

「むしろ、いない方がおかしいのでは?」

「妾の子なら?」

「問題ないんじゃないか? 王族、貴族はハーレムを許されているはずだから」

「そうだな、普通なら問題はあるまい」


 言葉を続けようとするスイロウを制止する。

 それより先は聞いていい話なのだろうか? 『属性調べ』をやったせいで、秘密が多少漏れたことによる口封じ……というか秘密の共有で身動きを取れ無くされるのではないかという不安が上がってくる。


「安心しろ、お前を完全に信用していないから必要以上は話さない」

「それは安心していいラインなのか? できれば信用して欲しいところだが……だからと言って、易々と秘密を話されても困るが……」

「わがままだな!」


 面白そうにケタケタと笑う。

 要するに今の距離感をスイロウは理解している。深くは踏み込まないが、目に見えてわかる境界線を引いていると言った感じだ。ちょっとだけ仲間っぽい……なら、ファイレもいるときに話せばいいのにと思うが、俺が勝手に話してもいいところまでしか話していない。

 相手にとっては確認事項でしかないということも大きい。

 それにしても、知恵を絞れば何者か分かりそうな感じだ。

 そんなラーズの思いをよそに楽しそうにカップを再び持ち上げる。


 早起きは3文の徳とはよく言ったものだ。それくらいのお駄賃分は彼女たちと仲良くなれたような気もする。

 相手がどう思っているかよりも、自分が仲間だと思えなければ話にならない。そう、ラーズの方が少し距離を置いていたことに気づいた。相手も距離を置いているかもしれないが、それは彼女たち本人でないラーズにはわからないのだ。

 まずは自分が二人を信用しなければならなかったんだと気づいた分が3文といったところだろう。


 遠くでお城の鐘が鳴る。朝、起きてからだいぶ時間がたったようだ。少し物思いにふけっていたせいか、窓から入ってくる光が強くなっていることを見逃していた。

 その鐘の音と同時に部屋の一角がドタン バタンと騒がしくなる。なんとなくだが彼女だと理解する。

 師匠の元で修行している時もそんな感じだった。

 長い廊下を走ってくる足音が響く。


「おっはよー! ぅおわ! お兄ちゃんがもう起きてる!」

「なんか朝早く目が覚めた」

「明日は雨だ! あっいや、戦闘だから師匠と修行を思い出して身体が反応してる?」

「ん? どういうことだ?」

「スイロウに教えてあげよう。私とお兄ちゃんは修行の時は師匠がいつ襲撃してくるかわからないから、ぐっすり寝ることができなかったのだ!」

「どんな師匠だ! 普通逆じゃないか? "隙があったらかかってきなさい"みたいな?」

「そうね、まったく逆だったわね。"隙があってもかかってくるな! かかってきたら修行を倍にする"って言ってたっけ。それで試しに隙があったんで思いっきり師匠の頭をお兄ちゃんがひっぱたいたことあったっけなぁ」

「まさか、師匠が回避しないとは思わなかったからなぁ」

「ねぇー」

「それは……また……何と言っていいやら……」


 いつの間にか机の上には朝食が用意され始めて、ファイレはラーズの横の席に座り話しはじめている。ガイアルを手伝う様子はない。

 おそらく、ファイレもスイロウも手伝うことを許されなかったのだろう。ファイレは炊事、洗濯、掃除などは一通りできるのだが、それでも邪魔だったのか、遠慮しているのかは、今はまだ不明だ。


「そろそろ朝食になるが……」

「"なるが……"なに?」

「ウィローズがまだ、起きてこないぞ?」

「ホントだ!? あいつはお兄ちゃんか!? 私が起こしてくるよ!!」


 ファイレは朝食が早く食べたいのか、すぐさまダイニングキッチンから飛び出した。

 それから数分後。

 おそらく、ウィローズの部屋あたりから、ドーーン!! と派手な爆音が聞こえた。

マグカップって和製英語だって知りませんでした

この世界でも まぁ マグカップで……

早起きは三文の徳・・・この世界にもそんなような諺があるということで・・・

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