第九話
なんだかここ何日かで急にお気に入り登録・感想・アクセス数が伸びていて、困惑しています。え、何が起こったのでしょうか・・・?
生徒会と言っても大仰な業務があるわけじゃない。庶務も会長もやることは大して変わらなかったりするのだ。
生徒による生徒会なんて名ばかり形ばかりで、実際には教師の言ったことを少しやるだけの傀儡機関に過ぎない。
それはそうだろう。
たとえ行事にしたって、生徒に学校の方針を任せられるわけもなし、会計なんて以っての外だ。子供の金銭感覚ではどんなことにいくら注ぎ込まれるか気が気ではない。
生徒からの陳述にしたって、教師間で大まかな、如才なく問題のない結論を複数用意して、生徒会にディスカッションさせる、という形式をとる。
だから僕たち生徒会の仕事は年に二、三度しかないし、その他は生徒会室で会議と銘打たれた雑談に興じるばかりである。
恋に恋する剣道部員の会長がいる生徒会とか下ネタが好きで6月12日が誕生日な会長がいる生徒会とかなんでも出来てインテル入ってる化物女が会長を勤める生徒会とか、自主性を重んじるにも程がある自由すぎる生徒会は、マンガだから有り得るのだ。
マンガの住人ならぬ僕たち生徒会は、生徒会顧問の傀儡。面倒がなくてとても良い。
しかしまあ、もちろん、と言うべきか、ただ暇なだけの集まりでもない。
教師の代わり以外にも、日常で活躍させられる場面もあったりする。それが、学校風紀の管理だ。
僕が通うこの学校には風紀委員がない。その代わりを務めるのが、僕たち生徒会なのだそうだ。非常に面倒臭い。
現生徒会長は僕を脅迫して生徒会入りを強要した極悪人である。
その脅迫の内容が、「僕の友達の秘密を暴露する」なのだから、その悪党ぶりも堂に入っている。
友達、綾文さんという友達の身は心配でもあったが、しかしそんな悪に屈するわけにはいかない。僕は生徒会長の要求をつっぱね、そして綾文さんの秘密は多くの人の知るところとなった。
綾文さんがそれに耐え兼ねて転校してしまったのは、だから僕のせいなのだろう。
これ以上僕の周りに迷惑がかかってはいけないと義憤にかられ、僕は非道に膝を折り、卑しくも生徒会長の下に付くことを決意したのだ。
今日は僕が生徒会入りを果たした当日。今は放課後、会議と銘打れた雑談が始まる時間だ。詳細な業務内容や顧問の先生を教えてくれると言っていた。親睦を深めるためにゲームをしようとも言っていた。
僕はその会議をサボり、現在コンビニで道草を味わっている。やはりヘブンイレブンは品揃えがいい。
お菓子やカフェオレをカゴに入れて雑誌コーナーへ。今日発売の週刊少年跳躍が並んでいた。表紙では麦わら帽子の山賊がサラダを頬張っている。これを立ち読みして帰ろう。
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持っていた週刊少年跳躍を棚に戻した。
今の僕は、やる気が満ち溢れている。
何に対するやる気かと問われれば、もちろん生徒会業務へのやる気だ。別に跳躍で連載している某かのマンガに影響を受けたわけではない。
目安箱を設置したアレに影響されたわけじゃないし、ゴーグルかけて集中するお兄ちゃんがいるアレに影響を受けたわけでもない。ただやる気が出て来たのだ。僕の中の正義が目覚めたのだ。「生徒会を失効する!」とか言ってみたいのだ。誤字ではない。
跳躍を戻した僕は、空いた手にカゴを持ってレジへ向かった。ポイントカードで会計を済ませ、店外へ出る。こうなると会議をサボったことが悔やまれる。今からでも戻って会議に出席しようか。
傀儡のままではなく、どうすれば我が校をよりよい学舎にできるかと討論するべきかもしれない。かもしれない、が、ダメだ。
面倒臭い。
それに今買った水羊羹にはしっかりと「お早めにお召し上がり下さい」と印字されている。
「上がり下さい」という言葉の面白さにも言及したいが、今はそこが問題じゃない。僕たち消費者には、生産者とかの誠意に応える義務があると思うのだ。
この場合、つまりは早く食べろという言葉に従うのが、僕ら消費者の義務なのではないだろうか。ならば正義に目覚めた僕はその義務を果たさなくてはならない。僕個人の小さな正義感など、大衆の義務に比べれば小さすぎて問題にもならない。
そう決めた僕は、今時自動でもないガラス戸を押し開けて外へ出た。レジ付近に漂っていたホットスナックの匂いは鳴りを潜め、代わりにすぐそばでふかされているタバコの臭いが鼻を衝く。不快な臭いだ。
顔を向けずに視線だけを臭いの元へ向けると、数人の若者がプカプカ紫煙を吐き出していた。制服を着ているところを見ると、学生だろう。僕と同じ学校ではないが、しかしどの学校だろうと生徒であるからには未成年のはずだ。未成年の喫煙は未成年喫煙禁止法で禁止されている。
それどころか、彼らは同年代らしい女子生徒に絡んでいた。いいじゃん、ちょっと遊ぼうよ。離して下さい。
まるで絵にでも描いたかのような、時代錯誤すら感じさせる不良だ。もう少し古かったらシンナーでも吸っていたかもしれない。
まったく、一体何が楽しくてタバコを吸いはじめるのか分からない。頭がスッキリするとか言うがそんなのはただの錯覚であり、実際タバコにそんな作用はない。
うまいうまいと吸う人がいるが、うまいと感じるまで、慣れるまでは吐くほどまずい代物だそうじゃないか。むせたり吐いたり咳込んだりしながら吸うとは、苦行だろうか? 仏法にでも目覚めたのか?
最初に吸いはじめる理由はなんだろう。カッコイイからか。馬鹿じゃないだろうか。
絡まれている少女と目が合った。口ほどにものを言うと言われる目である。その目は雄弁に、僕に助けを乞うてた。そして同時に、諦めを感じさせた。どうせ見て見ぬふりだろうと。
そうだろう、今もって多くの人間は彼女の無言の訴えを黙殺し、コンビニ入るか出ていくかしかしていない。誰も自ら進んで厄介事に首をつっこもうとは思わない。
関わろうと思うのは、それこそ正義感の強い誰かだけだろう。
僕はキッと眦を吊り上げ、ツカツカと歩きだした。手元のコンビニ袋がガサガサ音を立てる。中のものがぶつかっている。
そのまま足を動かして、僕は一直線に帰途についた。
路上で飲み食いするのはマナー違反だし。
正義は明日から頑張ろう。
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