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第十五話

 土曜日は丸一日綾文さんとメールをして過ごした。


 朝はおはようから夜はお休みまで、ほぼ10分感覚でメールの応酬を続けた。中身のない、でも充実したメールのやり取り。実に友達らしい往復だったと言えよう。


 お互いが学生であったこともあって、話題は自然と学校生活が主役になった。綾文さんは新しい学校では浮きも沈みもせず、目立つか目立たないかで言えばどちらとも言えない絶妙に微妙な位置を獲得したらしい。


 変な奴に目をつけられる心配もないだろう。


 学校生活の話題の延長として、学生関連のニュースも話題に上った。また能力者が事件を起こしたとか、その一部に組織だった動きが見られるとか、それを大袈裟にしたい有識者(笑)が騒いだり別の有識者(迫真)が宥めたり。


 後は綾文さんが読んだというノンフィクション小説のあらすじを聞いたりもした。迫害された能力者の少年が能力を使うかどうかで悩んだり悩まなかったりする話だそうだ。僕はフィクションの方が好きだけどね。


 その小説というのが、近々ドラマ化されるらしい。キャストに不満があるらしいことも漏らしていた。直前でキャストの大々的な入れ替えがあったせいだとかなんとか。脚本だか監督だかの気まぐれらしいが、そんなもの視聴者には関係がない。本当にやめてほしい。


 キャスト受けを狙うと、ドラマから入ったファンが原作をけなしたりしだすのだ。非常に腹立たしい。やはり僕は原作をこそ愛したいね。真に価値あるものとはつまり本物なのだ。本物は尊く真作は貴く、二次創作は卑しく贋作は醜い。本音はきらびやかで真実は輝かしく、嘘は汚く誤魔化しは鈍い。


 正直者はカッコイイし嘘つきはカッコワルイ。


 じゃあ七五三くんはカッコイイね。と綾文さんは行ってくれたけれど。さすがは僕の友達、僕のことをよくわかっている。


 僕は産まれてこの方嘘なんか吐いたことがないし、なんなら嘘をいう言葉を使ったことがない。嘘じゃないよ。


 流石に一日中メールのし通しだったため、それはもういろいろなことを話した。


 くだらないこと。どうでもいいこと。つまらないこと。興味のないこと。気が乗らないこと。面白くないこと。退屈なこと。暇なこと。眠くなること。代わり映えしないこと。


 実に無駄な一日を過ごしたわけだ。僕も綾文さんも。


土曜日は由起と植物園に行った。大黒柱先輩曰くのデート、である。僕にも由起にもそんなつもりがないことを、一応ここに明記しておこうと思う。まったく、大黒柱先輩の恋愛脳にも困ったものだ。このままでは先輩の中でのみ、僕と由起が付き合っていることにされてしまう。そんな事実はまったくなく、事実無根の虚構なのだからおたおたせずにじっくり構えていればいいのだろうが、僕の知らないところで話が決まってしまうのもなんだか気分がよろしくない。


今日あったときにでも、もう一度訂正しておく必要があるだろう。奇人窟の皆々様なんて、由起にあったこともないのに僕の恋人扱いしてしまいかねない。あの人たち友達いなさそうだし、人の言うことは鵜並みに丸呑みしそうだ。鵜呑みにしそうだ。あの人たち友達いなさそうだし。僕はいるけど。


そういえば植物園であのイケメンにあった。超能力使いまくろうぜ同好会的なあの集団で目立っていた男の方。輝かしい顔を持っていたあの男を、植物園で見かけた。見かけたというか、話しかけられた。あれだけ女子に人気のありそうな男が休日にたった一人で植物園にいるなんて、それだけで大きな違和感だ。あの男が草花を愛でる気障ったらしい趣味でも持っていれば、少しも不自然さはなくなるが、あいにく僕はそこまで詳細なプロフィールは知らない。


その話というのも、部だか同好会だかへの勧誘だった。僕が生徒会へ入ったのこととなぜか知っていて、生徒会を辞めて入らないかと誘われた。僕のなにが彼の琴線に触れたのかがわからない。僕の内側から滲み出る隠しきれないカリスマに当てられでもしたのだろうか。うむ、それなら仕方ない。


勧誘の成果だが、僕は生徒会に入った身だ。確かに入った原因は会長である九重の脅迫、それも友達を人質に取るという極悪非道な脅迫によるものだったかもしれない。その結果友達の綾文さんは転校するはめにもなってしまったが、それでも僕はいまや生徒会役員なのだ。紆余曲折は関係無い。僕は生徒会役員で、生徒会役員とは簡単になったり辞めてりしていいものではない。だから僕はあの男の誘いを撥ね付けたわけだ。この上なく男らしく。


そして今は月曜日。僕は空一杯の灰色の雲に、なんだか今日はいいことが起こりそうな予感を感じ、意気揚々と通学路を歩いていた。今にも降りだしそうな天気を見ていると、先行き不安な感じがしてテンション上がる。雨が降りそうな天気の中、傘も持たずに出かけるスリルが好きだ。


折り畳み傘を握りしめた僕は前方に見慣れた背中を発見した。背中と言えばこの人、九重一巻その人だった。


今前から見ればこの人の顔を拝めそうだけど、何故か彼の前方には人がいない。僕が回り込むしかなさそうだ。いっそ携帯で記録でもしてやろうか。そして待ち受けに設定してからかいのネタにしてやる。脅迫しかえしてやるのもいいかもしれない。やられたらやり返す。等倍返しだ。


「おはようございます、九重先輩」

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