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間違いだらけの冒険者たち

 剣と魔法とドラゴンが支配するこの世界。

 

 ある日、一人の預言者が我の元にやってきた。

 深い深い洞窟の最深部……それだけで こやつが只者でないことは自明の理。

 預言者は息を吐き、我を見上げ言葉を紡ぐ。


「お前を倒せる人間が現れた」


 預言者は黒猫を肩に乗せ分厚い書物を片手に開いて、我の討伐を宣言する。

 だが、今度はため息を吐くのは我の方だった。


「それは勇者と呼ばれる者か? それとも神の使いの者か?」


 どちらにしても我に刃が届かぬ者たちだ。

 人間では絶対に我を倒すことは不可能。

 それなのに我を倒せる者を指し示す預言に呆れる。


 黒猫が預言者の肩でニャーと一鳴きする。それを聞いてから預言者がニヤリと笑う。まるでイタズラを仕掛けた子供のように……。


「お前を倒すのは勇者でも魔王でもない……力無き者……ただの人間さ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 深い森の中、一人の女剣士が襲われていた。

 理由はわからない。

 だが、見て見ぬふりを出来るほどラーズの正義感は弱くなかった。

 義妹のファイレは半ばあきれ気味で義兄の指示に従う。


「まったく、お兄ちゃんは! どっちがいい奴か悪い奴かもわかんないんだよ!」

「それでも多勢に無勢だ」


 兄の言葉にため息を吐くファイレ。

 あれ(・ ・)を見つけたとき、正直ウンザリしてしまった。ファイレはラーズほど正義感は強くない。むしろ「正義ってお金になるの?」くらいは考える。

 だが、残念なことに それ以上に極度のブラコンである。簡単に言うと「お兄ちゃん好き好きっ娘」である。

 お兄ちゃんの為なら犯罪もいとわないような残念な娘である。


 その兄が『女剣士を助ける』という以上、手伝わざるを得ない。

 女剣士は青髪ロングの美形剣士だ。

 もし、『助けたお礼に旅に同行する』などと言われたら(たま)ったモノではないが、仕方ない。

 後先考えず、まずはこの場を収めることに専念する。本来なら魔法で全部 薙ぎ払ってしまいたいところだがグッと我慢して……。


 ラーズは正義感は強いが、実力が伴っていない。

 せいぜい一流と二流の間が妥当といったところの戦士。魔法に至っては才能ゼロ。特質すべき点は皆無。普通に考えれば真っ先に殺されてもおかしくはない。

 ただ、彼の義妹は優秀な……天才レベルの魔術師である。その彼女のサポートがあるからそれなり(・ ・ ・ ・)に見れる戦いができる。


(今回はそんな簡単じゃぁ無さそうな相手だけど……)


 ファイレは魔力の媒体となる杖を取り出し、戦況を確認する。

 青髪の女剣士一人に対し、仮面とローブの暗殺者らしき者が五人……四人が白ローブで、一人が赤ローブ。

 呪文を唱え義兄のラーズに強化魔法を唱えながら考えをめぐらす。


(赤ローブが暗殺者のリーダーかしら?)


 指示を出しているのは赤ローブ……どいつもこいつも手練れで、強化無しにラーズが敵う相手ではないのは一目瞭然である。

 特に敵リーダーと対峙させるわけにはいかない。


「お兄ちゃん!」

「わかってる!」


 ラーズは自分の実力を理解している。

 自分は『並み』の戦士だ。出来るとは思っていない。ただ、女剣士に向かう足止めと妹・ファイレに敵が向かわないようにすればいい。

 だが、それでも荷が重い……。


「せいぜい白一人の足止めだな」


 兄の言葉を聞きファイレはホッとする。

 兄は至って冷静だ。高望みはしない。だが、自分が出来ることをきっちりとやる。


(さすが私のお兄ちゃん! そこに痺れる、憧れるぅっぅ!!)


 彼には目的がある。

 たしかに女剣士を助けたいが、そのために命を賭すほど愚かでもない。命は賭けるべきところで賭ける。それが彼の信条でもある。


 そしてファイレは改めて女剣士の方を見る……その様子がおかしい(・ ・ ・ ・)ことに気づく。


(防戦一方? 一人減って楽になったはずなのに? いや、攻撃しているのに血が出てない?)


 一瞬、女剣士もグルでダマされたかと思ったが、旅人である自分や兄を陥れる者がいるとは考えられない。盗賊なら普通に襲うだろう。こんな森の奥で女剣士を助けに入る可能性など0%に近いのだから……。


 彼女は余裕を持って暗殺者を(さば)いている。なのに、攻撃しない……いや、しているのだが……剣がおかしい。刃がついていない?

 あれでは攻撃して打撃を与えたところで重さが足りない。ましてや暗殺集団、痛みをこらえる訓練くらい受けているだろう。攻撃が止まない。


 ラーズは一人相手で手一杯だ。どちらかといえば魔法で肉体を強化したのに押されている。

 どうする?

 範囲魔法は兄も巻き込む。かといってチマチマ弱い魔法を撃ち込むか? それともさらに武器や防具に強化魔法をかけるか?

 考えても仕方ない。各個撃破、チマチマ魔法を撃ち込もうと思った時、女剣士がラーズに叫んだ。


「その剣を貸してくれ!」

「わかった!」


『わかるな!!』

 ファイレの心の叫びもむなしく、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく自分の剣を投げて、女剣士に渡してしまう。

『無手の状態なんて、命取りになるでしょ!』

 半泣き状態で魔法詠唱中のファイレ。

 (わず)かだが、白ローブも呆気にとられて攻撃が遅れる。

 その隙に剣の受け渡しが終わり、ラーズは完全受け身で相手の攻撃をかわすことに専念する。


 だが、女剣士に剣が渡った瞬間、仮面ローブ’ズは素早く撤収する。

 手際がいい。はじめから真剣を持った女剣士に勝てないことを織り込み済みらしい……が……。


「ざぁんね~ん!! 誰が逃がすかぁあっぁ!!」


 仮面ローブ’ズの撤収行動を見て、素早く呪文詠唱を変化させ範囲魔法に切り替え辺り一帯を爆炎の渦に巻き込む。

 森の中で炎の魔法を容赦なく撃ち込むファイレ。だが、その威力が大きすぎて森林火災に至らない。火がつく前の爆風で木々がすでに駆逐されているからだ。

 小さなクレーターが出来ていて、中は黒い消し炭しか残っていない。


 ラーズはため息を吐く。

 『やり過ぎだ』と思ったが、お互い様だ。自分も見ず知らずの剣士に自らの剣を投げ渡してしまっているのだから、当然、ファイレに怒られる立場でもある。


「お兄ちゃんは!」


 小走りに走ってくるファイレに軽く手で謝りを入れる。


「すまん。でも、俺が剣を使うより彼女が使った方が効率が良さそうだったから……」

「自分の命守る武器だよ。それに敵だったらどうするの!? 無条件に信じすぎだよ。詐欺に遭うよ。だから私がいないと……」


 小言が始まりそうだと、半ば諦めたラーズだがちょうどいいことに女剣士が割り込んできた。


「申し訳ない。私のせいでアナタたちに迷惑をかけてしまったようだ。よろしければ」

「結構です! お礼とか入りませんから」


 女剣士が何か言う前にファイレは全面拒否する。

 お礼をされるわけにはいかない……お兄ちゃんの好感度を上げさせてなるものか……と言う打算的結果なのだ。


「しかし」

「しかしも、案山子(かかし)もないの! お礼が欲しくて助けたんじゃないんだからね」


 ファイレにしたら助けたくなかったくらいなのだから、これ以上関わってもらいたくない。

 が……。


「迷子……なのでは? こんな森の中にいるということは……」

「……」

「……」


 迷子以外でこんな森の中まで入ってくることはそうそうない。そうでなければ暗殺者たちも女剣士を狙うのにこんな場所を選択するはずもない。


 ファイレにとっては『お兄ちゃんと一緒、迷子オールオッケー』だったのだが、当然ラーズは迷子になるのは困ることだった。

 もっというとファイレは故意(・ ・)に迷子になっていたのは内緒だ。適当な時間見繕って迷子を止めようと思ってはいた。方角を確認する方法など魔術師にとってはいくらでもある。


(この(アマ)、ホンマ邪魔やで!)


 イライラするファイレに対して、ラーズは感謝する。


「確かに迷子で困ってたんだ。近くの町まででいいんで案内してもらえれば助かるよ」

「もちろん案内しよう。それに私に出来るだけの礼をしよう。命の恩人だしな」

「ですから、そういうのは結構なんです! 町に着いたらそこでお別れ!」

「ファイレ、なんでそんなに邪険にするんだ。失礼だろ」

「お兄ちゃん、冷静に考えて! この人がいい人かどうかわからないんだよ? 私たちが倒して(死んでる可能性大)しまった人たちがいい人かもしれないんだよ? あんまり関わりに……ハッ!」


 完全に藪を突いて蛇を出してしまった。


「たしかにファイレの言う通りだ。俺たちはアナタのことを何一つ知らない。本来なら両方の意見を聞くべきだが、アナタ側の意見だけでも町に着いたらじっくりとお話願いたい」


 『ちがーう、放っておけばいいのよ、お兄ちゃん!』と心の中で叫ぶ妹。だが、兄のいらない正義感がどうにも止まらないことは分かっている。余計なことを言ってしまったのだ。


 目的もあるが女剣士の事件が一段落しないと、兄は納得しないだろうとうな垂れる妹であった。

ちゃんと書いていけるか不安要素いっぱいだ!

とりあえず頑張っていきたいと思います


それでは良いお年を!

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