プロローグ
「初めまして、終口鷺志です。趣味は読書、特技は綾取り、好きな言葉は『信じるものは救われる』です。よろしくお願いします」
高校一年の、最初のホームルームでの自己紹介。僕こと七五三一はそう名乗った。
「・・・・・あのね七五三くん」
こめかみを押さえながら僕の苗字を呼んだのは、先ほど自己紹介を終えたばかりの僕たちの担任教師だ。
風に透ける濡れ羽色の髪、黒曜石のように輝く瞳、白い肌は陽光を浴びて真珠色にきらめき、左目の泣き黒子がアクセントになっている、艶やかな唇が印象的な妙齢の女性だったらよかったのだが、実際は枯れ果てた骨を皮と脂肪に包んだだけの、ちょっとみずみずしいミイラだ。しかも男。
「なんですか先生」
「自己紹介で偽名を名乗るのはやめなさい」
「でも先生、自己紹介以外で偽名を名乗る機会がありません」
「先生の言い方が悪かった。偽名を名乗るのをやめなさい」
「しかし先生。そもそも僕は偽名を名乗っていません。きっとどこかにそういう名前と趣味特技を持った人はいます。僕はその彼を紹介したんです」
「自己紹介なんだから自ら己を紹介しなさい。今の言い方ではまるで七五三くんがその人みたいでしたよ」
「それは先生の想像力のせいです。僕が騙したんじゃなく先生が勘違いしたんです。先生の豊かな想像力や逞しい妄想力の責任なんて僕には負いかねます」
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