表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/52

第41話 「迫る時 水際の攻防 7」


 いつの間にか数十メートル後退していた警官達は、階段の影から窓の外へ銃を向けて発砲している。


「辰巳! ダージリンだっ!」


 舞花が大原に伝える。大原が廊下の窓から外に目を遣ると、渡り廊下の屋根上に立つ髪の長い女が見えた。彼女はコンクリートの縁に片足を乗せて、両手で構えた消音機(サイレンサー)付きだと思われる銃を警官達に向けて勇ましく連射している。


「ダージリン? 助けてくれたのはあいつか。……女だったんだ。てっきり男かと」


美しい髪を持つ切れ長の目をした美人だなと大原は思いつつも、その身に付けているお局的なスーツはどこかで見たことがあるような気がした。だが深くは考えず、そのまま敵をダージリンに任せ、一番の目的だった三年二組に突入する。


「舞花ちゃん! やっぱり大原先生を連れて戻って来てくれたんだねっ!」

 

  警官を撃ち倒した大原と舞花に、有璃を初めクラスのみんなは安堵した。そこには翔の姿もあり、どうやらテイア人にはまだ見つかっていないようであった。

 そのまま三年三組、三年四組の教室も大原と舞花は制圧した。

 

 すぐに踵を返した大原と舞花だったが、廊下からは警官達の姿が消えていた。屋根上にいるダージリンに確認しても、彼女は腕組みしたまま首を振って見せてきた。


「引いたのか? 確かに計三十人近く殺ったが、まだそれの倍は残っているはずだが?」


「分からん。時間的にそろそろこちらの援軍が来ると踏んだのかもしれん」


 大原は舞花の意見に納得し、そのまま三年二組の教室に入った。もちろん、翔をこのまま保護するためだ。翔も大原の視線を受けるとすぐに立ち上がるが、誰にも聞こえない声で「残念だな」と呟いた。


 もちろん翔の心残りは六時間目のお別れ会だった。しかし、賢い翔はそんな猶予があるはずがないと知っている。大原の傍へ来た翔は健気にも笑ってみせた。大原はそんな翔に言う。


「生きてさえいれば、きっとまた逢えるさ」


 下唇を噛みながら頷く翔の頭に、大原は手を乗せた。


 大原はこの後の護衛方法を翔に言って聞かせる。そうしている時、教室の後部ドア付近で警戒に当たっていた舞花の声が聞こえてきた。


「片瀬先生、一組の教室から動くなと伝えていたはずだが……?」


 大原が見ると、開け放たれた扉の前で舞花と片瀬が向かい合っていた。片瀬は無言でゆっくりと教室を見回すと、大原の傍で座っている翔に目を止めた。その瞬間、大原の本能が反応をし、彼の全身の毛は逆立った。


「舞花ぁ! 片瀬先生から離れ…」


 片瀬は、虫でも払うかのように無造作に腕を横に振る。しかし、舞花は大原の語調に反応して無意識の内に防御姿勢をとっていた。


[ガシッ]


 なぎ払ってくる片瀬の腕を、舞花は拳銃で受けとめた。だが、そのまま弾き飛ばされ、教室の壁に強烈に体を打ち付けた後、床に落ちてさらに転がる。


「かっ……かはっ……」


 焦点の定まらない目ながらも舞花は手を突いて体を起こし、四つん這いのまま手から離れた拳銃を探した。


「舞花ちゃんっ!」


 有璃がたまらず席から立ち上がり、舞花に飛びつくように抱きしめた。それでようやく我に返った舞花は、痛む肩を押さえて苦悶の表情を見せた。


 片瀬はと言うと、舞花に攻撃を加えた後、猫科の猛獣のように一足飛びで大原の前に立った。大原も素早くその眉間に銃を押し付ける。


 勝負は一瞬で付いた。引き金を引けなかった大原は、片瀬の膝蹴りを腹に受けて宙を舞った。


[ガッシャーン!]


 大原は天井から吊り下げられていた蛍光灯を割り、そのまま窓ガラスに衝突をした。運よく外に飛び出る事が無く、かろうじて教室の中に体を落とす。


「大原先生っ!」


 割れた蛍光灯の破片に目もくれず、子供達はガラスの破片を踏み鳴らして大原の元に駆け寄った。皆が見守る中、大原は二、三度痙攣をすると、口から血の滴を流しながら立ち上がった。その瞳は灰色に変化をしていたが、体の方は自由に動かず、目の前で翔を抱いた片瀬は廊下に消えた。


「ごふっ……。ミス……をした……。奴ら……は、俺達が……翔の元に行くのを……待っていた……。こちらから目標(ターゲット)を……教えてしまった……」


 窓際の手すりに体を預けた大原の傍に、舞花が肩を押さえながらやってきた。


「仕方無い。……敵が警官だけだと思い込んでいたのは私も同じだ」


 そう言う舞花に顔を向けた大原は、手の甲で口の血を拭い、歯を食いしばった。


「翔を即座に殺さないのは、別の使い道があると言う事。だが、楽観視はできない。すぐに奪還に動く……」


「私はともかく、辰巳は深刻なダメージを受けている。……無理だ。他の隊員に任せるべきだ」


「今、俺に出来る事をしなければ……。後じゃ駄目だ」


 大原は体を引きずるように扉へと向かう。


大原は、今出来る事は、すぐに行う信念を持っていた。それは、自分には後悔する時間が無いと考えていたからだ。どうせ長生き出来ない命、家族のために全力を尽くす。それが彼の愛情表現だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ