第39話 「迫る時 水際の攻防 5」
藤森達とほぼ同時に、職員室へと足を踏み入れる男達がいた。
「動くな!」
扉を開け、銃を構えた制服警察官が二人入って来る。驚き硬直している教諭が多い中、いの一番に手をあげたのは大原だった。
「うわっ! なんだなんだ、なんだよっ! やめてくれっ! 抵抗しないからっ!」
大声を出した大原につられ、他の教諭達も思い出したように手をあげる。その中には本宮もおり、両手を上げながら大原に叫ぶ。
「大原先生! 今度は(・・・)何事っ!」
「わかんないですけど、大人しくしましょう!」
警官に指示され、教諭達は全員窓際に立たされた。
「窓を閉めろっ!」
一つ空いていた窓を閉めさせた警官は、ドアの近くで銃を構えたまま身じろぎひとつせずに見張りについた。
大原はここまで読んでいた。躊躇なく人を殺すテイア人だが、今回は発砲や殺人を最小限に控える気なんじゃないかと。
その理由は、敵が持つ銃器の弾薬が限られている事が上げられる。警察は軍隊ではないので、発砲する機会が稀なため拳銃の予備の弾を殆ど用意していないのだ。おそらく、制服警察官が所持している回転式拳銃の五発、私服警察官が所持している自動式拳銃の九発を限度に、それを節約して使う気だと思われる。もちろん素手でもテイア人なら人を殺せるが、それで人間がパニックとなりやむなく拳銃を使う羽目になる事を恐れている。この後に駆けつけてくるかもしれない特殊部隊との戦闘などを考えると無駄弾は使えないと言う事だ。
大原は、警察官達が廊下側の扉から動くそぶりが無い事を確認すると、目の前の自分の机に視線を向ける。その下には……椅子の奥に隠れた舞花がいた。
(舞花、弾はいくつある?)
腹話術師のように唇を動かさず、蚊の無く声で大原は言った。それに対し、舞花は指を三本立ててみせる。
(弾倉が三つで45発。俺と同じだが、撃ち漏らしが無かったとしても足りるかどうか……)
(大原先生! 何をぶつぶつ言っているんですかっ! さっきは突然、高田舞花ちゃんが窓から飛び込んでくるし)
隣に立っていた本宮も、小声ながら口を尖らして大原に説明を求めてきた。
(まあここは俺に任せてください)
本宮には笑って見せたものの、それほど余裕は無い状況だった。
恐らくテイア人達は翔を狙ってきている。この中学校に狙いを絞ったのは、翔が公園で生活をしていた時の不思議な様子の目撃情報でも掴んだのだろう。この校区の中学生に翔がいると絞り乗り込んできた訳だが、奴らは三百人以上いる子供たちの中から翔を瞬時に見分ける事は出来ない。だが、地道に一人ひとり触れて行けばじき探し当てられるだろう。子供達のパニックを避けるため、脅かさないように少々時間をかけて探し始めると推測されるが、それでも十分も猶予があるとは思えなかった。
(弾が微妙だが……躊躇している間は無い。やるしかないか)
大原がそう決断しかけた所、隠れている舞花が机の傍に無造作に置かれていた小箱を引き寄せて開けてみた。驚くことに、その箱の中には整然と並べられた弾倉が見えた。少なく見積もっても十以上はあるだろう。
(えっ? なんだそれ? 舞花が持って来てたのか?)
(ダージリンだ)
舞花は声を出さずに口パクで返して来る。
(ダージリンが? いつ? ……まあ、それは後にして、弾はこれで十分だが、欲を言えば人手がもう一人欲しい。俺と舞花で教室に突入して一瞬で打ち倒すが、不測の事態に備えて援護する狙撃手がいない事には……だが、仕方ない……)
大原は手を後ろに回し、腰から銃を抜いてそれに消音機をねじ込む。
「おいっ! そこの男! 何をしている! 携帯電話なら無駄だぞ! 使えなくしている!」
ごそごそと動く大原に気が付いた警官の一人は、銃口を向けながら扉の傍から近づいてくる。
携帯電話の電波を妨害する装置は、地球製の物で既製品が存在する。テイア人はそれを複数個入手し、学校に踏み込んでくると同時に設置を完了した。同時に電話線も切断しており、これにより外部との連絡手段は断たれる。しかし、それが逆にこれから不法な行為を行うと宣言するようなもので、大原や舞花のようなプロは電波の確認を決して怠らない。
[コンコン]
「ん?」
警官は物音で大原の席へ目を向ける。誰の姿も無いのを確認して顔を上げると、自分の方へ向かって銃を構えている大原が見えた。
[バシュッ!]
きっちりと眉間に穴を開けられた警官は、軽く天井を見上げながら垂直に崩れた。その物音に気が付いた扉傍にいたもう一人の警官は、言葉を発する前に机の下から飛び出した舞花に頭を撃ち抜かれていた。
「舞花、一発はずせば五人は生徒が死ぬ。絶対に仕損じるなよ!」
「私より、自分の心配をしろ」
二人は消音機付きの同じ銃、風牙38Cを持って職員室の扉へ向かう。他の教諭達はざわつくが、どうせこの事件が終われば次元修復で忘れてしまう。多少派手な事をしてでも、誰も殺させないのが肝要だった。




