第十六話
久しぶりに「書いていて楽しい」状態になりました。
「すいません、人違いでした」
人違いだよ超恥ずかしいよ。すごい怪訝そうな顔で見られたじゃないか。
仕方無いよね、男子高校生の背中なんてそうそう特徴のあるもんじゃないし、九重先輩だって別に髪染めてるとかそういう特徴を備えてるわけじゃないし。顔ならともかく背中なんて誰でも似たり寄ったりだしこれは別に僕が悪いとかそういう責任の所在を問うような問題には発展しないはずだ。
あえて誰が悪いのかという話をするのならそれはもちろん九重先輩が悪いということになるはずだ。僕は悪くないというのはもう大前提に当然として、となると現段階でのもうひとりの登場人物たる九重先輩が悪いと言ってしまって違いなかろう。僕が悪くないんだからあとは九重先輩が悪い。僕に間違われたあの男子生徒は、運が悪かったのは違いないが、まさかこの人違いの責任を問うのはあんまりだろう。
だから九重先輩が悪い。
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授業時間や中休みの時間は特に意識することは何もなかった。授業は真面目に受けたし中休みは平和に過ごした。「もしも俺が小説の登場人物だったら」なんて言い出すようなメタなのかそうでないのかいまいち判然としないラノベの主人公なら、「特筆すべきことは何もない、の一行で終わるだろう」なんてモノローグがつくのだろう。
甘いな、もし僕が小説の登場人物だとしたら、まずアニメ化を狙う。
主人公(僕)が卑劣な脅迫を強いる悪党(九重先輩)並み居る悪漢(未定)を打ち払いながらヒロイン(未定)と絆を深めつつ人間として成長し、やがて主人公(僕)を脅迫している悪党(九重先輩)との勝負にいたる。絶対的な力を持つ(希望)悪党(九重先輩)を相手に善戦(独善的でない)しつつもジリジリと追い詰められていく主人公(僕)だが、力に驕った(楽観)悪党(九重先輩)の一瞬の隙に付け入り(素敵)機転を効かせた意外な策を披露し勝利する、そんなジャイアントキリング的で感動的なストーリー(笑)
売れそうだ。ストーリーなんてそこそこ見られるものでさえあえば、後は女の子のイラストと声優で数字は稼げる(一般論)。
九重先輩は卑劣な脅迫犯だし並み居る悪漢にはそのうちの登場を願うとして、となると後はヒロインとなってくれる女子生徒のみか。可愛い女の子で僕の知り合いでヒロインになってくれそうな女の子というと・・・・・・・、いやいや、綾文さんは友達であって別に付き合いたいとかそういうあれじゃなくてただ友情が続けばいいなと思うだけで、そりゃまあ友愛が恋愛になるなんてよく聞く話だしあり得ないとまでは言わないけどでもいやいやいやいやいや・・・・・・。
そうこうしている間に生徒会室に着いた。重くもなくかといって軽くもない扉を開ける。週末を挟んで二日ぶりの生徒会だが、たった二日程度で内装なんかが変わるわけもなく、中にいる面子も含めて全くいつも通りの生徒会室だった。もっとも、いつも通り、を語れるだけ僕がここに馴染んでいるかは不明だけれど。まあ、知った風な口をきくのは無知な者の特権だ。実際に知ってしまった後では知った風な口など叩けなくなるのだから、今のうちに知った風な口をたくさん叩いておこう。
「失礼します」
一応入室の際には毎回こう言っている。実際に失礼だと思っているかはさておいて、入るときに無言を貫くのはむしろ居心地が悪いからだ。おはようやこんにちはやこんばんはなんて時間でもないし、よーっすなんて間柄でもない。そもそも何を言うかなんて考えるのが面倒だから、失礼します、で統一している。
そういえば生徒会室に集まるのはいつも僕が最後だから他にこの部屋を利用している生徒、先輩たちがどういう風に入室しているのかを僕は知らない。特に九重先輩なんて、後ろ手にドアを開けているのだろうか。いや、やめよう。僕は椅子に座りながら頭を振った。今日は朝から九重先輩のことを考えすぎだ。これではベーコンレタス好きに狙われかねない。
僕のそんな思考を読んだわけでもあるまいが、生徒会きっての恋愛脳こと大黒柱先輩と目が合った。大黒柱先輩は「そういえば植物園はどうだったの? あの植物園はいろんな種類があるし、配置が絶妙で歩く人を飽きさせない仕掛けになっててね、植生や色合い何かもまた巧妙で、私なんかあそこに日がな一日居られる自信があるな。もちろん私が植物好きっていうのもあるとは思うけどね。でもそれだけじゃない、エンターテイメントとしての見せ方、いや魅せ方を知ってるっていうか、配置を指示した人の愛と商魂とその他諸々を感じるっていうか、とにかく面白いんだよ。面白かったでしょ? あ、それともこういうのは押し付けがましいのかな。人によって感性ってかなり違うし、もしかしたら七五三くんには合わなかったかもしれないね。でも場所の雰囲気的に、決して悪い雰囲気にはならないと思うんだ。それこそ七五三くんが余計なことさえ言わなければね? 正直に言うと七五三くんの不用意な一言が一番心配だったんだけどでもそれも杞憂だったみたいだね。強いて言えば、余計な事はおろか必要なこともあまり話してない印象だったのが残念と言えば残念かな。あ、そういえばデートの途中で他の男の人と話し込んでたでしょ? ダメだよ、デート中は相手の事だけ考えてればいいんだから。え? ああ、うん、見てたよ? 当たり前じゃない、気になるもの。植物園の劵を上げたのだって、デートの機会を作るのと、いつどこでデートするのかを分かりやすく、潜入しやすくするためだよ? あはは、そんな顔しないでよ、可愛い後輩の恋路を心配する優しい先輩の心遣いだよ。あと多分に好奇心。しょうがないじゃない、女の子は基本的に色恋が好きなもの、っていうのは世間の風評にも似た固定観念だし私自身そういう決め付けは嫌いだけど、でも少なくとも私は色恋が好きなの。人の恋路とか特に好き。人の恋路が好きだから貴方の恋路も好き。だから詳しく知りたいでしょ? だから調べるでしょ? だから調べやすくしたの。実に合理的。ううん、私の話はどうでもいいの、今は七五三くんの話。植物園で話し込んでたのは能力使用・研究会の副会長だよね? 勧誘でもされたの? ダメだよ、七五三くんは生徒会なんだし、浮気はダメ。七五三くんは生徒会役員で頑張ってね。もちろんデートも頑張ってね。とりあえず今回はおおまけにまけておまけして及第点あげるから、次回はもっと気遣っていこうね? 一緒に食事摂ってたのに自分が食べ終わったからってさっさと席立ったときは絶句したよ。言うまでもないことだと思ってたけど言っておいた方がいいみたいだね、人と食事を摂っている時は、先に食べ終わっても相手が食べ終わるのを待ってあげなさい。可哀想に七転さん、慌てて食べてたよ? そういう気遣いが出来ないところ、七五三くんは友達がいないんだなあって思っちゃった。あはは、冗談冗談、そうだよね、綾文さんは友達だもんね。一人はいるよね。でも友達と交際したことはないよね? その辺の経験不足を私が補ってあげるよ。遠慮なんてしなくていいか、任せなさいって。・・・・・そう? そんなにいや? ・・・・じゃあ、私に教えて見守られるのと、私に教えずに四六時中今か今かと見張られるのとどっちがいい? 違う、違うの、別に脅迫するようなつもりはないの。だって私は一巻とは違うから。脅迫なんてするような卑怯者じゃないよ。これはただの、そう交渉。私も暇じゃないから大人しく言うことを聞きなさいっていう交渉。もちろん応じるか蹴るかは七五三くんの自由だよ? ただその場合七五三くんプライベートがなくなるってだけ。どうする?」と、どこかうすら寒さを感じさせる顔でそう言ったのだった。
バナー? だかリンク? だかがよくわからずユーザーページにツイッターが繋げられない、灰色です。
それはさておき、以前のようなペースは難しいですが、今後はこれくらいのペースで更新出来ると思いますし、また更新出来よう努力します。