ヒメと変人ともう1人 1
閲覧いただき、ありがとうございます。
このお話は、不定期&思い付きの更新をしております。
完結しない可能性もございますので、ご注意ください。
御前会議と隊務をこなしたヴェリルアナは、所用を済ませるため、派出所を出た。
なお、同じく御前会議に出席した父公爵に、今日は母方の伯爵邸に泊まる旨を伝えたので、これから使える時間は多い。
教会都内本殿で、大宮司・小宮司その他何人かと今後について話し合い、薬屋で2本ほど栄養補給・滋養強壮のドリンクを購入する。
それだけで、すでに夕食どきである。
おなかがすいたヴェリルアナは、伯爵邸へと向かった。
出迎えた家令に、伯爵が仕事用の離れにいると聞いて、仕方なく呼びにいく。
客人が行うことではないのだが、家令が呼びにいった場合、戻ってくるまで時間がかかるのだ。
離れの玄関ノッカーを鳴らした後、扉を開いてベルを鳴らす。
「お兄様~、お食事の時間ですわよ~。」
ごちゃごちゃと仕掛けもあり面倒くさいので、開いただけで中には入らない。
今度はどんな実験をしているんだか。
開いたそばから、なんともいえない香りが漂ってきて、ヴェリルアナは顔をしかめる。
「ああ、ベリーじゃないか。久しぶりだね。」
満面の笑みを浮かべ、伯爵であるコルマーノが階段から下りてきた。
左肩に手を置き、略礼をとる。
「ごぶさたしておりますわ。
今日はいろいろお話したいことがあって、伺いましたのよ。」
「そうか。 近くに住んでいるのに、ベリーはなかなか顔を出さないだろう?
とても悲しく思っていたんだよ。」
「あら、楽しく実験をなされていたとお聞きしましてよ。
リスボン様がいろいろ調達なされたのでしょう?」
「ああ。彼は上手に立ち回ってくれているからね。とても勝手がいいよ。」
「そうなんですの。良かったですわね、お兄様。」
ヴェリルアナは、ほほえんだ。
コルマーノがヴェリルアナを伴い私室へ戻ると、話題になっていたリスボンが出迎える。
「ご機嫌麗しく、リスボン様。」
「先ほどぶりですね、ヴェリルアナ様。」
法と刑罰の担当部所属、刑罰執行官であるリスボンは、先ほどの御前会議よりも簡易な格好に着替えていた。
「ああ、罪人の状況を見にきたのか。
今からベリーと食事だ。後日案内する。」
ヴェリルアナに対してとは違い、コルマーノの対応は事務的だ。
「あら、せっかくですもの。
リスボン様もお食事にお招きしませんこと?」
コルマーノとヴェリルアナが見つめあうこと数秒、コルマーノは頷いた。
手元のヴェリルアナで執事を呼び、夕食の用意を申し付ける。
お酒が入り、談笑はより和やかな雰囲気となる。
「ということで、あまりにも忙しくてお兄様のところへ遊びに伺えないのですわ。」
「本当だよ。近いベリーよりも他の親族に会うほうが多い。
まだ1つに絞らないのだろう?」
「ええ、お父様がたの問題が片付けば事情は変わりますけれど。
いましばらくは、いろいろなお仕事を兼ねて東奔西走いたしますわ。
そうそう、忙しいといえば。
リスボン様におかれましても、お兄様より無理を押し付けられていらっしゃるのでしょう。
ご苦労がしのばれますわ。」
リスボンは苦笑いする。
「いえいえ、私がしていることなど罪人の運搬だけですから。
実験や教鞭をとっておられてコルマーノ様はお忙しいですし、ほとんどなにも要望をいただきませんよ。」
「私、存じておりますのよ。
生育環境から生ずる違いを調べたいという理由で、他領に収監されている罪人の手配などもなさられたとか。」
「情報には正確を期したいからね。」
コルマーノは、気にも留めず言う。
「そのために、2週間ほど東公爵領に赴かれたのですわよ。
1ヵ月後に聖都の奉納大祭がありますもの。なかなかあちらも時間を割かないですわ。
滞在期間を伸ばさざるを得ないわけですし、本当に私、リスボン様には感謝しておりますの。」
ヴェリルアナは、コルマーノへと視線を向ける。
「奉納大祭のころに到着なされるよう、ご配慮なさればよろしかったのに。」
リスボンは、手を横に振る。
「そのころは人も多いですから、旅程も長引いたでしょう。
先日で、むしろ良かったです。」
「そうであるならばよろしいですけれど。」
「ヴェリルアナ様こそ、アルディアナ様の聖都の道行きに、同道なさるとか。」
聖都の奉納大祭では、巫女の代わりに、王都の秋の大祭に赴く「巫女側仕え」任命儀式がある。
そのため、すでに決められている巫女側仕えは、聖都に入都していなくてはいけないのだ。
「ええ。護符事件がなければ同道するか直前に決めたのですけれど。
王都の護符について、大宮司の代わりに、私からの報告を要請されましたので小宮司とともに同道することになりましたの。」
巫女とヴェリルアナが昵懇の仲であることは、割と有名な話である。
これは、ユリ教の発祥と、ヴェリルアナの母方親族との関係に起因するものである。
なお、母方親族は総勢28名であり、当主コルマーノやそれ以外の者よりも、ヴェリルアナの方が、巫女との距離は近い。
これは個人的資質に起因するものである。
ちなみに、この母方親族、いろいろと特殊な一族である。世間では変人一族と名高い。
おもしろくなさそうに、コルマーノは呟く。
「実験に参加してほしかったんだけれどね。」
「また機会を作りますわ。」
リスボンはむせた。
「あら、大丈夫ですの?」
「いや、失礼を。」
コルマーノは首を傾げた。
「ベリーはわりと実験好きだぞ。」
「好き、というか。ただただ興味があるのですわ。
それに剣術にも応用できますし、実益も見越しておりますわ。」
「姉さんと同じで、いつの間にか放浪しているからな。
魔物に出会ったときの対応策は多いに越したことはない。」
「今度また魔物に遭遇しましたら、生体反応や薬物反応を報告いたしますわ。」
コルマーノは、目を輝かせる。
「人体への参考資料になるし、助かるよ。
ああ、じゃあ新しい薬物も持っていってもらわないと。
あとで受け取っておくれ。」
「ええ、もう人体へは試されまして?」
コルマーノは笑顔で説明する。
微に入り細に入り。
美麗と謳われる一族の遺伝子のおかげで、そっけなくとも悪印象を持たれない。
しかし、やはり生き生きと笑顔で話すコルマーノは魅力的だ。
まあ、内容はおいといて。