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第一話

初めまして。あるいはお久しぶりです。灰色と申します。

プロローグでわかったかもしれませんが、饒舌で飄々とした生意気小僧が主人公です。嘘とか好きです。

しばしお付き合いくださると嬉しいです。長い目で見てやってください。

 廊下に立たされてしまった。


 なんということだ。あの教師、見た目はミイラ頭脳は化石であったらしい。今時廊下に立たせるなんて正気の沙汰じゃない。本当に僕と同じ時代を生きているのだろうか。


 これでは僕はクラスメイトの自己紹介を聞くことが出来ず、しかも悪目立ちしてしまった。もしこのことが原因でイジメられでもしたらどうするのだろうか。保健室登校にでもなって担任の株を落としてやる。


 だけどもまあ十五歳にもなって廊下に立たされるなんてそうそう経験出来ることでもないだろう。ポジティブシンキングは大切だと大抵の漫画は言っている。


 僕は自分をそう納得させてポジティブに考えてみることにした。そうだとも。これから三年間通う校舎を観察するにいい機会だと思えばいいのだ。


「これから三年間通う校舎を観察するにいい機会だ」


 僕は腕組みしながらうんうん頷いて納得させた。そして廊下と窓、中庭越しの向かい校舎を見遣る。


 未だ差別の対象となる超能力者を擁護し、未だ蔑視され続ける異能者を保養するための施設、『学校』


 ここの生徒はみんな、いわゆる『超能力』を使える『異能者』、すなわち『化物』ばかりだ。かくいう僕も例に漏れずその類である。


 だからといって校舎が何か特別に出来ているわけじゃない。普通に過ごしていた中学校と同じような校舎だし、ドラマとかパンフで見る普通の高校と同じような校舎だ。


 教育過程も変わらないし教育内容も変わらない。違いがあるとするなら、道徳的な授業が多いことだろうか。異能者がテロ屋のまね事をしているとかテレビで言っていた気がするから、多分そのためだろう。


 武器の用意なく、体を鍛えることもなく、剣より確実に、爆弾より多くの人を、たった一人で殺し得る異能者が間違った思想に囚われないように教育する。


 それが学校の第一目的だったと思う。公にはもう少しオブラートに包んであったと思うけど。


 観察することが無くなってしまった。廊下の端に落ちている綿埃の数でも数えて暇潰しでもしようか。


 限りなく非生産的な行為に没頭しようとしていると、廊下の角の向こうに人影が見えた。


 制服から同じ学校の男子生徒、シューズのラバーから三年生と分かる。背中を向けて颯爽と歩く姿はある種の風格を感じさせるものだった。


 今は授業中でこそないもののHR中だ。先輩であってもクラス分けだかで自己紹介的なイベントがあるのではないのか?


 そうでなくとも三年生なら進学とか就職とか、「早いうちから準備をしていた奴がうまくいくんだ」みたいなことを担任教師に言われているはずではないのだろうか。


 考えてもヒントが皆無の現状では理由なんてわかりもしないのだけど、僕はこういう無為で無意味なことが好きだったりする。恰好の暇潰しだ。


 とか思っている間に背中が近付いてきた。


 背中を向けたまま振り返りもせず、後ろ歩きでズカズカ歩いてくる。僕の目の前までくるとくるりと体を反転させて、今度は普通に前を向いて歩いて行った。


「・・・・・え、なに今の」


 僕は彼の背中しか見ることが出来なかった。



     ●



 教室に入れてもらえた。もう自己紹介は終わっている。


 僕は机に一限の準備を整えて周りの生徒の様子を伺っていた。


 周りでは同じ中学校だった者同士や気の合いそうな者同士ですでに友好の輪ができはじめている。もちろん僕もそのいずれかに入りたいのだが、いかんせん僕は中学校は離れているし自己紹介を聞いていないしで気の合いそうな人が分からない。


 つまり、僕は早くも孤立しかけていた。ミイラを呪うばかりである。


 学校という小社会において、ただ孤立しているだけで重罪なのだ。孤立したという罪を犯した罰は孤立し続けること。一度孤立してしまえばそれを解消することのなんと難しいことか。


 狐の如く純朴で蛇の如く寂しがり屋な僕としては、可及的速やかに友達が欲しい。


 僕のそんな切なる願いが天上の誰かに届いたわけでもあるばいが、僕に声を掛けてくれる人があった。


「えっと・・・鷺志くん、だっけ?」


「いったいどういう経緯で間違えたのか知らないけど、僕はそんな、犯罪者の同音異義みたいな名前じゃないよ」


「そうだよね。名簿書いてある名前と違うし。でも自己紹介でそう名乗ってたから」


「言ったっけ?」


「言ってたよ」


 僕に話し掛けてくれた彼女はメガネの奥の目を細めて微笑んだ。手には『クラス名簿』と印字されたペラ紙を持っている。そういえば僕も持ってた気がする。


「私の名前は綾文あやふみ菖蒲あやめ。君の名前は・・・・なな、ごぉ、さん、いち、くん?」


「なんかシリアル管理されてる人造人間みたいだね。数字じゃなくて名前があるよ」


「人間らしい読み方があるの?」


「しめ、はじめ。しめが名字ではじめが名前」


「閉めるの? 始めるの?」


「それ小学校から言われてる」


「あだ名は素数だね」


「奇数だよ。一は素数じゃないし」


「そうなの?」


「そうだよ」


 綾文がちょっと驚いた風に目を見張った。さすがに素数と呼ばれるのは初めてだし、できれば奇数というあだ名からもおさらばしたいのだけど。


 女子と話をすると緊張する。たとえそれが、孤立しかけている僕を憐れんでの、同情や義務感によるものだとしても、だ。


 気が置けない会話が出来るようになるまでは、気が抜けない会話が続くことだろう。まあ別に何かを隠しているわけでもなしに、そうそう気をつけることもないんだけど。


 綾文さんとの何気ない会話に勤しんでいると、教室中央が賑やかしくなった。髪を濁色に染めた軽薄そうな少年が自分の能力を披露していた。


 念動力か何か、とにかく物を動かす能力を持っているらしい彼は、自分の持ち物を浮かせて空中でお手玉のように巡らせている。


 それを見ていた別の少年が手中に黄色い火を燈し、髪の長い少女はその火を素手で揉み消した。皮膚を金属光沢で覆う少女が居れば肘から先を液体に変える少年も居る。


 教室のあちこちで能力の披露会が始まってしまっていた。僕は席が端でよかった。中央だったらこのお祭りに巻き込まれていたことだろう。それはとても面倒臭い。


「ね、七五三くんの能力ってどんなの?」


 かと思ったら綾文さんが興味を動かされていた。教室の隅に位置する僕の席の周りには綾文さんしかいないわけだが、気になるなら向こうに行ってくれてもいいんですぜ。寂しいけど。


 ともあれ、せっかく提供してくれた話題に乗らないのも僕の主義ではない。僕は綾文さんの質問に答えることにした。


「綾文さんと同じだよ」


「・・・私の能力知ってるの?」


「いや知らないけど」


 綾文さんはジト目で僕と目を合わせてきた。ふざけていると思われただろうか。ふざけていないと言えば嘘になるかもしれないから仕方ないかな。


「綾文さんの能力を教えてよ」


 手痛い視線から回避するために僕から話題を提供してみた。綾文さんは小さく息を吐いて僕の意向に沿ってくれた。


「私は念動力かな。私が触った物を動かす能力」


「いいねえ念動力、便利じゃない」


「そうでもないよ。これ私の筋力に依存してるから、私が素手で動かせないものは動かせないの」


「つまり、見えない綾文さんが動すようなもの?」


「そういうことかな」


 綾文さんの腕を見る。標準的な女の子の腕だ。人を殴れば腕の方がダメージを受けてしまいそうな細腕だ。確かにこれだとあまり大きなものには使えないかもしれない。


「で、七五三くんの能力は?」


 綾文さんはもう一度僕へ話題を振った。まるで「私が言ったんだから七五三くんも教えてくれるよね」とでも言いたげなタイミングでの蒸し返しだった。


 こうまでされては仕方がない。僕は正直に僕の能力を教えてあげることにした。


「綾文さんと同じだよ」


 綾文さんはジト目で僕を見つめた。




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