ヒメとお茶会
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このお話は、不定期&思い付きの更新をしております。
完結しない可能性がございますので、ご注意ください。
「おはようございます。」
ヴェリルアナの1日は、侍女リリアの笑顔から始まる。
手伝ってもらい服を着替え、本日の予定を確認してから、すぐ下の妹の部屋へ向かう。
「アル、もうそろそろ目覚める時間ですよ。」
「~~~~ん~」
まだ夢見心地のアルディアナ(通称:アル)の、ふわふわした蜂蜜色の髪を撫でる。
「まだおねむかしらね」
少しのあいだ髪を堪能していたら、妹が起きたので、妹付きの侍女と一緒にその支度を整える。その後は朝食のため、食堂へ。
起きぬけの妹の手は私の体温より高く、ぬくぬくである。
食事を取って、乗馬と弓、家族のための縫い物をこなしてから、妹2人とお茶会へ向かう。
今日の招待主は、西公爵配下の侯爵夫人であり、規模は10人ほど。
持参するお菓子は適当に見繕おう。蜂蜜の入った焼き菓子であれば、彼女の好きなドライフルーツが入っていれば及第点であろう。
「本日はお招きいただきまして」
一通り軽い挨拶を交わし、席へ座る。
机の上には、飲み物と軽食、その間に多数の細工物が転がっている。
「あら、それもダルボ商会のものですわね。」
アルディアナは、侯爵夫人の手元を見ている。
「さすがはアル様。そうなのですわ。
フィブラ(衣服を留めるときに使われるブローチのこと。)はまだわずかしか取り扱いがないみたいですが、このあいだ商人が持っていらしたの。
きれいな細工でしょう。」
「不思議な文様で神秘的ですわね。」
「本当に。いままでの細工とはまったく異なりますわ。」
「この細工の妙に、人気がうなぎ上りでなかなかに手に入れられないですのに、うらやましいですわ。」
「そういえば、秋の大祭にこの細工も奉納されるのですって。」
「あら、それはダルボ商会としても光栄なこと。いままではユディス国だけでしたから、これを機にわが国でも出店していただきたいわ。」
「そうですわよね。そうなれば私たちの手に入る機会も増えるというもの」
女性たちのおしゃべりは、とりとめもなく続いていく。
そしてそれは面倒くさいものだ。
私は二、三に会話に加わり、お茶とお菓子を堪能するのみ。
いやあ、お茶会のあとは剣の鍛錬をしないといけないから、座っていられるのもいまのうちだ。
「そういえばアル様、大祭のご衣裳はどうなさるの?」
「そうですわ。去年のマドニ様は毛皮をすそにあしらっていらっしゃったけれど、アル様はどのようなデザインを考えていらっしゃるの?」
「一昨年のミルド様は裾のドレープが鮮やかでしたわね。」
秋の大祭では、東西南北公爵家が順繰りに未婚の「巫女側仕え」を排出し、彼女らは一時的な巫女代わりとして大衆の前に立つ。巫女側仕えが花形といわれる所以だ。
衣裳は長衣の白色、という基本以外は自由である。そのため、さまざまに趣向を凝らせ、美を競っていた。
「私のときは金糸の刺繍でしたわ。」
侯爵夫人が言う。
そう、この人も経験者。が、華やか好きの彼女は長衣に多くの金刺繍を施し、レース状の肘手袋を纏い、大きな髪留めを付け、その衣裳はユリ教上層部で失笑を買っていたはずだ。面倒くさい戯言はしてくれるな。
というか、そもそも我が家で方針は決まっている。
「アル様のお美しさには、きっと華やかなご衣装が映えますもの。
精緻な耳飾りや髪飾りを召されては?
来週にでも当家にダルボの商人が御用聞きにいらっしゃるから、よろしければ、そのときにアル様のもとへ伺うよう、申し付けますわ。」
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周りを騎士に囲まれ、家路の途中。
妹たちの手を取りながら私は言う。
「今日は楽しかったわね。」
「ね~。」
「お姉様って、あいかわらずお優しいのね」
同意するシルヴィアナとの対比で、特権意識の強いアルディアナが呆れたように言うが、それがかわいくて、ほほえましい。
だって、身分の高い者が持っていない繋がりを、自分は持っていると発言することに、いちいち気を留められるほど私は暇ではない。
まあ、アルはダルボ商会の細工が気に入っているからこその発言。
今度何か見繕ってプレゼントしたら、また好感度はあがるだろう。
私は、ニヤリとならないよう綺麗にほほえんだ。